疑心暗鬼提督のブラック鎮守府再建   作:ライadgj1248

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 後は寝るだけだと言ったな。あれは嘘だ。


56話(面談 天龍・龍田)

 会議室に戻るとすぐに大淀が今日の演習の結果を持って来てくれた。大淀に今日の業務はこれで終わりだと伝えて、退室させてから資料に目を通していく。練度の差もあるかも知れないが、やはり精神状態で大きな差が出ているようだ。戦艦だと長門や陸奥の成績が良く、続いて大和と榛名、そして榛名以外の金剛姉妹は大きく差が開いてしまっていて、特に砲撃精度が問題だろう。空母も一航戦と五航戦での差が大きく、今後の運用に影響が出そうだ。しかし戦艦組も空母組も航行能力の低さが課題だ。直線的な航行はともかく、障害物を置くと航行能力がかなり落ちる。駆逐艦達を盾にする戦法の弊害だな。重巡洋艦の三人はまずまずの成績で、練度の割には頑張ったのが感じられる。龍田と川内もまずまずの成績だが、練度に差があるはずなのに同じくらいか・・・やはり川内は夜戦じゃないと調子が出ないか・・・駆逐艦は島風・雪風が飛び抜けていて、夕立がなんとか食らい付いている印象だ。吹雪・睦月・如月の3人も気になるところだが、やはり曙の成績は酷いものだ。姉妹艦が帰ってくれば少しは持ち直すだろうか?潜水艦の二人の成績もあまり良くはないが、練度の低さを考慮すればそれ相応と言ったところだな。とりあえず問題点の洗い出しが出来たので、成果としては十分だろう。

 

 コンコンコン

 

「あー、天龍だ。龍田も居る。」

 

「入れ。」

 

 入室を許可すると、不機嫌そうな天龍と少し緊張した龍田が入って来た。さっきの件の続きだろうか?

 

「何の用だ?先程の件ならば最初にも言ったが、お前達の意見で決定は変えないぞ?」

 

「チッ・・・まあ、その話は後だ。先に哨戒任務の報告をしてなかったからな。そっちを先に済ませるぜ。」

 

「そう言えば報告がまだだったな。一応大淀から敵影無しと聞いていたが?」

 

「ああ、敵艦は見当たらなかった。・・・俺から言わせたら気に入らねぇけどな。」

 

 はぁ・・・活躍の場が欲しいタイプか。戦果を上げる事に前向きなのは良いが、敵が居ない事でイラついているのはあまり良くないな。いつもいつも戦闘があるわけでは無いし、こういうタイプは無茶な攻勢を仕掛けそうで怖いものだ。

 

「はぁ・・・哨戒任務も立派な仕事だ。何も無いならそれで良いのだが・・・」

 

「いや、そういう事じゃなくてな!なんと言うかよぉ・・・大概大きな戦闘があった後は、残党なりはぐれが寄って来たりするもんなんだよ。それが全く無いのが気に食わないんだよ。」

 

 ・・・なるほど。今回はきっちり殲滅したはずだから残党は無いと思うが、深海棲艦は戦闘があった場所に惹かれる性質があるのでは?という話があったな。はっきりとした根拠の無い話だが、大規模な戦闘の後には掃討戦をするのが通例となっている。まあ、今回に関しては姫級どころか鬼級も居ない小規模な群れだったので、考え過ぎと言えばそれまでなのだが・・・

 

「懸念があるなら早めに警戒しておくべきか。龍田、川内を呼び出してくれるか?」

 

「あ、はい・・・すぐ来るみたいよ。」

 

「分かった。」

 

「チッ・・・はっきりとした根拠のある話じゃねぇのに、こういうところでは俺達の意見を聞くんだな・・・」

 

「現場での事と上の奴等とのやり取りを一緒にするな。それにこういう懸念は早めに潰すに限る。何も無いならばそれで良い。何も無い事を確認出来るのだからな。」

 

 天龍はしばらくこちらを睨んでいたが、ため息を吐いてやれやれと首を振る。

 

「今度の提督はよく分かんねぇ奴だよ。人の気持ちを考えないクソ野郎かと思えば、俺達の生活環境整えたり、駆逐艦達を潰す戦法を使わないと言うし、独断で強硬な態度を取ったかと思えば、些細な意見も聞き入れるとかどうなってんだよ?」

 

「はぁ・・・それが必要だと判断すれば実行するだけだ。合理的に判断しリスクを極力回避する。上に立つ者はそうあるべきだと私は思うが?」

 

「チッ・・・これだから「提督!夜戦するの!?夜戦だよね!?夜戦しよう!!」

 

 天龍の言葉はハイテンションで会議室に入って来た川内によって遮られた。苦虫を潰したような表情の天龍と満面の笑みの川内、そして苦笑している龍田。漂っていた重い空気をぶち壊して夜戦!夜戦!と騒ぐのは流石夜戦バカと言われるだけの事はある。

 

「天龍、悪いが話は後だ。川内には急で悪いが夜間哨戒を頼みたい。場所は昨日戦闘があった場所の方向で、さらに奥を調べて欲しい。ただしあくまでも偵察だから、交戦するような事が無いようにして欲しい。」

 

「ええー哨戒だけかぁ・・・まあ、夜の海に出られるなら良いけどさぁ。」

 

「そう言うな。本来なら偵察機が使えない夜間の哨戒はリスクが大きいから避けるべきだが、川内の隠密性と感覚を信頼して派遣するのだ。それで人員は誰が必要だと思う?」

 

「そういう事なら良いけど。う~ん、見付かったらダメなら一人で行ったほうが良いかな?それなら敵の気配を感じたらすぐに逃げられるし。」

 

 一人か・・・もしもの時はリスクが高いが、その代わり敵に見つかる可能性は大きく下がるだろう。ここは川内に任せるか。

 

