無事に会見を終えて控室に戻る。憲兵隊は控室の入り口で警備をするそうだ。おそらくすぐにでも熊井提督が来るだろう。
「お疲れ様Admiral なかなか様になっていたわね。」
「ああ、ビスマルクも立派な挨拶だった。プリンツオイゲンもアトランタもだ。」
「ふーん?まあこのビスマルクにとっては当たり前の事だけど、称賛されるのは悪くない気分ね。」
「ドイツ軍人としてビスマルク姉さまの隣に立つなら、変な姿は見せられませんからね♪」
「まっ、提督さんが満足してくれたなら良かったよ。思ったよりスムーズに会見も終わったみたいだしね。」
「・・・・・・そうだな。」
確かに気味が悪いくらいスムーズに会見が終わったものだ。記者達の質問を制限するように上手くコントロールしようとしたのは確かだが、それにしても上手く行きすぎたとも思う。自分を潰そうとする圧力が減ったからか?横須賀の海原提督とは元から敵対していないし傘下の奴らは政治的な搦め手を嫌う、呉鎮守府の久藤提督からは現状こちらを潰そうとする意思が感じられない。佐世保鎮守府の熊井提督はこういう搦め手は使わないだろうし、傘下の奴等が何か仕込んでいても熊井提督の目の前で仕掛けるのを自重した可能性がある。鶴野提督は当然潰しに来るだろうからここは変わらないだろう。大本営側は今回の件での動きが見えてこない。動かないのか動けないのかはわからないが、少なくとも現状では潰しに来てない。あとは有力者達が何一つ動きを見せなかったのも気味が悪い・・・
「・・・司令、何か気になる事でも?」
「・・・まあな。だが判断するには情報不足だ。そういえば北九州鎮守府から通信はなかったのか?」
「緊急の案件はありませんでした。呉鎮守府傘下の艦隊がまた通行許可を求めてきたので通した事と、長門さんと鹿島さんの指示のもとで演習を始めたとの事です。司令の出された命令通りに動いてますので、司令への報告は余裕がある時にと大淀さんから言われておりました。」
「なら問題ないな。引き続き情報の共有を頼む。」
「はっ!!」
コンコンコン
「葛原提督、熊井提督と島津提督が来られました。」
「通して下さい。」
憲兵隊の金子さんの案内で島津提督と熊井提督が控室に入ってくる。熊井提督への敬意として立ち上がって敬礼で迎えると、艦娘達も自分に倣って敬礼をする。
「葛原提督、もしよろしければ隣にもう一部屋用意しておりますので、艦娘の方達はそちらで休ませては如何ですか?」
金子さんがそう提案してくるか・・・金子さんが気を利かせたのか、それとも熊井提督側からの要請があったのか?重要な話だから三人だけで話したいのか、自分と艦娘達を分断する事自体が目的なのか・・・
「その部屋にこちらの艦娘以外誰も居ない状態を確保して貰う事、連絡要員の不知火に連絡が入ったらすぐに取り次ぐ事。この二つをお約束頂けますか?」
「・・・・・・分かりました。少しお待ち下さい。」
金子さんが一旦控室を出て、外の憲兵達に指示を出しているようだ。どうやら隣の控室には先客が居たようだな。自分と海外艦を含む艦娘達を分断してなにをするつもりだったのやら・・・
「お待たせしました。お部屋の準備が整いました。」
「分かりました。ではお前達は隣で待機していてくれ。不知火は緊急の案件があればすぐに部屋の外で待機してる憲兵に取り次ぎを頼んでくれ。」
「了解しました。」
金子さんに案内されて艦娘達が退室して、部屋には自分と熊井提督と島津提督の三人だけとなった。
「お待たせしました。では始めましょうか。」
「ああ、島津。」
「ぐ・・・カッとなって殴ってしまってすまなかった。」
ふむ、島津提督の表情からは不本意な謝罪である事が物凄く伝わってくるが、熊井提督の前だからとりあえず頭は下げるようだ。
「はぁ・・・とりあえず謝罪の言葉は受け取りますが、熊井提督としてはこれからどうするおつもりですか?」
「まだ島津からの話しか聞いていない。お前の話を聞いておきたい。」
「話・・・というと今回島津提督から殴られた経緯でしょうか?それとも演習に関するトラブルから全て話をした方が良いですか?」
「な!?それは「島津、葛原提督の話を聞く約束だ。話したい事は全て話して良い。」
「分かりました。それでは。」
そこから自分目線での島津提督とのやり取りを全て熊井提督へと語った。演習の申し込みがあった事とその内容。深海棲艦の対応の為に日程調整を申し込んだが怒鳴られて話がつかず、古鷹さんに間に入って貰ってようやく話が進んだ事。深海棲艦討伐の為に日程の変更を伝えたさいに、強引に北九州鎮守府へと乗り込んで来ようとしたので、妥協案として古鷹さんを監視役として受け入れた事。海外艦ドロップの報告を古鷹さんから聞いて、勝手に不正をしたと決めつけて怒鳴り散らした事。そして今日の会見で待ち伏せされて、公衆の面前での罵倒と暴力。ここまで随分と迷惑をかけられたものだ。
