深淵へと交わるオカリナの旋律   作:龍羽

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食料泥棒が判明しましたが、どうやらトラブルのようです。


5, 雷獣  < ライガクイーン >

 

 

 

 

 

 ソイルの木の中にあるチーグルたちの棲家で出会ったチーグル族のこども———ミュウの案内で、一行は森のさらに奥を目指して歩いていた。

 ミュウによれば、目的地であるライガの巣は、森の奥の洞窟の中だという。そのたどり着くまでの道すがら、イオンがソイルの樹の中であった話をリンクに聞かせていた。

 

「ふーん、考えたことなかったな、魔物と交渉なんて———ホントにできるの?」

 

 話を聞きおわったリンクは、疑わしげな冷たい視線をイオンの肩に乗ったミュウに向けた。ミュウはリンクとは反対側の肩の上で「みゅうう・・・」と萎縮している。チーグルたちがエンゲーブから食料を盗み出さなければならなくなった事の発端———ミュウがライガの棲家を燃やしてしまう火事を起こした話———をしたあたりからリンクの目が厳しい。

 後ろでその様子を眺めるティアは、そわそわとひとりと一匹を交互に見る。彼女にとって予想外の事態だった。

 あんなに朗らかに自己紹介しあっていたのに、今はずいぶん口数が減っている。空気も重い。

 

———ミュウにもしものことがあったら、私が守らなきゃいけないかしら・・・

 

 見えてきた岩だらけの川とその向こうの岩壁に、目的地が近づいてきたのを感じて不安になる。話し合いがどうなるにしても、もう少しこの空気が軽くなってほしかった。

 

「ご存知のとおり、エンゲーブの食料は世界中に出荷されています」

 イオンがうつむいて杖を握る。

「このままでは大変な規模の食糧問題になってしまう———相手が魔物とはいえ、なるべく穏便に済ませたいんです」

「でもその『らいが』?って奴、ハナシを聞いてくれるのか?」

「それは・・・」

 

「ごちゃごちゃうるせーな」

 

 先頭を歩いていたルークが振り返る。

「んーなん、やってみねーとわかんねーだろ。いざとなったら戦えばいいんだし———それとも何か?お前は倒せる自信がねーのかよ」

 自信満々ににやりと笑ってみせるルーク。リンクがふくれっ面を浮かべた。

「ルークよりはあるさ!」

「ハッ! どーだか」

「今ここで証明できないのがザンネンだなあ!」

「剣失くしたドジなんて説得力ねーじゃん」

「ケンカしないでですの〜」

 丸木橋の上と川の石の上でにらみ合いをするふたり。そんなふたりを必死に止めようと、涙目になりながら叫ぶミュウ。残念ながら止まる気配はない。

 

「大丈夫かしら・・・」

「大丈夫ですよ、ティア。ほら、言うじゃないですか———『喧嘩するほど仲が良い』って」

 

———なぜかしら、導師イオンのイメージが崩れていくわ・・・

 

 

 

 

   * * *

 

 

 

 

 ミュウの案内で、森の奥へ足を運んだ一行はやがて、岩壁に大きく開いた自然洞にたどり着いた。

 

 足を踏み入れてすぐにリンクが反応する。

 目の前に大のおとなよりも大きな身体の2頭の四足獣———ライガが姿を現し、鋭い牙をむき出しに唸り声を上げてきた。

 ミュウが話しかけると、二匹はうなるのをやめてのっそりと両脇へ道を開けた。ティアがざっと視線を巡らせると、岩陰にまだ何体か隠れてこちらを伺っているのに気づく。杖を握る手に知らず力がこもる。ミュウがいなければ、即 戦闘になっていただろう。

 

———ここが、ライガの巣。

 

 中は高いところにいくつか開いた穴から陽が差していて、日光が当たるところには緑もちらほら見え、完全なや闇がないため見通しは良い。時折伸びる大きな木の根を避けながら奥へ、下へ———最奥のひときわ大きな空間に それは居た。

「でっけェ・・・」

 奥にいるものに、ルークの声が思わずもれた。

 

 枯れ枝や草を幾重にも重ねて集めた大きな巣。そこに立派なたてがみを生やした獣がどっかりと座っている。身体には雷のような縞模様。たっぷりとした毛で覆われた大きな尾。洞窟の入り口に出てきたものとは比べるべくもない巨体をさらし、巣の真ん中からこちらをにらんでいた。座った状態にもかかわらず、ルークたちより顔が上にある。

 

「あれが『ライガクイーン』ね」

「クイーン?」

 一行が来たことで持ち上げられたライガの大きな顔から目を離してルークが振り返る。

「ライガは強大なメスを中心とした女王中心の社会を形成しているの」

「へえ・・・そうなんだ」

 ルークと同じく、リンクも驚いている。想像よりも大きな巨体から、オスかと思いきやそうではないらしい。

 

 しかしティアはひとり眉をひそめた。

 話をする魔物と何度かやりあったと、彼はさっき言っていたはずだ。てっきり魔物と何かしらの交流を持ったことがあるのかと思っていた。

 

 『知っていること』と『知らないこと』。

 見え隠れする違和感。

 

