※今回からリンクもテイルズ的な術技を繰り出します。
食い物泥棒の証拠をつかみに来ました。
エンゲーブを出発してしばらく
3人は大きな森へたどり着いた。
「ここが チーグルの森かぁ 」
リンクは森に足を踏み入れるなりとても嬉しそうに目を輝かせた。
「きれいな森だな、ルーク!」
「おれにふるなよ」
つい、と目をそらす。
リンクは森が見えて近付いていくにつれて、ルークにもわかるくらいどんどん元気になっていった。ミドリの服を着ていることといい、どれだけ森が好きなのか。ルークにはまったく分からなかった。だってたかが大きな木の集まりだ。
こんな木ばっか生えたところのどこがいいんだっつーの。
足元の苔を蹴ってみても、ちっとも気分は晴れない。リンクがどんどん楽しげになっていくのに反して、ルークの機嫌はみるみる下がってしまっていた。
それもこれも、思う存分戦えなかったからだ、とルークは思った。
確かに魔物はたくさん出てきた。けれど暴れ足りない リンクの放った矢がどんどん魔物を射抜いていって、ほとんど
思い出したらイライラしてきた。
「いいか!おれは食い物泥棒の証拠を見つけに来たんだからな! お前の人探しなんかには付き合わねえぞ!」
「うん わかった!」
即答。ついて行けないこのテンション。
いや、『ついて行けない』ってなんだよ。あいつ中衛! おれが前衛なのに!
ちくしょう 調子狂うぜ・・・
無駄に楽しそうに見える背中を睨みつける。その背中が背景に同化して見えるのに気がついて慌てて追いかけた。ミドリの中に、ミドリの服 うっかり見失ってしまいそうだ。保護色おそるべし。
そんなふたりに一歩遅れる形でティアもまた森に足を踏み入れた。その表情はやわらかい。
傍若無人なルークと無邪気なリンク。一見正反対に見えるふたりだったが、ティアが思っていたよりも雰囲気は良い。それは戦闘でも発揮され、ティアはずいぶん楽をさせてもらっていた。
深呼吸する。
水の気配をまとう緑の香りがする。ひんやりと涼しい清浄な空気が肺を満たす。
空は樹々が幾重にも伸ばした枝と葉で遠い。けれども完全に陽の光が遮られているのではなく、ごつごつと大きな石だらけの沢が、木洩れ陽を反射して時折キラキラと輝いていた。
もちろんここにだって魔物はいるだろう。気を引き締めなければならないのは分かっている。
でもここはティアが知っているどの森よりも、美しいところだと思った。リンクがあれほど楽しそうなのも頷ける。
そういえば彼の故郷にはホタルがいると言っていただろうか きっと彼の故郷も、ここのように美しいところなのだろう。心が踊るのもわかる気がする。
「あれ、 ヒトがいる?」
「はっ?」
不意に聞こえたふたりの声に、ハッと我に返った。リンクの肩越し まだ遠くに見えたその姿に、彼女は血の気の引くのを感じた。
「おい あれ、イオンって奴じゃねぇか?」
ルークの言うとおり、そこにいたのは導師イオン。大勢に囲まれ、彼は地面に手をついて肩で息をしている 囲んでいるのは、魔物の群れだった。
「助けなきゃ !」
「バッカ お前、 あいつに当たるだろ!?」
リンクが弓を構えて狙いを定め それをルークが止めて下げさせ「おれが行く!」と足を踏み出そうとした。
そこからは、まるでスローモーションだった。
肩で息をするイオンが片方の腕を上げ、地面に振り下ろす。
すると彼を中心に、周囲の魔物たちすべての足元まで広がる大きな譜陣が出現した。譜陣はそのまま目も眩むような激しい光を発し、大きな音とともに魔物たちを一匹残らず灼いていく。
あまりの眩しさに3人は目をつぶるが、閉じていても凄まじい光を感じられた。
