難しい事は何も考えるな。良いね?
「ーー種火に味をつけるというのはどうでしょう?」
「……また、英霊の方が変な事言い出したよ」
此処はカルデア。人理修復が終わったと思ったらあれよあれよと人理漂白が始まり、もう凡人の俺にはよく分からない事に対処する事となった組織。俺はそこで英霊達に与えられる霊基強化素材『種火』を管理しているだけの魔術師崩れだ。
種火を管理してるだけあって英霊の方々とはそれなりに面識がある。が、ここまで飛んだ提案を貰ったのは初めてだ。
「一応聞きますけど…不満なんですかね?」
俺の言葉を聞くが早いかぐいっと近寄ってくる此度の英霊、名をアルトリア・キャスター。
何故かクラス名が名前になってるお方だ。そう、アルトリアと言えば厨房スタッフ達を悲鳴のどん底に叩き落とす英霊の系譜だ。今は料理が出来る英霊達が手伝ってくれるし、紅い弓兵がアルトリアさん達をやんわり止めてくれるから悲鳴が上がる率は下がっているらしい。種火担当の俺にはあんまり関係ない事だ。まさか味付けを頼まれるなんて思わなかったから。
「……不満という訳ではないのですが、甘味とか食感とかあると……とても……」
ゆっくりと視線をずらしていき、声がすぼんでいく。は?可愛いか?
本題からズレた。種火に食感か……無理かと言われれば無理じゃない気がする。戦闘シミュレーターで遭遇するエネミーが落とし、英霊の霊基を強化するもの。先々代の所長がまだ生きていた時に設定していないのに現れるバグの様な形で遭遇した。しかし、こっちに被害を出す訳じゃないし絶対現れるものでもなかったから技術班はデミ・サーヴァントの方にかかりっきりになってたんだけど。その結果、まさか今になって頼みの綱になるとは。
「一つだけ確認なんですけど、アルトリア・キャスターさんって直接食べてるんですか?」
「あれってそういうものではないのですか?」
oh驚くべきイギリス文化。
一応、種火は魔力の塊に変化する方法と直接食べる方法の二択がある。前者は人の英霊がよく選び、後者は獣の様な英霊が選ぶ。それぞれにあった形で強化するのが一番良い。前者であれば魔力の塊に変換する時にちょっと弄って味のデータを混ぜれば良いが、後者だと直接味付けする必要がある。しかし、英霊の霊基を強化するに足る神秘を秘めた種火をどうやって調理すべきか……あっ!
「可能性を見出したので厨房でお待ち下さい」
「本当ですか!!はい、はい、では待ってますのでお願いします♪」
楽しみで堪らないと言った感じの表情と言葉でアルトリア・キャスターさんが歩き去っていく。いちいちフルネームを出すのも面倒だなキャストリアさんと内心では呼ぼう。さてと、とりあえず適当に種火を取り出して……
『………』
「調理されるとは思ってないよなぁ…こいつも」
やけに大人しい何処となく観念した感じの種火をカゴに入れ、持ち運ぶ。時間帯がズレてるお陰で厨房への道中には人通りが少ない。
それでも僅かにウロウロしている職員や英霊の皆さん達に種火を運んでる姿を見られギョッとされる。まぁ、まずもって運ばないからねこれ。食堂へたどり着くと変わらずウキウキした様子の……いつの間にか学生っぽい霊基に着替えている。王様姿ではしゃぐと恥ずかしかったのだろうか?
「あ、来ましたね!」
「今から調理しますからまってて下さいね」
食堂にはキャストリアさん以外には居ない。だが、きっとあの人が厨房にいるはずだ。
「やはり居ましたね。エミヤさん」
「む?………かの王様が突然来たから何かと思っていたが、貴方が仕込んでいたのか。
それで?まさかその手に持つ種火を調理しようみたいなふざけた話じゃないだろうね」
「そのふざけた提案です。貴方ならこれを切れる包丁とか投影できるでしょう?」
「…なんでさ」
貴方の気持ちはよく分かる。でも、俺も貴方を頼るしかないんです。包丁サイズで神秘を込めた物を自由に作れる貴方が頼りなんですよ。
顔を覆い隠すように手を顔に当てながら天井を見上げるエミヤさん。呆れたように溜息を吐いた後、小さくトレース・オンと呟き、左手にそこそこの神秘を宿した誰かの宝具でも小さくしたのだろうか?綺麗な包丁が握られていた。
「…自分で切るんだろう?私がやっても良いが」
「料理なら確かに貴方に頼んだ方が正しいんですけど…作業を上手く説明できる気がしないので自分でやります。無茶な要求してしまってすみませんエミヤさん」
「別に構わないさ。少し料理の様子も見ても?」
「良いですよ」
包丁を受け取ってまな板の上に種火を置く。………シュールだなこの光景。隣のエミヤさんも引き攣った笑みを浮かべている。
ほんと正気じゃないよキャストリアさん。これを食ってるんだから……とりあえず種火全体をよく見る。種火の管理を任されている身なので鮮度やダメージ度合いをよく見定める為の観察眼が養われた。こんなスキル何に役に立つのかと思ってたけど、種火料理なんてジャンルで使えるとは。うん、人生ってよく分かんないな(現実逃避)