「ではミュウ、ライガクイーンと話をしてください」

「はいですの」

 イオンがミュウに通訳を促す声で彼女はハッと気持ちを切り替えた。

 

 今は、目の前のライガクイーンに集中しなくては。

 何かあったときに、護れるように。

 

 イオンの肩から飛び降りたミュウがトコトコと前に進み出てペコリとお辞儀し———とても可愛いと見惚れそうになるのはこらえる———ライガクイーンに話しかけた。

 「みゅうみゅう」と鳴き声が洞窟に響く。

 

 しばらくの間ミュウの話に耳を傾けたライガクイーンは、やがて唸り声を上げ始め、ついに大きく吠えた。

 洞窟全体が、おおきく揺れる。

「みゅみゅっ!?」

 その衝撃でミュウが足をすべらせて転がりこんだ。すぐにイオンが助け起こす。

「お、おい———あいつなんて言ってんだ?」

「た 『卵が孵化するところだから、来るな』って、言ってるですの」

 ミュウがこちらを振り仰いで答えた。

「卵ぉ!? ライガって卵生なのかよ!?」

「魔物は卵から生まれることが多いですの———ボクも卵から生まれたですの」

 知らなかった・・・! 魔物って卵から生まれるのか!

「———まずいわね。 卵を守るライガは凶暴性が増しているはずよ」

 ティアの声が低く聞こえた。表情が 重い。

 あの大きなやつが凶暴になっている? 襲って来るのか?

 

———それってかなりヤバいんじゃないか。

 

「ボクが ライガさんたちのお家を火事にしちゃったから、 だからすごく怒ってるですの 」

 耳を垂らし、ミュウが小さな身体をさらに縮めて震える。

「どうすんだよ、出直すのか?」

 未だミュウのそばに着くイオンに声をかける。ルークが見ていても話し合いでなんとかできるようにはとても見えなかった。

 卵を守っているうちは凶暴になるなら出直すべきだ。卵がかえってからまた話し合いでもすればーーー

 

「いいえ———卵がかえれば、ライガの子ども達は街を襲います」

「へ?」

 

 イオンが言ったことを、すぐに理解できなかった。

「ライガの仔どもは、人を好むのよ」

 言葉の意味をかみしめる間に、ティアが補足する。

「だから村の近くにいるライガは繁殖期前に狩りつくすのが決まりよ」

 

 冷たい声だった。

 これまでルークをたしなめてきた時とはまるで違う。

 空気が 重い。

 

「食べるんだ———ヒトを」

 

 その後ろからリンクが一歩前に出る。

 こちらも雰囲気が冷たい。ここに来るまでは———普段はあんなに明るいのに、今は鋭いナイフのようだ。

 リンクが一歩動いた瞬間 ライガクイーンの前足がピクリと動く。

 

———これって一触即発なんじゃ・・・

 

 ルークの背中を嫌な汗が流れた。

 それはティアも同じ。杖を握る手がうっすらと汗ばむ。

 繁殖期のライガだなんて。もとより肉食の獣———凶暴性を増した時期になんてお目にかかりたくはなかった。

 だが。

 

「ミュウ、ライガクイーンにここを立ち去るよう伝えてくれませんか?」

 イオンが交渉を続行する。

 そう、村のそばにいることが問題なのだ。

 だから彼らが村から離れてくれさえすれば、こちらだって無理に手を出す必要はない。

 ミュウはこくんと頷いて、震えながらも再び前へ出る。

「みゅう、みゅう みゅう」

 するとライガクイーンは再び激しく吠えた。

 さっきよりも強く洞窟全体が揺れる。天井からパラパラと砂が落ちてきて———朽ちた枝や石がミュウめがけて降ってきた。

「みゅみゅ!?」

 ミュウが悲鳴をあげる。

 さっきよりも激しい揺れだ。当然ミュウが無事に立っていられるわけもない。

 それどころか恐怖で身体がすくみ、逃げることもできない———彼にできたのはただ、目をつぶってこれから来るであろう痛みに備えるのみ。

 ミュウのまぶたの向こうで『バン!』という音が轟く。

 

 しかしいつまで経っても体はなんともなかった。

 恐る恐る目を開けてミュウの目に飛び込んだのは———朱色(あかいろ)。 ルークだった。

 彼の手には剣が握られている。落ちてきたものはミュウのまわりには見当たらなかった。

 

「ありがとうですの〜」

 目に涙をためて、ミュウがお礼をする。

「か、勘違いすんなよ! おれはイオンを守ったんだからな!」

 ルークが声を上ずらせながら言った。イオンはルークの後ろにいて、とてもさっき落ちてきたもので怪我をするような位置ではなかった。

 再び上がる唸り声。そして咆哮。

 一歩。

 ライガクイーンがこちらに足を踏み出す。

 ピクリとミュウの耳が反応した。

 

「ボ、ボクたちを殺して仔どものエサにするって言ってるですの・・・!」

 

 ミュウの悲鳴に呼応するようにライガクイーンが吠える。

 ひとつ吠えるごとに、威圧感が増していく。

 洞窟を占める空気が 震える。

 

