曙を連れて執務室に戻ってさっそく執務に取り掛かろうとしたのだが・・・外からドタバタと多くの足音が聞こえてくる。ビスマルクとプリンツオイゲンを叱ったばかりだと言うのに、どうしてこうも落ち着きの無い艦娘が多いのだろうか?それとも何か緊急事態でも起こったのだろうか?そんな事を考えていると勢い良く執務室の扉が開かれる。
「にひひっ♪やっぱり私が一番だよね♪そうよね♪だって速いもん♪」
「司令官!?」
「提督さん大丈夫っぽい!?」
「うぁああ!!またいっちばん逃したぁ!!」
「司令!!ご無事ですか!?」
「提督!!そろそろ夜戦の準備しよ!!」
「ちょっ!?入り口でたむろしないで下さい!!早く提督のご無事を確認しなくてはいけないんです!!」
「司令官!!なにがあったのか是非とも取材を!!」
次から次へと艦娘達が雪崩込んで来る。本当に何事なんだ?
「静まれ!!いったい何事だ!!」
そう一喝すると入り口で騒いでいた艦娘達がビクッと反応して騒ぐのを辞める。騒いでいた奴らの半数以上が駆逐艦だが、川内・大淀・青葉もいるのか。しかも後ろからまだ足音と話し声が聞こえるということは、まだまだ集まるつもりか?
「大淀、これはいったいどういう事だ?説明しろ。」
「は、はい!!私は大本営からの監査が入ったと聞きご命令通り自室で待機していましたが、待機命令が解除されましたので秘書艦として状況の把握と提督の無事を確認する為に駆け付けました。他の皆さんも心配して駆け付けているのかと。」
なるほど。自分と大本営というか鶴野提督との問題だと考えていたが、艦娘達にとっても提督が変えられるかもしれないというのは大事件か。自分の後釜に前任者の大森提督みたいな人物が来れば、また不当な扱いを受ける事になるかもしれないので、不安になって確かめに来たってところか。
「ふむ・・・他の者達もそういう理由か?」
そう尋ねるとほとんどの艦娘達は頷くなりして肯定しているのだが・・・
「えっ?私は皆がかけっ子始めたから追い抜いただけだよ?だって私が一番速いし。」
「私は提督が夜戦の事を考えてる気がしたから駆け付けたよ!!今日は敵が来そうに無いから演習になりそうだけど、楽しい夜戦演習にしようよ!!」
・・・川内はいつも通りだから良いとして、島風は競争がしたかっただけだと・・・ここの島風は提督である自分に怯えている印象しかなかったが、そう言えば本来の島風はスピードに固執する奴だったな。島風も私とこの鎮守府の環境に少し慣れてきたってことか?
「はぁ・・・なら島風はもう満足しただろ。部屋に帰ってろ。」
「はぁ〜い。」
「川内は今日の夜戦演習の計画を考えておいてくれ。夕食の時にでも提案を聞こう。私からの要望はプリンツオイゲンとビスマルクを艦隊と川内のやり方に馴染ませる事だ。」
「それは良いけどアトランタさんは良いの?」
「アトランタは夜戦にトラウマがあるのだろう?いずれはそのトラウマに向き合って貰う時が来るかもしれないが、今はそこまで時間を割く余裕は無い。」
「そっかぁ・・・アトランタさんにも夜戦の楽しさを知って欲しかったんだけど、提督がそういうならまた今度にするよ。じゃあ晩ごはんの時までに考えとくね!!」
「提督、入るぜ。」
島風と川内が退室すると、入れ代わりで天龍が入って来る。そして扉の外で多くの艦娘達が待機しているようだ。執務室に駆け込んでこないだけまだ冷静な対応をしているって事か。
「天龍達も今回の調査の件が気になったってとこか?」
「まあな。オレは提督なら大丈夫だろうって言ったんだけどよ、ちびっ子どもが不安がってんだ。少しくらい説明してくれても良いだろ?」
「それは構わないが大した話じゃないぞ?ただ単に嫌がらせで鎮守府に調査の人員が送り込まれて来て、ある程度対応して適当に追い払っただけだ。本来であればお前達にも事情聴取があるはずだったから自室で待機させていたが、結局事情聴取をされる前に追い返す事が出来たから不要になっただけだ。」
「ふーん、なるほどな。なんにせよ一つだけ確認させてくれ。お前が提督を辞めさせられたり別の鎮守府に飛ばされたりする事は無いんだな?」
「あぁ。少なくとも今回の件ではもう無い。それと私を提督の座から引き摺り下ろそうとする奴が居れば、手段を選ばず徹底的に戦うつもりだ。」