「以上が私から見た島津提督とのやり取りです。」
「・・・・・・部下が迷惑をかけたな。すまない。」
「そう言って下さると助かります。それで熊井提督はこの一件をどう治めるおつもりですか?」
「今後島津を葛原提督とは関わらせないように命ずる。演習の為に持って来た資材は詫びとして北九州鎮守府にそのまま渡そう。他の鎮守府との演習はどうしたい?」
とりあえず島津提督とこれ以上関わるのはごめんなので、島津提督を引き離してくれるのは助かる。資材を貰えるのは魅力的だが、公衆の面前で殴られた件を考えると割に合わない気はする。まあ、まだ交渉は始まったばかりだな。
「そうですね・・・演習で経験を積む事は北九州鎮守府にとって貴重な経験です。可能であれば予定通りに進めたいところです。ですがまたこのようなトラブルに見舞われるのは困りますので、熊井提督から参加される提督達に一言頂ければと思います。」
「良いだろう。思いつくのはこれくらいだが、他に何か要望はあるか?」
「そうですね・・・今回の一件で世間に私と島津提督の不仲が広まる事になりました。これはそのまま佐世保鎮守府傘下の提督達全てと私が険悪な関係であると受け取られかねません。これは敵の多い私にとってはかなりのデメリットです。それに私としては佐世保鎮守府を始めとして傘下の方々とは、軍事的な協力が出来る程度には関係を保ちたいと思っております。派閥争いなんかで鎮守府を潰してしまうなんて馬鹿馬鹿しいですからね。」
「ああ、当然だな。それで?」
「ですから私としては世間と佐世保鎮守府傘下の方々に対して、今回の一件できちんと和解した姿を示す必要があると考えています。ですが私は島津提督を信用出来ません。ですから島津提督よりも上の存在である熊井提督にその役目をお願いしたいです。」
「持って回った言い方は好きでは無い。」
「では単刀直入に。私が佐世保鎮守府を訪れて佐世保鎮守府の演習を見学させて頂きたい。そしてそれを記者達に取材させたいと考えております。」
こんな機会でもないと熊井提督と関わる機会はほとんど無いだろう。まして佐世保鎮守府を訪問して演習を見学する機会なんてあり得ない。そして佐世保鎮守府傘下の連中が厳しい演習によって艦娘達を鍛えている事は有名だ。実戦でのふるい落としで損耗率が高いけれど、そのぶん新人の艦娘達を実戦投入出来るレベルまで鍛えるノウハウはどこよりも持っているはずだ。そのノウハウは練度の低い艦娘だらけの北九州鎮守府に今一番欲しいものだ。
「む?佐世保のやり方を教えろと?」
「ええ、私は熊井提督の傘下に入りたくはありませんけれど、熊井提督のやり方には興味があります。それは今後私が提督として戦い抜く為の大きな力となると確信しています。ですからこの条件を飲んで頂く事を今回の落とし前として頂きたい。」
そう伝えると熊井提督は目を瞑って黙り込む。傘下には入りたくないがノウハウは教えてくれなんて図々しい話ではある。だが熊井提督は他に何か要望はあるかと問い掛けてきた事を考えると、島津提督の謝罪と資材の提供だけでは迷惑料として不足だと考えている可能性が高い。せっかくなので部下がやらかした落とし前として良い条件を分捕ってやろうじゃないか。
「・・・・・・良いだろう。好きな日に来い。案内に演習を統括させている香取をつける。」
「ありがとうございます。日程を調整して出来るだけ早くお伺いします。」
「では話はこれで終わりだな。島津。」
「はっ!!」
熊井提督は話は終わったと立ち上がり、島津提督と共に控室から出ようとする。
「熊井提督、最後に一つだけ宜しいですか?」
「なんだ?」
「そもそも今日の会見に来られた目的はなんですか?」
「お前がどういう人間か見に来た。それだけだ。」
そう言い残して熊井提督は今度こそ出ていった。部屋から出る時に島津提督がこちらを鬼の様な形相で睨んでいたが、正直に言ってもう島津提督に興味は無い。それよりも『お前がどういう人間か見に来た』か・・・熊井提督は派閥以外の人間に興味が無いのかと思ったが、少なからず注目されているのだな。
島津提督への落とし前としては軽くなりましたが、感情と利益を天秤にかけてこんな結末になりました。
残念ながら島津提督を土下座させたり殴り返したりって展開にはなりませんでした。