この経験を小説で活かせるようになるのはどれだけ先の事になるやらですが。
日向さんを見送って執務室に戻ろうとすると、曙に袖を引かれる。
「もう夕食の準備が整ってるわ。」
「もう準備出来たのか?ずいぶんと早いな。」
「そうでもないわよ。あんたずいぶんと長く日向さんの瑞雲談義に付き合ってたわよ。」
「・・・そんなにか?」
「ええ、そんなによ。」
思いのほか時間がかかっていたようだが、有意義な情報を得られたのであれば良しとするか。
「そうか。では食堂に行くか。」
「その瑞雲は私が倉庫にしまっておくから先に行ってなさい。」
「ああ、頼んだ。」
瑞雲を曙に預けてから食堂に向かうと多くの艦娘が集まっていて、楽しげに話ながら間宮の前に列を作っている。そんな楽しげな雰囲気の列に並ばずに食堂の入口に佇んで居た奴がこっちに近付いてくる。
「ども、恐縮です。司令官、またお食事がてら取材しても宜しいでしょうか?」
「はぁ・・・青葉、食事時間を取材時間だと勘違いしていないか?」
「あはは・・・でも司令官って基本的にお食事の時と寝る時以外はずっと働いてるじゃないですか。だからお食事の時くらいしか取材するチャンスが無いんですよ。」
「そんな事はないぞ?執務室でコーヒーを飲んで一息吐く事もあるし、状況次第では執務室で仮眠もとる。無理をするべき時でなければ、きちんと体を休めて体調管理しているつもりだ。」
「う〜んとですね・・・普通の人であれば余暇の時間というのがありましてですね?お昼ごはんのあとに少し休憩時間をとったり、仕事が終わってから寝るまでの間に趣味の時間があったりするものなんですよ?」
「普通の人はってのはよくわからないが、少なくとも私が着任してからは問題だらけでそんな余裕はなかったと思うが?」
前任者の大森提督殺害事件の調査、汚職関連での調査と交渉、大本営や鶴野提督からの嫌がらせ、深海棲艦の大規模な襲撃、秘密裏に売られていた艦娘達の奪還、海外艦ドロップに関する諸問題。ぱっと思いつくだけでもこれだけの量の問題があったのだから、余暇を楽しむ余裕なんてあるわけがない。そう言えば暗殺もされかけてたな。
「あ、あはは・・・確かに司令官は本当に大忙しですからねぇ・・・あっ、立ち話もなんですしこちらのお席にどうぞ。」
「いや、私はまだ食事を受け取ってないのだが。」
「その辺は衣笠に頼んであるので大丈夫ですよ。他にも協力してくれる娘も多いですし。」
「ほう?ずいぶんと段取りが良いな?」
「恐縮です。」
「あと夕食中に川内と夜戦演習の打ち合わせをする予定なのだが?」
「・・・司令官も食事の時間を会議の時間だと勘違いされてませんか?食事中に報告を受けたり打ち合わせをする姿をよく見かける気がしますが?」
「・・・・・・確かにそうかもしれないな。」
言われてみれば食事中に艦娘達と仕事の話をする事が多い気がする。とはいえここ最近は艦娘側から食事に誘われる事も多く、そしてその場で報告を受けたりしていると思う。これも青葉が言うように艦娘達が私に話し掛ける余裕がありそうなのが、食事の時間くらいしか無さそうだからだろうか?
