食事を終えてから間宮に食器を返却していると、大淀と長門の指示で机や椅子を端に寄せ、全員が整列出来るスペースを確保する。大事な話と言ったからきちんと場を整えてくれたのだろう。間宮も片付けは後回しにして列へと加わり、大淀が全員揃った事を報告してくれる。簡易的に用意された台に登り、こちらも話をする準備が整った。
「総員、提督に敬礼!!」
「諸君、今回話をするのは前任者の汚職調査の件だ。諸君等との面談や私室の調査等から得られた情報を元に、私がさらに調査を進めて決着の目処が立った。まずは諸君等の協力に感謝する。」
艦娘達にとっては想定外だったようで驚いているようだが、それほど動揺は無いようだ。
「しかし最初に伝えておくがこれは決着であって解決では無い。罪を犯した者全てが罰せられる訳では無く、諸君等の中には不満を抱く者が出るだろう。だが私はこの方法が最善だと判断し、準備を整えて交渉した結果だ。この決定は諸君等の意見で変更されない事を予め伝えておく。」
流石に雰囲気が重くなったな。特に天龍なんかは思いっきり睨んでいるが、まだ突っ掛かるのは抑えているようだ。龍田にお説教されたのが効いているのか?
「まず初めに前任者の汚職の罪状だが、全てを上げたらキリがないので、諸君に関係している艦娘の不正使用についてだけ話そう。本来艦娘は軍事目的に使用するもので、鎮守府の運営に関わる事から大きく逸脱した命令をする事は罪に問われるものとなる。これをどれだけの提督が守っているかは考えたくないがな・・・諸君等は客人の接待に使われた者も多いと思うが、当然これは違法行為だ。しかし一番の問題行為は、艦娘を一般人相手に密売していた事だ。これは平川市長を通して販売していたようで、明日平川市長はこの件で捕まる予定だ。そして売られていた艦娘達も明日にこの鎮守府に返還される事になっている。人員は軽空母龍驤、重巡洋艦高雄・衣笠・摩耶・羽黒、軽巡洋艦球磨・五十鈴・神通、駆逐艦朧・漣・潮の計11名だ。」
流石に今回ばかりは動揺が激しいようだ。仲間が売られていた事に憤慨する者、姉妹艦や仲間が帰って来ることを喜ぶ者、駆逐艦の方では泣き崩れた曙の周りで声をかけているようだ。
「提督、質問良いだろうか?」
ざわめきが収まった後に長門が挙手してきた。まあ、当然疑問に思うことは多いだろう。
「ああ、許可する。」
「色々と聞きたい事はあるが、まずはこの鎮守府に売られた仲間が帰って来た場合、どういう処遇になるのかを聞きたい。」
「私としては全員戦線に復帰出来るようにするつもりだ。ただしまだ彼女達の状態を私は確認していないし、彼女達の意思も確認していない。今どうするかを断言は出来ない。」
「了承した。私達も彼女達の復帰を支援させて貰おう。次に提督が初めに言っていた私達が不満を抱く事についてきちんと説明をして頂きたい。」
「明日平川市長が捕まると言ったが、捕まるのは平川市長だけで他の者、つまり平川市長から艦娘を買っていた者達については処分が下されない事だ。それと他の汚職の件について目を瞑る事も条件だ。」
「おい!!それは流石に納得出来ねぇぞ!!」
・・・ついに天龍の抑えが効かなくなったか、まあ、無理もないか・・・
「俺達も散々汚されたけどよ、売られた奴等ってのはもっと惨めな思いをしてたはずだ!!それなのにそんな思いをさせてきた奴等が無罪放免なんて納得出来る訳ねぇだろうが!?」
「その言い分はもっともだな。だが現実はそこまで甘く無い。そもそも上の奴等は腐っているから、まともに捜査して証拠を上げた所で握り潰されるのが目に見えている。そして早急に売られた艦娘達の返還を求めるならば、それ相応の妥協をしなくてはならない。」
「だからって納得出来るかよ!!」
天龍は龍田の制止を振り切って吠えていて、やはり納得は出来るものではないようだな・・・
「気持ちは分からなくはない。しかし天龍、この件を長引かせてしまったら、連中は証拠隠滅の為に売られた艦娘達を別の鎮守府で解体する可能性が出てくるぞ?そうなってしまえば艦娘達が戻って来ないのはもちろんだが、奴等の罪を追及する事も出来なくなる。だから艦娘達の返還を最優先にした結果、こういう決着になった。」
「チッ・・・そうかよ・・・」
ようやく天龍も落ち着いたか。納得は出来ないようだが、仲間の命が最優先だと言われれば、これ以上突っ掛かるのは諦めたか・・・するとまた長門が挙手をした。どうやらまだ質問を続けるようだ。
「天龍が失礼した。それでは提督、なぜ艦娘達の保護を最優先としてくれたのだ?」
「ふむ、戦力増強の為だ。はっきり言うが私は汚職事件や上層部の権力争いには興味が無い。私の現在優先すべき事はこの鎮守府の再建だ。そして現在の鎮守府は巡洋艦や駆逐艦の人数が不足している。もちろん通常ならば建造すべきなのだろうが、資材を消費せずに艦娘を手に入れる事が可能ならば、そちらを選ぶのが道理だろう。」
「・・・つまり売られた艦娘達を助けたいからではなくて、あくまでも鎮守府の運営に必要だからと言うことか・・・」
