深淵へと交わるオカリナの旋律   作:龍羽

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馬車を乗り違えてしまいました。橋が落ちたので戻れません。


3, 農村  < エンゲーブ >

 

 

 

 

 

「着いたよ   ここがエンゲーブだ」

 

 がたん、と音がして、辻馬車が止まった。

「キムラスカへ行くなら、ここから南へ下ってカイツールの検問所を目指すといい」

「ありがとうございます」

 最後に馬車から降りたティアが礼を言う。

 先に降りたルークはすっかり硬くなった体を伸ばしながら、さっきから珍しそうに目を輝かせて音譜帯を見上げるリンクを見た。

 

   あんなもん、いつでも見えるじゃねーか。変な奴。

 

「そうだ、そっちの兄ちゃん。ワールドマップがほしいんだったな」

 御者は自分の荷物の中から、幾重にも折りたたまれ手紙ほどの大きさになった紙を取り出してリンクに手渡した。

「いいんですか?」

 馬車の中で地図を求めたのは確かだが、「これ一枚しかない」と言われて諦めていたのだ。

「そっちの娘さんに代金としてもらったペンダントもあるからね   グランコクマまで行く分を差し引いたって安いもんだ。 ちっと古いが、あんたにやるよ」

「ありがとう!」

 リンクは御者の手を握ってブンブンと力強く上下させた。元気いっぱいである。つられて御者も大きな声で笑った。

「じゃ、 道中気をつけてなぁ!」

 御者が手綱を握り、辻馬車が出発する。リンクはその馬車に向かってしばらく手を振り続けるのだった。

 

「検問所か   旅券がいるわね 困ったな・・・」

「平気だろ ファブレ公爵家の息子だって言えば、通してくれるって」

 ルークが軽く流す。何の問題もない、と言わんばかりだ。

「そんなことより、おれ 町に出るの初めてなんだよな   ちょっと探検していこうぜ!」

 そうしてうきうきと露店の並ぶ村の一角を指す。

「探検はともかく、ここからカイツールへ行くなら準備は必要だわ。今日はここに宿をとって、出発は明日にしましょう」

「おう! それでいい 良い」

 おざなりな態度に辟易しながら、ティアはリンクの方へ振り返った。

「リンクはどうする?」

 彼はさっきもらったばかりの地図を広げていた   のだが。何やら難しい顔をしている。

 

 じっと地図を睨んだまま、こちらに気づいてないみたいだった。「リンク?」と、もう一度呼ぶと、彼ははじかれたように大きな声で返事をした。

「な、なに?」

 続く言葉は一転して小さい。ガサガサと地図をたたみながら、やや引きつった笑顔を見せる。

 聞いていないなんて意外だ。

「私たち今日は、この村で一泊しようと思ってるの   あなたはどうする? すぐにチーグルの森へ発つ?」

 道中、仲間とはぐれたようなことも言っていた。その仲間は森にいるかもしれないとも。装備も心許ないみたいだったし   きっと彼も、この村で休んでいくだろう。

 リンクは少しだけ目を泳がせたあと空を仰いだ。「うーん」と何やら考えた後で首を振った。

「いや、装備もととのえておきたいから   ちょっと村を見てまわろうかな。もらった地図もじっくり見たいし」

 案の定、ここで装備を整えていくつもりらしい。

 ならばちょうど良い。

「なら、今日は私たちと一緒に宿を取らない? 人数は多いほうがいいでしょう?」

「うん ・・・いいよ?」

 それは、少し首をかしげた返事だった。

 間があったことは気になるものの、同意してくれたことに胸をなでおろす。

 

 図々しいかもしれないが、本当はもう少し   ルークの剣を見つくろう時に助言がほしかったのだ。

 バチカルまでの道中、きっとまた魔物と遭遇する機会もあるだろう。この先もルークと共闘するにあたって、木刀ではない、ちゃんとした武器が必要になる。

 しかしティアは音律士<クルーナー>。剣のことは今ひとつ知識がない。

 対するリンクは初めて会ったあの時、大勢の魔物に囲またあの状況でその有無を問うた   剣さえあれば、あの場を切り抜ける自信があったのだ。ならばきっと自分より詳しいかもしれない。

「決まりね」

「おっし、じゃあ行こうぜ!」

 やりとりの間ずっとそわそわしていたルークが、うきうきと歩き出してしまった。

 

   仕方ない。相談は後まわしね。

 

 そのこどものような姿にため息をついて後に続く。

 無意識に頰が緩んでいたことに、当の本人である彼女はついぞ気づかなかった。

 

 もちろんその顔色を伺っていた者に目撃されていたことにも。

 

 

 

 

   * * *

 

 

 

 

 村の入り口から大きな通りを進んで幾許もせずに、賑やかな場所にたどり着いた。

 道の両脇には、台の上にところ狭しと並べられた箱があり、その中にも野菜や果物などがぎっしりと詰まっている。それは品物の種類を変えながら奥の方まで続いていた。そしてそれぞれのテントの下には並べられたものの取引をする人。品物を並べる人。となり同士、もしくは通りがかりを交えて立ち話する者   それはとても賑やかな市場だった。

 

