「私は・・・羽黒は・・・・・・弱いです・・・」
「・・・ああ。」
「妙高姉さん達は・・・汚されても最後まで・・・誇り高く消えて逝きました・・・なのに羽黒は・・・」
「羽黒はなんだ?」
「羽黒は・・・痛いのが怖くて・・・消えてしまうのが怖くて・・・妙高姉さん達に庇われて・・・なのに妙高姉さん達が居なくなって一人になっても・・・恐怖に震えて・・・最低な人に媚びて生かして貰うような惨めで最低な娘なんです・・・」
なるほど。羽黒から気力を感じなかったのは自己嫌悪が原因か。ボロボロになっても羽黒を庇おうとして消えていった姉妹達と、そんな状況に追い込んだ相手に媚びてでも生き残った羽黒。どっちが誇り高いかは問うまでもない。
「つまりそんな弱い自分には価値が無いと?」
「はい・・・羽黒にはもう・・・」
「そうか・・・」
確かにこの様子では使いものにならない。指揮官としては切り捨てるのが正しい判断だ。例え艦娘達からの非難を受けたとしても、心の折れた奴を艦隊に残すべきではない・・・艦娘達の命を預かる提督が私情で判断を狂わせてはいけない・・・・・・はずなのだ・・・だが死の恐怖に怯え、無力感に絶望した姿は・・・・・・
「・・・・・・あるところに一人の少年が居た。」
「・・・・・・え?」
「その少年は早くに両親を失っていたが、少年には心優しい兄が居た。兄はとある鎮守府で提督をしていた。ど田舎の小さな鎮守府だったが、国を護る為に戦う兄は少年にとっての英雄だった。その英雄の元で戦う艦娘達もキラキラと輝いて見えたんだ。そんな兄と艦娘達の姿を見ていた少年は、当然のように提督になることを夢見ていた。幸い少年には妖精さんが見えていたから、将来の為にと兄から色々と教わったし、艦娘達もその少年を可愛がってくれていた。」
「それって・・・」
「だがそんな優しい日々は長くは続かなかった。腐った上層部の奴らに目をつけられた兄は、無実の罪で捕らえられ軍法会議にかけられる事となった。兄は上層部にとって都合の悪い事を研究してしまったのだ。」
「そんな・・・」
「兄は少年や艦娘達に言っていた『きちんと話せば理解して貰えるはずだ。きっと上層部の人達はなにか誤解をしているんだ』とな。だが兄は戻って来なかった!!そして新しく着任した提督は、兄が都合の悪い情報を艦娘達に伝えたかもしれないと考えて・・・所属する艦娘達の全員を解体した・・・」
「・・・・・・」
「少年は無力だった・・・兄の処刑も艦娘達の解体も止める術を持たなかった。少年はただただ逃げた。兄と艦娘達を失った事を悲しみ、上層部の奴等の凶行に怒り、自分の無力を呪い、自分も口封じされるのではという恐怖に怯え、無様に泥だらけになりながら一人近くの山の中へと逃げ込んだ。」
そこまで語ってから少し羽黒の様子を見ると、少年の話に同情したようで涙を浮かべていた。真剣に話を聞いてくれているようだな。
「少年は人間が怖かった。いつ自分の正体がバレて、上層部の奴等の手で殺されるかと常に不安だった。だからと言って少年が一人でずっと山の中で暮らせるほど甘くはない。無力な少年にとって山での生活は過酷だった。ボロボロになりながらも少年はとある山村へと奇跡的にたどり着き、そこで名前を変えて戦争孤児として生きる事にした。このご時世だ、身寄りの無い戦争孤児なんてそこら中に居たから、村人達に怪しまれるような事はなかった。だが人々は顔も名前も知らない戦争孤児を助ける義理も余裕もなかった。」
まあ、当然だ。その山村は深海棲艦の襲撃を受けた者達が、より海から離れた場所に避難するために作った場所だ。交通網と物流が麻痺している状態で新しい山村に余裕なんてあるわけがない。
「少年も生きる為に必死だった。泥水を啜り、残飯を漁り、地に這い蹲って物乞いをし、盗みに手を出して山村の者達に追い回される。そして噂を頼りに新しい山村へと移り住み、似たような事をしてまた次の村を探す。それが少年の生きる術だった・・・そんな少年の話を聞いて羽黒はどう思う?誇りも良心も捨てて生にしがみついた少年をどう思う?誇りの無い奴と見下すか?生にしがみついたみっともない奴と笑うか?」