やがて大きな音が止む。しかしその場を支配した轟音の余韻は耳に残り、まぶたの向こうの光の名残で目がチカチカした。
そうやってようやく視界が元に戻ってきた頃
光の中心にいたイオンはふらっと立ちあがった。
だが様子がおかしい 立ったままゆらゆらと揺れたあとに、そのままゆっくりと倒れていった。
「おい お前!」
すぐにルークが駆け寄り、イオンを助け起こす。しかも真っ先に駆け出そうとしていたリンクよりも素早かった。頭の痛い言動が目立つルークだったが、とっさに人を気遣うこともできるのかと、ティアは心を動かされるようだった。
出遅れたリンクは、ルークがイオンを助け起こすのを見て、弓を持ったまま周囲に気を配りはじめる 周りの警戒を買って出てくれたみたいだ。彼女はリンクを追い越して、イオンの傍に膝をつきその様子を診ることにした。
「イオン様、ご無事ですか?」
声をかけるとイオンがゆっくりと微かに潤んだ瞼を開く。未だ青白い顔をして、肩で息をしていた ずいぶん衰弱しているように見える。
「だ、大丈夫 です ダアト式譜術を 使いすぎただけ ですから 」
そう答えて彼は1度目を閉じ、何度か深呼吸する。まだ弓を手にしたままのリンクが、心配そうな目を彼に向ける。やがて息を整えたイオンは、ルークにお礼を言いつつよろけながらも立ち上がり顔を上げた。
「あなたがたは たしか昨日、エンゲーブにいた方たちですね? えっと」
「ルークだ!」
「オレはリンク」
ルークとリンクがそれぞれ名乗る。
「『ルーク』に『リンク』 確か、古代イスパニア語で『聖なる焔の光』と『光をつなぐ者』と言う意味ですね。良い名前です」
まだ顔は青白かったが、イオンは3人に柔らかな微笑みを向けてきた。
「へー ルークの名前ってそんな意味があるんだ かっこいいな!」
「う、うるせぇな!」
ふいっ、とリンクに背を向けるルーク。しかし背を向けたのはリンクにだけで、ティアとイオンには彼の赤くなった顔がしっかり見えていた。どうやら照れているらしい彼に、ティアもつい頰を緩ませる。
「あなたは 」
しかしそれもイオンに声をかけられることで、さっと引き締まった。
ルークはともかく、リンクが今まで触れてこなかったのは意外だったが、イオン 否、
ティアは教団式の礼をとって自らの所属を明らかにした。
「私は
「ああ、あなたがヴァンの妹ですね?うわさは耳にしています お会いするのは、初めてでしたね」
「はあ!?」
ルークが大きな声を上げる。
だって聞いてない。屋敷に侵入し、彼が尊敬するヴァンを襲った冷血女 それがルークの知るティアだ。ここまで短い間だが、一言も彼女は師匠を襲った理由すら話していない。その素性も。
ルークがティアに掴みかかる。
「お前がヴァン師匠の妹!? じゃあ師匠の命を狙ってたのはなんだったんだよ!」
「命を ?」
「! 待って」
穏やかではない話にイオンもいぶかしむも、それはリンクが急に声を上げたことで途切れた。視線がリンクに集中する。
彼の顔からは、さっきまでの朗らかさが消えていた。
「な、なんだよ、今大事なところなんだぞ・・・」
これからこいつを問いただすところだったのに。
リンクの様子に気圧され若干こわばるも、不満を口に乗せる。
「何か来た」
リンクが弓は下げたまま矢をつがえていつでも構えられるように準備した。静かな言葉にティアもまた杖を構える。
「 また 魔物か?」
ふたりの様子にごくん、と唾を飲み込みルークも剣に手を伸ばす。
リンクがこうやって辺りを警戒しはじめると必ず魔物が出てくる。エンゲーブを出発してから何度もあった。
こいつは本当に魔物の気配ってやつに敏感だ。それでいつもルークが
ぜってーおれが先に一撃決めてやる!