「ヘェ なんかにぎやかなところだなぁ」

 ルークはぐるりと露天を見渡しながら、そんな感想を述べる。視線の先に色つやも鮮やかな赤いリンゴの山が映った。

「オレ、こんなににぎやかなのは久しぶりに見   ルーク!?」

 リンクが急に大声を出して、市場を見ていたティアも何事かと視線をうつし   目に入った状況に一瞬、意識が追いつかなかった。

 ルークは手にとったりんごを一かじりした後だった   代金を支払うことなく。

「おい あんちゃん! お金!!」

 店の主らしき男が声を荒げて通りに出てくる。

「カネ?」

「りんごのお金だよ! 食べるなら先にお金を払わなきゃ!」

 リンクがもう一口かじろうとしたルークの腕を掴んで二口目を阻止する。

 だが、当のルークはなぜそんなことを言われているのかさっぱり見当もつかないといった顔をした。

「おれが払うのか? なんで?」

「何でって・・・」

 その反応に咄嗟に返すことができず、リンクの目が戸惑いにゆれる。

「当たり前でしょう! お店のものを勝手にとったら駄目なのよ」

 リンクに変わってティアが叱った。

「大丈夫だろ あとで屋敷の方でまとめて支払ってくれるって」

 そう言ってりんごを持ち替え、もう一口かじろうとして再び腕を掴んで阻止され、うっとうしそうにリンクをにらむ。

「おい待て、この餓鬼!」

 3人のやりとりに、初めはあっけにとられていた店主も、ついに怒鳴りだした。

「払わねぇなら警備兵につき出すぞ!」

「払わねえとは言ってねーだろ!」

 条件反射のようにルークがどなり返し、向かって行こうとする。

「ちょ、ちょっと待って ルーク!   ティア、がるど! がるど 持ってない!?」

 もがいて離れようとするルークの腕を離さないように、それでいて店主との間に入りながらしながらリンクが助けを求めてきた。

 その光景にティアは頭を抱える。

 

   貴族ってみんなこうなの?

 

 愚痴の代わりにため息をついて前に出た。

「すみませんでした   あの、おいくらですか?」

 店主はまだむすっとしながらも値段を教えてくれた。財布からガルドを出して支払いをする。

 

「へえ、それがガルドだったんだ」

 そのやりとりを見ていたリンクは、自分の腰に据えられた小さなカバンから布袋を取り出した。さっきまでやってたルークとの押し合いはいつの間にかおわっている。

「あの森の魔物倒してたら出てきて、とりあえずもらっておいたんだけど   ティア、教えてくれない?」

 開いた袋の中には、本当に同じ場所にいたのかというほどの金額のガルドが入っていた。残念ながら辻馬車に乗れた分、とまではいかなかったが   ここで何かの買い物をしたり、宿をとったりする分には足りる量。

 ティアは、どれがどのくらいの価値があるのかをふたりに教えた。ふたりとも飲み込みが早くて説明はほどなく終わる。リンクはどうかわからないが、ルークはこんなワガママなふるまいをしていても、やっぱり公爵家の人間なのだと、ほんの少しだが伺えた。

 

「じゃあおじさん、りんごあと3個ください」

 ガルドの価値を教わったリンクは、それで事も無げに買い物をすませる。

「ほら、ルーク」

 そうして買い取ったりんごを受け取ると、紙袋からひとつ取り出してルークに差し出した。

「もうそんな気分じゃねーよ!」

 ルークがそっぽを向く。

 リンクは肩をすくめ、行き場を失ったりんごをそのまま自分の口に運んだ。シャクッ、といい音がする。

「おいしい!」

 一口食べて目を輝かせた。

「これなら、お金を払うのも忘れてかぶりつきたくなるかもね」

 残りも食べながら、リンクが笑う。

 

   そりゃそうだろう。

 

 と、ルークも思った。彼が食べたりんごも、蜜がたっぷり入っていて甘く、瑞々しくてとてもうまかったから。きっとあれだって同じようにうまいにちがいない。

「そうだろ? 今年のは特に出来が良いんだよ!   そら!」

 リンクがおいしそうに食べる姿に機嫌を良くしたのか、店主が1個 彼に投げてよこした。片手に荷物を抱えながら、器用にキャッチする。

「褒めてくれた礼だ。 まいど!」

「ありがとう!」

 やりとりを眺めていたルークは、自分の時とはえらい変わりようだと思い、舌打ちする。

 

   ゲンキンなおっさん。たかがりんごひとつ 褒めただけじゃねーか。

 

 おもしろくない。

 

「あの、迷惑ついでに教えてほしいのですが、宿屋はありますか?」

「ああ、それならそっちの道をまっすぐ行って、橋の手前にあるよ」

 もうすっかり機嫌を直した店主が、奥の建物のひとつを指した。村の建物は、どれも土を固めたような壁に、乾燥した植物を幾重にも重ねて緩やかな曲線の形に仕上げたものばかりだったが   なるほど、その建物はまわりのものよりも大きい。

 店主に礼を言って3人は歩き出した。

 

 

