「春雨・・・なのか?」
見た目はもちろんだが、口調もまとう雰囲気もガラッと変わった事に違和感を感じる。別人と言われた方が納得出来るくらいだ。普段のおどおどした雰囲気は無くなり、代わりに笑みを浮かべているが、その微笑みからは温かさを一切感じない。
「どうかなぁ?普段の春雨じゃないけど、私も春雨の一部っていうか?深海棲艦になり損なった春雨っていうのが正しいかなぁ?」
「・・・深海棲艦のなり損ないだと?つまり春雨の深海棲艦に汚染された部分って事か?」
「まあその認識で間違えでは無いかもねぇ?私にもよく分からないんだけど。でもこうなった原因はあなた達人間よ?ずいぶんと酷い扱いを受けたものよ?この子が悪感情に染まるのも無理無いわ。」
「ああ、前任者の大森提督から酷い扱いを受けていたそうだからな・・・人間を恨むのも仕方あるまい・・・」
そう言うと春雨は笑みを深くして目が妖しく輝いた気がした。
「他人事みたいに言うのね?恨んでいる人間の中には提督も含まれるのよ?私の深海棲艦としての本能が人を殺せ、提督を殺せって囁くの。」
春雨はこちらに近づいて甘えるように、媚びるように身体を寄せると、そっと首筋を撫でてくる。それはきっといつでも殺せるぞと言う警告であり、獲物をいたぶって遊ぶようなものだろう。嫌な汗が流れていくのを感じる。
「ならばどうして私を助けた?人間が憎いなら見殺しにすれば良かったのではないか?」
「さぁね?それは春雨がやったことだもの。私はその背中を押しただけ。だから私には関係無いわね。」
「だがお前も春雨なんだろ?」
「・・・そうね。私が完全に別人格なら問答無用で殺してるかもね?」
春雨は自分からそっと離れて顔を伏せる。その表情は先程までの余裕の笑みではなく、戸惑いを隠せないような感じだ。
「つまりまだ殺す気は無いと言うことか・・・ならばまずは先程は助かった、礼を言う。」
「だからそれは春雨が!!・・・いや、もういいわ。それでどうするつもり?」
「えらく曖昧な質問だな。まずは春雨について詳しく知りたい。」
「春雨なら心を閉ざしているわよ?人を殺したのが余程ショックだったみたいね。」
「そちらも心配だが、今一番気になっているのは、今話している春雨だ。お前の事をもっと知りたい。」
そう言うと春雨はそっぽを向いて少し距離を取った。それから半目でこちらを睨んだ後にため息を吐く。
「ああもう・・・同じ春雨だと紛らわしいのよ。そうねぇ・・・私は春雨の抱いた悪感情の象徴みたいな存在だし、悪雨って呼んでくれるかしら?」
「分かった。便宜上そう呼ぶとしよう。なら改めて言うが、私は悪雨の存在について詳しく知りたい。なぜ生まれ、どういう思考をして、何を求めているのか?私に協力して貰えるのか?その代価として何を求めるのか?聞きたい事は山程ある。」
「ちょっとちょっと!そんなに一度に聞かれても答えられないわよ!!って言うか何?私に協力を求めるつもりでいるの!?」
「悪雨が春雨の一部ならば、交渉の余地はあると思っているが?」
「バカじゃないの!?なり損ないとは言え私は深海棲艦よ!!いつ本能に従って提督を殺すか分からない存在よ!?それをどうして手元に置こうなんて発想になるのよ!?」
悪雨が胸ぐらを掴んで叫んでくるが、その行動に殺意は感じない。ならば十分に交渉の余地はあるだろう。
「はっきり言って今の悪雨は貴重な存在だぞ?たとえ半端な状態であったとしても、理性的で会話が可能な深海棲艦なんてどれ程の希少価値があると思っているんだ?艦娘以上に謎が多い深海棲艦の事を理解するチャンスだ。それに艦娘についても同時に理解を深める事が出来るだろう。その事は提督をやる上で大きなメリットだ。リスクを犯して交渉する価値は十分にある。それに敵対しようとするなら今すぐ殺そうとするのだろう?」
「そ、それは・・・私はそんな・・・」
胸ぐらを掴んでいた手から力が抜けていく。少しは落ち着いて話せるのだろうか?