「ああ、そうだ。感情論で動くとろくなことが無い。だからこれは私が今の鎮守府に利益があると判断した結果だ。」
やはり重苦しい雰囲気が場を支配している。しかしここで感情論で動くことを認めてしまえば、天龍の言い分を通さなくてはおかしくなる。だから艦娘達に悪い印象を与えたとしても譲るべきでは無いだろう。
「・・・承知した。思うところが無い訳では無いが、結果として仲間の命を救う事になるのだ。私は提督の考えを支持しよう。それで私達はどう動けば良い?」
なんとか長門は納得してくれたようだ。まとめ役の長門が感情的にならずに判断してくれるのはとても助かる。
「基本的には何もしなくて良い。むしろ現状を壊さない為にも何もするな。明日の朝から私はこの件で外出するので、留守を大淀と長門の二人に預ける事になる。だからその間哨戒任務と緊急時の対応を任せる事になる。後は帰って来た艦娘達を迎え入れるだけで構わない。」
「承知した。護衛は誰か連れて行かないのだろうか?」
ふむ・・・護衛か・・・正直に言って人間相手だと艦娘の護衛は頼りない。人間に攻撃出来ない性質上、盾として振る舞う事は出来るが相手への抑止力にはなり得ない。だが居ないよりはマシではあるか・・・人選は交渉について何も言わない者に限るな。
「そうだな・・・一人連れて行こう。人選については明日の朝に指示を出す。連絡要員としても必要だからな。他に聞きたい事がある者はいるか?・・・居ないようならば話は以上だ。では解散。」
「総員、提督に敬礼!!」
いつもの長門の号令で話は終わった。私が食堂を出ると、背後からざわめきが聞こえて来る。艦娘達にも当然思うところがあるだろう。願わくば明日の朝までに折り合いをつけて欲しいものだ。
以上提督のお話回でした。今回は久し振りに甘く無い提督だったと思います。その代わり情報はかなり開示する事で、艦娘達の理解を求めた形でしょうか。今日はもう寝るだけのはず・・・
―追記―
Ifシリーズのほうで夕立Ifを更新しました。
もうすぐ一周年と言う事で久しぶりにアンケートをしたいと思います。この作品のキャラでの人気投票的なやつです。是非ご参加下さい。
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主人公葛原提督率いる問題児四天王
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大淀
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長門・陸奥
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第七駆逐隊
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川内・神通
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明石・夕張・間宮・鳳翔
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第六駆逐隊
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北上&大井
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青葉&衣笠
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金剛姉妹
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伊19・伊168
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赤城&加賀
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翔鶴&瑞鶴
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白露型姉妹
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島風&雪風
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天龍&龍田
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龍驤・五十鈴・球磨・摩耶・高雄
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朝潮・木曾・陽炎・不知火
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叢雲ちゃん率いる横須賀艦隊
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俺の嫁が出てねぇぞ!!早よ出せや!!