「それにしても」

 道を歩きながらティアが口を開く。ちなみに「ティアもいる?」とりんごを勧められたが、宿に着いてからと言ってその場は断っている。

「貴方が買い物の仕方を知ってるとは思わなかったわ」

 視線の先はリンクだ。馬車に乗る時、『ガルドを知らない』と言った青年が、買い物の仕方を知っている。一体どういう環境で育てば、そんなちぐはぐなことになるのだろう。

「そうかな   オレはルークが買い物知らなかった方がびっくりしたけどなー」

 リンクが隣を歩くルークをからかう。ルークは軽く舌打ちしてふて腐れた。

「うるせーな・・・仕方ねーだろ!軟禁されてたんだ、おれは   買い物の仕方なんて知るか!」

「だからと言って断りもせずに手をつけるのはどうかと思うわ」

 ティアはそれを冷静にたしなめ、リンクがクスクス笑った。

「実は、オレも故郷を出てすぐのころに同じことやらかして、ナビィに怒られたことあってさ」

「「は?」」

 

 思いがけない暴露にふたりの声が揃った。

 やらかした、とはなんだ。理解が追いつかない。

 

「その時は偶然居合わせたヒトに助けてもらったけど   さっきのルーク見てて『こんな事もあったなー』って、ちょっと思い出した   てっきり普通のヒトは、買い物って当たり前のことだと思ってたんだけど、そうでもないんだな?」

「そんなわけないでしょう」

「そっかー」

 

 ルークはリンクをじっと見た。道の脇にいる獣を珍しそうに眺めながら歩く彼。

 音譜帯、譜石、そしてガルド。

 普通なら知っているはずのことを知らないリンク。

 

   ひょっとしたら、自分と同じ   

 

 意を決して声をかけた。

「なあ、 ひょっとしてお前ももどっかに軟禁されてたのか?」

「なんきん?」

 どうやら軟禁という言葉を知らないらしい。がっくりと肩を落とす。

「お前、本当に何なんだよ・・・」

 

 胸の奥にちくっとトゲが刺さったような感覚には気づかないふりをした。

 

 

 やがて店主に教えられたとおり、広い通りに出た。まだ遠いが橋も見える。その手前には、小道の先に大きな建物。軒先に宿屋を示す図柄の描かれた看板が下げられている   あれが目的の建物だろう。

 だが様子がおかしい。建物の前の小道に、人だかりができている。これでは通れない。

 

「あの、すみません。 何があったんですか?」

「ああ、あんた旅の人かい」

 ティアが声をかけると、何人かこちらに振り返った。少しだけ眉をひそめたが、ティアの制服を見て警戒をゆるめてくれた。

「実は、食料庫の中身がごっそりと失くなっちまってね   ここんとこ多いんだよ」

「やっぱり、北の方で火事があってからじゃねえか、増えたの」

「誰かに盗まれたんだよ、きっと」

「やっぱり憲兵に言った方が良いかねぇ」

「軍は今 それどころじゃないだろう   ここは、俺たちがやんないと」

 ひとりが話し出したのを皮切りに、この場に集まった村人たちが口々に声を上げていく。そうして最近聞いたばかりの名前が聞こえてきた。

「『漆黒の翼』って事もあるぞ」

「ああ、最近この辺りをうろついてるらしいって言うからな・・・」

 

 『漆黒の翼』   ルークは記憶をたぐる。

 どこで聞いたんだったか   そうだ、辻馬車。巨大な艦が追いかけって行って、橋を落として逃げた馬車が『漆黒の翼』。

 

「なんだ?『漆黒の翼』って奴らは、食い物なんか盗むのかよ」

 すると村人たちの視線が一気に鋭くなり、ギロリといっせいにルークを睨みつけた。

「食い物なんかとは何だ坊主。この村では、食料は何よりも価値のあるものなんだぞ」

 じっとりと、空気が重くなる。これ以上下手なことを言ったら、ただではすまない。普通なら誰もが次の句を慎重に選ぶだろう。

「何セコイこと言ってんの   取られたらまた買えば良いじゃん!」

 ルークは雰囲気に気づかず、へらへらと笑った。

 

   食料が価値あるものだって?何言ってんだこいつら。

 

「てめぇ・・・ 俺たちが一年、どれだけ苦労して畑 耕してきたと思ってんだ」

 今にも噴火しそうな空気である。ティアはそっと距離をとった。

 

   とんだ怖いもの知らずだわ。

 

 ティアがよけた場所に村人が割り込み、村人がルークを取り囲む。

 

 

「おーい、また盗みがあったんだって?」

 来た道からさっきの店主がやって来た。集団の中にルークを見つけ、彼と目があう。ティアの背筋にひやりと汗が流れた   これは いけない。

「あ! 坊主てめえ   俺んとこで懲りたと思ったのにまた何かやらかしやがったのか!?」

 店主のひとことが起爆剤だった。

 

ぎらっ

 

「まさか、この坊主が倉庫を荒らして   ?」

「ありえるぞ。犯人は現場に戻るというしな」

 今度こそ仇を見るような目をルークに向けた。

 未だその場に佇むリンクをそっと引き寄せる。「ティア?」とよくわかってなさそうな声が聞こえたが無視した。

「おれが泥棒だっていうのかよ!?」

 ルークは村人の疑いの声に腹をたてる。

「俺んところではりんごを盗もうとしただろうが!」

「何!?」

「ちゃんと払ったじゃねーか!」

「おい、こいつ役人に突き出してやろうぜ!」

「それがいい! ふん縛っちまえ!」

「ちょっ、 誤解だって言ってんだろ!」

 村人の剣幕に、気づけば彼は腰に差した木刀に手をのばしていた。触れた指先にドクン、と心臓が跳ねる。

 

   人を、 斬る のか?