天龍はこちらの真意を探るように睨んでくるが、しばらくすると納得したように頷いて息を吐く。
「ああ、それだけ聞けりゃ満足だ。邪魔したな。お前達もこれで安心しただろ!!オラ散った散った!!執務の邪魔だって営倉に放り込まれっぞ!!」
天龍がそう声をかけると執務室に入って来ていた艦娘達と執務室の外で待機していた艦娘達が、ぞろぞろと執務室から離れて行く。大淀は秘書艦なので当然執務室に残って、青葉は名残惜しそうにしていたが天龍が引き摺るように連れて行ってくれた。部屋の外で待機していた艦娘達も解散していったようなので、ひとまずこれで一件落着か。あの騒ぎをまとめてしまうとは、天龍の奴は荒い口調に反して意外とリーダーシップがあるのだな。
「ふぅ・・・さて、ずいぶんと時間を無駄にしてしまった。夕食前に少しでも執務を進めるぞ。」
「そうね。」
「え、あ、はい!!」
大淀と曙に声をかけたが、何故か大淀の反応が少し鈍い。
「どうかしたか?」
「いえ、大丈夫です。ではご報告ですが、憲兵隊の金子さんがまた大量の取材の申し込みが来ていると連絡がありました。」
「どうせ猿田提督が来た時に鎮守府前に居た野次馬達だろう。そんなものはお断りだな。とりあえずいつも通りリストだけ受け取っておこう。誰か暇な艦娘に受け取って来るように指示してくれ。」
「なら漣にでも行かせるから、私に任せなさい。」
「では曙さんにお願いします。それと明石からですが、調査に来た憲兵隊達が倉庫区画の物をかなり荒らしていったとの事で・・・証拠品として一箇所に集めていたものをそのまま置いて帰ったみたいでして・・・食後で構わないので整理整頓の為の人員が欲しいとの事です。」
「まあ、連中が後片付けなんてするわけないよな・・・とりあえず夜戦演習に参加しない者で手分けして片付けさせよう。とりあえず空母は夜戦演習に参加出来ないから赤城と加賀をリーダーにして、下に何人か付ければ良さそうだな。」
「それで問題無いかと。それと間宮さんからですが、調査の一件で自室待機していたので夕食の仕込みが出来なかったため、現在有志を募って急ピッチで調理を進めているそうですが、どうしても夕食の時間が少し遅れてしまいそうですと。」
「それも仕方ない。間宮に任せる。」
「とりあえず現状の問題はこのくらいで・・・・・・」
ん?大淀が急に黙ったな。これは何か通信でも入ったか?
「どうした?」
「呉鎮守府傘下の合同艦隊が出撃先から帰還しているそうで、関門海峡の通行許可と代表が葛原提督にご挨拶をとの事ですが、いかがしますか?」
「通行に関しては問題無い。それと今朝来た時は対応出来なかったし挨拶くらいは受けておこう。」
久藤提督とは節度ある敵対的関係だ。相手が礼節を守っているのであれば、こちらが理由も無く一方的に拒絶するのは問題だ。
「どこでお会いされますか?執務室か応接室にお通ししましょうか?」
本来この時間は島津提督が北九州鎮守府に滞在しているはずだった。それを理由に呉鎮守府傘下の艦娘達が補給拠点として滞在するのを断っている。そもそも補給だけならば問題無いのだが、滞在したのを良いことに色々と鎮守府内を探られては面倒だと考えて断ったのだ。今更隙を見せて鎮守府内部に踏み込ませる必要もない。
「・・・いや、出撃港まで迎えに行こう。大淀は執務を頼む。曙、付いて来い。」
「は!!」「分かったわ。」
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出撃港で少し待機していると海の向こう側で待機している大艦隊が見えた。今朝聞いた時は六艦隊36人との事だったが、それよりももっと多そうだ。途中で合流した艦娘達もいるのだろう。その中から一人だけこちらに向かって来る。薄暗くて分かり難いが艤装の大きさからして戦艦か?目を凝らしてみても自分の視力では判別が難しいな。
「こっちに向かって来てるのは日向さんね。」
「伊勢型戦艦2番艦の日向か。たしか真面目な奴だったな。」
「そうね。あまり変な事をする人では無いと思うわ。」