「ミュウ、戻ってください!」

「みゅううぅぅぅ」

 イオンの声でミュウは弾けるように悲鳴をあげ、ルークの体をよじ登って背中に流した彼の髪の毛の中にもぐり込んできた。

「おいコラ どこ入ってんだ!」

「みゅうぅぅ」

 背中についたミュウをひっぺがし、投げるようにイオンに渡し、すかさずライガクイーンに向き直った。後ろでは無事にイオンの腕の中に収まったミュウが、背中をポンポンと軽くなだめられていた。

 その間もずっと低く唸るライガクイーン。

 剣を握る左手に汗がにじんだ。

 

「あいつちょっとキレすぎじゃねーか? お前一体何言ったんだよ」

 ビリビリと空気が震える。ライガクイーンがじっとこちらを見ている。

 

 しかしミュウの返事は聞こえなかった。

 眉をひそめ、振り返る。

 

 ミュウはイオンの腕の中で小さな体をさらに丸めて震えていた。

「ミュウ?」

 イオンが声をかけると、ミュウは跳ねるようにびくんっ、と体を震わせた。

「ボクたち———ボクが・・・ライガさんたちを倒せる人、連れて来ちゃったから———だから、すごく すごくイライラしてるですの」

その声はこれ以上ないほどに震えきっていた。

「どういうこと?———確かにここに来るまでに何度か戦闘はあったけど、ライガクイーンが警戒するほどだなんて———」

 そこまで口にして、ティアは はたと口をつぐんだ。

 

———もし、この森を訪れる以前のことも含まれているとしたら?

 

 軟禁状態にあって実戦経験が無かったルーク。稽古で培った技術はあっても経験を積んだとはまだ言えない。

 ローレライ教団の象徴で前線に出ることのないイオン。今はいないが、普段は護衛がいるだろう。

 そして信託の盾(オラクル)騎士団でも後方支援を主とするティア。戦闘で直接手を下すことは案外少ない。

 3人ともライガクイーンの脅威足り得るとは、残念ながら言いがたいけれど———

 

 彼女の目がリンクの背に向けられる。

 

 つい先日出会ったばかりの旅の青年。

 今は事情により弓を武器とする彼は、どうやら本来剣士であるらしい。さらについさっき判ったことだが、譜術の心得まであるようだ。

 そんな彼が出会う前に『慣れない武器』で倒した魔物の数は、手にしていた戦利品から見ても、おそらくティアとルークを上回る。

 

 そうだ———経験不足のルークと体の弱いイオンがいたにもかかわらず、ここに来るまでの間 ずいぶん ()()()()() なかっただろうか。

 

 誰が脅威足り得るかと言えば———

 

 グルルル・・・

 ライガクイーンの唸り声で我に帰る。

 

———いけない、今は目の前のことに集中を・・・!

 

「導師イオン。 ミュウとともにお退がりください」

 杖を握りミュウを抱えたイオンを後ろにかばうように前に出る。

 交渉は決裂したのだ———もう戦いは避けられない。

 イオンがミュウを抱え、じりじりと後退する。

 

「お おい、 こんなところで戦ったら卵が割れちまうんじゃ———」

「残酷かもしれないけれど、今はそれが好都合よ」

 ルークの肩が跳ねる。冷たい一言だった。

「でもよ・・・」

「こっちだって 命がかかってる」

 それでも何か言いたくて開いた言葉は、途中で遮られた。

 

「殺されそうになってるときに、黙ってるわけにはいかない」

 

 交渉の間、一行の最後尾にたたずんでいたリンクがルークに並ぶように前に出る。()()()()()()()何もないところから弓を出現させて———戦闘の時のリンクは、ほんとうに容赦がない。

 ルークはごくりと息を呑み込んだ。

 

 グォオオオオオ!!

 

 響き渡る咆哮。

 空気が 揺れる。

 ビリビリと肌が泡立つ。

 これまで感じたことがない———命の危機。

 

「来るぞ———!」

 

 リンクが弓を構え、ルークは弾かれるように走り出した。

 後ろからティアの声が聞こえる。

 

「———“深淵へと誘う旋律”   」

 

 ルークを追い越して、幾本かの矢がライがクイーンに向かって飛んで行った。人の足では追いつけない矢は、ライガクイーンに軽々と避けられる。

 避けられた先に、一閃。

 高く跳ばれてあっさりかわされる———その着地点。

 

トゥエ レィ ズェ クロア リョウ レィ ズェ

 

 ティアの歌声が戦場に響く。

 ライガクイーンの足元に浮かび上がる、紫炎の光。

 よろけた巨体にリンクの放った矢が何本も吸いこまれていった。これでおれが剣を振ればダメージを与えられる———はずだった。

 

 まるで水を払うようだった。

 ライガクイーンは体を振るわせて矢を落とすと、再び大きく吠えた。

 強烈な咆哮に、ルークの足が止まる。

 そこに巨大な前脚が勢いよく叩きつけられた。

 

「がっ・・・!」

 

 攻撃自体は当たらなかったものの、衝撃は凄まじく。

 後ろに吹き飛ばされる。

「っってぇ〜・・・」

「大丈夫か?」

 リンクがすかさず助け起こしてくれた。顔はライガクイーンに留められたまま———油断なく。

「・・・そこらのザコとは違うみたいだ———やれるか?」

「あったりまえだろ!」

 意地で返し、立ち上がって構えた。

 こんなの強がりだ。

 でも、かっこ悪いのだって嫌だった。

 避けられたライガクイーンが唸り声を上げて体勢を低くする。

 向かってくるのだろうか。

 

———ならその前に叩っ斬ってやる!