 

 そのわずかな逡巡のうちに村人が木刀にのびかけたルークの左腕をひねり上げ、彼はほとんど抵抗しないまま取り押さえられてしまった。

 

「このまま捕まった方がルークのためかしら・・・」

 安全圏から一部始終眺めたティア。物を盗めばどうなるか、身を以て知る良い機会だと思ったのだ。隣に立つリンクに「どう思う?」と訊ねると、ルークの様子を引きつった顔で眺める彼の姿。

「リンク、どうしたの?」

「ああ・・・」

 ティアが声をかけると、苦笑いで話し始めた。

「買い物の仕方知らなかった話ししただろ?」

 少し唐突で彼女は首をかしげる。

「もしあの時、ナビィと助けてくれたヒトがいなかったら、オレもあんな風になってたのかなあって・・・」

 リンクが遠い目をする。

 どうやら彼にとっても『良い機会』となってしまったようだった。

 

 その顔をじっと見つめる。そして、ふと思い出した。

「ねえ、そのナビィって人、貴方とどんな関係なの?」

 そう、彼のはぐれた仲間   『ナビィ』。

 無知だったという彼を、どうやってここまで矯正させるに至ったのか。できれば今すぐにでも探し出し、今後ルークとどう接していけばいいか、その手腕 ぜひ教えてほしい。

「んー そうだな・・・たよれる相棒?   いろんなこと知ってるから、わからないことは何でも聞いてたし」

 

   前に聞いた時は、ふわふわしてるって言ってた気がするけど・・・

 

 リンクの言う『ナビィ』なる人物像に、疑惑は深まるだけだったという。

 

 

 

 

   * * *

 

 

 

 

「おれは やってねぇって言ってるだろ!」

 

 村でひときわ大きな建物に連れて来られてほどなく。ついにルークが爆発した。ティアの見ている前で、彼を取り押さえていた村人たちの手はあっけなく振り払われ、バタバタと倒れる。腐ってもローレライ教団主席総長の剣の弟子と言うことかと、納得とともにやれやれと溜息をついた。

 

「まあまあ 皆さん、落ち着いてください」

 奥にいた青い軍服の男がルークたちのいるところへ歩いて来た。

「まずは彼の言い分を聞こうではありませんか」

 軍人の男はそう言ってメガネを押し上げた。真っ青に染められたマルクトの軍服を身にまとった背の高い男。髪はブロンドで、背に届くほどの長さだった。

 

「何だよ、あんたは」

 ルークが男を睨む。彼の声をどこかで聞いた覚えがある気がした。

「私はマルクト帝国軍第三師団所属、ジェイド・カーティス大佐です   貴方は?」

 やんわりと微笑みをたたえてはいるが、どこか恐ろしい雰囲気を持つ人だ。かけているメガネがキラリと光る。

「おれはルーク!   ルーク・フォン   

「ルーク!」

 ティアはとっさにルークの口を塞ぎ、軍服の男   カーティス大佐から引き離した。何事だ、という周囲の視線に気づかないふりをし、ルークにだけ聞こえるように声を絞る   これで他の人にはもちろん、リンクにも聞こえないはずだ。彼には悪いが、今はそれどころではない。

 

「うかつに名乗らないで。貴方のお父様、ファブレ公爵は、ここでは最大の仇のひとりなのよ?」

「え、そうなのか?」

 ルークが驚く。本当に何も知らなかったらしい。

「ここは敵国なの   無駄な争いは避けなくちゃ」

 ようやく彼が息を飲むのを確認する。少し注意しただけだが、ちゃんとわかってくれたようで胸をなでおろした。

「どうかなさいましたか?」

 ふたりの様子をしばらく見ていたのだろう、カーティス大佐がこちらを促す。

「ここは私にまかせて」

 ルークにそう言い聞かせてカーティス大佐に向きなおった。

 

「失礼しました、カーティス大佐。彼はルーク。私はティア。ケセドニアに行く途中、辻馬車を乗り間違えてここまで来ました。そして   

 そこで彼女はリンクを紹介することに躊躇した。

 

 彼と会ったのは森の中。今更だが、マルクト領で出会ったことを考えれば、マルクト人かもしれない。彼の朗らかな雰囲気で忘れかけていたが、もしかしたら警戒すべき相手なのではないか。

 さっきはそれで彼からも距離をとった   だが、そうでなければ?

 ここまで馬車で一緒に来たときの彼が頭をよぎる。あの時の態度がすべて演技だとは思えなかった。もしかしたら、とんだ迷惑に巻き込んでしまうかもしれない。

 

「オレはリンク。ちょっとこのあたりの森に用があってここまで来ました   ふたりとはここに来るまでの馬車で知り合ったんです」

 しかし、ティアの一連の悩みは杞憂におわる。

 

   口裏を合わせた? なぜ?

