食事を済ませて執務室に大淀と共に戻った。そこで哨戒に出ていた艦隊の帰還報告を受けていると・・・
「ん・・・・・・提督、鹿児島鎮守府の古鷹さんが到着されたそうです。」
「分かった。陸奥に執務室まで案内するように伝えてくれ。それとあまり情報を抜かれないように気を付けてくれともな。」
「了解しました。ですが下手に隠そうとすれば余計に疑念を抱かれるのではないですか?提督は隠さなくてはならない程の悪事をしては・・・・・・いえ、なんでもありません。陸奥さんに気をつけるよう伝えます。」
隠したい事は色々あるが、一番マズイのは春雨の件だろう。大淀は悪雨の事を知らなくても、春雨が前任者の大森提督を殺害した事は知っている。そしてその事がバレたら春雨だけでなく隠蔽に関わった全員が処刑されるだろう。むしろ鎮守府丸ごと処理されても不思議ではない。島津提督としてはもっと別の事に興味があるのだろうがな。
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コンコンコン
「陸奥よ。古鷹さんをお連れしたわよ。」
「入れ。」
陸奥に案内されて執務室に入って来た古鷹は丁寧な所作で敬礼をする。やはり古鷹は真面目で礼儀正しい艦娘なのだな。
「鹿児島鎮守府所属の古鷹です。本日は葛原提督の指揮を見学に来ました。宜しくお願い致します。」
「北九州鎮守府所属の葛原です。新人の拙い指揮かもしれませんが、ご容赦頂けると幸いです。」
「そう謙遜なさらないで下さい。これまでの戦闘の記録は読ませて頂きましたが、新人の方とは思えない内容でしたよ。」
「あまり持ち上げられても困ります。至らない所ばかりだと言うのに、勘違いしてしまいそうになります。前置きはこのくらいにしておいて仕事の話をしましょう。現在北九州鎮守府からは3艦隊出撃させています。接敵予定まではまだ時間がありますが、それまで古鷹さんはどうされますか?休まれるのであれば部屋を用意致しますが?」
「いえ、お構いなく。その・・・島津提督から北九州鎮守府に到着したら、葛原提督をしっかり見張っておけと命令されたもので・・・出来れば作戦開始までの様子も見学させて頂けませんか?作戦は接敵する前が一番重要ですし・・・」
古鷹は監視のために送られて来た事を一切隠そうとしないのだな。いや、今更取り繕われても無駄ではあるのだが・・・
「確かに仰る通りですね。ですがそうなると先にお見苦しいものを見せなくてはならないかもですね・・・」
「どういう事ですか?」
「これから益田鎮守府の狐塚提督にも古鷹さんの話をしなくてはなりませんから。政治的な都合で揉める可能性が高いかと。」
「えっと・・・その・・・私がいるせい・・・でしょうか?」
「原因の一つにはなるでしょうが、元々もめる予定でしたのでご心配なく。私には後ろめたい事はありませんので、私としては執務室に居て頂いても構いませんから。」
古鷹に安心して貰えるように笑顔でそう伝えてみたのだが、古鷹だけでなく隣にいる陸奥も顔を引き攣らせてしまった・・・
「あ、あはは・・・ご迷惑をおかけしてしまいますが、私も島津提督から与えられた任務がありますので、葛原提督の許可が得られるのであればここに居させて頂きます・・・」
「分かりました。陸奥、悪いが引き続き古鷹さんの対応を頼む。鎮守府で待機している艦娘達に雑用を手伝わせても構わないから、きちんともてなしてくれ。」
「分かったわ。まずは古鷹さんの椅子と机を用意して、皆の飲み物でも持って来て貰おうかしら?コーヒーで良いかしら?」
「お気遣いありがとうございます。」
「・・・・・・コーヒーを頼むのは漣以外にしてくれ。」
古鷹は客人だ。客人に漣スペシャルとか言うとんでもコーヒーを出すわけにはいかない。もしかしたら艦娘は甘味好きが多いので気に入るかもしれないが、こんなところで冒険するべきではない。
「え?どうしたの提督?漣はさっき出撃したから居ないわよ?」
「そうだったな・・・すまん、忘れてくれ。」
「別に良いけど、提督が艦娘を嫌うのはあんまり褒められた事じゃないわよ?お姉さんちょっと悲しいわ。」
「別に嫌っている訳では無い。先日の漣の悪ふざけを思い出しただけだ。」
「そう。まあ良いわ。こっちは私が上手くやるから提督はお仕事に専念してね。」
陸奥が任せてくれと言うならば上手くやるだろう。陸奥は人当たりも良いし、情報管理についてもきちんと考えて動く事が出来る。なら自分は自分の仕事に専念するか。
「ああ、頼んだ。大淀、益田鎮守府の狐塚提督に繋いでくれ。」
「了解しました。・・・・・・どうぞ。」
「北九州鎮守府の葛原です。」
「益田鎮守府の狐塚だ。どうした?」
「現状報告としては先程北九州鎮守府から艦隊が出港しました。」
「分かった。益田鎮守府からも合流予定地点へと向かわせよう。だが話はそれだけではないのだろう?」
「ええ、狐塚提督に伝え忘れていた事を一つ思い出しましたので。」
「つ、伝え忘れていた事だと!?この土壇場のタイミングで伝え忘れていた事だと!?なにを企んでいる!?」
ずいぶんな慌てようだな。何か企んでいるのはお互い様だろうに。余程繊細な綱渡りみたいな事を考えているのか?それともただたんに心配性なだけか?