 

 走り出そうとしたそのとき———

 

「ダメだ! ルーク!!」

 

 リンクが急に叫んだ。

 そのせいでライガクイーンへ向かって行くはずの勢いを削がれる。

 何なんだよ!と舌打ちしようとしたところで、空気がビリビリと痺れる音を聞いて我に返り———全力でその場から離脱した。

 

 激しい閃光。

 雷鳴。

 

 ゴロゴロと転がるように雷撃を避けたルークが急いで身を起こすと、すでにライガクイーンがリンクめがけて突進するところだった。

 

「「リンク!!」」

 

 ティアとルークの悲鳴が重なる。

 攻撃はリンクを確実に仕留めたように見えた。衝撃で土煙が上がる。

 ルークにはその煙が晴れるまでがとても長く感じた。

 煙が晴れていく。

 ようやく目に飛び込んできたものに、彼は息を飲んだ。

 

 リンクはライガクイーンの攻撃を鉄の板———いや、盾で受け止めていた。

 

 今まで背中に背負っていたもののことを、ルークはここで初めて認識する。

 盾は今 リンクの右腕に装着されていて、そこに左腕を添えてライガクイーンと渡り合っているように見えた。

 仕留め損なったライガクイーンは片方の前脚を斜め上からリンクめがけて大きく振りかぶる。

 その攻撃が当たる寸前に後方へ宙返りしてリンクが逃れる。

 そして十分な距離を開けて再び弓を出現させた。

 

どくんっ 

 

 心臓の音が跳ねた。

 

———『防御』と『間合い』。

 

 ルークは稽古の時に言われた事を思い出した。

 防御がおろそかになっていることを注意された時だ。

『やられる前にやればいい』

 あの時自分はそう言った。しかしその言葉は師匠(ヴァン)にもたしなめられたのを覚えてる。

 ヴァンは言った。『ならば私を相手にした時でもできるのか』と。

 あの時はそんな質問ずるいじゃないかと思ったが。

 

 今なら解る。

 

 リンクが今、身を以てそれが大事なんだと気づかせてくれた。

 あいつにできるんだ。

 だったら おれにだって・・・!

 

 剣を正面に構える。

 ライガクイーンがこちらを向く。唸り声をあげ、体を低くした。

 

———よし、来る!

 

 受け止めるために身構える。

 

「だめだ! よけろ!!」

「へ?」

 

 その瞬間、巨体が跳んだ。

 

 避けなきゃならないのに、体は縫い留められたように動いてくれない。いや動け! 動け!

 間一髪で避けたルークを、ライガクイーンが着地した衝撃が襲う。成す術無く吹き飛ばされ、ルークはそのまま岩にぶつかり体を打った。身体中を激痛が走る。

 

「ルーク!」

 リンクは、ルークのところへ走り寄ろうとしてしかし。すぐに後退を余儀なくされた。ライガクイーンが体をくるりと回転させ、その大きな尾がリンクを払おうと襲いかかる。

 紙一重でバク転回避。リンクを見据えるクイーンの鋭い眼光が彼を捉える。

 だがこの間に———

 

「癒しの力・・・———『ファーストエイド』」

 

 ティアの声。回復の術だ。ルークの痛みが和らいだ。

 

「同じ攻撃でも防げるものと よけなきゃいけないものがある!   相手をよく見るんだ!」

 リンクの檄が飛ぶ。

 息を吐き、よろめきながらもルークが立ち上がる。

 

———でもさっき、リンクは受け止めたのに。

 

 再び剣を構え、横薙ぎに飛んでくる雷牙クイーンの爪を今度はしっかりと剣で受け、弾く。その懐にできた隙に、ルークの剣が牙のように噛みついた。

 

「『双牙斬!』」

 

 ルークの技に怯むライガクイーン。着地したルークはすぐにいったん距離を、間合いを取った———つもりだった。

 

「そこじゃダメだ!」

 

 再びリンクが叫ぶ。

 同時にライガクイーンがくるりと横薙ぎに回転する。さっきリンクを襲ったやつだ。

 かろうじて防ぐルーク。

 だが耐えきれず再び吹き飛ばされてしまう。ごろごろと転がりながらも起きあがろうともがく。

 それを目掛けて、四肢に力を入れ身を屈めるライガクイーン。

 

「———ッ・・・『凍牙!』」

 

 リンクの声とともに一本の矢がライガクイーンの足元に刺さる。それを中心にして巨体の足元が凍りついた。四肢を封じられて身動きを封じられるライガクイーン。しかしミシミシと聞こえる嫌な音が、長くは保たない事を知らせてくる。

「くそっ!———おれはちゃんと離れたのに!」

「間合いは自分にだけじゃない。あいつにもあるんだ」

 悪態を吐くルークの元に駆け寄ってきたリンクが、諭すように声をかける。

 