 

「おや、 では貴方がたも漆黒の翼と疑われているこの彼の仲間ですか?」

「私たちは漆黒の翼ではありません」

 カーティス大佐が反応したので我に返り、すぐに否定する。

 状況は悪くない。詮索も止そう   今はここを切り抜けられればいいのだから。

「本物は マルクト軍が橋の向こうへ追い詰めていたはずですが?」

 瞳をそらさず、意地の悪い鎌かけに真正面から対峙した。人の悪そうな微笑みが目の前で作られる。

「ああ なるほど、貴方たちが先ほどの馬車に乗っていたのですね」

 納得しました、とカーティス大佐が頷いた。

「大佐、どういうことですかい?」

 赤茶色の髪に白いバンダナをかぶせた、恰幅のいい女性が彼に声をかける。最初にこの建物に連れて来られた時に、村長と呼ばれていた、ローズという女性だ。

「ああ、失礼」

 カーティス大佐はメガネを直すと、この場にいる皆に聞かせるように答えた。

「ティアさんの言う通り、確かに漆黒の翼らしき盗賊は、先ほどキムラスカ方面へ逃走しました   彼らは間違いなく漆黒の翼ではありませんよ。私が保証します」

 村人たちはそれでもまだ納得しかねる様子だった。まだ疑われていることに、ルークは苛立つ。

 

「それに食料泥棒でもないようですよ」

 その空気を変えたのは、入り口から響く少年の澄んだ声だった。

 

「イオン様」

 カーティス大佐が少年を呼ぶ。ルークが振り向くと、入口を埋めていたはずの人垣は左右に分かれ、そこに音叉を象った錫杖を携えた、一見少女にも見まごうほどの儚げな少年が立っていた。

 濃い深緑色の髪を後ろは短く、顔の両側だけ胸元まで伸ばしたものを左右でそれぞれまとめ、白を基調とした薄緑色の文様の法衣を着ている。片方の手は何かを握っているのか、閉じられている。

 

「少々気になったので、倉庫を調べさせていただきました   部屋の隅にこんなものが落ちていましたよ」

 イオン様、と呼ばれたその少年は、ローズのもとへ進み出て、持っていたものを手渡した。片方がほんのりと色が変わった短い毛のようだった。

「こいつは   聖獣チーグルの抜け毛?」

 手渡されたものをかざして、ローズが呟く。イオンが頷いた。

「少々考えにくいことではありますが、おそらくチーグルが倉庫を荒らしたのでしょう」

 すかさずルークが声を上げた。

「ほらみろ! おれじゃねぇって言ったじゃねーか!」

「すまん。騒ぎが続いてたもんで、気が立ってたんだ」

 申し訳なさそうに頭をさげる村人たち。ルークはそんな彼らを冷めた目でにらんだ。

 今更そんな態度を作ったって無駄だ。どう落とし前をつけさせてやろうか。

 

 しかしここで、思いっきり体重をかけて腕を回してくる不敬な輩がひとり   リンクだ。

「でも、店のものを勝手にとったのは本当だろ?」

「そうね   疑われるような行動をとったことは事実だわ」

 畳み掛けるようにティアまでリンクの肩を持ってしまった。

 

「仕方ねえだろ!金払うなんて知らなかったんだから!」

「ならこれでおあいこだな」

 リンクがいたずらっぽく笑う。

   村のヒトたちは、チーグルってやつが犯人だなんて知らなかったんだから」

「ちぇっ」

 

パン、パン、パンッ

 

「さあ、 疑いも腫れたところで   解散 解散!」

 とてもいいタイミングで小気味よく手を叩く音に、この場にいる者たちの意識が集まる   ローズだ。

「私はこの大佐と大事な話があるんだ。さっさと帰っとくれ!」

 

 場を取り仕切る手腕はさすがのもので、カーティス大佐とイオンを除くすべての者たちは、あれよあれよという間に建物の外へと追い出され   最後にルークが出たところで、ぱったりと締め出されたのだった。

 茫然とする3人をよそに、村人たちは慣れているのか、ぞろぞろとその場を去っていく。

「けっ」

 やがてルークが苛立ちを隠しもせずに頭の後ろに手を回し、歩き出した。続いてため息をつきながらティアが、少し遅れてリンクがついていく。

 

 そして村長の建物がある広場を抜けて、橋を渡っているときだった。

 

 

「ティアとルークって、ここの人たちとは敵、なのか?」

 リンクが遠慮がちに聞いてきたのは。

 

「貴方、聞こえてたの?」

 ティアが目を丸くして足を止める。

 あの時ティアは、ルークだけに聞こえるように極限まで声を落としていた。彼女が思っていたより声が大きかったのだろうか   いや、リンクとの間には村人が何人かいた。もし聞こえていたら騒ぎになったはず。

「うん? ナイショ話、なんだよな?   ずっと黙ってた方がいいんだろ?」

 リンクが首をかしげる。

 