「…まずはランクが下がらない様に……それでいて味付けする余裕が出来る程度に傷つける…」
種火はその傷つき度合いでランクが決まる。元々の強さもあるが、上手いこと倒せれば本来より上のランクで手に入る。とはいえ、普通に上のランクの種火を倒すのが効率的だ。話がズレたが、必要以上に種火を傷付けるとランクが下がってしまう。それではキャストリアさんに申し訳ない。初めて使う包丁だけど、エミヤさんのお陰で手に馴染む。あの人の事だから俺の手を見てサイズ調整したのだろう。
ゆっくりと種火の繊維を傷つけていく。神秘が薄れていく気配も無いからここまではまずはクリア。
「解れた繊維に馴染む様に調味料をかけて……じっくりと魔力を流しながら揉んでいく……」
固いのか柔らかいのかなんとも分かりづらい感覚を両手で感じながら胡椒や塩を塗り込んでいく。俺の魔力を流しつつ揉む事で種火の神秘を必要以上に落とさずに味付けをする。揉んで……揉んで……揉んで……5分くらい揉み続け全体に塩胡椒が行き渡った所で手を止める。
揉んでいて気がついたが、直接食べるには固い部位がある。根元や尖端部分が特に固い。
「…切り捨て……いや、とりあえず切り取るか」
根元を切り落とし、先端の光輝いてる部分を取って根元と一緒にミキサーにかける。
っとその前にこの包丁で傷つけておかないと……よしっ、これで良いだろう。ミキサーに放り込んでスイッチを押す。ガリガリと音を立てながら粉になるまで待つ。しばらくして粉になったそれを取り出し、ワサビと生姜を加えて混ぜる。
出来た特製の粉を種火に薄く塗る。元々同じ素材だからか切り取った事で少々、薄まった神秘が補填されていく。フライパンに薄く油を塗って温める。手をかざし十分に熱を感じるほど温まったら火を中火程度にし種火を置く。
ジュゥゥゥ…っという気持ちの良い音を立てる。うんうん、良い音だ。
普通の肉とそんなに変わらない調理方法を試していたが上手くいった様だ。ほんと。俺の一族が同化に関して長けていて良かったよ。じゃなきゃ種火の神秘を上手く誤魔化したり自分の魔力で補填とか出来なかっただろうし。
焦げないうちにひっくり返す。少し不思議な匂いが台所に流れるが思っていたより悪くない。火を弱め蓋をし全体に熱を通す。待ち時間を利用して、種火に食感を与える為の準備に移る。何故かある人間の食感データの中から肉を選び、抽出する。特殊なUSBメモリに保存し作業を終える。
「焼けたぞ」
「っと、すみません」
エミヤさんがいつの間にか取り出してくれていた。流石はカルデアの調理担当、抜け目ないな。
お皿の上に置かれた種火ステーキ(仮)にUSBを突き立てる。このUSBメモリは暇つぶしに作った魔術道具。刺さった瞬間から内部に保存されたデータを刺さった対象に送り込み同化させるもの。ごっそり俺の魔力を持っていくから使いたくないんだけど。
「よしっ……出来た。エミヤさん、ナイフとフォークを」
「言われると思って準備してあるとも」
「流石です」
とても正気とは思えない見た目がグロテスクな種火ステーキをキャストリアさんの前へと運んでいく。
「どうぞ。初の試みなんで雑ですがステーキ風に仕上げてみました」
「わぁ、ありがとうございます!とても美味しそうです!」
美味しそう……には見えないと思うが。想像してみて欲しい種火がいい感じの焼き色で皿の上にある図を。
誰がこれを美味しそうと捉えるのか。内心で呆れている俺を他所にキャストリアさんがナイフを種火に通していく。スゥゥっと切れていく様子を見ていて調理が上手く行った様で安心する。切られた肉片?をフォークで突き刺し口に運ぶ。
彼女が咀嚼してる間、妙な緊張感が流れる。
「……んっ……美味しいです!!ちゃんと魔力も感じますよ!」
ニコニコした様子のキャストリアさんの言葉に安心する。
そっと胸を撫で下ろしている間もステーキを凄い勢いで食べていくキャストリアさん。ずっとニコニコしているから本当に美味しいのだろう。やがてステーキは全て彼女のお腹の中に収まる。
「はぁ……美味しかったぁ……」
「良かったです。物足りないかもしれないですけど、これ調理方法が特殊なので1日1回か出来て、2回です」
俺がもっと研鑽を積んでいれば回数も増やせたと思うが魔術師崩れの俺じゃこれが限界だ。
「い、いえ!大丈夫です。その……今度はデザートとか頼んでも良いですか?」
良いですよと答えれば嬉しそうに微笑みながらぴょんぴょん跳ねるキャストリアさん。
ほんと、種火に味付けとか正気じゃねぇな!?……成し遂げた俺も同類か。
気が向いたら感想とか頂戴な!
あ、無いと思うけどこんな料理見たいとかあれば活動報告の方に用意しとくから教えて。気が向いたら書くよ。