あのツンツンしてた曙がこんなにも成長した姿を見せてくれるとは・・・そして正面を向いてくれずに、後ろを向きながら振り返ってるあたりに、ツンの名残りを感じて素晴らしいです。
クソッ!!いったいどうなってやがる!?佐世保鎮守府は今回の件で介入して来ないんじゃなかったのか!?北九州鎮守府の執務室から飛び出したら、憲兵隊の一人が慌てて通信機を持って来た。とにかくまずは鶴野の爺さんに連絡しねぇと・・・鶴野の爺さんの秘書に連絡するが、なかなか出やがらない・・・
「はい、鷲田です。」
「猿田だ。大至急鶴野の爺さんと代わってくれ。」
「申し訳ございませんが、鶴野提督は現在大事なお客様とご歓談中でして。」
「大至急だって言ってんだろ!!こっちは時間がねぇんだよ!!」
「・・・少々お待ち下さい。鶴野提督に確認して参ります。」
そう言ってまたしばらく待たされる。こっちは時間がねぇって言ってんのにチンタラしやがって!!
「あー鶴野じゃ。何があった?」
「大変なんっすよ!!葛原の野郎が俺の調査を妨害する為に熊井提督に助けを求めてやがったんです!!」
「ほう?あの熊井が動いたのか?」
「そうなんすよ!!俺等が北九州鎮守府に踏み込んでから、一時間もしないうちに鹿児島鎮守府の奴らが来やがったんすよ!!」
「熊井提督本人ではなく鹿児島鎮守府か?」
「あー、えっと?葛原の秘書艦は鹿児島鎮守府所属の艦娘からとしか言ってなかったような・・・でも鹿児島鎮守府は佐世保の傘下っすよ?それで資材を載せた輸送船が北九州鎮守府に入港を求めてて、鹿児島の艦娘が葛原への面会も求めてるんすよ!?俺達がいるこの時を狙ってるみたいに!!俺達が踏み込んだ後に助けを求めたなら絶対に間に合わないタイミングだ!!どっかに情報を漏らした裏切り者がいるはずだ!!」
誰が情報を漏らしやがった!?うちの憲兵隊か?大本営の奴らか!?俺達の計画を邪魔しやがったクソ野郎はただじゃおかねぇぞ!!
「まあ、落ち着きなさい。裏切り者を調べはするが、おそらく鹿児島鎮守府の介入は偶然じゃろう。今朝方鹿児島鎮守府の島津提督が葛原を殴って、熊井提督が仲裁に入ったのは聞いておる。熊井提督は生真面目な奴じゃから、その輸送船とやらは迷惑かけた詫びじゃろう。」
「な、なるほど・・・けどどうするんすか?偶然とはいえ佐世保傘下の奴らに今回の件を嗅ぎつけられるのはマズくないっすか?」
「よいよい。どうせ今回の件は近いうちに広まる。それに熊井提督は今回の件にはあまり介入はしてこんじゃろうよ。だからお前さんはお前さんの仕事をしなさい。だがそうじゃのう・・・とりあえず海外艦の秘密を探る方を優先しなさい。葛原を退任に追い込む件は難癖つけて嫌がらせをする程度で充分じゃ。そのくらいは出来るじゃろ?」
うーん?鶴野の爺さんはこう言ってるが、万が一佐世保鎮守府と揉めるような事になれば、なにかしら責任を負わされそうだしよ・・・だけど海外艦について探るぶんには佐世保と揉める事はねぇよな?たぶん・・・けど鶴野の爺さんに逆らうのも、それはそれでヤベえからなぁ・・・
「あ、ああ、そのくらいなら問題ねぇっす。」
「ああ、そうじゃ。葛原と鹿児島鎮守府のやり取りには同席させて貰いなさい。向こうにとっても今回の調査は想定外のものじゃろうから、動揺してなにか重要な情報を漏らしてくれるかもしれんからのぅ。」
「・・・え!?おいおいおい!?」
「では頑張りなさい。」
そう言って鶴野の爺さんは通信を切りやがった。マジかよあの爺さん!!下手すりゃ佐世保と戦争だぞ!?熊井提督が政治に興味が無いから今の均衡を保ててるってのに、こっちから喧嘩売りに行くとか馬鹿じゃねぇのかよ!?これはいよいよ俺を捨て駒扱いしやがったのか?このまま進めばかなりやべぇ状況だが、だからと言って鶴野の爺さんの命令に逆らうのもやべぇ・・・なんとかしねぇと・・・
「チッ!!クソが!!」
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猿田提督が通信している間に今後の展開を色々と考えていると、荒々しく執務室の扉が開かれる。
「おや、お戻りになられましたか。」
「おう。」
「それでどうなさいますか?」
「お前が鹿児島の古鷹に会うとこに俺も同席する。」
「ほう?それは少し意外ですね。私は構いませんが、古鷹さんには事情を全て説明してから許可を求めますが構いませんね?」
「・・・・・・しゃあねぇな。」
流石に内緒でいきなり会わせろなんて無茶は言わないか。猿田提督は凄く苦い顔をしているので、かなり不本意な話なのだろうがな。