「あー、司令官はお忙しいですから、なかなか話し掛ける機会が無いってのはありますから、食堂だと話し掛け易いってのはありますねぇ。だから別に司令官が悪いって訳じゃないですから。」
「・・・ふむ、やはりそういう事か。」
「司令官?」
「いや、なんでもない。」
「まあ、川内さんも後で合流すれば良いですし、こちらのお席へどうぞ。」
とりあえず青葉に勧められるままに席に座わって少し待つと、衣笠と第六駆逐隊が食事を運んで来てくれた。
「青葉〜食事持って来たよ~」
「ありがとうガサ♪第六駆逐隊の皆もご協力ありがとうございます!!」
「司令官、ご機嫌ようです。」
「やぁ、司令官。」
「こんばんわ、司令官♪」
「司令官さん、こんばんわなのです。」
「ああ、こんばんわ。私の分の食事を持って来てくれたのか。助かる。」
「ふふん♪輸送任務はレディのたちなみ!!・・・たしなみ。」
「噛んだ。」
「噛んだわ。」
「難しい言葉を使おうとして噛んだのです。」
「ん!!と、とにかくごはんにするわよ!!司令官もきっとお腹ペコペコよ!!」
暁がそう言うとどこからともなくクゥ〜と可愛らしいお腹の音が聞こえた。暁が顔を真っ赤にしているし周囲の視線が暁に集まっているが、指摘するのは野暮と言うものだろう。
「そうだな。空腹ではこのあとの執務に支障が出る。それにせっかく用意して貰ったのだから、温かいうちに食べておきたい。」
そう伝えると暁達がテキパキと食事の支度を整えてくれる。暁と雷は凄く笑顔で楽しそうだし、響もあまり表情が変わらないものの心なしか楽しそうだ。ただ電だけはまだ自分が怖いのか、時折こちらの顔色を伺うようにチラチラと見てくる。まぁ面談の時よりはマシになっているので、いずれは慣れてくれるだろう。全員が席について手を合わせてから食事を始める。
「ではではさっそく取材を始めさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「まぁ、程々にな。」
「ありがとうございます♪そうですねぇ、まずは昨夜の夜襲作戦の成功と海外艦をさらにお二人獲得した件でしょうか?改めて全員生還での大戦果おめでとうございます。」
「ああ、作戦の成功は素直に安堵したし、想定以上の戦果を上げられた事はとても素晴らしい。今後もお前達の奮戦に期待している。」
「ええ、司令官が期待して下さるならば、青葉ももっともっと頑張っちゃいますよ!!ってあれ?海外艦のお二人についてはノーコメントですか?」
「あー、純粋に戦力として見れば海外艦の二人、いやプリンツオイゲンも含めて三人にはかなり期待しているのだが・・・それ以上にトラブルも多く発生するので素直に喜べ無いのがな・・・とはいえこれは人間同士のトラブルだから、お前達は出来るだけ巻き込みたくは無いと思っている。」
「なるほどなるほど。海外艦を三人も獲得したので、物凄く目立ってしまいますよねぇ。海外艦のお披露目会見まで開いちゃいましたし。」
「海外艦獲得なんて話は絶対に広がるからな。情報を公開する場でも設けなければ、なんとか情報を得ようとする奴らが後を絶たないからな。面倒でもやらなくてはならなかったのだ。」
だがそこで島津提督が余計な事をしてくれたせいで、別の問題まで発生したのだがな・・・あそこで熊井提督が出て来なかったらと思うとゾッとする。まぁ、タイミングが良すぎて熊井提督の自作自演の可能性も否定出来ないのが怖いところだが。
「司令官も大変ですねぇ・・・会見の内容など聞かせて頂いても?」
「流石に全部話すのは面倒だ。あの場には海外艦達と不知火が居たから、後でそっちから聞いてくれ。」
「分かりました♪いや〜夕食前に不知火さんに取材したんですが、『司令の許可なく任務について口外するつもりはありません。』ときっぱり断られてまして・・・海外艦の方々に話を聞こうとしても、不知火さんが睨みを効かせていたので困っていたんですよ。」
「ほう?不知火は情報の重要性をきちんと理解しているようだな。以前青葉にも教えた事だが。」
今回の会見に関しては別に隠す必要も無いが、口止めしていた訳でも無いのに安易に情報を漏らさない姿勢は高評価だ。自分が島津提督に殴られた後も手際良く治療もしていた事も考慮すれば、連絡要員として連れ回すのに良い人材だな。
「あはは・・・アオバモチャントリカイシテマスヨ・・・」
「なら良いのだがな。とりあえず会見自体は事前準備のかいもあってスムーズに進んだ。海外艦の三人も堂々とした態度で好印象だったな。」
「なるほどなるほど。ちなみに島津提督や熊井提督関連のお話を聞いても?」