「だからしっかりあいつを見よう———大丈夫、いつもと一緒さ。あいつにだってきっと隙ができる。それを見逃さないようにしよう」

 そうして腕を引っ張って助け起こした。が、ルークはすぐにそれを振り払う。

「うるせーな!うだうだ言ってねーでお前がやってみろよ!」

 さっきから偉そうなことばっかり言いやがって。

 上手くいかない立ち回り。痛む体がルークをイラつかせる。

 対するリンクは首を振った。

「オレじゃダメだ———見ろ」

 そう言ってライガクイーンの方を向くリンクの目線を追い、ルークの心臓が跳ねた。ミシミシと音を立て続ける氷は、幾重にもヒビが入り今にも割れてしまいそうだ。

 

「あんな氷、すぐに割れる。 最初に放った矢も、ほとんど効いてなかっただろ? あんな素早いヤツが相手だと、弓矢だけでダメージを与えるなんてムリなんだよ!」

 確かに、リンクが放った矢は、ライガクイーンにいとも容易く振り払われていた。リンクの指揮は的確だ。

 くやしいほどに。

 ルークの背中にリンクの手が添えられる。

 

「だから落ち着いて。ルークならやれるさ。アイツにも必ず隙ができる。そこを探して、狙おう」

 

バリ———ンッ!!

 

 氷が割れる音が響く。

 剣をかまえ、ルークが飛び出す。

 

「ちくしょう! ちくしょう!!」

 

 ルークは一撃、二撃と攻撃を繰り広げる。しかしどんなに剣を振り回しても一向に効いている気がしない。そのうちに雷撃が襲ってきて、避けられたは良いものの無様に地面を転がった。

 その後方ではリンクが弓を構え。しかし射線上にルークが入ると判断してすぐにその場を移動する。同じく飛んできた雷撃を軽やかに跳んで避け、目だけはライガクイーンに留めたまま。戦場を駆ける。

 

 

 すごい。

 ティアは次の詠唱に移りながら、内心舌を巻いていた。

 

 さっきライガクイーンの一撃を防いで見せたのだって、リンクとの体格差を考えれば普通に受けただけでは吹き飛ばされていたはずだ。相手の方が力がある。だから力を受け止めつつ逸らすための技術がいる。リンクは事も無げにこなしてしまったが———いったい彼は、今までどれほどの相手と戦ってきたのだろう。

 もはや隠しようもなく、この場で一番強いのはリンクだ。

 だからこそ歯がゆい。

 

 今朝の市場で、剣をせめてもう一振り手に入れられていれば。

 

 リンクもその辺りは同じく考えているのかもしれない。だからこそ、ルークにかける声も多くなってしまう。

「がむしゃらにやってもダメだ! ルーク!」

「うるせぇ!!」

 リンクに言われなくたって、デタラメに振り回すのじゃダメなことは分かってる。けど思い通りにライガクイーンと戦えない。リンクはうまく立ち回ってるのに、自分は全然なってない———それがルークを逆に焦らせてしまう。

 

「おれに! 指図すんじゃねぇーー!!」

 ルークの声が虚しく響いた———そのとき。

 

「やれやれ、見ていられないですね」

 

 その声は戦闘の最中 決して大きくはなかったのに、驚くほど響いた。

 

 はっと声の方を振り返るティア。

 いつの間にかイオンを守るように立つ青い軍服。

「アイツは———!」

 リンクもまたこの場に加わった新たな人物を認めた。

 

「助けてさしあげましょう」

 

 すらりと前へ差し出される手。

 収束するオレンジ色の光。

 土の音素の 光———

 

「『ロックブレイク!』」

 

 声とともにライガクイーンの足元を中心に走る亀裂。その亀裂を突き破って大岩が地面から突き上がり、ライガクイーンを襲った。

 腹に直撃を喰らい、串刺しになったライガクイーン。激しい悲鳴をあげ、やがて力無く四肢も頭も下ろして動かなくなった。

 

「お別れです」

 対象の沈黙を確認したその人物は、ツイと眼鏡の位置を正す。

 

 ルークはその場でペタンと尻をついた。

「何だ、今の・・・」

「すごい・・・」

 ライガクイーンを貫いた岩は、至近距離で戦っていたルークを避けて正確に発現していた。特定の味方を除いて発動する術を、リンクは知らない。

 

「普通より威力がケタ違いだわ———ただの譜術師(フォニマー)じゃないわね」

 ティアも驚きを隠せなかった。イオンをかばうような位置にいる青い軍服の男をあらためて見やる。事態が収束した今、導師の安否を確認するその男は、昨日エンゲーブの村長の家にいたマルクト帝国軍の大佐———ジェイドだった。

 

「イオン様、お怪我は?」

「ありがとう、大丈夫です」

 そこに弓をしまったリンクが近づいていく。毎度のことだが、本当に彼はどこに弓をしまっているのだろう。

「助けてくれてありがとう!」

「いえいえ、お礼など結構ですよ」

 元気良くリンクがお礼を言い、ジェイドはそれににっこりと微笑んだ。そしておもむろに顔を上げる。

 