「曙、古鷹さんに事情を説明しておいてくれ。それでは港の方に行きましょうか。もうじき輸送船も到着するでしょう。」
「・・・ああ、案内しろ。」
それにしても同行してくるか。つまり佐世保側に今回の件がバレても問題ない。もしくはバレてもリスクが許容出来るって事か。だがそれは鶴野提督の考えで、猿田提督としては納得していないが命令には逆らえないってところか?これは付け入る隙になりそうだな。とはいえ猿田提督を上手くあしらえたとしても、鶴野提督が何を考えているのかがわからないから油断は出来ない状況だな・・・
「・・・・・・提督、古鷹さんに事情を説明して、猿田提督達の同席にも同意して貰ったわ。」
「ああ、わかった。」
「クソッ!!なんだって俺がこんな目に・・・」
猿田提督は本当に余裕を無くしてさっきから悪態ばかりだ。うちの曙よりもよっぽどクソクソ言ってるぞ。それに比べて曙の方は少し上機嫌か?曙を悪く言ってた猿田提督が焦ってるのを見て、ざまあみろって感じか?まあ、なんにせよせっかく弱味を見せてくれているのだから、どれくらい有効か揺さぶって試しておくか。
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港でしばらく待っていると鹿児島鎮守府からの輸送船が到着した。明石と夕張で輸送船を誘導して資材倉庫の近くに停泊させてロープで固定し、スロープ状のタラップが設置されて資材を下ろす準備が整えられる。こういう作業は流石に手慣れたものだな。そして輸送船から古鷹さんが降りてきた。
「お待たせしました。鹿児島鎮守府所属の古鷹です。」
「北九州鎮守府所属の葛原です。そしてこちらが本日調査の為に来ている出雲鎮守府の猿田提督と出雲鎮守府所属の憲兵隊の方々です。」
「あ、はい。宜しくお願いします。」
「・・・おう。それで?島津提督や熊井提督は来てないのか?」
「ええ、資材の受け渡しだけですので。それがどうかされましたか?」
「いや、いい。」
それだけ言って猿田提督は引き下がった。なにがしたいのかは分からないが、口出ししてこないならとりあえず作業を始めるか。
「とりあえず荷下ろしをしましょうか。」
「はい、分かりました。資材は私達で荷下ろししますから、運ぶ場所だけ指定して頂ければ。」
「分かりました。明石、資材の方は頼んだぞ。」
「はい。お任せ下さい。」
「ああ、猿田提督、疑われるのであれば先に荷物を調べますか?」
「ぐ・・・おい、赤嶺!!憲兵隊を率いて搬入される荷物に怪しい物が無いか、それと運ばれた荷物の量を調べておけ!!」
「はっ!!」
ん?一瞬言い淀んだな。そもそも調査に来ているなら荷物の検査くらいしそうなものだが、こちらから提案するまで動かなかったのも気になる。
「では古鷹さんはこちらに。古鷹さんから私にお話があるとの事でしたし。ああ、それと事前に曙から伝えられてるとは思いますが、現在北九州鎮守府には猿田提督が調査に入っています。なんでも私の提督としての能力や思想に重大な疑義があるとか?ですから猿田提督も同席されますが構いませんね?」
「えぇ・・・あ、はい・・・」
古鷹さんはちょっと引き攣った表情をしているが、取り敢えず猿田提督の件は納得してくれたようだ。二人と護衛の憲兵隊を引き連れて、工廠エリアにある休憩所に案内する。ここは普段明石や夕張が休憩に使ったり、書類関係の仕事をする部屋だ。
「さあ、どうぞおかけ下さい。曙、なにか飲み物を用意してくれ。」
「ええ、分かったわ。」
「さて、では古鷹さんからのご用件を伺っても?」
「え!?いや、その・・・私はその・・・資材を搬入するので葛原提督にご挨拶をと・・・」
古鷹さんはずいぶんと困っている様子だな。おおかた古鷹さんとしては今朝の島津提督の件で謝罪をしたかったのだろう。しかし猿田提督が同席するという想定外の事態が起きてしまった。当然この話は島津提督にまで伝わっているはずだ。そして島津提督の性格からすると、熊井提督からの命令で不本意ながら資材を送っているうえに、舞鶴傘下の提督に自分のところの艦娘がペコペコ謝罪している姿なんて見られたくないのだろう。そしてそんな困っている姿の古鷹さんを見て、猿田提督の表情が険しくなる。まあ、こんな不審な態度をとれば何か隠していると疑うのも無理は無い。
「ああ、それはご丁寧にどうも。とはいえそれだけの用事でしたら、わざわざ場所を改める必要もなかったかもしれませんね。」
「あはは・・・そうですね・・・」
「では資材の搬入が終わるまでのんびりお茶でも飲んでましょうか?」
「そ、そうですね!!それではお言葉に甘えて!!」