「そ、それは・・・仕方のない・・・事だと・・・」
「ああ、そうだろうとも。少年が生きる為にはそうするしかなかったのだからな。そんな生活を続けるうちに少年は少しずつ生きる為の知恵を手に入れた。山で食べる事の出来る山菜の判別が出来るようになった。釣や狩りで獲物を捕らえる事が出来るようになった。人目を盗んで残飯を確保する事が出来るようになった。村人の仕事を手伝い食料を分けて貰えるようになった。そうして少しずつ生活が安定してきてから、ようやく少年は兄を陥れた奴らに復讐する事を考え始めた。」
「復讐・・・ですか?」
「ああそうだ。生きる事が目的だった少年は、生きる為の目的を手に入れた。衣食住足りて礼節を知るとも言うが、生きる事に必死な環境では余計な事は考えられないものだと思う。生活に慣れて余裕が出来たからこそ、少年は自分が何をしたいかを考える事が出来たのだ。」
「その少年は・・・・・・今でも復讐を?」
「ああ、それなりに月日が経って青年と呼ばれるようになっても、未だに復讐の為に準備を続けている。だが同時に青年には夢があった。」
「夢・・・ですか?」
今までずっと暗い表情で俯いていた羽黒が、少しだけ顔を上げた。
「ああ、いつか憧れた兄のような、いや、兄をも超えるような立派な提督となって、兄が護ろうとしたこの国を護る事だ。これがなかなか厄介な話でな・・・兄を陥れた奴等は軍の上層部だ。これを皆殺しにすれば軍が混乱して護るべき国が滅びてしまうかもしれない・・・そう考えると安易な復讐に走るわけにはいかなくなった。だからこの夢がなければとっくに復讐は終わっていただろうな。」
「それは・・・そうかもしれませんが・・・」
「士官学校に入った青年は戦いに関する知識を集め、演習で多くの経験を積んだ。だが提督となった今でも青年の復讐と夢を同時に実現するには、全然実力が足りていない。だから青年は隠れて牙を研ぐ。今は力を蓄える時だから大きな揉め事は避けねばならない。例え復讐するべき相手に頭を下げる事になろうともだ。」
「司令官さんにそんな過去が・・・」
流石にここまで語れば自分の話だと分かるか。まあ、今更だな。こんな過去でも羽黒が前に踏み出すきっかけになれば良い。
「少し話が逸れたか・・・とにかく今までの羽黒は少年と同じで、生きる為に必死だったのだろう?ならば誇りを失っていたとしても、それは誰かに責められる事ではないはずだ。そして今の環境ならば戦場以外で死ぬ事は無い。だからいつまでも自分を責めていないで、自分のやりたい事を探せば良い。考える余裕くらいはあるはずだ。」
「私の・・・羽黒のやりたい事・・・」
「ああ、なんでも構わない。安心して暮らせる場所を確保したい、誰かを守りたい、美味いものが食べたい、姉妹艦達が出来なかった事がしたい、羽黒がやりたいと思えばなんでも良い。もちろん復讐を考えても良い。」
そう問い掛けると羽黒は悩み始めた。すぐに答えが出る話ではないかもしれないが、考え始めたというのは最初の一歩を踏み出し始めたという事だ。悪くない。
「・・・・・・!?し、司令官さん。」
「どうした?」
「曙さんから通信です。長門鎮守府近海の警備をしていた龍驤さん達が、敵艦隊を発見したとの事です。」
ちっ・・・まだ話は途中だったというのに邪魔しやがって・・・まあ、どのみち深海棲艦を許す理由は無いので、殲滅しか選択肢は無い。
「分かった。相手の構成は?」
「ホ級elite1、ホ級1、イ級elite1、イ級2の計5隻です。」
「分かった。龍驤達に迎撃させろ。私もすぐに執務室に戻る。」
「わ、分かりました。」
こちらには軽空母がいるので、航空機による先制攻撃が出来ると考えれば若干有利か?だが油断出来る程ではないな。
「羽黒、話の途中で悪いが私は指揮をしなくてはならない。さっきの話をよく考えておいてくれ。それと少年の話は誰にも言うな。」
「は、はい。」
「では演習に戻れ。」
本当は・・・本当は春雨スープも欲しかった!!なんで売ってないんや!!春雨スープ!!春雨のスープ(意味深)やぞ!!
生まれてから一番強く春雨スープが食べたかったと言うのに・・・