「提督、益田鎮守府より先程の戦闘の詳細が送られて来ました。」
「ああ、確認しよう。」
益田鎮守府から送られて来た資料は、かなり詳細なものだった。哨戒部隊の構成や航行記録から始まり、敵との遭遇場所や敵の構成と戦闘の推移が細かく記載されていた。ついでにもう一つの哨戒部隊の構成と航行記録も一緒に送られている。
「ふむ、場所は哨戒部隊を北と北西の二手に分けて派遣して、北西側の方で敵艦隊と遭遇か。敵の構成は軽空母と軽巡に駆逐が3か。まあ、偵察部隊と考えるのが妥当だな。こちらの索敵機が先に敵を発見して、その時の敵艦隊は西から東にゆっくり移動していたか。」
「そうなると敵の拠点は長門鎮守府よりも東側、益田鎮守府より西側と考えるべきでしょうか?」
「断定は出来ないが・・・だが可能性は高くなってきたな。」
「益田鎮守府からは引き続き哨戒部隊による索敵を継続するとの事ですが?」
「ああ、そのまま続けて貰おう。狐塚提督も早目に敵主力艦隊を見つけ出して、こちらに増援を頼みたいのだろうな。それにしても・・・」
どうにもこの二つの哨戒部隊だが、編成に偏りがある気がする。旗艦が隼鷹と飛鷹となっているが、隼鷹の部隊は練度が低く性格に難がある艦娘が多い。例外は鳥海くらいか?それに対して飛鷹の部隊はそこそこ練度が高めで、性格も真面目な艦娘が多い。これは・・・
「何か気になる事でも?」
「いや、問題ない。」
例え自分の予測が当たっていたとしても、私が口出しするような事では無い。それよりは益田鎮守府が頑張って、敵主力艦隊を発見するのを期待しておこう。
コンコンコン
「天龍だ。入るぞ。」
「ああ、入れ。」
少し雑に扉を開けてズカズカと天龍が執務室に入って来る。少しだけ機嫌が悪いか?
「今戻った。敵艦隊は壊滅させたが、こっちもそれなりに被害を受けちまった。悪かったな。」
「いや、相手とはそこまで戦力差がなかったから、多少の被弾は仕方ない。暁と雷は先に入渠させてるのか?」
「ああ、構わないだろ?」
「ああ、問題ない。敵艦隊と戦って何か感じた事はあるか?」
「いや・・・ちょっと油断して浮ついてかもしれねぇ。戦場に立つんだからもっとオレがビシッと言って引き締めるべきだった・・・そのせいでちびっ子共に余計な怪我をさせちまった・・・」
「駆逐艦達が油断していたのか?」
「・・・・・・まあな、だが悪いのは気を引き締められなかったオレだ。ちびっ子共は悪くねぇ。」
あくまでも天龍が悪いと言い張るか。旗艦は龍驤だし油断していたのは駆逐艦で損害を受けたのも駆逐艦だ。だがそれでも龍驤も駆逐艦達も庇うか・・・本来であれば私から駆逐艦達に注意すべきだが、天龍が現場で指揮をした者としてここまで考えている。ならばここは天龍に任せて、天龍自身の成長を促すべきか?
「わかった。そこまで言うのであれば私からは何も言わないでおこう。その代わり天龍からきちんと言い聞かせておけ。」
「おう!!悪いな提督!!」
「では深海棲艦の動きはどうだった?」
「あー、特に気になった事はねぇな?龍驤が発見して先制攻撃を加えて、こっちに来たのを迎撃しただけだからな。特に違和感とかはねぇな。」
「そうか。では以上だ。入渠してくると良い。」
「おう、またなんかあったらすぐ呼べよってうお!?」
「ひっ!?」
執務室から退室しようとしていて突然大声を出した天龍の視線の先には、部屋の隅小森が縮こまっていた。そういえば小森に執務室で待機させていたのをすっかり忘れていたな・・・・・・島津提督とイクとのやり取りで意識から外れてしまっていた。部屋に居る小森の存在を見落とすという事は、それだけ周囲に意識を配る余裕がなかったという事か・・・
「あっ、わりぃ、驚かせちまったな。」
「あ・・・うん・・・ごめんなさい・・・」
「別に謝る必要はねぇよ。」
「そ、そう・・・」
「あー、ついでと言っちゃっなんだが、気になってた事を聞いても良いか?」
「え・・・・・・な、なに?」
ほう?天龍が小森に聞きたい事か?小森も逃げずに答えるみたいだし、これは小森について知ることが出来る貴重な機会かもしれないな。青葉が悔しがりそうだ。
「答えられない事は答えなくて構わないんだが・・・オレ達艦娘が怖いか?」
「う、うん・・・・・・怖い・・・です・・・」
「そうか・・・・・・それは俺達が軍艦としての力を持ってるからか?」
「ううん・・・それも怖いけど・・・そんなのなくても怖い・・・です・・・」
「俺達艦娘は人間を傷つけられない。それを知ってもまだ怖いのか?」
