気まぐれな更新ですが、気長にお付き合い頂けると幸いです。
さて、深海棲艦の対応をする前に一つ済ませておかないといけない事がある。島津提督への連絡だ。おそらく今頃は資材を積んだ輸送船に乗って、北九州鎮守府へと移動している最中だろう。だが深海棲艦の相手をするならば、島津提督の相手をする余裕は無いのだが・・・送られてくる資材が貰えないのはもったいないな・・・
「大淀、鹿児島鎮守府の島津提督と通信がしたい。」
「ええ、分かりました。・・・・・・はい、どうぞ。」
「北九州鎮守府の葛原です。」
「鹿児島鎮守府の島津だ。演習の件なら心配いらん、夕方頃には輸送船に乗ってそっちに到着する予定だ。」
「そうなのですね・・・それなのに大変心苦しいお話なのですが・・・」
「なんだ?まさかここまできて演習を渋るつもりではあるまいな!?」
「残念ながら、まさにその件でご相談があります。」
「貴様!!わしを馬鹿にしておるのか!?」
まあ、当然激怒するよな・・・通信の向こう側で烈火の如く怒鳴りつける島津提督の言葉をとりあえず聞き流す。軍人としての誇りとか目上の人に対する礼儀とかを叫んでいるが、正直なところ知った事ではない。ただまあ、きちんと演習の約束をしていたにも関わらず、それを反故にしようとしている事はこちらに非があるので、この程度の罵詈雑言は甘んじて受け入れよう。・・・だが話が進まないな。
「はぁはぁはぁ・・・」
「・・・気はすみましたか?」
「貴様ァ!?それでも反省しておるのかァ!?」
「いえ、約束を反故にしようという件はこちらに非がありますが、事情も聞かずに怒鳴られて反省しろと言われても困ります。」
「なんだと!?」
そこからまたさらに罵詈雑言の嵐が吹き荒れる。というか言ってる事がさっきと大差ないので、ますます時間の無駄だ・・・そもそも演習の中止は益田鎮守府からの情報次第なので、まだ確定しているわけではない。しかも演習の日程をずらせるならば問題無いので、それも考慮に入れていたのだが・・・こうも話が進まないと切りたくなる。さらに通信の向こうでも何か話をしているようで、島津提督が誰かを怒鳴りつけている・・・
「すみません、通信代わらせて貰いました。鹿児島鎮守府所属で演習部隊の旗艦を務めさせて頂いている古鷹です。」
お?艦娘が通信を代わってくれたか。しかも古鷹と言えばしっかり者の印象がある。士官学校に居た古鷹は凄く真面目で扱い易い艦娘として人気だったな。
「ああ、北九州鎮守府の葛原です。」
「先程は島津提督が失礼しました。」
「そんな奴に謝らんでいい!!」
後ろからまた怒鳴り声が聞こえたので、島津提督はまだ近くにはいるようだ。
「・・・いえ、気になさらないで下さい。」
「そう言って貰えるとありがたいです。ですが・・・演習を急に中止にする件。これについては納得がいく説明を頂けますか?」
古鷹の声から感じる印象が一気に変化した。先程までは優しげな雰囲気だったが、今は静かな怒りを秘めた雰囲気だ。だが元々説明するつもりだったのだから問題無い。
「ええ、もちろんです。その前に前提条件として長門鎮守府の事はどの程度ご存知ですか?」
「先日深海棲艦の襲撃を受けて崩壊し、現在は新しい提督が着任されて再建中だと聞いています。」
「ええ、その認識で合っています。そして長門鎮守府にある程度の戦力が整うまでは、北九州鎮守府が防衛に協力する事になっています。」
「お隣の鎮守府だから協力されているんですね。ということは長門鎮守府に何かあったのですか?」
「昨夜に一回と今朝に一回、長門鎮守府の付近に深海棲艦が出現しまして・・・幸い規模は小さかったので、私が派遣していた哨戒部隊で対処出来ましたが・・・私はこれが集積地棲姫の残党が関わっているのではないかと考えています。」
「集積地棲姫の残党ですか?それは横須賀鎮守府が掃討したと聞いてますが・・・」
