執務室へと向かう道すがら、キョロキョロとあたりを見回す猿田提督が声をかけてくる。
「なぁおい?」
「どうかしましたか?」
「ずいぶんと静かじゃねぇか?艦娘達はどこ行った?」
「全員自室で待機させていますよ?」
「ほう?この俺が早朝からこの面倒くせぇ調査に駆り出されてクソ眠ぃってのに、お前のとこの艦娘共は自室でグースカお休み中って事か?あいつらをちゃんと働かせないなんて職務怠慢だがどうするよ?」
そういうわりには特別疲労してそうには見えないのだが?目にくまも無くふらつく様子もなく極めて健康そうな雰囲気だ。
「職務怠慢だなんて人聞き悪いですね。艦娘達への聞き取り調査をするならば、すぐに呼び出せるように待機させておいた方が効率的でしょう?それに艦娘達があちこち動き回っていたら、証拠隠滅を疑われてしまいますからね。当然の対応かと。」
「・・・・・・チッ」
「この対応がご不満であれば艦娘達に仕事をさせても良いのですが?私としては時間を無駄にせずに演習をさせたいところですし。」
「ケッ!!そのまま待機させてろ。」
「それは残念です。早いところまともに戦えるように鍛えておきたいのですがね・・・」
「何がまともに戦えるようだ白々しい。姫級ぶっ殺して海外艦も3隻手に入れたってのに、まだ功績が足りねぇってか?」
こいつはなにを当たり前の事を言っているんだ?提督として着任した以上、戦い続けるのも戦力増加を考えるのも当然の事だろう?大怪我をしたわけでも隠居寸前の老人でもないんだぞ・・・
「当然ですね。軍人として、提督として上を目指すのは当たり前の事です。私の功績なんて海原提督の足元にも及ばないのに、これで満足しろとでも?」
「・・・・・・はぁ?お前それ本気で言ってんのか?俺達の前で良い子ぶってるだけか?」
「逆に聞きますが今の話で疑われる理由がわからないのですが?猿田提督ご自身も近隣の鎮守府と協力して、大きな戦いに何度か挑まれていると聞いていますが?それは軍人としてきちんと働いて功績を得る為なのではないのですか?」
「はぁ・・・この馬鹿は本気で言ってやがるな・・・」
「では猿田提督は何故提督をしているのですか?」
「あ?金だよ金。それに食い物も女も困る事はねぇ。あと提督ってだけで周りの奴らがペコペコ頭下げてくるのも気分が良い。だから提督として街を守ってやってる。街の奴らが死んじまったら俺に貢ぐ奴らが居なくなっちまうからな。提督の才能だけで良い生活が出来るこの時代に感謝だな。」
ここまでくるといっそ清々しいな。出雲鎮守府から来ている憲兵隊達はニヤニヤしているし、北九州鎮守府所属の憲兵達も特に何も反応していない。こいつらにとってはそれが当たり前って事か。だがこんな奴でも一つの鎮守府を維持して街を護っている。思想や戦い方や艦隊運用に問題はあるが、それでも実績がある以上どんな思想でもクビには出来ないと・・・
「猿田提督は欲望に忠実なのですね。」
「はん!!楽しく生きなきゃ人生つまんねぇだろ?お前だって提督になって良かったと思わねえのか?深海棲艦の被害から復興途中で民衆が満足に食事出来ないようなこの国で、飢えの心配もなくたらふく食える上に嗜好品だって簡単に手に入る。金が欲しけりゃちょっと工夫するだけでいくらでも稼げる。そんな事を考えた事はねぇのか?」
「そうですね・・・我々提督が優遇されているのは理解していますし、感謝もしています。だからこそ我々は提督としての役割をはたすべきでしょう?」
「だからお前は馬鹿なんだよ。提督としての仕事なんて最低限で良いんだよ。それともなんだ?本気で頑張ればあの海原提督を超えられるとでも思ってんのか?」
「ええ、かなり時間はかかるでしょうが、目指さない理由はありませんね。」
