「お、おい。なにかおかしいぞ」
「えっ!」
十郎の視線の先。血泥と名乗った鬼の死体。それがぶくぶくと泡立ち始めたのだ。その泥から様々な手やら足やらが生えては、ぐしゃりと潰れる。
「日輪刀で首を刎ねたのに、死なない?」
「いや。そいつはたぶん死んでいる」
十郎が目を細めた。
「そいつは妖を食ったのだ。取り込まれた妖の体が暴走しているのだろう」
それはどろどろと増殖し、周りの木々を枯らし始める。
「俺の庭を……!」
十郎が怒りに震えた。カナエは眉をよせその横顔を見つつ、考えを巡らせる。
こうして完全な粘体となってしまうと、日輪刀での対処は難しそうだ。十郎の鎌は迅さ、鋭さ共に凄まじいものだが、やはり相性が悪い。そうなると……。
「ちっ!わしはやらんぞ?」
カナエの視線を受け、バケモノは顔をしかめた。
「ああもう!鬱陶しい!その顔をやめろ!」
眉をよせ、唇をふるふると震わせて上目遣いに見つめるカナエからの圧に、バケモノは苛立つ。
「くそっ!」
びしゃん!
視界が青く染まる!粘体に特大の雷が落とされたのだ。
「やはり雷ではいまいちか。炎なら効きそうなんだが……」
「やめてくれ!こんなところで炎を使われても、消火できん!」
「しかしこのままだと、それが増殖して腐るだけだ。焼野原か、腐り落ちるかえらべ」
残酷なバケモノの二択に、十郎が唇を噛む。
――どうすれば。
十郎の大きな悲しみを感じ、カナエの心も押し潰されそうだ。
その時。
きいぃぃん……!
不思議な音にカナエは気づく。目を瞬かせ、その音を発するものに視線を向ける。
――獣の槍。
小さく震えながら、不思議な音を発していた。
『我は獣の槍。我はかの大妖怪討つために生まれた。我が「力」はお前の魂!奴を討つためには「力」――おまえの魂が必要。おまえが魂をくれるなら、我はおまえを助けてやろう』
「助けてくれるの?おねがいね」
カナエは目を閉じ、獣の槍を手にする。腰までの髪がさらに伸び、わさわさと波立ち始める。開かれた瞳は異形のものだった。
「お、おいっ!」
カナエの異形化に、バケモノと十郎は息をのむ。
「コレを空に飛ばします。そこで燃やしてください」
「は?こんなのどうするんだ?」
「こうします」
どすり!
無造作に獣の槍を粘体を刺し、ぐりぐりと高速でかき回し一つにまとめる。
「てえい!」
そしてそのまま空中高く放り上げた!
「でたらめなっ!」
「けっ。それが獣の槍なのよ」
十郎は驚愕に目を見開いた。バケモノは忌々し気に目を細め、空中の粘体に向かって炎を吐く!
炎にあぶられ小さくなるそれを追い、カナエは跳躍する。
「花の呼吸。伍ノ型・改 徒の芍薬」
九連撃を叩き込む技だが、超人化したカナエは縦横無尽に技を重ね、それを斬り刻み消滅させた!
着地したカナエから超人化の証である髪が抜ける。ふうと息を吐く。
「なんとか、なりましたね。ありがとうございます。バケモノ様」
――それと獣の槍。
「助かったぞ!カナエ!礼を言わせてくれ!」
「けっ」
嬉しそうに目を細める十郎と、つまらなそうにそっぽを向くバケモノ。
「はふっ……」
カナエは欠伸を漏らしつつ、微笑み返した。
ねるねるねるね-!
てれってれー!