そうして 来た。茂みの向こう。もぞもぞと動く小さな影。
リンクが弓を引いてそれに狙いを定める。俺はその先に目を凝らして
「! 待ってください!」
その声とほぼ同時に放たれた矢が、その獣の足元の地面に突き刺さる。
「あれがチーグルです!」
「えっ あれが!?」
イオンの声に攻撃を中断する。
矢を免れた獣が一目散に駆け出した チーグルが、逃げる。ルークが証拠を掴んでやると息巻いた、濡れ衣を着せられた原因の食料泥棒の犯人 森に来た目的。
「あ っ もう! 話はあとだ 追いかけるぞ、リンク!」
「う、うん!」
ルークが走り出し、リンクが続く。
ルークの頭の中からは、すっかりヴァンとティアのことが頭から抜け落ちているようだった。
「ヴァンとのこと・・・僕は聞かない方が良いですか?」
ふたりが走っていったあとでイオンが問いかける。ティアは顔を伏せた。
「これは、私たちの故郷に関わること イオン様や彼らを巻き込みたくはありません」
ルークにはただでさえ巻き添えにしてしまった負い目もあるし、リンクにいたってはそもそもこちらの事情を明かしてさえいない。聞かれないことをいいことに、甘えてしまっている。けれど、関わらせたくないのだ。知らなくていいことだってあるのだから。
「おい!何やってんだ、見失っちまう ってあれッ? リンク!? リンク どこ行った!?」
離れたところから、ルークが呼んでいる。こちらが追いかけないことに気づいて振り返ったのだろう その一瞬でリンクを見失ったようだが。
まあ あのミドリな服装では無理もないか。
「大丈夫ですよルーク」
イオンがおっとりと声をかける。
「チーグルの棲家がこの先にあることは分かっています。 リンクがチーグルを追って行ったのなら、すぐに合流できると思いますよ」
ふたりがルークのいる場所まで追いつくと、彼の背後にあった苔むした倒木の上に、木の葉のかたまりがどさっと落ちてきた リンクだった。
「3人とも追いかけないのか? あいつ森の奥の方に行っちゃったぞ?」
「ほらね?」
イオンが楽しそうに笑った。
不思議そうに首をかしげるリンクに、ルークはとりあえず、倒木から降りてきたリンクに「あちこち葉っぱついてんぞ」と言ってやった。
「それにしても なんでお前、そんなこと知ってんだよ」
「チーグルはローレライ教団の聖獣ですからね。その保護には力を入れているんです 残念ながら近年はおざなりになりがちですが・・・」
申し訳なさそうに顔を伏せた。
「それでイオン様はこの森に?」
「はい、 エンゲーブの盗難事件が気になって チーグルは魔物の中でも賢く、おとなしい。人間の食べ物を盗むなんて、おかしいんです」
「ふーん、だったら目的は一緒ってワケか」
ルークの言葉にイオンは顔を上げる。
「では、あなたがたもチーグルのことを調べに?」
「あ、オレはヒト探しだよ それルークの目的」
リンクがビシッと顔の高さに手を挙げた。
なんでちょっと楽しそうなんだよこいつ。
「けっ ぬれぎぬ着せられて だまってられるかってーの! しゃーねぇ、お前もついてこいよ」
「ルーク!? イオン様を危ないところへお連れするなんて何を考えてるの!」
すぐにティアが怒ってきた。
ティアにしてみればイオンはローレライ教団の最高指導者。万が一のこともあってはならない。
「だったらこいつをどーすんだよ?」
だが ルークは引かなかった。
「村に返したところで、またのこのこやってくるに決まってるだろ それにこんな青白くって今にもぶっ倒れそうな奴。ほっとくワケにもいかねーだろーが」
「あ、ありがとうございます! ルーク殿はやさしい方なんですね」
ルークを何と言って説得しようとしたのか、イオンの予想外の言葉でティアは忘れてしまった。わかりやすいくらいに彼が動揺している。
「だ、だれが優しいだっ! アホなこと言ってねーで黙ってついてくりゃいーんだよ!」
「はい!」
イオンがキラキラした目で返事を返す。いたたまれなくなってルークはくるりと背を向けた。
「あと アレだ」
頭だけイオンに振り返る。