「横須賀が周辺海域の掃討はしましたが、あくまでも周辺海域の掃討です。その範囲外に関しては横須賀の管轄外ですので、生き残りが居ても不思議ではありません。」
「なるほど・・・それもそうですね。ですが大規模な襲撃があったわけではなく、あくまでも小規模の襲撃が二回あっただけなんですね?」
ふむ、こういう理解が早い相手だと話が早く進んで助かる。そのぶん簡単にだませ無いので厄介ではあるが、今回は普通に助かる。
「そうですね。今のところ情報不足で相手の規模は判明していませんし、自分の考え過ぎでただの小規な群れの可能性も否定出来ません。なので現在私の艦隊と益田鎮守府の艦隊が情報収集の為に哨戒部隊を出しているところです。」
「ええ!?益田鎮守府と協力しているんですか!?」
「ええ。それが何か問題でも?」
「あ、いえ、その・・・葛原提督は鶴野提督と険悪な関係だと聞いていたので、ちょっと驚いただけです。問題はありません。」
「まあ、その件は否定はしませんが、軍事的な話で協力出来るならしますよ。我々の判断が多くの人の命を左右する事になるのですから、より良いと思える行動をするだけです。」
まあ、もちろん誰とでも協力出来るわけではない。協力しないほうが良いと判断したら当然協力はしない。今回は狐塚提督が利用出来そうだったから利用しているだけだ。
「それは立派なお考えですね。ではもしその斥候部隊の情報で葛原提督の予想が杞憂に終わった場合は、私達との演習を断る理由は無いですよね?」
「ええ、もちろんです。それにもし仮に深海棲艦の襲撃が本当にあったとしても、日程を変更して頂ければと思っていますので、その辺も含めて島津提督と相談したかったのですが・・・話をちゃんと聞かずに怒ってしまわれたので・・・」
「その・・・ごめんなさい・・・」
「いえ、古鷹さんが間に入って下さって助かりましたのでお気になさらず。それでこちらの提案としては、演習の日程を改めるのが最善だとは考えていますが、如何でしょう?」
「少し島津提督と相談しますので、またこちらからかけなおしていいですか?」
「ええ、もちろんです。」
さて、どう出てくるかな?真っ当な思考の持ち主ならば、今回は日程を変更する代わりになにかしらこちらから譲歩を引き出そうとするだろう。だが島津提督はプライドが高く、散々プライドが傷つけられたと感じて演習中止だと言い出すかもしれない。それはそれで資材と格上と戦える貴重な機会を失う事になって残念だな。
「提督、島津提督から通信です。」
ん?古鷹ではなく島津提督本人か。
「代わろう・・・・・・はい葛原です。」
「古鷹から聞いたが、また貴様は臆病風に吹かれておるようだな?たかが小規模の艦隊二つくらいで狼狽えおって情けない。そもそも哨戒部隊を派遣すれば深海棲艦が見つかるのは当たり前だ。それで一々騒ぎ立てるほどの事では無い。」
「はぁ・・・・・・その小規模の艦隊で長門鎮守府はまた潰される可能性があるのですよ?警戒するのが当然です。」
「警戒するのは当たり前だ!!だが貴様は過度に恐れて妄想を膨らませておるだけだ!!敵の大規模な艦隊が存在する確証も無しに、厳戒体制に移行するなど馬鹿馬鹿しい!!哨戒部隊も出してさらに益田鎮守府も協力しておるのだろうが!!これ以上何をする事がある!?わしとの演習を渋る理由がどこにある!?」
ダメだこいつ・・・頭冷やして来たのかと思ったら、ずっと頭に血が登ったままではないか・・・
「はぁ・・・・・・それで?島津提督は演習を強行するべきだと?」
「当然だ!!」
「はぁ・・・分かりました。そこまで言われるならば計画通りに進めましょう。ただしもし仮に哨戒部隊が深海棲艦の艦隊を発見したり、長門鎮守府への襲撃があれば演習は中止します。宜しいですね?」
「ああ、最初からそうしておれ。」
「言質は取りましたからね?これで何が起こっても文句を言われる筋合いはありませんからね?」
