会議室に着くと大淀が待っていた。
「提督、大本営の憲兵隊の黒川さんからお電話がありました。折り返しお電話致しますと伝えております。」
「はぁ・・・面倒な奴だな・・・分かった、今から電話する。」
憲兵隊の黒川と言えば、憲兵隊のトップだな。憲兵隊は鎮守府の警備と提督の監査が主な仕事になる。ただし実情は提督達から賄賂を貰い、汚職に加担するような奴等だ。基本的に門番の仕事はしているが、鎮守府の中に入ることは滅多に無く、鎮守府内は半ば治外法権のような状態になってしまっている。これは戦争初期の混乱の中で鶴野提督率いる汚職集団が、提督の人権や権利を主張して、民衆の命を盾にして勝ち取った特権の一部だ。普段憲兵隊は鎮守府内に入れず、大本営の命令があれば鎮守府内の捜査が出来る。しかし警察は現地の提督の許可が無い限り鎮守府内に立ち入りが出来ない。こんな状況で憲兵隊が汚職に加担していれば、提督はやりたい放題だろう。これがこの国に汚職が蔓延ることになった一番の原因だろう。
「では提督、私はこれで失礼します。」
電話の内容はだいたい想像がつくし、少し利用させて貰うか・・・
「待ってくれ、悪いが通話の記録を頼めるか?」
「・・・?ええ、分かりました。」
大淀は一瞬戸惑ったものの素直に録音の準備をしてくれる。さてとりあえず面倒な奴の相手をするか。仕込みもしておきたいところだしな。大本営の憲兵隊に電話をするとすぐに繋がった。
「北九州鎮守府提督の葛原です。黒川さんよりお電話を頂いたとのことでかけ直しました。」
「ふん!上官をここまで待たせるとは何事か!いったい何をしておったのだ!?」
ああ、黒川本人が出たか。相変わらず威張り散らした奴だな。そもそも憲兵隊と提督では直接の上下関係は無かったはずだが、こいつは理解してないのか?この黒川は憲兵隊の中では中立の立場を取っている。大半の憲兵隊員が鶴野提督派と久藤提督派で分かれている中で、中立を保っていると言えば聞こえは良いが、どちらからも賄賂を貰いながら、片方の勢力が強くなりすぎないように調整しているだけだ。そのバランス感覚だけはクズながら見事なものだ。
「前任者の大森提督の汚職調査をしておりました。」
「ほう?それで何が分かったのかね?」
「書類等が軒並み紛失していたので、捜査は難航していますね。艦娘達からの聞き取りで、艦娘達への暴行や性交の強要、客人への性接待の強要、ついでに指揮官としての能力の低さが露呈しました。」
「ほほう?お前は艦娘の言うことなどを鵜呑みにするつもりか?バカバカしい。」
「いえ、今は証言の裏取りを進めているところです。地下の営倉の状態と隠し倉庫にあった拷問器具を見る限り、艦娘達への暴行等があったのは事実だと思われます。」
そう伝えるとしばらく黙ってしまった。隠し倉庫を知らなかったのか、もしくはここまで早くバレるとは思っていなかったのかだろう。
「どうやって隠し倉庫を見つけたのだ?」
「今日平川市長が鎮守府に挨拶に来られまして、隠し通路について教えて下さったので。それと平川市長からは艦娘を買収したとの発言もお聞きしております。」
「ッチ!!他には何かあるのか?」
舌打ちするなら隠してやれよ。とりあえず資金の帳簿の件は黙っておくか。また証拠品として押収して握り潰されても困る。
「汚職調査について主だったことはこれくらいです。引き続き調査を進めます。」
「おう、それで前任者を殺害した犯人は見つかったのか?」
は?こいつは何を言っているのだ?お前達憲兵隊が必死になって捜索したはずの案件だろうが?そんな簡単に見つかると思っているのか?まあいい、仕込みを始めるか。
「その件に関しても調査を進めていますが、まだまだ仮説の段階ですね。正直に言ってかなり難航するかと。」
「ふん、使えん奴め。それで、一応仮説とやらを聞いてやろうじゃないか。」
「私は前任者の大森提督を殺したのは、艦娘でも深海棲艦でもなく人間だと考えております。しかも提督の才能を持つ者です。」
「はぁぁ・・・なんだそれは?執務室の壁の砲撃の跡を見ておらんのか貴様は・・・」
心底馬鹿にしたような感じだが、犯人を見つけられなかったこいつに馬鹿にされるのは腹が立つな。
「ええ、もちろん見ております。ですから大森提督を殺した犯人と壁を砲撃で壊した犯人が別だと言っているのですよ。」
「はぁ!?どういうことだ!?」
「ですから提督の才能を持つ者が大森提督を殺害して、偽装の為に艦娘を使って執務室で砲撃をさせたってことですよ。」
「待て待て待て、事件当日に来客は来ていないのは確認している。そんなことはあり得ない!」
「それは正規の手続きをした者が居ないだけですよね?先程少し話題に出しましたが、隠し通路から侵入したのでしょう。おそらく大森提督と密談する約束でも取り付けたのでしょう。」
「だが大森提督の遺体は粉々だったのだぞ、どうやって殺したと言うのだね!?」
こいつはさっきから人に聞くばかりで少しも考えてないな。それでも憲兵隊のトップなのか?
