ビスマルク達を呼んでから約一時間。仙崎さんによるインタビューはまだ続いていた。軍艦としての来歴は会見で語られていたのでそこそこに、日本に来た感想や今後の意気込みを聞いて、そして今は趣味嗜好の話で盛り上がっている。
「ええ、ですから日本でもビールやソーセージの生産はされていますよ。昔に比べれば流通量は激減していますけれど、一般人でも頑張れば手が届くくらいには出回ってますね。もちろん日本人の好みに合わせた品になりますから、本場ドイツのものとは少し違うかもしれませんが。」
「悪くない情報ね。流石は新聞記者ってところかしら。日本のビールとソーセージも試してみるわ。」
「ありがとうございます♪やっぱり故郷の食べ物は恋しくなりますよねぇ。」
「あ!!仙崎さん、チーズはありますか?私もビスマルク姉さまもチーズが食べたいのですが、なにかご存知ですか?」
「チーズも比較的手に入り易いですよ。沿岸地域で行う漁業と違って、山間や平地で行う酪農関係は深海棲艦からのダメージをあまり受けていませんし、海沿いから避難した人達の人手もあって復興も早かったですから。まあ、流通の関係で近場の酪農家が作るものしか流れて来ないのですが、これも一般人でも頑張れば手が届くレベルですね。」
「なるほどなるほど。頑張って探してみます!!」
「ええ、是非日本のチーズも食べてみて下さい♪アトランタさんは何かお好きな物とかありますか?」
「そうだね・・・日本の食事も悪くないけど、やっぱり朝食はタマゴ2つとフライドベーコンが良いね。」
「卵はどこでも入手出来ますし、ベーコンも入手可能ですね。アトランタさんもやっぱり日本食よりも洋食のほうが好みでしたか?」
「そうだね。でもまだ着任したばかりだから慣れてないだけかも。それにこの国だって戦時中なんだから、まともな食事が出てくるだけありがたい事だし、あんまり我儘言えないよ。」
「ふむふむ、確かにそうですねぇ・・・個人的には艦娘の皆さんにはいっぱい食べて英気を養って頂きたいですが、鎮守府にも色々な事情があるでしょうから・・・」
ふむ・・・あまり長く続けさせると、鎮守府の事情を好き放題喋ってしまいそうだな。海外艦達は着任して間もないから、あまり情報は持って居ないだろうが。
「んんっ、それなりに長くなりましたし、そろそろ鎮守府に戻ろうと思うのですが?」
「あ、はい。本日は貴重なお時間をとって頂きありがとうございました。これで海外艦の皆さんの魅力を北九州の人達に伝える事が出来ます!!」
「ではまた何か面白い話があればお聞かせ下さい。それとまた調べ事をお願いするかもしれません。」
「ええ、お任せあれ!!また取材させて頂ける日を楽しみにしてますね♪ではこれで失礼致します。」
仙崎さんは一般人なのにピシッと敬礼をしてから控室から出て行った。なんというか記者にしては嫌味が無くてやりやすい人だったな。いや、それさえも仙崎さんの術中かもしれないな。
「不知火、鎮守府からなにか連絡は?」
「特に変わった事はありませんでした。演習の方も参加希望者が多く、熱心にやっているとのことです。」
「それは良い。では帰るぞ。」
「随分と慌ただしいのね。まあいいわ。あの記者さんが言ってた事は気になるし、帰りにお店に寄ってみたいのだけれど?」
「ビスマルク・・・もう少しよく考えて発言してくれ。お前達が街に出れば人が群がって買い物どころじゃなくなるぞ?街に混乱を引き起こすつもりか?」
「えっ?じゃあどうやって買い物するのよ?」
「外部の業者とのやり取りは明石に任せているから、明石を通して買い物をしてもらう事になるだろう。それにお前達は着任したばかりでまだ給料を貰っていないだろう?基本的な衣食住は提供するが、嗜好品などの個人的に買いたいものは自分の給料で買って貰う。」
「ふーん、それが日本海軍のルールなのね。」
「日本海軍のやり方ではなくて私のやり方だ。このあたりのルールは鎮守府によってバラバラだ。ついでに言えば着任からのゴタゴタと資金面の問題から、まだシステムとして運用出来てない段階だ。他の者達にも我慢を強いている状態だから、お前達だけを特別扱いするわけにはいかない。もうしばらくは我慢しろ。」
そう言い放つとビスマルクは顔を引き攣らせ、プリンツオイゲンはオロオロし、アトランタは諦めたようにため息を吐く。
「はぁ・・・随分と息苦しいところに着任してしまったみたいね・・・」
「否定はしない。行くぞ。」
ビスマルクとの会話を打ち切って控室を出る。とはいえ給料と買い物のシステムを立ち上げなければ、艦娘達の不満もドンドン溜まってしまう。幸い島津提督との一件が片付いたので、今日は余裕があるはずだ。前任者の大森提督の私物を売却してある程度の資金もあるし、そのあたりのシステムの構築に取り掛かるか。