「くどい!!なにがあっても夕方までにはそっちに着くから準備しておけ!!」
ここまでくるとまるで猪だな。怒りで冷静さを失っているのか?それとも元から理性が足りないのか?なんにせよ言質はとったのだ。これでなにか問題が起ころうとも島津提督の責任だ。
「分かりました。準備はしておきましょう。」
「おう、それに深海棲艦がいたとしてもそれはそれで構わんからな。」
「・・・・・・は?どういう事ですか?」
「今回の目的はお前の実力を確かめる事だ。ならば相手が深海棲艦でも悪くは無い。お前の指揮がどの程度のものかを直接確認する良い機会ではないか。」
「まさかとは思いますが・・・・・・私が指揮をするのを司令室で見るおつもりですか?」
「当然だ。他になにがある?わしの指導を受けられる機会など滅多に無いぞ?この機会に貴様の性根を叩き直してやる。」
「冗談ではありません!!艦隊の指揮をするのに横で騒がれて邪魔されるのは容認出来ません!!」
「邪魔とはなんだ!?邪魔とは!!」
「邪魔以外のなんだと言うのですか!?演習での事ならば指導として受け入れる事も出来ます!!ですが実戦では命がかかっているのですよ!!そんな状況で考えが合わずに怒鳴り散らす人間を司令室に入れるなど狂気の沙汰です!!」
ただでさえ自分は経験が浅く艦隊の指揮にはかなり慎重になっているというのに、それを邪魔されるなどたまったものではない。理性的で優秀な人間がきちんと指導をするならまた話は別なのだが、先程までの会話からそんな期待は一切出来ない。
「邪魔だ邪魔だと無礼な奴め!!わしが何人の提督を指導してきたと思っている!?お前のようなひよっこが口答えして良い相手ではないわ!!」
「そんなに人に指導するのが好きなら佐世保傘下の人達にすれば良いでしょう!?それか引退して士官学校の教官でもしたらどうですか!?」
「前線から身を引けだと!?馬鹿にするのも大概にしておけ!!わしは死ぬまで現役で国の為に尽くすと決めておるのだ!!」
「そんなの知った事ではありません!!とにかく深海棲艦の対応中に司令室へ立ち入りはお断りします!!」
「そこまで拒否すると言うことは、何か隠したいものでもあるのだろう!?お前みたいなひよっこが戦艦棲姫を討伐するなどおかしいと思っていたのだ!!いったい何を隠している!?」
隠し事なら色々あるが、今回はただ単純に邪魔されたくないだけなのだが・・・
「はぁ・・・その件についてはすでに説明したはずなのですが・・・仕方ないですね、変に疑われても面倒ですので妥協しましょう。私の行動を監視するために司令室には艦娘を一人だけ入室するのを許可します。記録を取るのは構いませんが、その代わり作戦指揮への口出しは厳禁です。」
「わしを司令室に入れるつもりは無いと言うのか!?それではなんの指導も出来んだろうが!?」
「指導の押し売りなんて求めてません。私に島津提督のやり方を押し付けないで下さい。これ以上は一切譲歩しませんので、もしまだなにか言われるのでしたら佐世保傘下との演習全てをお断りします。」
「なんだと!?」
「佐世保傘下の提督達との演習は、こちらも得るものが大きいと判断して受けた話です。ですがこうもトラブルの原因となるならデメリットが大き過ぎます。北九州鎮守府を護る一人の提督として、余計な揉め事に時間をかけたくありません。」
「ぐぅ・・・ああもういい!!ひよっこのお前の為に指導してやろうと思っていたのに、ここまで馬鹿にされるとは思わんかった!!演習でお前を叩き潰して何も教えずに帰ってやる!!後悔してももう許さん!!」
そのまま通信が一方的に切られた。演習だけやってすぐに帰ってくれるなら、何一つ問題無い。だがそれも何事も無く演習が出来ればの話だがな。はぁ・・・無駄に時間を取られてしまったな・・・・・・
諸事情により大天使古鷹さんには、かなり苦労する役を任せる事になりました。古鷹さん頑張れ。