3階に上がり修理が終わったという執務室の扉を開く。壁に空いた大穴や散乱した瓦礫も消え去って、まるで新築のような部屋へと生まれ変わったようだ。残骸となっていた机も新しい物が用意されており、大きな机の上には通信機も設置してある。これならば艦娘達を呼び出すのに便利だ。後は書類を保管する本棚と、備品を置く為の棚があるだけのシンプルな作りだ。仕事をする場所ならばやはりシンプルにまとまっている環境の方が良いので、この執務室は自分の好みに合っている。執務室の出来上がりに満足したので、今度は隣の私室を確認しておこう。廊下に出て私室の前に来ると、きちんと扉が二つに増えている。中に入るとこちらもシンプルな作りになっていた。ベッドと洋服棚と机と椅子、最低限必要なものが揃っている感じだな。無駄な装飾等は全て消え去って、すっきりとした感じで、あとは窓にカーテンが必要なくらいだろう。部屋の奥の扉を開けるとトイレと小さな風呂場があるのも助かる。隣の部屋も同じ作りで客室としては十分だな。これは妖精さんにまた金平糖を持って行くべきかな?そう考えながら執務室に戻ると大淀が少し慌てた様子で入って来た。
「提督、外部の方からの面会希望がいくつか来ております。新聞社の方が一人と、新しい市長候補を名乗る方が3人です。」
平川市長が消えたのは今朝の事なのになかなか動きが早いな。新聞社に市長逮捕の件を探られるのは嫌だが、無視をすると憶測をまるで事実のように書き始めるから困ったものだな。とりあえず出せる情報だけ出して満足して貰うか。市長候補も一目会っておきたいところだ。市長を選ぶのは市民による選挙なのだが、鎮守府の影響力がかなり大きいものだ。ここ10年深海棲艦とは拮抗状態が続いているものの、脅威が消え去った訳ではない。もし仮に街を豊かに発展させてくれる市長が居たとしても、深海棲艦の襲撃を受けてしまえば瓦礫の山となる。さらにその時に行政と鎮守府の仲が悪く連携が取れていなかった場合、避難勧告の発令が遅れて多くの命が奪われる危険もある。なので市長選挙においてその地域の提督の支持は大きな意味を持つ事になる。ならばこの北九州鎮守府の提督として、どの市長候補が一番良いか見極める必要がある。
「そうだな・・・まだ晩飯まで時間はあるし、新聞社の対応だけ初めにしておくか。彼らは情報の鮮度を優先するだろうから、こちらがすぐに会えると言えば飛んで来るだろう。市長候補達とは明日に会おう。午前中に一人と午後に二人、時間の調整を頼めるか?」
「分かりました。連絡しておきます。」
――――――――――――――――――
それから30分もしないうちに、新聞社の人が来たとの報告を受けたので、大淀に応接室まで案内して貰った。報告を受けてからなかなか来ないので少し不安になったが、大方あちこち興味を持って大淀を困らせているのだろう。軍の施設なので許可無く写真撮影は禁止だし、艦娘相手に取材するのも禁止しているのだが・・・
コンコンコン
「失礼します。新聞社の方をお連れ致しました。」
「入れ。」
大淀に連れられて入って来たのは、小柄のかなり若い女性で驚いた。ショートカットで茶色の帽子を被り、首からカメラを引っ提げており、好奇心旺盛そうな目は青葉を連想させる。しかし快活そうな印象とは異なりゆっくり歩いて入室するのも意外だ。というかこの歩き方は・・・おそらく片足が義足だな。これならばここまで来るのに時間がかかるのも仕方ないな。
「いや~お待たせしてすみません。仙崎情報社の仙崎まどかと申します。この度は取材を受けて下さりありがとうございます。」
「北九州鎮守府の葛原です。宜しくお願いします。えっと、仙崎情報社ですか?申し訳ありませんが聞いたことの無い名前ですね。」
「あはは、地域密着型の新しい会社ですから、ご存知無いのも無理は無いですよ。今回は大手の新聞社がごたついている隙に、ダメ元でお願いしてみたら許可を頂けたので、とてもありがたいことですよ!!」
そう言われれば新聞社の方としか聞いていなかったな・・・勝手に大手の新聞社が来たと勘違いしたのはこちらの落ち度だな。
「ほう?大手の新聞社がごたついていると?」
「それはまあ・・・大手の方は前任者の提督や市長を称賛するような記事を書いていたのですが、今回の事件がありましたので・・・」
なるほど、大森提督や平川市長と癒着していたのに、汚職で逮捕されたなんてなれば混乱もするか。
「なるほど、それで仙崎さんが来られたと。会社の名前からして社長を務められているのですか?」
「いえ、会社を立ち上げたのは夫で、私は取材と記事を書くのが仕事です。なので経営は夫に任せてます。って私が取材されちゃってますよ!」
「これは失礼しました。それで本日のご用件はなんでしょうか?生憎ここは軍事施設ですので、お答え出来ない事も多いのですが。」
「ええ、それは勿論承知しております。ですので答えられない事には答えられないとはっきり言って頂けると助かります。まずは鎮守府への着任おめでとうございます。士官学校での成績が優秀で在学中にいきなり提督に抜擢されたとのことですが、着任されてみてどのように感じましたか?」
まずは無難な質問からと言ったところか。
「突然の配属で驚いてはいますが、私も提督の一人です。国防を担う人間として、それ相応の覚悟を持って職務を全うするつもりです。」
「これは頼もしいお言葉ですね。私達が安心して暮らせるように、是非とも頑張って頂きたいですね。それでは、その、前任の大森提督が亡くなられた件に関しては、どうお考えですか?」
さっそく切り込んで来たが、質問も恐る恐ると言った感じだし、まだ取材に慣れていないのだろうか?
