疑心暗鬼提督のブラック鎮守府再建   作:ライadgj1248

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 そろそろ本当に癒やし成分が欲しい今日この頃。こう言うと読者の皆さんから突っ込まれるはず。どうせまたドロドロ展開なんだろと・・・


212話(春雨・悪雨会話)

 龍田が応接室から退室して少しすると、誰かが駆けて来る足音が聞こえた。まあ、普通に考えて春雨だろう。足音は応接室の前で止まり一呼吸おいてから遠慮気味にノックの音が聞こえる。

 

「し、司令官、春雨です。」

 

「入れ。」

 

「失礼します。」

 

 おずおずと応接室に入って来て礼儀正しくお辞儀をする様子を見ると、今は悪雨ではなくて春雨のようだな。龍田が春雨の調子が悪そうだと言っていたが、そこまで深刻では無いと言う事か?髪色にも変化が無い・・・ように見える。余裕が無い時は二人きりになった途端に抱き着いてきたりしたしな。

 

「まあ、座れ。」

 

「あ、はい。その・・・」

 

「ん?どうした?」

 

「えっと・・・お隣に失礼しても良いですか?」

 

 前言撤回だ。今の春雨にあまり余裕は無さそうだ。

 

「ああ。」

 

「失礼します♪」

 

 応接室にはテーブルを挟んで三人座れるサイズのソファが置いてあるので、春雨が横に座ったからと狭いわけでは無いのだが・・・ソファの片側にだけ人が座って話をすると言うのはなんだか微妙な感じだ。しかも春雨はこちらに身体を寄せて来て、自分の右腕に抱き着くような体勢で落ち着く。

 

「はぁ・・・やはりまた精神的に不安定になっていたのか?」

 

「あ、はい・・・深海棲艦の声を聞くとどうしても不安になってしまって・・・ごめんなさい・・・」

 

「いや、謝る事では無い。春雨の事情もある程度は把握しているつもりだ。だがそれで少々問題が発生しているのも事実だ。」

 

「問題・・・ですか?」

 

 春雨が少し不安そうに首を傾げる。春雨にとって提督である自分に引っ付くのは深海棲艦側に心を引っ張られ無い為の儀式だ。それに問題があると言われれば心中穏やかでは無いだろう。

 

「春雨を呼んだのは龍田から春雨の様子がおかしかったと相談・・・というか探りを入れられたからだ。」

 

「龍田さんが・・・ですか?」

 

「ああ、旗艦として今日の春雨の調子が悪そうだと感じたようだ。それで白露型姉妹や私に何か知らないかと聞いて回ったらしい。」

 

「そうなんですか・・・知らない間に龍田さんにご心配をおかけしてしまったんですね・・・」

 

「それだけならまだ良い。龍田は春雨が・・・いや白露型姉妹もだろうか・・・とにかくお前達が急に私に心を許している姿を見て、私がお前達に何かしたのではないかと疑っていた。」

 

「何かですか?確かに司令官は私を救ってくれました。それはきっと姉さん達も一緒に救って下さったのだと思います。だから私も姉さん達も提督に好意を抱いているのだと思います、はい。」

 

 真っ直ぐこちらを見つめる目にはブレが無く、本気でそう思っているのが伝わってくる。だがそれは盲信的でどこか危うさを感じてしまう目だ。

 

「私にも思惑があってやった事だ。それはともかくこの件を周囲に説明しようとすると、春雨が大森提督を殺害した件に触れなければならなくなる。当然そんな話を吹聴するのはリスクが高過ぎるから、周囲にちゃんとした説明など無理だ。」

 

「な、なら私が龍田さんに司令官が良い人だから好きになったって言えば・・・」

 

「おそらくだが龍田は納得しないだろうな。あの様子だと私が春雨や白露型姉妹に何かを強制しているのではないかと疑っているようだった。おそらく私が艦娘達に取り入るきっかけとして、白露型姉妹に私に好意的に見えるように行動しろと命令したと疑っているのでは無いだろうか?」

 

「そ、そんな事は!?」

 

「無いのは知っている。だが龍田はとにかく私が怖くて不安でたまらないし、提督という存在が受け入れ難いのだろう。だから必死に情報を集めて探りを入れる。そしてそれはいつか春雨の秘密・・・悪雨の事にも届いてしまうかもしれない。」

 

「そ、そんな・・・」

 

「だからあまり誤解を生むような行動は避けたいところだ。だから人前では春雨も自重してくれると助かる。」

 

「そ、そうですね・・・」

 

 春雨がまた不安そうな顔で震えているが、これも鎮守府を守る為に必要な事だ。

 

「え?あ、うん・・・司令官、悪雨ちゃんが話したい事があるそうです。」

 

「ああ。分かった。」

 