「あの変な術はもう使うなよ! あれでお前 ぶっ倒れたんだろ?戦いはこっちでやるから それと!」
がしっ
ルークは先に歩き出そうとしていたリンクの
「リンク、お前はイオンのとなりにいろ!おれより前に出んじゃねぇ はぐれて迷子になったらどうすんだっつーの!」
「守ってくださるんですか? 感激です!」
イオンのきらきらがレベルアップした。
予想外の反応にひるんでいるところに誰かの手が伸びてきて腕を回されたたらを踏む。
「ひどいなあ オレ、迷子になんかならないよ なるならむしろルークの方だろ?」
まったくひどいと思ってなさそうな顔だった。もがいて脱出しようとするとあっという間に解放される。こっちもなぜか無駄に楽しそうだ。
ルークはモヤモヤと睨みつけていたが。
「行くぞ!」
そう言って先頭を歩き出した。イオンとリンクがそれに続く。
まるでどこにいる普通の男の子みたい。
3人の様子を後ろから眺めていたティアは、ほほえましくて顔を緩めた。そうしてそのあとについて歩き出した。
* * *
「出てくんなっつーの!」
戦闘を終え、剣をひと振りしてルークは剣を納めた。ティアも詠唱をやめて警戒を解く。
ルークは木刀から真剣へ得物を換えたばかりだが、すでにもうその扱いに慣れ、違和感はないようだった。
今の戦闘も、村を出たばかりのころは、前衛のルークと中衛のリンクのふたりが、どんどん前に出てしまって陣形は偏っていた。今はそれがずいぶん落ち着いている。守るべき対象 イオンが加わったから、というのも大きいだろう。
「ルークとティアってさ」
リンクが弓を虚空に消して言った。
「攻撃するとき、たまに叫ぶよな?『そうがざん』とか、回復してくれるときは『ふぁーすとえいど』だっけ あれ、なんで?」
私はリンクの武器がどこに行っているのかっていう方が気になるのだけど・・・
「なんでってそりゃあ ヴァン師匠に教わった技だからな!」
自信満々なルークにティアはがっくりと肩を落とした。
それじゃあ説明になってないわ ルーク・・・
「技や譜術を使用するときは」
隠れていた場所から出てきたイオンが説明する。
「体内のフォンスロットを通して自らに音素<フォニム>を取り入れ、放出しています」
リンクがふむふむと耳を傾ける。そのうしろには、なぜかルークもいた。
「特に譜術の場合は、詠唱をすることで周囲に存在する音素<フォニム>に働きかけ、術者の意思で結ぶことによって術として完成させます。
このとき取り入れる音素の量や性質の違いによって、上級、下級の威力の差を生みだし、あるいは炎や水など属性の異なる譜術になります ですから本来は術技の名を言う必要はありませんが、あえて名で結ぶことによって、イメージを掴みやすくしているんですよ」
導師イオン・・・さすがだわ。
ローレライ教団をまとめる最高指導者にして、若干14歳で導師の位に着く少年 わかっていたことだが、彼女はあらためて敬意を抱いた。
「えっとつまり 『そうがざん』とかって言うと、攻撃が強くなりやすいってコトか?」
「そうですね。おおむね そのとおりです」
リンクが考えを述べ、イオンが頷く。
「そっか・・・じゃあ 」
リンクは再び弓と矢を手元に出現させると、きょろきょろとあたりを見回した。そうして少し先の小川に目を止め、矢をつがえて狙いを定める。
「『ふじゅつ』ってのは、魔術ってことでいいんだよな ?」
「へ?」
すぐそばにいたルークが何かを聞いた気がして振り返り つがえられた矢に青い光が集まっていくのを見た。
「『凍牙』!」
放たれた矢が小川の真ん中に命中し、一帯の川が凍った。
「おお! 本当にいつもより威力上がってる!」
結果を見て、リンクがうれしそうな声をあげた。凍った水はリンクが乗ってもビクともしない。
「あ ちょうどいいや。川が渡れる 足元気をつけろよ?」
そもそもそんなに深くもない川なのだが、水が凍ったことで少なくとも靴は濡れずにすむ。
「へぇ・・・便利なもんだな」
そう言って氷の上に足を乗せたルークだったが
つるっ
ど んっ!