 これまでの行動から、裏表のない人物だとは思う。おそらく彼に害はない   でもこれが演技だとしたら? 寝込みを襲われるのではないか。さっきは助かったが、彼には彼の思惑があって動いているのでは?   真意がわからない。

 頭の中でぐるぐると思考をめぐらせ、ティアの表情が厳しいものになる。

 

「何やってんだよ」

 ルークから声をかけられた。顔を上げると彼はすでにさっき疑いをかけられた宿の前に着いてこちらを待っていた。いつの間にか距離がずいぶん離れている。

 

「さっき騒ぎを起こすなって言ったのお前だろ? 黙ってるって言ってんだからいーじゃねーか。いいからさっさと宿に入ろうぜ」

「うん 今行く!」

 リンクが手を振って応え、そして声を落とす。

「ティアが何を心配してるのか知らないけど   少なくともふたりと一緒にいる間は、オレはずっと味方だから」

 じっと見つめてくる空色の瞳と目が合った。

「それだけは、約束する」

 そう言って彼はルークに駆け寄った。「なにやってんだよ」とぼやくルークに「ごめん ごめん」と明るく返すのを眺め、彼女は詰めていた息を吐いて歩き出した。

 

 もう とんだお人好しと、世間知らずだ。ピリピリと気を揉んでいるこちらがバカみたいではないか。

 ティアが追いつくのを待って、先頭のルークが宿屋の扉に手をかけようとしたとき   

 

バタン!

 

 勢いよく扉が開き、中から小柄な人物が飛び出してきた。思いもよらないことに、ルークは避けそこない、鳩尾に近い部分に相手の頭らしきものが当たって変な声が出た。

 

「ごめんなさいです〜 人を探して急いでたものですから」

 ぶつかってきた人物は、すぐにルークから飛び退いて謝る。

 豊かな黒髪をツインテールにして束ねた少女だった。短い丈のピンク色のワンピースに、黒いラインが特徴的な白い布を肩にかけ、背中にはとても可愛いとは言い難い不気味   いや不思議な顔をした人形を背負っていた。

「もぉ〜〜 困ったなぁ。イオン様ったらどこ行っちゃったんだろぉ?」

 なんとなく語尾を甘く間延びさせた感じの口調なのはさておき、焦っているようだった。

 

「イオン様って   さっきいたやつのことじゃねーか?」

 どこかで聞いた気がして、ルークは後ろを振り向く。

「本当ですかぁ!? どこで見たんですか!?」

 途端に少女が迫ってきた。気圧されてのけぞってしまう。

「たしか、この先の『ローズさん』っていうヒトのところで会った人、 だったっけ?」

 リンクがティアに同意を求めるように答えた。「ええ」とティアが頷くと同時に、少女が今度はリンクに飛びついた。

「本当ですかぁ!? ありがとうございますぅ〜〜!」

 少女は彼と力一杯握手を交わし、あっという間に走り去ってしまった。風のような素早さである。

「なんだありゃ・・・」

「くふふふ」

 呆れるルークの隣で、クスクス笑い出したリンクをひと睨みしてやる   わかりやすく目をそらされた。

 

「彼女はまさか導師守護役(フォンマスターガーディアン)・・・? やっぱりさっきのは導師イオンかしら」

 ティアは少女が去っていった方角を見つめながらつぶやく。

「導師イオンって   

 

 その言葉を聞いたことがある気がして、ルークは記憶を掘り起こした。

 最近聞いた気がする。屋敷を出る前   そう、たしかヴァン師匠(せんせい)がらみで   思い出した・・・!

「あいつが 『導師』!? マジかよ、行方不明って聞いてるぞ   それで師匠(せんせい)、しばらく屋敷に来れねーって!」

 ルークがこの世で最も尊敬する、ヴァン師匠(せんせい)がしばらく屋敷に来られなくなると言っていた理由だ。絶対に忘れられない。

 

「初耳だわ。 どういうこと?   誘拐されているようでもなかったし・・・」

 村長のところであったことを思い出す。村の問題に進んで道を示す姿   誘拐されているならば、あんな風に自由に行動していられるはずがない。

 だが、ついさっき駆けて行った少女   導師守護役(フォンマスターガーディアン)。彼女がついているなら話は違ってくる。

「もしかしたら教団公認の極秘扱いの旅、ということも考えられるわ   今の女の子、導師守護役(フォンマスターガーディアン)だったみたいだし」

「『ふぉんますたーがーでぃあん』って?」

 リンクが首をかしげた。

 

   こういうことは 知らないのね。

 

「ローレライ教団、最高指導者 導師イオンの親衛隊よ。ご公務の際には必ず同行するの」

 知っていることがちぐはぐな青年に答える。彼の隣で不機嫌に眉をしかめる世間知らずは置いておいた。

「へえ、 オレくらいの年頃でも、えらいヒトを守る役職に就けるんだ」

 

   ときどき妙に引っかかる言いまわしなのは、どうしてなのかしら。

 