 春雨から悪雨に変わると言われて一旦春雨が顔を伏せて、再び顔を上げると鋭い目で思いっきり睨まれた。流石は半端者とは言え深海棲艦だ・・・迫力と言うか殺気というか・・・危険な雰囲気を肌で感じる。

 

「少し確認したいのだけど良いかしら?」

 

「ああ、なんだ?」

 

「あなたと接する事で私達は心の安定が得られるという話を忘れた訳では無いわよね?私達を見捨てるつもりかしら?」

 

「そんな事はない。春雨と悪雨にそれが必要な事は理解している。だがこうして疑われた以上、人目のあるところでは控えた方が良いと判断しただけだ。人目の無いところですれば問題無いと思うのだが?」

 

「そう・・・あなたと二人きりでの密会は悪くないけれど・・・それは余計な噂を加速させるだけよ?そんなに頻繁に二人きりで会ってたら、それこそ疑われる原因になるわよ?」

 

「それは・・・確かにそうかもしれないな・・・隠せば隠そうとするほど、探ろうとする奴らから見れば怪しく見えるかもしれない・・・」

 

「それと私達白露型姉妹が提督に好意を寄せてるのは分かっているわよね?」

 

「ああ。お前達も含めて白露型姉妹が春雨の1件で恩を感じて、友好的に振る舞ってくれているのは理解している。」

 

 そう言うと悪雨がジト目でこちらを睨んでくる。先程までの殺気は感じないが、何か不機嫌になるような事を言ってしまったか?

 

「そうね、とっっっても友好的ね。」

 

「ん?違ったか?」

 

「・・・・・・話を戻すけれど、今まで友好的だった私達が急にあなたと距離を取ろうとしたら、余計に変な事になるわよ?特に本能で生きてる夕立姉さんに提督に対して友好的にするのを辞めろなんて言っても理解してくれないわよ?当然他の姉妹も悲しむわよ。」

 

「では逆に聞くが、悪雨は今回の件の対応策が他に思いつくか?」

 

「別に?気にする事ないわよ。龍田さんが勝手にあなたを悪者にして疑ってるだけでしょ?そんなのに一々付き合ってられないわ。」

 

 それこそ悪雨はどうでも良い事のように切り捨てる。

 

「はぁ・・・何度も言うが悪雨の情報が広まる事だけは絶対に避けたい。だから何かしら対策を考えるのは必須だ。」

 

「だから私達に我慢しろって言うの?ちゃんと抑えきれる自信はないわよ?」

 

「そうか・・・それは困るな・・・」

 

 悪雨が右腕に抱き着く力が強くなる。これはかなりマズイ状況か?それこそ悪雨が暴走するような事態になれば元も子もない・・・それだけは絶対に避けなければならない。

 

「あっ、簡単な解決策を思いついたわ。」

 

「・・・・・・龍田を処分しろとかは無しだぞ?」

 

「そ、そんな物騒な事は考えてないわよ!!」

 

「なら良いが・・・」

 

「・・・・・・そういうあなたこそ実行したりしないでしょうね?」

 

「・・・・・・出来る限り避けたいところだ。」

 

「・・・・・・これって私が考えてるよりずっと重い話じゃないかしら?もしかして龍田さんに限らず私の秘密を知ってしまった艦娘は、もれなく処分されるとか言わない・・・わよね?」

 

 ・・・・・・正直に言えば否定は出来ない。それくらい悪雨の情報は重いものだ。知ってしまった艦娘本人への口止めくらいは出来る。だが秘密とは知る人間が増えれば増える程漏れやすい。口止めするまでに広まってしまう可能性もあるし、秘密を知ってしまった事で怪しまれる言動をしてしまい、他の誰かに怪しまれる可能性もある。ならば私と春雨と悪雨だけの秘密にしておくのが一番安全だ。

 

「・・・・・・それで?簡単な解決策とはなんだ?」

 

「ッ!?あ、そ、その・・・こ、これは提案のひとつだから採用するならちゃんと考えてからにしてよ!?」

 

 さっきまで強く抱き着いていた右腕から悪雨が距離を取る。少々怖がらせてしまったか?

 

「ああ、分かっている。」

 

「あれよ。木を隠すなら森にってやつ?提督に好意的な艦娘が増えれば、私達白露型姉妹は目立たなくなると思ったのよ。」

 

「つまり多くの艦娘達との仲を深めれば、提督と艦娘の仲が良いのは当然という空気感を作り出せると?」

 

「そういう事よ。これなら簡単でしょ?それに私達が人前であなたに抱き着いても、他の娘も同じようにしてたら目立たないから良いじゃない?」

 

 確かにそれが出来れば悪雨の件は目立たなくなる可能性は高い。高いのだが・・・

 

「・・・それは難しくないか?」

 

「なんでよ?」

 

「この提督に対するトラウマを抱えた艦娘ばかりの鎮守府で、そんなに協力者は得られないだろ?しかも抱きついたり等の身体的接触をできるほどの艦娘だぞ?」

 