「・・・分かった。ただし絶対に交戦は避けるように。良いな?」

 

「うん、任せて!じゃあ行ってくるね!」

 

 会議室に入って来た時ほどではなくても、ご機嫌な様子で会議室を出て行った。

 

「なんだよ、ずいぶんと川内を信頼してるみたいじゃねぇか。」

 

「前任者の時代に夜戦を一任されていた経緯とその戦果、そして先日の夜戦での活躍を見れば信頼出来る。だが信頼しているのは夜戦の能力だけだからな?例えばもし川内が今回の艦娘を返却させる話に口を出したとしても、私はその意見を聞き入れないだろう。他の艦娘もそうだ。それぞれの仕事を信頼していても、別の分野について同様に信頼しているわけではない。そこは間違えるなよ?」

 

「分かった分かった。今度の提督はずいぶんと疑い深いのは良く分かったよ!前のクソ野郎よりは絶対に良いけど、面倒な奴だぜまったく・・・」

 

「天龍ちゃん?一応黙って聞いていたけれど、あんまり口が悪いとまた言い聞かせないとダメなのかなぁ~?」

 

「ちょ、良いだろこれくらい。提督も怒ったなら警告してくるだろ!」

 

「それって怒られない限り何しても良いって事かなぁ?そんな事して逆鱗に触れたらどうするつもりなのかなぁ?私を心配させないでっていつも言ってるのに、どうしてちゃんと聞いてくれないのかなぁ?」

 

「ひぃ!」

 

 さっきまで威勢の良かった天龍だが、龍田に詰め寄られてびびっている。というか笑顔なのに目が笑ってないのは普通に怖いか・・・

 

「ここまで話をしたんだ、このまま面談って形にしたい。龍田は何か要望とか伝えておきたい事とかあるか?」

 

「え?私ですかぁ?そうねぇ・・・さっきの話へのお返しじゃないけれど、私は提督さんを信頼してませんからね?お仕事に関してはちゃんとしてくれてるみたいだけど、それ以外に関してはいつ豹変するか分からないものねぇ。だから提督さんが私達を見ているみたいに、私達も提督さんを見てる事を忘れないで欲しいわぁ。」

 

 なるほど、これは肝に銘じておくべき事だな。笑顔を絶やさずにこういう事を言えるとは、やはり根は天龍に負けず劣らず好戦的なのだろうか?

 

「ああ、覚えておこう。少なくとも仕事に関して信頼されているならば今は十分だ。今後も宜しく頼む。」

 

「はぁ~い、宜しくお願いしますねぇ。」

 

「天龍はまだ何かあるか?」

 

 そう尋ねると少しだけ考え込んでいたが、意を決したように顔を上げた。

 

「俺は軍艦として、艦娘として誇り高く生きていたい。だから前の提督みたいなクソ野郎の元で働くのは苦痛だった。あいつは俺達の誇りを散々に汚しやがった。だから提督には人の気持ちを、俺達の艦娘としての誇りを理解して欲しい。そうすればどんな過酷な戦場にだって立ち向かってやる。それで沈むなら本望だ!俺達はそれくらいの覚悟を持っている事は知ってくれ。」

 

「・・・誇りか、なかなか難しい話だな。生憎私は人間の指揮官でお前達は現場で戦う艦娘だ。物を見ている目線が違う。」

 

 そう伝えると天龍が悔しそうに歯ぎしりをしている。

 

「だからこそ・・・だからこそ声をあげろ。気に食わない事があるなら主張しろ、言葉にしろ。そうでなければ伝わる事はあり得ない。もちろん私にも意思があり主義主張があるし、時には対立もするだろう。軍隊である以上お前達の意思に反する命令を下さなくてはならない時もあるだろう。それでも、誇りを大切にしたいなら主張する事を諦めないで欲しい。そうでなければ私にはお前達を理解する事は出来ない。」

 

「そうかよ・・・なら今後も遠慮なく言わせて貰うぜ。だから提督、今後も宜しくな。」

 

「ああ、宜しく頼む。」

 

 天龍がつき出して来た拳に拳を合わせる。これも天龍なりの流儀なのだろう。ずいぶんと男らしい流儀だな。

 

「じゃあ俺達はもう行くぜ、またな提督。」

 

「提督さん、おやすみなさぁ~い。」

 

「ああ、お休み。」

 

 天龍と龍田を見送って一息ついてから、寝室代わりの応接室へと向かう。それにしても誇りか。私はその存在を知ってはいるが、私は誇りを持っているのだろうか?自分の目的の為に利益になるかどうかでしか判断出来ない自分に、誇りなどといった上等なものが理解出来るようになるのだろうか?そもそも復讐者に誇りなんてものが必要なのだろうか?

 

 

 だが天龍の生き方は眩しく感じたな・・・




 もうしばらく重めの話が続く予定です。息抜きにIfのほうも宜しくお願いします。作者もたまには明るい話を書いて息抜きしております。

もうすぐ一周年と言う事で久しぶりにアンケートをしたいと思います。この作品のキャラでの人気投票的なやつです。是非ご参加下さい。

  • 主人公葛原提督率いる問題児四天王
  • 大淀
  • 長門・陸奥
  • 第七駆逐隊
  • 川内・神通
  • 明石・夕張・間宮・鳳翔
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  • 青葉&衣笠
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  • 伊19・伊168
  • 赤城&加賀
  • 翔鶴&瑞鶴
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  • 天龍&龍田
  • 龍驤・五十鈴・球磨・摩耶・高雄
  • 朝潮・木曾・陽炎・不知火
  • 叢雲ちゃん率いる横須賀艦隊
  • 俺の嫁が出てねぇぞ!!早よ出せや!!

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