「なあ、それよりなんで導師がこんなところにいるのか、突き止めなくていいのかよ!ヴァン師匠(せんせい)も探してんだろ?」

 ルークが今にも走り出しそうだった。ヴァンがらみだと彼は見境がない気がする。

 さっき何と言って追い出されたのか、もう忘れたのだろうか。

「突き止めるにしても、今は大事なお話の途中だと思うわ。その話は、明日出直して聞いてみましょう」

 さっさと宿に足を向けると、リンクがついてくるのが、横目に見えた。

 リンクほどとは言わない。せめてもう少し、ほんの少しだけでいいから、ルークも素直であってほしいとティアは思う。

 

「ちぇ、 なんだよ!」

 扉を開く彼女の背に、ルークの悪態がかすかに届いた。

 

 

 

 

   * * *

 

 

 

 

 陽もすっかり落ちた夜。

 村の宿屋の一室で、ティアはようやく一息ついた。

 

 長い1日だった。目の前の鏡に映った自分が若干やつれて見えるのは気のせいだと思いたい。

「明日はカイツールの検問所に向かいましょう。橋が落ちた状態では、キムラスカへ戻ることはできないわ」

 それでも頭の中におおよその地図を思い浮かべながら、今後の予定を立てる。

 

 明日はまず、旅の支度をしなくてはならない。今後のことも考えて、ルークの武器の調達も   剣を選ぶ話は、無事にリンクの了承を得られた。

 それから宿代。泥棒疑惑のお詫びだと言われ、宿屋の主の好意で無料で泊まれることになった。これは素直にありがたい。嬉しい誤算だった。

 

「問題は 旅券をどうするか、だけど   ルーク?」

 ルークは部屋の窓から外を見ていた。トン、トン、トン、と足を鳴らし、腕を組んで   傍目に見て明らかに苛立っていた。

 

「だぁ   !! やっぱり腹の虫が治らねぇ〜〜」

 そしてついに怒り爆発。ガリガリと髪を掻きむしる。

 

「まだ怒ってるの?」

 今日は本当に何度ため息をついただろうか。

 彼は昼間 泥棒呼ばわりされたことをまだ根に持っていたらしかった。何も知らないワガママおぼっちゃまも、ここまでくれば感心する。

「おい、お前! 『チーグル』って知ってるか!?」

 びしっ、という音が聞こえそうな勢いで、彼はティアを指差してきた。

 

「始祖ユリアと並んで、ローレライ教団の象徴となっている草食の獣よ。東ルグニカ平野北部   ちょうどこの村の北あたりに生息していると言われているわ」

「じゃあ、『チーグルの森』ってそこのことを言ってるのか?」

 やれやれと答えると、今度はリンクからも質問が飛んでくる。

 

 彼はベッドの上であぐらをかき、目の前に御者からもらったワールドマップを広げていた。組まれている腕からはすでに防具が外され、枕元のサイドテーブルに畳まれた三角帽子とともに置かれている。帽子の下は、少しクセのある短い髪だった。

「ええ、マップに書いてあるでしょ?」

「明日おれもそこに行くぞ!」

 ルークが高らかに宣言した。

「ええ!? 貴方、キムラスカへ帰るんじゃ   

「おやすみ!」

 ティアが声を上げるも虚しく、ルークはっさっさと自分に当てがわれたベッドに入ってしまった。

 

「もう・・・」

 ため息が出る。

 ルークと会ってからずっとだ。

 これがキムラスカの屋敷に送り届けるまで続くのかと思うと先が思いやられる。

 何だかどっと疲れが湧いてきて、彼女もまた自分のベッドに入った。

 

 だからさっきリンクの質問を答えた時に当人がしどろもどろになったのも

 

「やっぱり ちがう・・・」

 

 リンクがそんな風にひとりごちるのも、彼女の記憶に留まることはなかったのである。

 

 

 

 

   * * *

 

 

 

 

 翌朝   

 ティアはもうすでに本日何度目かのあくびをした。

 

「ティア、眠れなかったのか?」

 そこにリンクがティアをの顔を覗き込んできた。少し飛び上がったのには気づかれていないことを願う。

 このこどもっぽさ   今の彼女には心臓に悪かった。

「ルークはしっかり眠れてたみたいだけど」

 リンクはそう言ってルークの方を向く。ルークは武器屋に並ぶ剣を見ていた。

「き、今日のこと 色々考えてたら、寝付けなかったのよ!」

 うっかり声を裏返してしまったが、首を傾げつつも「そっか?」と納得してくれたようで、ルークの元へ戻っていく。

 それを見送って、ふぅ  っと、長く息を吐いた。

 なんだか顔が熱い気がする   もしかしたら赤くなっているかもしれない。

 

 リンクの言うとおり、昨日は少し・・・そう、あくまで『少しだけ』眠れなかったのだ。

 原因は、今 のんきに剣を選んでいる『ふたり』。

 

 最初は寝返りを打って、ふと目を開けた時だった。

 月明かりがちょうど差し込んで、キラキラと浮かび上がっていたのはルークの寝顔だった。昼間は散々ワガママ放題のルークも、こうしてすやすやと眠る姿は年相応   いや、とても幼く見えて、不覚にもかわいいと思ってしまったのがいけなかった。それを認識した彼女は、何だかとても悔しい気分になった。