「会見の会場前で島津提督に待ち伏せされて、言い掛かりをつけられて殴られた。その後熊井提督が来て仲裁をしてくれて、鹿児島鎮守府との演習は中止・島津提督が持って来ていた資材は謝罪として受け渡し・後日私が佐世保鎮守府を訪ねて見学、この条件で和解した。」
「お昼ごはんの時に長門さんも言ってましたが、ずいぶんと条件をふっかけましたね。」
「公衆の面前でトラブルを起こされて、北九州鎮守府と私の評判を下げられたのだ。これくらいの要求はさせて貰うさ。」
「んー、まぁそうなんですが・・・司令官が他人からの評判を気にしているのは少し意外でして。ほら、司令官って我が道を行く!!邪魔な奴は排除する!!って感じじゃないですか?」
まぁ、そう考えるのも分からなくはない。だいたいの事は目的の益になるか害になるかで考えている節はあるからな。
「まぁ、否定はしないが私だって無闇矢鱈に敵を作っている訳ではないぞ?それと有象無象が囀る悪評とは違って、佐世保鎮守府との関係悪化という悪評はデメリットが大き過ぎる。それ故に対処しただけだ。」
「なるほどなるほど。なんというか司令官らしいお答えですね。ではいよいよ大本営からの調査が入った件についてお聞きしたいのですが?」
「ただの嫌がらせだから、聞いても気が滅入る話しか出てこないぞ。そんな事を話すくらいなら「今夜の夜戦の事を話したいよね!!」お、おう。」
いきなり満面の笑みで会話に割り込んできたのは、確認するまでもなく川内だ。いや、川内との約束が先約だったので、割り込んでるのは青葉とも言えるが。
「いや〜晩御飯の時に提督と夜戦の話をするって約束だったから探しに来たけど、青葉に衣笠に第六駆逐隊の子達が先に提督と一緒に食事してたからさぁ。」
「すまんな、青葉から呼び止められてな。川内との先約がある事は青葉に伝えたのだが、川内も後で合流すれば良いと言われてな。」
「あはは・・・あっ、川内さんもこちらにどうぞ。先に司令官をお借りしてしまいすみません。」
「良いって良いって♪それよりも私と提督との会議に参加したいって事は一緒に夜戦したいって事でしょ?皆が夜戦演習にやる気になってくれて嬉しいなぁ♪一緒に楽しい夜戦をしようよ♪」
「・・・・・・え?えっと・・・青葉は新聞の編集がですね・・・」
「分かってる分かってる♪だからそんな遠慮しなくて良いって♪今回の夜戦演習は海外艦の人達が初めて実践形式で演習するから、青葉さんも海外艦の人達がどんな戦いをするのか近くで見てみたいんでしょ?」
「・・・青葉、夜戦大好きです!!是非ともご一緒させて下さい!!」
青葉のやつ・・・川内のテンションに引き気味だったくせに、海外艦が戦うところが見れるという餌で簡単に手のひら返したな。
「そうこなくっちゃ♪他の娘達も参加するよね?」
「うーん、衣笠さんも海外艦の人達が気にならないって言ったら嘘になるし。うん、参加させて貰おうかな?」
「もちろん第六駆逐隊も参加するわ!!一人前のレディならいつ戦いに呼ばれても、颯爽と駆け付けるものなのよ!!」
「暁がそう言うなら参加するしかないね。」
「海外艦の人達が初めての実践演習?しかも夜に?きっと心細いわよね?つまり雷に頼ってしまうわよね!!うん、それ良いわね!!」
「あわわ・・・皆が参加するなら電も頑張るのです。」
「良いよ良いよ!!じゃあ後は神通誘って、海外艦の二人でしょ?六対六なら後二人かぁ。夜戦をしたそうな娘は誰かなぁ?」
てっきり川内は夜戦演習のメンバーを決めてから提案しに来たのかと思ったら、その場の勢いでどんどん決めてしまったな。しかも席から立ち上がってキョロキョロしだした。
「ん!?遠くからでもわかるよ♪不知火ちゃんのあの目は夜戦に出たがってる目だね!!お〜い!!不知火ちゃんも一緒に夜戦しようよ!!」
「はっ!!ありがとうございます!!」
「あっ不知火だけズルい!!川内さん私も!!」
「オッケー♪陽炎も参加ね!!提督!!メンバー決まったからこれで夜戦演習して良い!?」
ふむ、川内・神通・ビスマルク・プリンツオイゲン・青葉・衣笠・第六駆逐隊・陽炎・不知火か。戦艦であるビスマルクの火力と装甲が飛び抜けているが、夜戦であれば一概に有利だとも言えないか。人員に関しても適当に選んでいたが、演習ならばやる気があるならそれで構わないか。まだ試行錯誤する時期だから、色々試してみれば良い。
「ああ、そのメンバーで構わない。食事が終わったら演習の準備をすると良い。」
「やったあ!!夜戦だ!!夜戦だぁ!!」
「食事が終わったらな。」
川内は相変わらずだな。普通ならば落ち着きの無い軍人向きな性格では無いと判断するところだが・・・川内はこれくらい騒いでる方が頼もしいかもな。
時雨改三実装おめでとうございます。白露型の中では控えめな胸部装甲だった時雨が、改二・改三と順調に成長してますなぁ。良きかな良きかな。