それだけの実力と功績を積み上げれば、さぞかし大本営への影響力も強くなるはずだ。兄を殺した奴らへの復讐も、兄が護ろうとしたこの国を護る事も同時に叶えられるかもしれない。戦力増強こそが目的達成へ近づく道だ。
「はっ!!そうかよ。まぁ、頑張れよ大馬鹿野郎。無事に提督を続けられたらな!!」
「ええ。着きましたね、ここが執務室です。」
執務室の前に着いたので扉を開けて中に案内する。執務室は広いとは言え、かなりの数の憲兵隊が着いて来たので多少手狭だな。
「おう、お前ら書類を片っ端から調べろ。」
猿田提督がそう命令したものの、憲兵隊がすぐに戦闘記録や資材や資金の運用記録などを集めてくるが・・・
「おい!?どうなってんだ!?なんでこんなに記録や書類が少ない!?」
「ご存知無いのですか?私が着任する前に前任者の大森提督が殺された件で調査に入った憲兵隊が、書類関係をほとんど持って行ってます。そして私が着任してから今日で9日目ですから、書類や記録の量なんてたかがしれてます。」
「ふざけんな!!たったこれだけで何を調べろって言うんだ!?あぁん!?」
「ん?おかしな事を言いますね?今回の目的は私の提督としての能力を疑っての事でしょう?ならば私が着任してからの記録で事足りるでしょう?」
「チッ・・・お前には関係ねぇだろ!!黙ってろ!!」
どうにも腑に落ちない。猿田提督はなにか別の物を探していたのか?猿田提督はとりあえず数少ない書類を読んでいたが、なにかに気が付いたのかニヤリと笑う。
「おい?この日に資材が急に増えてるよな?これは何があった?」
「えっと・・・6日目ですか。これは久藤提督から支援物資として送られて来たものですね。」
「おいおいおいおい、これはお前が久藤提督とつるんでるって証拠だよな?資材を横流しして貰って何を企んでんだ?あぁん?」
「これは私にというよりも、北九州鎮守府を拠点とした横須賀鎮守府の艦隊が集積地棲姫と戦えるようにと、久藤提督が送って下さった物資ですね。ご覧の通り北九州鎮守府の資材は連日の戦闘でかなり消費していて、横須賀鎮守府の艦隊に充分な支援が出来ない可能性がありましたので。まさかとは思いますが、横須賀鎮守府への支援を批難するおつもりですか?」
「クソ!!なんか他はねぇのかよ!?」
思い通りに行かずにずいぶんと荒れてるようだが、この程度でどうにかなると思われてたのか?これはまたずいぶんと舐められたものだな。
「クソが!!海外艦のドロップに関してもほとんど情報がねぇぞ!?どうなってんだ!?」
「はい?海外艦がドロップした時の戦闘記録はきちんと残しているでしょう?偵察の時点から全て記録はあるはずですが?」
「肝心の海外艦をドロップさせる方法がどこにも書いてねぇだろ!?どこに隠しやがった!?」
「そんなもの知るわけないので、探しても時間の無駄ですよ?ここで時間潰すくらいなら海域の調査に加わった方がよっぽど有意義かと。」
「なんの為にわざわざこんな遠いところまで来たと思ってやがる!!情報の一つも得られずに帰れるか!?」
「それこそ私の知った事ではありませんね。」
いや、本当に知らないのだがらどうしょうもない。もし仮に知っていたとしても、教えてやる義理は無いのだが・・・
「クソ!!資金の名簿は・・・北条のご令嬢から大金が流れ込んでるな・・・」
「ああ、大森提督の遺品を売り捌いた時のものですね。これも大本営の許可を得ていますので、なにも問題ありませんよ?」
「北条のご令嬢と仲が良いってのはマジなようだな。」
「ただの士官学校の同期ですよ。」
「チッ・・・ただの同期がここまでするわけねぇだろうが・・・」
まあ、なにかと北条からは良くして貰っているな。その分迷惑もかけられているが・・・北条の突拍子も無い行動にはずいぶんと振り回されたものだ・・・
「クソが・・・他にはなにかねぇのかよ・・・」
