カナエととら   作:ぶんた

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飛騨にて 其ノ伍

 結局。カナエの準備が整った時にはとっぷり夜になっていた。

 

「ずいぶん疲れているようだが、準備はできたのか?」

「す、すいません……。任務に支障はありません」

 

 鬼殺隊の正装のカナエの前の十郎は、和服を着た人の姿だった。

 のんびりとした十郎に、カナエは小さくなる。

 

「さて。昼のうちに見回っている。それらしいところを回ってみるか」

「あっ!すいませんっ……」

 

 事前調査をさぼっていた事に気付き、カナエは真っ赤になって頭を下げた。

 

「いや。かがりと立ち合いをしたのだろう?礼をいわせてくれ」

「えっ?」

「我らはずいぶん兄弟だけで過ごしているからな。かがりには、そうしてじゃれ合う相手も居なかったのだ。ずいぶん機嫌もよさそうだった」

「……いえ。こちらこそ、とてもためになりました」

「そうか」

 

 頭を下げるカナエを、十郎は優しく見やる。

 

「さて。いこう」

 

 カナエは小さく頷いた。

 

 

*****

 

 

「おまえが、はぐれか?」

 

 うろうろと山をさ迷う血泥に声が掛けられた。

 

「あ、あ?」

 

 その不機嫌そうな男の視線の先には、二人の人物。端正な顔の和服を纏った男と、やはり美貌の白い羽織の女。

 

「んん?」

 

 血泥は眉をひそめる。白い羽織の下は黒い詰襟に、帯刀。背中の槍はともかく、鬼殺隊に間違いなさそうだ。

 

「あー。おれの名は血泥っていうのさ。できれば名を聞かせてくれ」

 

 おとなしく名乗る血泥に、十郎とカナエは視線を交わす。

 

「オレは十郎。この山の主よ」

「私は胡蝶カナエ。あなたのような鬼を狩るものです」

 

 礼儀正しい二人は、名乗り返した。その返答に血泥が目を見開く。

 

「お、おい!そっちの女!お前、鬼殺隊かよ?!」

「はい。花柱となります」

「ま、まじかよっ……!」

 

 夢にまで見たご馳走の出現に、血泥は震えた!

 

「はっ!ははっ!ははははは!」

 

 体をのけ反らせ哄笑する男をどうしたものかと、二人は視線を交わし首を傾げる。

 

「あーいや。悪い悪い。なんかずいぶん運がいいようでな!」

 

 まさかの夢想していた柱出現の棚ぼたに、血泥の笑いは止まらない。

 

「ふうん、よかったな。では死ね」

 

 十郎の手から生えた鎌が、さくり!と血泥を切断。どしゃりと体は崩れ去る。

 だが。

 

「あっは!無駄よ!俺は泥なのよ!」

 

 崩れ落ちた肉塊から、どろどろと血泥は得意絶頂に再生した。

 眉をよせた十郎が、手を動かす。

 

 ぎょぎょん!

 

 一瞬の出来事。縦横無尽に切り裂かれ、血泥は再びどしゃりと崩れ落ちるものの、またもりもりと復活を果たす。

 

「!」

 

 それだけではない。十郎の鎌に付着した泥が、めりめりと増殖し、その鎌を汚染しだしたのだ。

 

 かきん!

 

 甲高い音を立て、汚染された鎌が十郎から切断され、中を舞う。

 カナエの一刀によるものだった。

 

「やっかいな相手のようです。私が代わります」

 

 カナエが十郎に静かに声を掛け、すすすと前に出た。

 

「おまえが鬼殺隊、女の柱かよう!会いたかったぜぇ!」

 

 血泥は顔をゆがめて哄笑した!

 

「……」

 

 対峙するカナエは無表情。日輪刀を鞘に納め、無防備にするすると血泥に近寄る。

 

「おまえを食って、十二鬼月に俺はなる!」

 

 欲望満面に血泥は、近寄るカナエに躍りかかり。止まった。

 

「ごめんなさい。それはかないません」

 

 かちりと小さな鍔鳴り。カナエは血泥に背を向ける。

 

 ずるり。

 

 血泥の首が横にずれ、そのままどしゃりと落ちた。

 カナエが抜刀からの一閃で鬼の頸を斬り捨てたのだった。

 

「花の呼吸。漆ノ型 寒椿」

 

 カナエは静に呟く。

 十郎とバケモノは、その見事な居合に目を見開いた。

 

「……おい」

「はい。なんでしょう?」

 

 バケモノがカナエに声を掛けた。カナエは首を傾げる。

 

「今の奴は、おまえの敵だよな?」

「はい」

「どうみてもクズだった」

「そ、そうですね」

「死んでもしかたないやつだったな」

「え、ええ……」

 

 バケモノの問いかけに、カナエは視線を下げる。

 

「じゃあ、なんでおまえはかなしんでいるのよ」

「!」

 

 金色のバケモノの問いかけに、カナエは顔を歪めた。

 

 日中の稽古では、戦闘行動にそれはもう活き活きとしていた。

 それが、なぜ?バケモノは気になったのだ。

 あの時。本気のコイツなら、鬣を跳び越すこともなかったはずだ。わざわざリスクをとって飛び込んできた。

 鎌鼬の娘とも、よっぽど楽しそうに稽古をしていた。そういった戦闘狂なのかと思ったのだが……。

 

「い、いえ。なんでもありません。ですが……」

「?」

「……もう!ほんとに、敵わない方ですね!」

 

 隠していたはずの心情を見透かされ、気恥ずかしさに頬を染める。涙目のカナエは唇を震わせ、バケモノを睨む。

 

「?」

 

 ――わからん。

 

 バケモノはカナエをまじまじと見つめた。

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