「おい、ちょっと待て。」
「猿田提督?どうかされましたか?」
「なんで鹿児島鎮守府からの輸送船が北九州鎮守府に来たんだ?答えろ?」
「私は話しても構いませんが・・・古鷹さん、島津提督からはなんと?」
「えっと・・・すみません・・・島津提督からは部外者に話す事は無いと・・・」
まあ、そうだろうな。というか鶴野提督であれば今朝島津提督が自分を殴った件は知っているだろうし、熊井提督が仲裁に入った件も知っているので、今回の輸送船の件に関しても察しがつくはずだが・・・それでもプライドの高い島津提督は謝罪の為に資材を送って来た事を隠したがっていたか。面白くなってきたな。
「ふふっ、そうですか。それは困りましたね。島津提督がそうおっしやるのであれば、私としても軽々しく口には出来ませんね。」
「おい!?お前は立場を忘れたのか!?俺は大本営からの命令で調査に入ってんだぞ!!その俺に隠し事をするって事がどういう事か分かってんのか!?」
「仕方ありませんね・・・であれば猿田提督が直接島津提督と話をつけられては如何ですか?島津提督も大本営からの命令という事であれば考えを改めてくださるかと思いますが?せっかく連絡役の古鷹さんもいらっしゃる事ですし。」
「ぐ・・・・・・」
ずいぶんと悩んでいるな。やはり島津提督を盾に使うのは有効のようだな。大本営からの命令だと言えば島津提督も納得すると思うが、それでも佐世保派閥に喧嘩を売りたくは無いってところか。かと言って鶴野提督からはしっかり調査しろと言われているので、板挟みになってるってところか?そして無理矢理命令して聞き出したところで、たいした話は出てこない。こちらとしては何も損する事なく猿田提督を困らせて、反応を探る事が出来る。
「だったら・・・だったら上には葛原提督と島津提督が協力して、なにか隠し事をしていると報告するぞ!?」
「おや?これは心外ですね。私としてはこの輸送船について話す事は構わないのですよ?猿田提督が島津提督を説得すれば丸く収まる話だと言うのに・・・島津提督も大本営からの命令だと納得して下されば、素直に話して下さるはずですよ?それなのに連絡もしないなんて、これは猿田提督の職務怠慢と言われても仕方ないと思いますが?古鷹さんはどう思われますか?」
「ええ!?いや、その・・・私はただの連絡役なのでなんとも・・・」
「いやいや、この場で島津提督の事を一番理解しているのは古鷹さんでしょう?島津提督がどのような反応を示されるか予想も出来るのでは?」
「あぁ・・・うぅ・・・はい・・・すっごく怒ると思います・・・」
「だそうですよ?ここはやはり一度猿田提督ご自身が島津提督ときちんと話し合う事をおすすめします。きちんと話し合えばきっとお互いの誤解も解けるはずです。」
あの島津提督とまともに話し合えるのであれば、という条件付きだがな。それこそ熊井提督に仲介を頼むか、鶴野提督や大本営の人間を引っ張ってくるか・・・色々とやりようはあるだろうが、島津提督との関係悪化は確実だろう。猿田提督はこっちを睨みながらしばらく唸っていたが、不機嫌そうに視線を逸らす。
「チッ・・・・・・この件はもういい!!それよりもこの部屋を調べさせて貰う!!」
「おや?そうですか?とはいえせっかく曙にお茶を用意させたのですから、資材の積み込みが終わるまでは一緒にお茶でも飲みませんか?古鷹達が遥々鹿児島から資材を持って来て下さったのに、もてなしの一つもしないのであれば、私の器を疑われてしまいます。」
そう言って古鷹さんに微笑みかけると、引き攣った笑顔を返してくれる。本当はさっさとこの場を離れたいのだろうが、島津提督が散々迷惑をかけているので、心優しい古鷹さんは強気に出れないのだろう。悪いが利用出来るものは利用させて貰う。
「あ、はい・・・ではお言葉に甘えさせて頂きます。」
猿田提督もかなりイライラしているが、曙が全員の前にお茶と茶菓子を配ると、不承不承ながら着席した。
「ねぇ、提督?」
「ん?どうした曙?」
「あんたまさかここまで資材運んで貰っておいて、手ぶらで帰すつもり?お土産くらい持たせるのが礼儀ってものでしょ?」
「ええ!?いや!?そんな事は・・・」
「ふむ、そうだな。失念していた。すまないがなにか見繕ってくれるか?」
「ええ、分かったわ。」
曙はニコニコしながら休憩室を出て行った。あいつもずいぶんと猿田提督を煽るような真似をするものだ。曙と言えばかなりツンツンしているが、凄く真面目な艦娘だという認識だったが、こんな嫌がらせもするのだな。
部下のしたことは上司の責任。つまりぼのたんが色々やったのは葛原提督が悪い。