「アニース! ちょっとよろっしいですか?」

「は〜〜い! 大佐ぁ お呼びですかぁ〜?」

 彼が崖の上へ呼びかけると、何とも甘えるような口調とともに桃色の影がひらりと降りてきた。イオンの前で一度立ち止まってぺこりとお辞儀し、ジェイドの前に駆け寄っていく。黒髪のツインテールの少女———こちらも昨日エンゲーブで会った子だ。

 

「実はですね」

 と、ジェイドは膝をつき、アニスと呼んだ少女に声を落として「極秘報告がありまして」と切り出した。その途端はたと何かに気づいたように、目を丸くしたリンクがくるりと離れて行くのを視界の端に捉える。

 

———ふむ やはり耳は良いようですね。では村でのことも訳ありでしょうか。

 

 ルークとティアの元へ離れて行くミドリの背中を横目に、ひとつ確認を済ませたジェイド。別の話をする傍ら、本当に頼みたいことを記しておいたメモをアニスに手渡した。

 ふむふむと頷きながら、アニスがさりげなくメモを受け取り中身をさっと確認する。

「わかりましたけどぉ〜 そのかわり、 イオン様のこと しっかり見張っててくださいね?」

「もちろんです」

 口を尖らせる少女に口元だけで微笑み肩をすくめて見せる。

 メモをしまったアニスは去り際に再びイオンの前でぺこりと一礼し、そのまま足早に去っていった。去って行くその背中を見送ったジェイドは立ち上がり、未だその場に腰を縫いつけたままのルークの元へ歩み寄っていった。

 ルークの ため息のような声が聞こえる。

 

「なんか 後味悪りィな・・・」

 ルークの視線の先にはライガの卵。

 どれも先程の戦闘の余波を受け、割れてしまっている。

 

「やさしいのね」

 

 ティアの声に弾かれるように顔を上げたルークは、彼女の物言いたげなアイスブルーの瞳と目が合った。

「それとも、甘いのかしら」

 ルークの顔がぎゅっとゆがむ。

「冷血な女だな!」

 

 そう吐き捨て、フイと視線を元の位置に戻そうとして———割れた卵が目に入ってさらに目を背けた。

 ジェイドが揶揄うように声をかける。もちろんワザとだ。

「おやおや 痴話喧嘩ですか?」

「誰がだ!」

「カーティス大佐! 私たちはそんな関係ではありません」

 それにムキになって言い返すと、ティアもまた完全否定で言葉を返した。

 その反応にルークの心に謎の棘が刺さり、訳が分からずイラつく。

「冗談ですよ」

 ジェイドがおどけてみせる。

「私のことはジェイドとお呼びください———ファミリーネームの方には、あまり馴染みがないものですから」

 そうして人差し指で眼鏡の位置を治し、近寄ってきていたイオンを見据える。

「それよりも———イオン様」

 

 イオンはジェイドと目が合うと、その場で立ち止まりすまなそうに目を伏せた。

「すみません、ジェイド。勝手なことをしました・・・」

「貴方らしくありませんね。悪いことと解っていながらこんなことをするなんて」

 ジェイドは腕を組み自分よりも一回りも歳の離れた少年に向き直った。

「ですが、チーグルはローレライ教団の象徴。彼らのことは僕が解決しなくては、と」

 そう述べるイオンの顔色は心なしか悪い。

「そのために能力を使いましたね?医者から止められていたでしょう———しかも、民間人を巻き込んだ」

「すみません・・・」

 厳しく追求するジェイドの言葉に、徐々に力無く肩を落としていくイオン。

 そんな会話にルークの心に新たにイライラが沸く。そのままその衝動をぶつけるように声を上げた。

「おい」

 

 ここにいる人数分の視線を受けながら、俯いたまま吐き捨てた。

「そいつ、あやまってんだろ! いつまでもネチネチ言ってねーで、いい加減許してやれよ、オッサン」

 ジェイドはふむ、と興味深そうに座り込んだルークの背中を見つめた。

「おや、巻き込まれたことを愚痴るかと思っていたのですが———意外ですね」

 

———ホントに意外だわ。

 

 ジェイド同様、ティアもまたルークの言葉に驚いていた。割れたライガの卵を見て、彼がこぼした言葉に彼女は「甘い」と突き放したが、イオンの言う通り、もしかしたら本来の彼はやさしいのかもしれない。

「まぁ 時間もありませんし、このくらいにしましょう———ではイオン様、行きましょうか」

「だめですの!長老さまに報告するですの!」

 先を促すジェイドに、イオンに抱かれたまま成り行きを見ていたミュウが、朗らかな声をあげる。

「チーグルが、人の言葉を?」

「ソーサラーリングの力です」

 メガネを押し上げてミュウを見つめるジェイドに、イオンが説明する。

「ジェイド、そういう訳なので少しだけ寄り道しても構いませんか?」

「・・・仕方ありませんね」

 困ったように眉を下げ首を傾けるイオンに、ジェイドは根負けしたかのように肩をすくめて了解した。

 

「ルーク、さっきはありがとう———あともう少しだけ、お付き合いしていただけませんか?」

「しゃあねぇな、乗りかかった船だ」

 イオンとルークのやりとりを背景に、ティアは未だぼんやりとライガの卵を見つめて突っ立っているリンクに気づく。パンパンとズボンを叩きながら立ち上がったルークに目もくれない。