「殺した手段はこの際どうでも良いですよ、後で火薬を用いて爆破すれば良いだけですので。人を一人爆破するだけならそこまで火薬の量も多くは無いですし、艦娘の砲撃と合わせて爆破すれば音も誤魔化せます。」
「むぅ・・・しかし艦娘達は人間への危害を加えられないのであろう?そんな艦娘に執務室での砲撃などさせられるのか?執務室は提督の権限の象徴みたいな場所だろう?そこへの攻撃は提督自身への攻撃と同意なのでは?」
所詮はただの部屋に過ぎないのに、象徴への攻撃とか言い出し始めたぞ・・・まあ、納得させれば良いだけか。
「まず壊したものは壁だけですし、壁の向こう側は海なので、提督の権限で無理に命令すれば問題無いでしょう。それと提督の象徴への攻撃が可能かと問われましたが、これは可能です。今日調査の為に前任者の石像を壊すように命じましたが、なんの躊躇いもなく実行しました。」
「・・・うーむ。存外馬鹿に出来ない話のようだな・・・分かった、その線で捜索を続けると良い。」
「お言葉ですが、私には他の提督を調査する権限がありませんので、これ以上の捜査は出来ないと思われます。捜査が難航しているのはこれが原因ですので、後の調査は大本営と憲兵隊で行って頂きたい。」
「なるほど・・・明日大本営の方々とも相談してみよう。ご苦労だった。」
そう言うと黒川は電話をガチャリと切った。とりあえず上手くいったようだな。ついついため息が出てしまう。大淀も少し苦笑いしているな。
「お疲れ様です。通話はしっかり録音出来ていますよ。」
「ああ、助かる。」
「それにしても凄いですね。汚職調査の方はお手伝いしたので知っていましたが、前任者殺害の件も、あれほど斬新なお考えをされていただなんて。」
・・・そろそろ頃合いか。
「なあ、大淀。前任者殺害の件なんだが」
「はい、なんですか?」
「お前はこの説が間違っているのを知っているのではないか?」
その瞬間空気が凍った。
ドロドロ展開はまだまだ続くんじゃ!
もうすぐ一周年と言う事で久しぶりにアンケートをしたいと思います。この作品のキャラでの人気投票的なやつです。是非ご参加下さい。
-
主人公葛原提督率いる問題児四天王
-
大淀
-
長門・陸奥
-
第七駆逐隊
-
川内・神通
-
明石・夕張・間宮・鳳翔
-
第六駆逐隊
-
北上&大井
-
青葉&衣笠
-
金剛姉妹
-
伊19・伊168
-
赤城&加賀
-
翔鶴&瑞鶴
-
白露型姉妹
-
島風&雪風
-
天龍&龍田
-
龍驤・五十鈴・球磨・摩耶・高雄
-
朝潮・木曾・陽炎・不知火
-
叢雲ちゃん率いる横須賀艦隊
-
俺の嫁が出てねぇぞ!!早よ出せや!!