 だからこれ以上見ないように反対側へと寝返りを打ち   そして再び失敗する。今度はリンクの寝顔が目に入ってしまったのだ。

 起きている時の言動からはなかなか気づかなかったが、彼は意外と整った顔をしていた。それが今、さらに幼げな寝顔をさらしている。

 それはもう寝るどころではなくなってしまうほどに   要はふたりの寝顔がかわいかったのである。

 もちろん今日のことを考えていたのもあった。だがそれ以上に、偶然目に入ったものに心を奪われたんだから仕方がなかったのだ。

 かわいいは悪くない。

 

 彼女はかわいいものに目がなかった。

 

 最終的には当人が眠っているのをいいことに、ルークの顔をしばらく覗き込んだ   彼に気付かれるまで。

 なので最終的に彼女が眠ったのは、空が薄ぼんやりと変わり始めたころだった。

 

 

「これなんかいーんじゃねーか?」

 ルークの声で我に返る。声の方を見れば彼は、露天に並べられた剣のうちひとつを手に取ってみせていた。彼が手に取ったそれは装飾が派手についていて、あまり詳しくはないティアでも見て楽しむためのもの   観賞用だとわかるほどだった。

 

   いけない、今はふたりが変なものを買わないか見てなくちゃ。

 

 ティアは気を取り直してふたりの側に並ぶ。

 昨夜の件で今、ティアの中のふたりはすっかり『とても幼い子』になっていた。

 

「う〜〜ん、 あんまり丈夫そうには見えないなぁ   魔物と戦ったらすぐに折れそうだよ?」

 リンクが無事に却下するのを聞いて、胸をなでおろす。

「んだよ。 さっきからお前そればっかじゃねーか   じゃあお前が選んでみろよ!」

 ついにルークが拗ねた。

 無理もない。彼はさっきから選ぶ剣という剣をリンクに却下され続けていた。これだけ何度もダメ出しされ続けば、少しはどれが使えるものか分かりそうなほどに。

 

 リンクは苦笑しつつ、並べられた武器をざっと見渡す。そうして一番端の方にあった一振りを手に取った。

店主に一言断りを入れて、彼が剣を抜く。

手に取ったのはカトラスだった   幅広の片刃の剣で、左利き用。

「これなら良いんじゃないか?」

 それを構えたり、刃をじっと見たりして具合を確かめ、ストン、と鞘に戻してルークに差し出した。

「え〜〜? だって地味じゃねーか」

「そうか? この中では一番ルークに合ってそうだと思ったんだけど」

 文句を言うルークだったが、リンクの言うとおりだとティアも思えた。

 

 確かに華美な装飾の武器もある。けれどそれらはたいてい観賞向きか、一癖のある特徴を乗せられた上級者向きで、これから実戦で剣を振ろうとしている今の経験の浅いルークには向かない。

 それにこのカトラスは左利き用だ   最初に握手を求めたときに気付いたが、リンクはルークと同じ左利き。

 偶然とはいえ、リンクはこれ以上ない相談相手だった。

 最終的にティアもリンクの意見に賛成したことで、ルークは渋々ながら勧められた剣を使ってくれることになった。

 

「貴方は選ばなくていいの?」

 ルークの剣が無事に決まって、リンクに尋ねる。

 さっき見せてもらった剣の構え方や選び方を見ても、やっぱり扱いに慣れているようにみえた。幼い言動や知識はともかく、彼も前衛にいてくれるならありがたい。

 まだ彼が戦う姿をしっかり見てはいないが、ルークよりは経験がありそうだ   良い刺激になると思った。

 

「そういや お前、落としたって言ってたよな 剣」

 代金を支払って早速、ルークは剣を腰に提げ、具合を確かめていた。しっかり定まったのか、「おしっ」と満足げだ。さっきまでは嫌そうにしていたが、何はともあれ本物の剣を持てて機嫌を持ち直してくれていた。

「うん、だからひょっとして売られてないかなと思ったんだけど」

 リンクは店に並ぶ武器を名残惜しそうにもう一度見渡して、あらためて肩を落とす。

   やっぱり売られてないみたいだし、いいよ」

 そう言って彼は矢束と予備の鉉をいくつか見繕った。包んでもらっている間、彼は「それにさ」としゃがんだままルークを振り仰いだ。

「ルークと一緒にいるんなら、しばらくは弓を使うっていうのも悪くないかなって   だから 頼りにしてるぞ?」

「お、おう! あったりまえだろ!」

 コテン、と首を傾げられて、ルークは顔が熱くなるのを感じ、慌てて目をそらした。視界から追い出した先で、リンクのこらえきれなかった含み笑いが聞こえてくる。

 

 ティアもつられて微笑んだ。

 彼がいる間は賑やかな旅になりそうだ。

 

 たとえこれがチーグルの森へ行くまでの短い間だとしても   

 

 

 こうして3人はさらに旅に必要な物資をいくつか買い、エンゲーブの北   チーグルの棲む森を目指して出発した。

 

 

 

 

 

 




武器の扱い方も、手入れも処世術も、どこぞのハイスペック☆乳母様に教えていただきました。
コミック版時オカをちょっと参考にしています。短髪だけど。


『ミンナニ ナイショ』です。


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