 内心「あら?」と不思議に思いつつ、ティアは再び声をかけた。

「リンク? 行くわよ」

「———倒した魔物のことなんて・・・考えたことなかったなぁ」

 

 ぽつりと息を吐くように漏れた声。リンクまで何を甘いことをと考えて、先程のルークのことだと気がついた。

「倒すことで頭がいっぱいだったから、ルークみたいに考えたこともなかった———ルークは すごいや」

 その背中は、ティアには何だか幼いこどものように見えた。

 ジェイドの厳しい声がかかる。

「当然のことではないですか。命のやりとりの中です———そんな考えでは、生き残れない」

 そこで一旦区切り、ワザとらしく肩をすくめてみせる。

「貴方はその辺を わかっていると思ったのですがねぇ?」

 からかうような口調に、振り返って向けられた空色は、驚くほど澄んでいた。

「うん。 だから、いいなって思えるんだ」

 次いで向けられた笑顔はどこか傷ついたように儚げで。無邪気な笑顔ばかりを見ていたティアの心がつきりと軋む。しかし次の瞬間いつもの屈託のない笑顔に戻ると、リンクはイオンとルークの後を追いかけていった。

 ティアとジェイド、ふたりを残して。

 

「ふむ、戦闘時とはずいぶん違いますね。まだまだ若そうなのに、意外です———そう思いませんか?」

 メガネを上げてへらりと笑い、ティアに同意を求めるジェイド。

 彼女はハッと我に帰った。

「わ、私に聞かないでください!」

 思わず上げた声は少し裏返った。それでさらに居た堪れなくなった彼女は、きびきびと歩き出す。 そして悩む。

 

———私、 老けてるのかしら・・・

 

 

 

 

    * * *

 

 

 

 

 チーグルの棲家へと戻ってきた一行は、長老への報告のために一度全員で木の中に入っていった。話を終えてミュウを仲間に加えたところで、ルークの「そういやお前 誰か探してたんじゃねーのか?」の一声がかけられ。自分の目的を思い出したリンクがあわてて引き返す。先に行っててほしいと言われたので、通訳にミュウを残し、ルークたちは先に外へ出て待つことにしたのだった。

 

「いやはや本当に戦闘時とは別人ですねぇ」

 ジェイドが大仰に肩をすくめて見せるのを無視し、ルークは最初にここに来たときにリンクがやっていたように寝っ転がってみた。

 ざわざわと木の音がする。次いで水の音が聞こえてきて———森の中とはこんなに音であふれているのかと、屋敷の裏庭との違いにびっくりする。

 

———でもそんなに進んでやりてーって感じでもないよな。

 

 背中は意外とゴツゴツするし。

 ちょっと湿ってるし。

 

 やっぱりこんな森の中で ワクワクと目を輝かせるリンクの気持ちは、ルークにはさっぱり分からなかった。

 

 

「ハナシおわったよ。 ごめんな、待たせて」

 程なくしてリンクがミュウとともにチーグル族の棲家から出てくる声が聞こえてきた。がばっと体を起こすと、案の定さっきのリンクみたいに髪や服に葉っぱがついたらしい。何枚かハラハラと落ちてきたのを視界の端に捉えて眉を寄せた。舌打ちしつつズボンを叩いて服の裾をバサバサと払う。

 

「探し人は見つかりましたか?」

 こてんと首を傾げるイオンに、リンクはゆるゆると肩を落とした。

「うーん やっぱりここには来てないみたいだった」

「そうでしたか・・・心配ですね」

 イオンとリンクのふたりの間でしょんぼりと湿った空気を漂わせる。

「つーか、忘れてるとかどうなんだよ。大事な相棒なんだろ?」

 頭をがしがしと掻き回しながらルークは口を尖らせた。髪にも土がついていて眉間にシワが寄っていくのがわかる。もう二度としねぇ。

「ごめんごめん、ありがとな」

 

「用は済みましたか?」

 押し上げたメガネがきらりと光る。ジェイドだ。

 

「うん、もう大丈夫」

 リンクは頷いてそしてあらためてチーグルの棲家である大樹を見上げた。

「では そろそろ森を出ましょうか」

 ジェイドはそう言うやくるりと向きを変えて歩き出した。イオンが返事をし、ティアがそれに一歩遅れて歩きだす。

 その背中に取り残されたような感じがして。

「けっ リーダーぶりやがって」

 精一杯の悪態をついて歩き出した。

 

 とそこで内心「あれ?」と首を傾げる。誰か足りないような。

 

———リンクは?