「えっと・・・あなたが思っているより好意的な艦娘は多いと思うんだけど?抱き付きそうな程って言われたら困るけれど・・・」

 

「そうか?」

 

「むしろ好意的に見てる娘は多いと思うわよ?なに?無意識に誑し込んでるのかしら?」

 

 はぁ・・・龍田にしろ悪雨にしろ何故自分が艦娘達を誑し込んでいると疑っているのだ?自分は艦娘相手に軍人同士として接していて、決して口説き落とそうなんて考えてはいない。むしろイクみたいな奴からは一定の距離を保とうとしているくらいだ。

 

「はぁ・・・私は艦娘達を口説こうなどと変な考えは持っていない。私には色恋沙汰にうつつを抜かす暇など無いし、そんな危うい関係になりたいとも思わない。」

 

「はぁ・・・・・・分かってるわよそんな事・・・まあいいわ。とにかくあなたは艦娘達が成果を出したらちゃんと褒める事。それだけ意識してたら充分よ。頭を撫でてあげるなんてのも効果的ね。」

 

「そんなものか?」

 

「そんなものよ。艦娘なんて元から提督に惹かれ易い存在なのよ?あいつらはまともに提督をやってたらほいほいついて来るチョロい存在よ?」

 

「それは流石に暴論過ぎないか?確か艦娘は本能的に提督の存在を暖かく感じるものと聞いたが・・・」

 

 確か悪雨曰く艦娘達はその暖かさを快く思い、逆に深海棲艦達はそれを憎むだったか?その件は夕立が抱き着いて来て撫でた時に『提督さんに撫でられるとぽかぽかして気持ち良いっぽい♪』とか言ってたので、たぶんその情報は正しいのだろうが・・・

 

「なら試してみれば良いわ。とにかく私から提案出来る意見はこれだけよ。」

 

「わかった。検討してみよう。」

 

「そう。じゃあ私はもう行くわね。」

 

 そう言うと悪雨は立ち上がりドアの方へと向う。もう話す事は無いのだろうし、しばらく抱き着いていたから精神的な不安も少しは解消されたのだろう。

 

「あっ!!それと誰かを解体するのは無しよ!!私のせいで誰かが解体されるとか耐えられないわよ?」

 

「ああ、分かった。」

 

「それじゃおやすみなさい司令官。」

 

 それにしても厄介な事になった・・・とりあえず現状は悪雨の案で味方になる艦娘を増やすしかないか。

 

―――――――――――――――――――――

 

「あ、提督おかえりなさい。お話はもう終わったのですか?」

 

「けっこう長く時間がかかってたわね?大丈夫?」

 

 執務室に戻ると大淀と陸奥が机で仕事をしながら出迎えてくれる。

 

「ああ、問題ない。そちらはどうだ?」

 

「私の方は記者達への告知は済ました。あと北九州鎮守府所属の憲兵隊の方へ連絡して、明日の送迎の手配まで完了してます。」

 

「川内達は異常なしよ。順調に帰って来てるから、私は川内達と通信しながら今回の戦闘報告書をまとめてるところよ。」

 

「ああ、助かる。」

 

 ん、そう言えば悪雨が成果を出したらきちんと褒める事、あとは頭を撫でるのも効果的だと言っていたな。試してみるか・・・大淀に近付くと大淀は少し不思議そうな感じでこっちを見上げているので、とりあえず頭を撫でてみる。

 

「え!?あ、あ、え!?て、て、提督!?こここれはいったい!?」

 

「いや、成果を出した者はきちんと褒めるべきだと進言されてな。これは何か違うのだろうか?」

 

「あ、いえ!?そそそういう意図があるのであれば間違ってはいないと思いますし信賞必罰は組織の運営に必要ですし提督のお考えは素晴らしいというかなんというかありありがとうございます!!」

 

 ん?大淀がかなり動揺しているようだが、これは本当に大丈夫なのか?悪雨は頭を撫でるのは効果的だと言っていたが、駆逐艦と軽巡洋艦では勝手が違うか?それともただたんに個性の問題か?

 

「あらあらあら?大淀さんったらそんなに可愛い反応するのね♪」

 

「む、陸奥さん!?これはいやその!?」

 

「うふふ♪ねぇ提督、私も頑張ってると思うのだけど、お姉さんにはしてくれないのかしら?」

 

「確かに不平等は良くないな。」

 

「ふふっ♪ちょっとくすぐったいわね♪でもなんだかちょっと嬉しいわ♪」

 

「なら良かった。では引き続き仕事をするとしよう。」

 

 効果の程は良く分からないが、人間関係に即効性を求めるのも間違っているはずだ。とりあえず継続してみて経過観察するしかないか・・・




 提督は誑し。意識せずに誑し込むとかどこのラブコメ主人公だよまったく・・・
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