「 ってェ!?」
ついた尻がジンジンする。氷がこんなに滑るものだなんて聞いてない。
「ははは だから言ったのに ほら」
リンクが手を伸ばす。木漏れ日を背にした笑顔になんだか無性に腹が立った。
「余計なお世話だっつーの!」
差し出された手をパシッと弾き、滑って不安定な足元によろけながら、自分の足でで立ち上がる。そうしてさっさと安全圏 氷の向こう側まで渡りきった。リンクが「ひどいなー」とまったくそう思ってなさそうな声で文句を言ってくる。
なんでこいつずっと楽しそうなんだ、わけわかんねー。
その後、凍った川をイオンが渡り、ティアが渡って一行は再び歩き始めた。
「チーグルの棲家って、どんなところなんだ?」
歩き出したことで自然とイオンの隣に戻ってきたリンクが尋ねる。
「大きなソイルの樹の根元、と読んだことがあります。幹の中をねぐらにしているのだとか」
「ソイルの樹 の、中・・・」
「ええ あ、ほら 見えてきました。あれがそうです」
イオンが前方のひらけた空間の先を指差した。
巨大な樹がある。まわりの木よりも、さらにひとまわり大きい。ひらけた場所は周囲をごつごつとした岩が点在する小川で囲まれていて、樹の周りは緑の絨毯を敷き詰めた島のように見えた。
「あそこ、何かいるぞ」
ルークが指を差すのをたどると、まさに樹の根元にちょろちょろと動く小さな影。頭と体が同じ大きさの二頭身で、大きな袋状の耳がついていた。
「あれがチーグルですね まだ こどものようですが」
そのまま見ていると、やがてチーグルのこどもは幹に開いた人の高さほどの大きさのうろ穴に消えて行った。
「かわいい」
「は!?」
ルークは思わず振り返った。何かとんでもないことを聞いた気がしたのだ。
振り返った先のティアは、なぜか目をそらしてこっちを見ようとしていない。
じっと見ていると彼女は何度か咳払いをし、こちらを向く すでにいつもの無愛想な表情だった。ほんの少しだけ顔が赤い気もするが。
ころ
イオンの足に何かが当たった。草の中に赤くて丸い物が落ちている。拾い上げて、くるりと裏返して 見つけてしまった。
「・・・このりんご、エンゲーブの焼印がついています」
「! じゃあやっぱりあいつらが犯人なんだな!」
ルークが拳をもう一方の手のひらに打ちつける。
「信じたくはなかったですが・・・」
うつむくイオン。そして決意をにじませた顔を上げ 走り出した。
「イオン様 危険です!」
ティアが慌てて追いかける。
「しゃあねーな、追いかけるぞ」
威勢よく追いかけようとして、リンクがぼんやりと突っ立ったままでいることに気がついた。
「何やってんだよ、そんなところで突っ立って」
声をかけるとハッと我に返ったようだ。けれどさっきまでのテンションはどこへやら、「あー」とか「うー」とか、曖昧ではっきりしない。ここに来るまで賑やかだったから、なんだか変な感じだと思った。
「オレはここで待ってようかなぁって ほら、さっき逃げられただろ? あんまり大勢で入ってもその、チーグルたち?が怖がりそうだし」
その彼を じっと見つめる。
さっきまでと同じ笑顔。けれど違う、とルークは思った。
笑っているけど、笑っていない。
なんだかそんな風に見えた。
「な、なに?」
リンクが『やっぱり』とまどった顔になった。
「いやお前、さっきまではしゃいでたのに、急に静かになったし もっと『でっけー!』とか『高えー!』とかウザくなると思ってた」
「わるかったな」
あ、ジト目んなった。
「ふたりとも、何やってるの?」
樹のうろ穴の前から、ティアが声をかけてきた。イオンの姿はないから先に入ってしまったんだろう 弱いのにほんとうに無茶をする奴だ。
「ま、待てよ! じゃあおれたちで行ってくるからな!そこで休んでろよ!?」