「ん?ずいぶんとあっさり引くのですね?」
「煽ってんのか?北条工業に直接喧嘩売れるわけねぇだろうが・・・」
鶴野提督の権力があっても、北条工業とまともにやり合うのは避けるのか。それとも猿田提督の権限ではそこまでのリスクを負えないってことか?ああ、鶴野提督ならば北条工業と本気で揉めそうになったら、猿田提督を切り捨てて知らぬ存ぜぬを貫きかねない。猿田提督としてはそんな危ない展開は絶対に避けたいところか。そんな事を考えていると曙から袖をクイクイと引かれる。耳打ちするような仕草をするので屈んでやるが・・・
「おい!!何コソコソしてやがる!!」
猿田提督が目ざとく見つけてきて邪魔をされる。こいつもなにか自分を陥れるための手掛かり探しに必死なのだろう。証拠なんて適当にでっち上げれば良いだけなのに律儀な事だな。
「はぁ・・・曙、なにか報告があるならこの場で言って構わない。」
「鹿児島鎮守府所属の古鷹さんから連絡よ。もうすぐ資材をのせた輸送船が到着するから、入港許可が欲しいと言ってるわ。熊井提督からの指示で当初の予定よりも多い量を積んでいるそうよ。博多鎮守府で少し輸送船に積み足したようね。」
「わかった、返事は少し待ってくれ。」
ほう?約束の資材がもう来たのか。対応が早いな。だがこれに劇的に反応したのは猿田提督だった。
「はぁ!?鹿児島鎮守府から輸送船だと!?どういう事だよおい!?」
「聞いての通りですが?佐世保鎮守府傘下の鹿児島鎮守府から、支援物資が届いたようです。熊井提督が資材の量を増やして下さったようですし、後で感謝を伝えなくてはですね。」
「そうじゃねぇよ!!お前は佐世保鎮守府とは仲が悪いはずだろ!?今朝の会見で殴り合いにまで発展したって聞いてるぞ!?どうなってんだ!?」
「それは少し違いますね。殴り合いではなくて私が島津提督に一方的に殴られただけです。」
「そんな事はどうだって良い!!どうやって熊井提督に取り入った!?」
「別に取り入ったわけではありませんが・・・これは私と熊井提督との話し合いの結果ですし、どうしても聞きたいと言うのであれば、先に熊井提督に確認を取る必要があります。勝手に喋って熊井提督の信頼を損ねるのは避けたいところですし。」
「俺が今回の調査の権限を一任されているんだ!!良いからさっさと話せよ!!じゃねぇと反抗の意思ありとして拘束させるぞ!!」
ふむ?ずいぶんと焦っている様子だな?今回の件を熊井提督に知られるのはマズイのか?これは良い事を知ったな。
「はぁ・・・そこまで言われるのであれば仕方ないですね・・・こちらは調査される立場ですし。」
「チッ、最初から素直に従えってんだよ!!」
「ですが佐世保からの輸送船はどう対応するおつもりですか?理由も話さずに待たせる訳にもいきませんが?」
「・・・・・・資材の受け取りくらいなら艦娘にでもやらせれば良いだろ!!」
「そうですか。曙、古鷹さんに入港許可を。それと明石と夕張に資材の受け取りをするように伝えてくれ。」
「分かったわ。・・・・・・古鷹さんが提督と直接話がしたいって言ってるわよ?」
「今は取り込み中だからしばらく待機して貰おう。」
「あっ!?おい!?勝手な真似は!?」
「なんですか?私としては猿田提督達が同席しても構いませんので、私が古鷹さんと話をするところに同席されますか?」
「ぐぅ・・・・・・鶴野提督に連絡する!!戻って来るまでなにもするなよ!!」
そう言い残して猿田提督は執務室から飛び出して行った。佐世保からの支援物資がこの時間に届いたのは偶然だろうが、本当に良いタイミングだったな。そして隣の曙が少しドヤ顔をしているところを見ると、曙も何か仕掛けてくれたのか?なんにせよ面白い展開になってきたな。
偶然だろうが使えるものは使う。相手が弱味を見せたら付け込む。基本ですね。