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控室を出て憲兵隊に護衛されながら外に出ると、待ってましたとばかりに記者達に囲まれる。それなりに長い時間仙崎さんと話していたのにご苦労な事だ。とりあえず記者達を無視して車に乗り込もうと思ったが、一つだけ告知しておきたい事があるのを思い出して、艦娘達を先に車の中に入らせる。
「あー、一つだけお伝えします。先程熊井提督と話し合いをして佐世保鎮守府関連のわだかまりは解消されました。そして友好の証として後日私が佐世保鎮守府を訪問して、佐世保鎮守府の演習を見学させて頂く事になりました。そしてその様子を何名かの記者に取材して貰う事になりそうです。」
「おお!!それは素晴らしい事ですね!!その際には是非うちに取材をさせて下さい!!」
「いえ!!我々にお任せ下さい!!」
「うちの会社は葛原提督の味方です!!是非うちにお任せ下さい!!」
想定外のチャンスに色めき立つ記者達を制する。うるさい記者達もこちらが発言しようとすれば、一言一句逃さぬように集中する。
「どこの会社の記者を呼ぶか、何名の記者を呼ぶかなどは熊井提督との相談になりますが・・・熊井提督も私も煩わしいのを嫌う性格です。あくまでも演習の見学が主目的ですので、それを邪魔するような取材はお断りします。この事を理解された方からの取材申し込みをお待ちしております。」
「どういう事ですか!?我々が邪魔だと言うおつもりでしょうか!?」
「そんな閉鎖的なお考えでは国民の理解は得られませんよ?」
「全国民に対して説明をする義務があると思わないのですか!?」
ほう?これだけ言って引かないと言う事は、こいつらは鶴野提督派閥の記者達か?それともただの馬鹿なのだろうか?とりあえず大半の記者は言葉の意味を理解して騒ぐのを止めたようだが。というかこいつら会見の時は大人しくしていたのに、なんで今更騒ぎ出す?・・・もしかしてこいつら会場入りを断られた奴等か?
「私から話す事は以上です。それでは。」
それだけ言い残して車に乗り込むと、金子さんの指示で動き出す。
「金子さん、一つお聞きしたい事があるのですが?」
「はい、なんでしょう?」
「今回の会見ですが、会場に入れなかった記者達もいるのでは?」
「ええ、もちろんです。会場の収容人数も限られておりますし、警備の都合で危険そうな人物を中に入れる訳にはいきませんから。」
「なるほど。その判断は久藤提督の意向ですか?」
「いえ、憲兵隊として当然の判断です。我々としては葛原提督の身を守るのが一番の務めですから。」
「そのわりには私に敵意を抱いている島津提督をあっさりと引き合わせましたけどね。胸ぐらを掴まれても殴られるまでは止めに来ませんでしたし。」
「あー、その件は申し訳ございません。こちらの不手際でした。」
そう言って金子さんは素直に頭を下げる。言い訳の一つもしないか・・・だが金子さんは久藤提督との繋がりが強い憲兵だ。ならば今回の事も久藤提督の思惑が働いていると考えるのが自然だ。記者達とおそらく有力者達も選別したのは久藤提督なりの支援だろう。それと鶴野提督相手への妨害だな。となると島津提督の行動を阻止しなかったのは何故だ?北九州鎮守府と佐世保鎮守府側との関係悪化を狙ったか?それともただ単に佐世保鎮守府関連への干渉を避けただけか?
「まあ、この件は良いです。とりあえず会場に入っていたやけに物分りの良い記者達は、久藤提督の息のかかった金子さん達が選んだ記者だった。そういう事で良いですか?」
「・・・・・・あまり穿った見方をしないで頂きたい。あくまでも私達が葛原提督を警護するために必要だと判断して行った事です。それでもご納得頂けないのであれば、今後は葛原提督が招待した方のみを会場に入れるなどの対応を取られてはいかがでしょうか?警備の観点から見れば随分と楽になるのですが?」
とりあえず金子さんは久藤提督の意志でやったとは認めないか。ふむ・・・ここまで強く否定されると、久藤提督の意思か金子さんの独断かは判断出来ないな。
「はははっ、私が招待した記者だけとなると、数人しか呼ばれない記者会見になってしまいますね。なんにせよ会見がスムーズに進んだのは事実ですし、お心遣いに感謝致します。今後もお任せしますのでよろしくお願いします。」
「ええ、ご理解頂き感謝致します。今後も我々にお任せ下さい。」
仲直りと言う事でお互いに笑顔で握手するが、お互いに相手の事を信用してはいないだろう。金子さんは久藤提督の判断次第で裏切る人間だ。そんな人間に護衛を委ねなくてはならない現状が歯痒い・・・かと言って信頼出来る人物は居ないし、自分の命令に従う艦娘達では人間の悪意を止められない。だから現状ではこの信用出来ない相手と上手く付き合っていくしかないか・・・
ブラック鎮守府に慣れすぎて、ビスマルクが我儘言ってるように見えてしまう不思議・・・軍人さんだって外出許可が出れば街で好きな物買いたいですよ。