「うん、いってらっしゃい」
にこにこと手を振るリンク。
ヘンな奴。
ルークたちが樹の中に入って見えなくなって、ようやくリンクは手を振るのをやめた。そしてあらためて大樹を仰ぎ見る 何かを探すように。
「やっぱり あるわけない か・・・」
ふう とため息をつき、彼はおもむろにごろんと地面に仰向けになった。
梢の向こうから鳥のさえずりが聞こえる。風が吹いて枝葉の揺れる大きな音がする。そして風が止めば今度は水の流れる音が響いてきた。
心地よい賑やかな森なんだろう 普通なら。
でも彼にとって、森で聞こえる音はそれだけじゃない。
目を閉じて 耳をすませる。
ここでは、霧の向こうから微かに響く、鈴を転がすような話し声も、遊びに夢中になる笑い声も、軽快なリズムの笛の音も聞こえてこない。
「しずかだなぁ 」
そのつぶやきは『静寂』に溶けて消えていった。
* * *
ミュウというチーグルのこどもを連れてリンクのところに戻ると、彼は木陰で仰向けに寝ていた。外で待つとは言ってたが、大胆すぎる。
ルークは傍にしゃがみ込んだ。
「おい、何やってんだよ?」
「あれ、早かったね。おかえり〜 」
目を開けてすぐに返事を返された。ひょっとすると ただ目をつぶっていただけだったのかもしれない。
「お前 よくこんなところで寝れんな」
彼が呆れたように肩を落とす一方、リンクは勢いよく起き上がって身体についた土や葉っぱを落とした。
あらかた落として手に残ったものを払い落としていると、彼はイオンの肩に乗ったものに気がつく。
「そのコは?」
「ボクはミュウですの。よろしくお願いしますですの」
ミュウは大きな袋状の耳をピョコピョコ動かしながら元気よく自己紹介した。するとリンクはその頭に手を伸ばしていって、まふまふとやさしくなでた。
「へえ ミュウっていうのかぁ オレはリンク、よろしくな」
「お前、驚かねーの?」
自分は驚いたのに、なんだか癪だ。
「ん 何度か言葉をしゃべる魔物とやりあったこともあったからなぁ」
「言葉を話せる魔物ですの? その魔物も、ソーサラーリングの力ですの?」
ミュウがイオンの肩につかまったままピョンピョン跳ねる。
「そーさらーりんぐ?」
「これのことですの!」
リンクが首をかしげると、ミュウはイオンの肩から飛び降りて、自分の持っている大きな輪 といっても人間にとっては腕輪サイズだが をペシペシと叩いて胸を張った。
なんかイラつく。
「チーグル族が、昔ユリア様からもらった宝物ですの。ボクはこのソーサラーリングのおかげで、皆さんとお話ができるですの」
「だぁ !もー ウッゼェ っての!! しゃべってねーでさっさと『ライガ』って奴のところへ案内しやがれ!」
ついにイライラの限界がきたルークは、ミュウをグリグリと踏みつけた。思いのほか弾力があって踏みごこちがいい。
「もう ルーク!ミュウがかわいそうじゃない!」
ティアが叱る。
「『らいが』? 案内するって ?」
リンクに問われて、そういえばひとりだけ外にいたから、中でのやりとりを知らないことに思い当たった。
「その話は道中にしましょう ミュウ、案内してください」
イオンが出発を促し、案内をミュウに頼む。
「はいですの 任せるですの!」
ミュウはルークに踏まれたまま、ぴょこ!と短い手を挙げた。
「チーグルって、前向きなんだなぁ・・・」
目をそらして苦笑いをするリンク。「さすがにちょっとやりすぎじゃないか・・・?」と悩みはじめる。
「そう思うなら貴方も止めてちょうだい」
ティアは頭を抱えて深いため息をついた。
凍牙=氷の矢。カッチコチになります。
『冒険序盤』の『大きな樹の中』はちょっとした鬼門。
今でもアイツは 帰ってくるのを待っててくれているのです。