疑心暗鬼提督のブラック鎮守府再建   作:ライadgj1248

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 金剛姉妹編後編です。というか榛名編?まあ、細かいことは置いておきましょう。


23話

「提督のお兄さん・・・ですか?」

 

「ああ、私には年の離れた兄がいたのだが、兄もまた提督だった。東北地方の小さな鎮守府を運営していて、私も近くに住んでいた。数ある鎮守府の小さな一つを担当した提督だったが、私にとっては深海棲艦と戦う英雄だった・・・今思えば兄は軍人には向かない、心の優しい人だったと思う。」

 

「そんな!心の優しい人が悪い提督なわけないです!!」

 

 思わず榛名が叫んでしまったが、それはきっと間違いなのだろう。そうでなければ、兄が処刑されてしまったことはどうなるのだ?だがそんな議論なんてわざわざするつもりは無い。

 

「・・・そんな兄だからこそ艦娘からは好かれていて、特に戦艦の扶桑とは恋仲だったそうだ。だがまだまだ練度が足りず、ケッコンカッコカリまでは至らなかったらしい。」

 

「それは・・・羨ましいですね・・・」

 

 思いを寄せた提督と結ばれるのは、艦娘の理想なのかも知れないが、現実はそこまで甘くない。

 

「・・・しかし大規模作戦に参加した際に、兄は扶桑を失ってしまった。悲しみに打ちのめされた兄だったが、扶桑が最後に残した言葉に従って、国を守る為に提督として戦い続けた。」

 

「・・・それでどうなったのですか?」

 

「扶桑が沈んでから2ヶ月後、兄の鎮守府は一隻の戦艦ル級に襲撃を受け、壊滅状態に陥った。そして執務室から焼け出された兄の目の前に、戦艦ル級が居たそうなのだが、そのル級は兄が扶桑に贈った首飾りをしていたそうだ。」

 

「そんな!!」

 

「兄は倒れながらも必死に手を伸ばしたそうだが、ル級はしばらく兄を見つめると、鎮守府から去って行ったらしい。そしてそのル級がどうなったのかは分からないそうだ。」

 

 榛名はあまりの衝撃に口を覆って、黙り込んでしまった。艦娘が深海棲艦と化した事実はやはり堪えるのだろう。

 

「そこから兄は艦娘の深海棲艦化について研究し始めたが、そもそも艦娘の研究すら進んでいないのだ。当然研究は難航した為、大本営にも掛け合ったが相手にされず、一人で地道に研究していた。そしてある程度研究が進んだ頃に、兄は国家転覆罪で捕えられ処刑された・・・」

 

「・・・ど、どうしてそんなことに?」

 

「兄は国を守る英雄である艦娘を深海棲艦と同一視し貶めることで、国に混乱を招こうとする大罪人として裁かれたのだ。だが実際には捨て艦戦法で実績を積んできた連中にとって、兄の研究は都合が悪かっただけだろう。」

 

「そんな・・・そんなことが許されるはずありません!!」

 

 榛名にとっては受け止めたくないことなのだろうが、事実として兄は裁かれ、上の連中は今もなお居座り続けている。

 

「それがこの国の司法では許されてしまったのだ。私は絶対に許さないがな。だから私は上の奴らを叩き潰す!!だが国を守ろうとした兄の意思を無駄にしないやり方で、復讐を完遂する必要があるのだ・・・厄介な話さ・・・」

 

 榛名が同情した目で見てくるが、はっきり言って反吐が出る。可哀想だと同情されるためにこんな話をしたのでは無い。これは私の覚悟を示すために打ち明けた話だ。

 

「そして私は口封じを恐れて鎮守府付近から逃げだし、名前を変えて戦争孤児として生きてきた。兄の研究は処分されただろうが、私の頭の中には兄が捕まる前に見せてくれた、研究の成果が残っている。話が長くなったが、これが私が艦娘を沈めたくないもう一つの理由だ。納得出来たか?」

 

「・・・ごめんなさい、まだ考えがまとまりません・・・そんな悲劇が起こっていただなんて。それに深海棲艦化の話も・・・」

 

「まあ、色々重いことを話したからな。受け止めるのにも時間が必要だろう。この件に関してはゆっくり考えてくれ。その代わり他言無用だ、これがどれだけ危険な案件か分かるな?」

 

「それは・・・分かります。その危険な話を榛名に聞かせてくれた覚悟も分かります。・・・だから約束は守ります、信頼にはきちんと応えたいので。」

 

 榛名は真っ直ぐ自分の目を見つめてくる。揺るぎないその視線は、信頼に足るものだったので少し安心した。どうも艦娘達は純粋な者が多いようだ。人間と同様に感情があるのに不思議なものだな。

 

「さて、そろそろ昼食の時間になるし、話を切り上げよう。最後に何か要望などがあれば聞いておこう。」

 

「榛名は・・・皆が笑顔になれる鎮守府にして欲しいです。戦争は辛いことですが、だからこそ帰ってくる場所・・・帰りたいと思える場所が欲しいです。姉妹が皆揃って笑顔でティータイムを楽しむのが、榛名の夢なんです。」

 

「分かった。それで精神面が安定し、より良い戦いが出来るならば、そんな環境が作れるように努力しよう。」

 

「お任せ下さい!勝利を!提督に!」

 

 笑顔で敬礼する榛名にきっちりと返礼し、退室するように促した。金剛達との面談は上手くいかなかったが、榛名だけは信頼を得ることに成功したようだ。




 榛名編とか言いつつも、提督の過去語りのほうがメインになってしまいました。でもどこかで深海棲艦化の話を入れなければいけなかったので、どうかご容赦下さい。

もうすぐ一周年と言う事で久しぶりにアンケートをしたいと思います。この作品のキャラでの人気投票的なやつです。是非ご参加下さい。

  • 主人公葛原提督率いる問題児四天王
  • 大淀
  • 長門・陸奥
  • 第七駆逐隊
  • 川内・神通
  • 明石・夕張・間宮・鳳翔
  • 第六駆逐隊
  • 北上&大井
  • 青葉&衣笠
  • 金剛姉妹
  • 伊19・伊168
  • 赤城&加賀
  • 翔鶴&瑞鶴
  • 白露型姉妹
  • 島風&雪風
  • 天龍&龍田
  • 龍驤・五十鈴・球磨・摩耶・高雄
  • 朝潮・木曾・陽炎・不知火
  • 叢雲ちゃん率いる横須賀艦隊
  • 俺の嫁が出てねぇぞ!!早よ出せや!!

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