「では逆に聞こうか?悪雨はどうするつもりだったんだ?私を殺してこの鎮守府を去り、深海棲艦として生きるか?それとも春雨としてここで生きるか?」
「そんなの・・・そんなのここで生きたいに決まってる!!私だって春雨よ!!お姉ちゃん達と幸せに暮らしたい!!暗い海の底で暮らしたくなんか無い!!深海棲艦として皆を沈めるなんてしたくない!!そんな事したら・・・そんな事したら私を庇ってくれた村雨姉さんになんて言えば良いのよ!?沈んでしまった他の姉妹にどの面下げて詫びれば良いのよ!?私を助けようとしてくれたお姉ちゃん達に・・・何を・・・言えば・・・」
激情に任せて叫ぶ春雨がついには涙をこぼし始めた。最初に見せた冷酷な雰囲気は消え失せて、そこにはどうして良いか分からずに、震えて泣きじゃくる子供がいた。
「ならばこの鎮守府に居られる方法を考えるとしよう。悪雨にここに残る意思があるならば、私はそれを歓迎しよう。この鎮守府の最高責任者が腹をくくったのだ。後は方法を考えるだけだ。」
そう伝えると悪雨は抱き着いてきて、大声で泣き始めた。余程不安だったのだろう。姉妹との幸せを諦めていたのだろう。その不安に耐えるのはこの小さな身体と未熟な心では辛かったのだろう。何故かは分からないが泣きじゃくる悪雨が落ち着くまで、優しく頭を撫でていた。
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悪雨を撫でていると、次第に髪の色が綺麗なピンク色に戻っていき、泣き声もだんだんと落ち着いていった。髪の色が戻ってしばらくすると、自分から離れて俯いていた。顔色もかなり良くなっているようで、むしろ赤いくらいだ。
「春雨に戻ったのか?」
「えっと、そう・・・ですね、はい。」
「悪雨はどうしたんだ?」
「その・・・今は顔を合わせられないそうです、はい。」
「そうか・・・まだまだ聞きたい事があったのだがな。」
そう言うとこちらを真っ直ぐと見つめてくる。
「あ、あの!その悪雨ちゃんから伝えたいことがあって、その、私の身体の事ですけど、悪雨ちゃんの影響で艦娘としてのリミッターが外れてるから気を付けろって、はい。」
「リミッター?」
「えっと、本来艦娘は人を傷つけられないようになってて、それが深海棲艦の影響で壊れてしまったらしくて・・・それに艤装をつけて無い状態でも、艤装をつけている時に近い出力が出てしまうから、力の使い方に気を付けろって言ってます、はい。」
艦娘を制限するリミッターか・・・何故そんなものが存在するのかは分からないが、艦娘が人を傷つけられない原因はここにあったか。今までは艦娘自身の倫理観というのが一般的な解釈だったが、そんな説明よりは余程納得がいく話だ。それと出力の方も、普通なら提督が艤装の使用を許可することで、艦娘達が本来の力を発揮出来ていたのが、リミッターが壊れて常時使えるようになったと考えるべきか。ただし艤装を付けて無いので砲撃や雷撃が行えない状態だろうか?
「分かった、私も気を付けるが一番気を付けるべきなのは春雨だ。使い方を間違えないようにな?それと今日は私の命を救ってくれてありがとう。改めて言うが今回の件は命令した私に責任がある。だから春雨が必要以上に気に病む事はないし、この件で春雨が責められる事が無いように私が配慮しよう。」
「ありがとう・・・ございます。私を受け入れてくれて、悪雨ちゃんを受け入れてくれてありがとうございます、はい。」
「私には私の都合があるだけだ、気にするな。では悪いが私は事後処理をしなくてはならない。大淀を呼んでくれるか?春雨は入渠で少し落ち着いたら、そのまま部屋へ戻って構わない。」
「わ、分かりました。・・・大淀さんはすぐ来るそうです。では提督、お休みなさい、はい。」
「ああ、お休み。」
さてと、夜は遅いがきっちり事後処理をしなくてはならないな・・・
以上悪雨ちゃん回でした。悪雨ちゃんはまだ情緒不安定なので、今後どんなキャラになるのかは未知数です。そして提督もキャラぶれしてしまいましたが悔いは無い!!
もうすぐ一周年と言う事で久しぶりにアンケートをしたいと思います。この作品のキャラでの人気投票的なやつです。是非ご参加下さい。
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主人公葛原提督率いる問題児四天王
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大淀
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長門・陸奥
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第七駆逐隊
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川内・神通
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明石・夕張・間宮・鳳翔
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第六駆逐隊
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北上&大井
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青葉&衣笠
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金剛姉妹
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伊19・伊168
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赤城&加賀
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翔鶴&瑞鶴
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白露型姉妹
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島風&雪風
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天龍&龍田
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龍驤・五十鈴・球磨・摩耶・高雄
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朝潮・木曾・陽炎・不知火
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叢雲ちゃん率いる横須賀艦隊
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俺の嫁が出てねぇぞ!!早よ出せや!!