 

「また来るよ」

 誰がいないか分かったところで何か聞こえた気がして、くるりと振り返る。きょとんとした顔のリンクと目が合った。

 

「なんか言ったか?」

 すると空色の瞳がまんまるになり、あたふたと明らかに慌てだす。

「なんでもないよ———そういえばジェイド さん」

「何でしょうか?———ああ、呼び捨てで結構ですよ」

 すたすたとルークを追い越したリンクは、長身のジェイドの元へ駆けていった。

 今のはルークにもわかる。話を逸らされた。

 

———なんだよ。おもしろくねー。

 

 ザクザクとムキになってふたりを追い越し、先頭のイオンのところまで前に出る。もう魔物はいなさそうだけど、念のためだ。

「さっき、アニスってヒトに何話してたんだ?」

 リンクがジェイドと並んで歩きながら話しかける。身長差で小走りになるリンクに、ジェイドは胡散臭く微笑んだ。

 ティアが弾かれたようにハッとこちらを向く。

 

———彼の聴力(このこと)はすでに彼女も知るところ というわけですか。

 

 おそらく昨日、村長の家でのあのときに知ったのだろう。

 そうと分かればと一層悪そうな笑みを深くして、からかうように返事をした。

「おや、聞こえていたんですか? 悪い人ですね」

「う・・・ごめん———でもなんか気になっちゃって」

 面白いように慌てる仕草にイタズラ心がくすぐられる。根はとことん『良い人』のようだ。これが戦闘時に豹変するのだから興味深い。

「まぁ 今話さなくてもすぐに判る事ですから、気にする必要はありませんよ。 おや———噂をすれば」

 押し上げられたメガネが光る。

 首を傾げるリンクが次の言葉を紡ぐ前に、元気な少女の声と足音が聞こえてきた———アニスだ。

 

「イオン様ぁ——! お帰りなさぁ〜い !」

 ブンブンと手を振り、元気いっぱいこちらの方へ駆けてくる。

 

「あれ あいつ、導師守護役(フォンマスターガーディアン)って奴だよな」

「はい、アニス・タトリンといいます」

 

 不意に足を止めたミドリの背中。

「おや どうしましたー?」

 瞬時に槍を手の内に出現させてその背中にピタリと合わせた。

「・・・オマエ、 わざとか」

 苦々しげに見上げてくる空色。ゆっくりと挙がっていくリンクの両手に、ジェイドは満足げに微笑んだ。ぐいっとミドリの背中を盾を背負うベルトごと掴み、その首筋に穂先を突きつける。

「ええ、下手に話を聞かれてしまっては面白くないですから」

「何の話だ? っておい!?」

 

 ルークは振り返って飛び込んできた光景に目を剥いた。リンクがジェイドに槍を突きつけられている。

「お前何やって———」

 駆け寄ろうとしたルークの耳に、ガチャガチャと金属同士のぶつかる音が聞こえてきた。ハッと振り返ると、ジェイドのものと似た青い軍服を着た兵士たちが、何人も駆け寄ってくるところだった。

 

「ご苦労様でした、アニス。 タルタロスは?」

 再びばっと振り返ると、イオンを背中にかばうように立つ少女がいる。

「ちゃんと森の前に来てますよぅ。 大佐が大急ぎでって言うから、ソッコーでがんばっちゃいました!」

 その手前———ルークとティアの目の前を、やって来た青い軍服の集団が壁のように立ち塞がっていく。あっという間に囲まれてしまった。逃げようにもリンクが捕まってしまっていて逃げられない。

 

「オレにだけずるい・・・」

 挙げていた両手を手際良く後ろに回されながら、口を尖らせるリンク。抵抗する間も無かった。

「いやぁ 貴方が一番厄介でしたからね。何時バレやしないかとヒヤヒヤしていましたよ」

「ウソつけ」

 こどものようなリンクの態度ににっこりと微笑んだジェイドは、そのまま「さて」と顔を上げると、キリと眉を釣り上げた。

 その表情の変化にルークの肩がびくんっと揺れる。

 

「この3人を拘束しなさい! 正体不明の第七音素(セブンスフォニム)を放出していたのは彼らです!」

 

「ジェイド、3人に乱暴なことは———」

 兵士たちの向こうでイオンがアニスの後ろから身を乗り出そうとしているのが見える。

「ご安心ください、イオン様。何も殺そうというつもりではありませんから———3人が抵抗しなければ、の話ですがね」

 ニヤリとルークとティアを見るジェイド。その槍先を向けられたまま、リンクが真っ先に拘束されていく。

「おい、どういうことだよ! 何でリンクを———説明しろ!」

「動くな!」

 

 槍先がぐっとリンクの喉元に近づく。駆け寄ろうとしたルークの足が止まった。さらに行く手を遮るように兵士が回り込んでくる。

 すっかり囲まれた。

 

「ルーク、抵抗は無駄よ。 ここは従いましょう」

 ティアが持っていた杖を手放し、両手を上げた。カランと地面に転がる杖。ルークはそれらを眉間に皺を寄せて一瞥した。

「わかったよ」

 舌打ちとともに彼女に倣って剣を手放し、両手を上げる。

 すぐに兵士たちが寄ってきて後ろ手に縛り上げていった。

 一連の様子を満足そうに見届けるメガネの下の赤い瞳。

 

「いい子ですね———連行せよ!」

 ジェイドの号令で兵士たちが歩き出す。

 それに続くジェイド。アニスとイオンも隊列の後を歩きだす。

 

 拘束した3人を連れて———

 

 

 

 

 




バトルって難しい・・・!

二次創作読みたい熱が再燃しました。お久しぶりの投稿です。
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