日向ならば士官学校でも見た事がある。士官学校に居た日向は未改装だったが、改装する事で航空戦艦へと変化するはずだ。うちには扶桑型も伊勢型も居ないので、航空戦艦になれる人材が居ないのが悔やまれる。まあ、無いものねだりしても仕方ないので、現有戦力をどう鍛えてどう使うかを考える方が現実的だ。そんな事を考えている間に日向はどんどん近付いて来て、出撃港から上がって来て自分の前までたどり着く。
「呉鎮守府所属の伊勢型戦艦2番艦の日向だ。北九州鎮守府の提督自らのお出迎えとは痛み入る。」
「北九州鎮守府所属の葛原です。わざわざご挨拶にお越し頂き感謝します。」
「こちらの都合で通行させて貰うのだから、礼節くらい守るのが筋というものだ。派閥が違えば通行するだけでも一触即発の雰囲気になる事もあるのだぞ?それを考えれば快く通して貰えるだけでもありがたい。」
「派閥争いも中々大変なものですね・・・とは言え事前に久藤提督からお話は聞いておりますので、通行に関しては一報頂ければご自由にされて下さい。ですが補給や滞在に関しては諸事情がありますので。」
やんわりと馴れ合うつもりは無い事を伝えると、日向の表情が少しだけ気まずそうに変わる。
「む!?そう言われればそうであったな。これは海上から挨拶するべきであった。すまないな。」
「いえ、流石にそれは日向さんに対して失礼ですから気になさらないで下さい。ですが応接室までご案内出来ない無礼をお許し下さい。」
「それはもちろんだ。鎮守府ごとに事情があるのは当然の事だ。深入りするような真似はしないさ。」
「ありがとうございます。」
「あー、それでだな、手土産を持参しているのだが、受け取って貰えるだろうか?」
「手土産ですか?」
「ああ、少し待ってくれ。」
そう言うと日向は懐から何かを取り出して・・・
「・・・ん?それは!?」
「私が手塩にかけて育てた瑞雲だ。」
「艤装ですか!?しかも熟練度を上げた艦載機だなんて流石に受け取れません。」
「なぁに、呉鎮守府に戻れば瑞雲はたくさん残っているから心配するな。瑞雲とはとても素晴らしい機体だと言う事は知っているか?いや、新人の提督であれば知らないのも無理は無い。瑞雲と言うのはだな
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「という訳だ。瑞雲とは素晴らしい機体だろう?」
「ええ、確かに素晴らしい機体です。」
日向からの瑞雲の詳しい説明はそれなりの時間がかかったものの、それ相応の情報量が詰まっていた。座学で各種艦載機の知識はあったのだが、それでもここまで詳しい話は知らなかった。
「うむ。やはり君は見込みがあるな。君ならばきっと私の瑞雲を使いこなしてくれるだろうから、遠慮せずに是非とも受け取って欲しい。」
「それなのですが・・・」
「うん?まだ受け取れない理由があるのか?」
「そもそも私の艦隊には瑞雲を搭載出来る艦娘が居ないのです。」
「なんだと!?」
「瑞雲を装備出来るのは航空戦艦・航空巡洋艦・水上機母艦・潜水空母と極一部の第二改装済みの艦娘達でしたよね?うちには現状扱える者が居ないのですよ。」
「瑞雲程の愛された機体だぞ!?本当に扱える者が誰も居ないのか!?」
「そうですね・・・鈴谷と熊野は航空巡洋艦への改装が可能な艦娘ですが、練度不足ですから改装出来るのはずいぶんと先になるでしょうね。」
「なら良いではないか。いずれはこの瑞雲を使うのだと思って練度上げに励んでくれれば良い。それにもしかしたらこの先で瑞雲を使える艦娘が仲間に加わる事もあるかもしれないだろう?その時までは大切に保管してくれればそれで良い。」
「・・・そうですか。一応確認ですが、この件は久藤提督も了承済みなのですか?」
「もちろんだ。艤装の譲渡なんて私の一存だけでは出来ないからな。きちんと説得済みだ。」
であればこれは日向さん個人の善意ではなく、久藤提督からの手土産・・・通行料と考えるのが妥当か。
「分かりました。それでは日向さんが育てた瑞雲を頂きます。早くこの瑞雲を扱えるように努力しましょう。」
「ああ、その言葉が聞けたら満足だ。では仲間を待たせているのでこれで失礼する。君の健闘を祈っている。」
「ええ、ありがとうございます。」
日向は満足そうな表情をして、出撃港から降りて仲間達の元へと去って行った。なかなかカッコいい艦娘だったな。
夜戦忍者のネタを書くつもりが、いつの間にか瑞雲の話を書いていた。瑞雲教の電波でも受信してしまったのだろうか?