「企むだなんて大袈裟な。作戦に影響しない話でしたので伝えていなかったのですが、現在北九州鎮守府に鹿児島鎮守府から艦娘が一名見学に来ているのですよ。ですから共同作戦を行う狐塚提督にも一声かけておこうかと思いまして。」
「かかか、鹿児島鎮守府だと!?なんでそんな遠くの奴らが出て来るのだ!?」
「元々今日は鹿児島鎮守府と演習をする予定でして、深海棲艦の対応の為に急遽延期になってしまいました。それで島津提督が機嫌を損ねてしまって、演習を延期する条件として監視役を一人派遣される事になりました。建前上は見学ですがぶっちゃけ監視ですね。」
「ぐ・・・・・・つまり今回の戦いは佐世保鎮守府の派閥の奴が監視していると・・・しかも島津提督と言えば佐世保傘下のナンバーツーで好戦的で頭の固いジジイだろ?わたしの一番苦手なタイプだ。」
「奇遇ですね。私も苦手で苦労しているところです。」
「うぅむ・・・嘘・・・ではなさそうだな。」
「まあ、見学だけでこちらの作戦指揮への口出しはしないとの約束ですので、今回の作戦への影響はありませんのでご心配なく。」
「ぐ・・・まあ、事情は分かった・・・念の為に聞いておくが、鹿児島の艦隊はこの作戦に参加しないという事で良いのだな?」
「ええ、その認識で問題ありません。」
「分かった・・・私からは何も言わん・・・」
ふむ?思ったよりはもめなかったな。最後まで鹿児島鎮守府からの介入を気にしていたようだが、不満はあっても飲み込める程度と言う事か。この件で激しく抗議されるようであれば益田鎮守府との共闘を断って、うちの艦隊単独で作戦を開始するつもりだったのだが・・・
「ありがとうございます。それで作戦の方なのですが、先程益田鎮守府の艦隊には戦闘開始後に側面からの攻撃をお願いしていたと思うのですが、少し変更して後方の警戒をメインとして予備戦力として待機して頂きたいのですが。」
「・・・・・・益田鎮守府の艦隊を戦場から遠ざけたいと解釈しても?」
「ええ、構いません。私には狐塚提督が何を考えているかは分かりませんが、その方が都合が良いのではないですか?」
「ぐ・・・・・・」
ほう?黙ったと言うことは都合が悪いという事か?それとも自分から疑いをかけられている時点で困っているのだろうか?
「どうされました?もし私の思い違いであれば、まだ作戦を変更する余地はありますが?積極的に戦闘に参加されたいのでしょうか?」
「ぐ・・・・・・いや、その作戦で構わない・・・そちらが主導の作戦なのだから文句は言わん。」
「ありがとうございます。それでは秘書艦同士で連絡を密にして、なにかあればすぐに情報共有致しましょう。益田鎮守府との共闘作戦は今回が初ですから、今後の関係の為にも良い関係を築きましょう。」
「ぐ・・・・・・宜しく頼む・・・」
狐塚提督との通信を終えて一息吐く。とりあえずこちらの要求を一方的に通せたので満足だ。電話の向こうで良い関係を築こうなどと白々しいと叫んでいる姿が目に浮かぶが、それくらいは些細な問題だろう。
「はぁ・・・提督?」
「陸奥、どうした?」
「あんまり古鷹さんを困らせちゃダメよ。」
「あ!?いえそんな!!私は大丈夫ですから!!」
「・・・ん?何か問題でも?」
「古鷹さんはこれを島津提督に報告しなきゃいけないのよ?」
「それは理解しているが?」
「あ・・・えっと・・・今の内容は島津提督にはどこまで伝えて良いのでしょうか?」
「全て伝えて構わないが?別に私に隠すべき事はないからな。狐塚提督は知らないが、鹿児島鎮守府からの監視がある事は受け入れて貰えたから問題無い。」
「あ、あはは・・・分かりました・・・」
古鷹は何を気にしているのだろうか?陸奥も頭を抱えているが、何を憂いているのかが分からない。島津提督に伝わって困る内容は話していないと思うのだが?
前回までがギャグパートだったので、今回はシリアスパート・・・のはず?