「申し訳ないですがそれは軍事機密です。軍の発表以外の事をお伝えする事は出来ません。平川市長の件に関しても同様です。」
「う・・・分かりました。それでは新しい市長候補についてはどうでしょうか?」
最初から無理だと思っていたのか、すぐに引き下がったな。ベテランの記者ならなんだかんだ言いながら、情報を引き出そうとして来そうなものだが・・・
「先程市長候補の方から面会の申し入れはありましたが、まだお会いしていないのでなんとも言えないですね。」
「えっと、候補者は副市長を務めていた源さんと、最近議員になった若手の東雲さん、あと再建部門を担当していた綾瀬さんの3人ですね。皆さんと面会されるおつもりですか?」
「ええ、明日お会いするつもりです。宜しければ明日の夕方頃に来て頂ければ、話せる事もあると思いますが?」
「良いんですか!?是非とも取材させて頂きたいです!!」
そう伝えると物凄く嬉しそうで、尻尾をぶんぶん振る犬のような食い付き方だ。はっきり言ってここまで扱い易い新聞社の人間を使わない手は無い。一般人向けにある程度情報を発信する必要があるのなら、やり易いに越した事はない。
「ええ、お待ちしております。ただしここは軍事施設ですので、有事の際はそちらの対応を優先する事はご了承下さい。」
「ありがとうございます。ええ、勿論です。お仕事の邪魔をするのはこちらとしても避けたいですから。あ、質問の続きですが、葛原提督にとって艦娘とはどういう存在ですか?」
「艦娘は艦娘でしかないと言うのが私の持論なのですが・・・分かりやすく言うならば軍人が一番近いですね。艦娘自身に意思や感情がありますが、国防を担う軍人として戦う必要がありますので。」
「えっと、では葛原提督は人権派になるのでしょうか?」
「それは違いますね。人権派は艦娘に甘過ぎると思っていますから。しかし過激派のように使い潰すつもりもありません。私は私の判断で最善だと思える運用をするだけです。」
「な、なるほど。では最後に市民の方々へ一言頂けますか?」
市民に向けて一言か・・・正直なところ邪魔さえしなければ興味は無いのだが、面倒事を減らす為にも無闇に反感を買う必要は無いな。
「私は提督としての職務をきちんと務めるだけです。民間の方にもご協力頂く事もあるかと思いますので、その時は宜しくお願いします。」
「ありがとうございました。また明日の夕方にお伺い致しますので、その時はまた宜しくお願いします。」
「ええ、今後とも良い関係を築いていきたいものです。大淀、仙崎さんを送ってくれ。」
「はい、ではこちらへ。」
これでとりあえず新聞社の対応は良いだろう。思ったよりも楽な対応で済んで助かった。
今回登場した仙崎まどかを始め、オリキャラ達にはモチーフとなるキャラが居たりします。怒られない程度に使っていければなぁと思ってます。
もうすぐ一周年と言う事で久しぶりにアンケートをしたいと思います。この作品のキャラでの人気投票的なやつです。是非ご参加下さい。
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主人公葛原提督率いる問題児四天王
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大淀
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長門・陸奥
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第七駆逐隊
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川内・神通
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明石・夕張・間宮・鳳翔
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第六駆逐隊
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北上&大井
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青葉&衣笠
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金剛姉妹
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伊19・伊168
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赤城&加賀
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翔鶴&瑞鶴
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白露型姉妹
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島風&雪風
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天龍&龍田
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龍驤・五十鈴・球磨・摩耶・高雄
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朝潮・木曾・陽炎・不知火
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叢雲ちゃん率いる横須賀艦隊
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俺の嫁が出てねぇぞ!!早よ出せや!!