「・・・・・・うん。」
「・・・ならなんで提督になろうと思ったんだ?」
「妖精さんが見えるから・・・提督にならないといけない・・・・・・怖いけど・・・・・・」
「あー、つまり義務だから提督になるって事か。本当はなりたく無いけど義務だから仕方なくってか?」
「・・・・・・うん。」
「そうか・・・・・・」
天龍が何か言い淀むような雰囲気で考え込んでいる。自分に対しても物怖じせずに発言する天龍が言い淀むとは珍しいな。
「なら仕方ねぇな・・・」
「・・・・・・怒らないの?」
「あー、怒ってはいるけどそれはあんたにじゃない。覚悟がなくて嫌がるちびっ子を、無理矢理提督に仕立て上げようとする上の連中に怒ってるだけだ。そんなのあんたも指揮される艦娘も不幸になるだけだ。それでも上の奴らはあんたを提督にしようとしてる。なら責任は上の奴らであんたは悪くねぇよ。」
「・・・・・・そう。」
「ほう?これは少し意外だな。誇りを大切にする天龍ならば、提督としての覚悟を持てとか言うと思っていたのだがな?」
「んだよそれ・・・確かに俺は誇りを大切にしてる。だけどそれはオレの生き方だ。オレに命令を下せる提督ならともかく、他の奴にとやかく言うつもりはねぇ。オレの力は他の奴らを護る為の力だ。護るべき相手に誇りを胸に戦えなんて言ったら本末転倒だろうがよ。」
「・・・そうか。それは悪かったな。」
そう言われれば天龍が自分に突っかかって来る姿は見ているが、他の艦娘に突っかかる姿は見た事が無い。おそらく天龍なりにルールがあるのだろう。まだ付き合いが浅いから知らない事ばかりだな。
「あー、もう一つだけ質問良いか?」
「・・・・・・なに?」
「なんでうちの提督の事は怖がらないんだ?この顔で恐ろしい事を平気でやるような性格だぜ?」
「おい天龍?」
「んだよ?まともな性格の奴は人を脅す為に船で深海棲艦のところに連れて行こうなんて考えねぇよ。」
「それは・・・・・・そうかもしれんな・・・」
天龍は余程あの一件を根に持っているようだな。たしかにあれはやり過ぎた自覚はある。後悔は一切していないがな。
「で?どうなんだ?」
「・・・・・・慣れた・・・から?」
「慣れたか。まあ、そんなとこか。」
「それに葛原さんは・・・わかりやすい・・・人だからかな?」
ふむ、わかりやすい人だからか・・・小森レベルになるとこちらの考えてる事もお見通しというわけか?それにしても今日の小森はやけに喋っているな?いつもなら話しかけられる前に逃げてそうなものだが、今日は天龍に怯えながらもきちんと受け答えをしている。
「はぁ!?嘘だろおい!?何考えてるか分からない奴筆頭だろ!?」
「ひぃ!?」
「あ、わりぃ・・・つい驚いて大声出ちまった・・・それで、この提督のどこがわかりやすいんだ?」
「えっと・・・葛原さんは・・・仕事と勉強の事ばかり話してる・・・他の事に興味が移らない・・・ルールと理屈で動いてる・・・怒らせる事をしなかったら悪意を向けてこない・・・だからわかりやすい・・・です。」
「あー、そういや提督が仕事絡みの話以外をしてるとこ見た事ねぇな。それに理屈っぽいってのも分かる。怒らせたら怖いのもな。だが悪意を向けて来ないってなんで分かる?」
「・・・私・・・人が怖い・・・私をイジメてくる人いっぱい・・・だからいつも人を見てる・・・視線や悪意はすぐにわかる・・・葛原さんは必要以上に話し掛けてこない・・・機嫌悪い時でも八つ当たりしない・・・だからそんなに怖くない・・・」
ほほう?小森が自分から逃げない理由はそういう事だったか。確かに小森は視線や悪意には敏感なのは知っていた。だが小森がここまで自分を評価してくれているとは知らなかった。
「ふぅん、なるほどな。」
「でも・・・敵と無能には容赦しない人だから・・・悪意を向けられたら最後・・・・・・だから敵にならないように・・・捨てられないように頑張ってる・・・」
「あー、なんか納得したわ。今日は色々教えてくれてありがとな。」
「う、うん・・・」
「じゃあオレはそろそろ行くぜ。提督、あんまりイジメんなよ?」
「はぁ・・・心配するな。さっさと入渠してこい。」
「おう。」
小森をイジメるような真似はしたことがないのだが、いったい天龍からはどう見られているんだ?いや、小森の事だから、こちらが意図していなくてもイジメられていると感じてしまうか?こればかりは分からんな。
実は小森ちゃんは葛原提督から執務室で待機していろと言われたので、天龍ちゃんから逃げられなかったという事実・・・