カナエととら   作:ぶんた

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飛騨にて 其ノ陸

「お、おい。なにかおかしいぞ」

「えっ!」

 

 十郎の視線の先。血泥と名乗った鬼の死体。それがぶくぶくと泡立ち始めたのだ。その泥から様々な手やら足やらが生えては、ぐしゃりと潰れる。

 

「日輪刀で首を刎ねたのに、死なない?」

「いや。そいつはたぶん死んでいる」

 

 十郎が目を細めた。

 

「そいつは妖を食ったのだ。取り込まれた妖の体が暴走しているのだろう」

 

 それはどろどろと増殖し、周りの木々を枯らし始める。

 

「俺の庭を……!」

 

 十郎が怒りに震えた。カナエは眉をよせその横顔を見つつ、考えを巡らせる。

 こうして完全な粘体となってしまうと、日輪刀での対処は難しそうだ。十郎の鎌は迅さ、鋭さ共に凄まじいものだが、やはり相性が悪い。そうなると……。

 

「ちっ!わしはやらんぞ?」

 

 カナエの視線を受け、バケモノは顔をしかめた。

 

「ああもう!鬱陶しい!その顔をやめろ!」

 

 眉をよせ、唇をふるふると震わせて上目遣いに見つめるカナエからの圧に、バケモノは苛立つ。

 

「くそっ!」

 

 びしゃん!

 

 視界が青く染まる!粘体に特大の雷が落とされたのだ。

 

「やはり雷ではいまいちか。炎なら効きそうなんだが……」

「やめてくれ!こんなところで炎を使われても、消火できん!」

「しかしこのままだと、それが増殖して腐るだけだ。焼野原か、腐り落ちるかえらべ」

 

 残酷なバケモノの二択に、十郎が唇を噛む。

 

 ――どうすれば。

 十郎の大きな悲しみを感じ、カナエの心も押し潰されそうだ。

 

 その時。 

 

 きいぃぃん……!

 

 不思議な音にカナエは気づく。目を瞬かせ、その音を発するものに視線を向ける。

 

 ――獣の槍。

 小さく震えながら、不思議な音を発していた。

 

『我は獣の槍。我はかの大妖怪討つために生まれた。我が「力」はお前の魂!奴を討つためには「力」――おまえの魂が必要。おまえが魂をくれるなら、我はおまえを助けてやろう』

 

「助けてくれるの?おねがいね」

 

 カナエは目を閉じ、獣の槍を手にする。腰までの髪がさらに伸び、わさわさと波立ち始める。開かれた瞳は異形のものだった。

 

「お、おいっ!」

 

 カナエの異形化に、バケモノと十郎は息をのむ。

 

「コレを空に飛ばします。そこで燃やしてください」

「は?こんなのどうするんだ?」

「こうします」

 

 どすり!

 

 無造作に獣の槍を粘体を刺し、ぐりぐりと高速でかき回し一つにまとめる。

 

「てえい!」

 

 そしてそのまま空中高く放り上げた!

 

「でたらめなっ!」

「けっ。それが獣の槍なのよ」

 

 十郎は驚愕に目を見開いた。バケモノは忌々し気に目を細め、空中の粘体に向かって炎を吐く!

 炎にあぶられ小さくなるそれを追い、カナエは跳躍する。

 

「花の呼吸。伍ノ型・改 徒の芍薬」

 

 九連撃を叩き込む技だが、超人化したカナエは縦横無尽に技を重ね、それを斬り刻み消滅させた!

 

 着地したカナエから超人化の証である髪が抜ける。ふうと息を吐く。

 

「なんとか、なりましたね。ありがとうございます。バケモノ様」

 

 ――それと獣の槍。

 

「助かったぞ!カナエ!礼を言わせてくれ!」

「けっ」

 

 嬉しそうに目を細める十郎と、つまらなそうにそっぽを向くバケモノ。

 

「はふっ……」

 

 カナエは欠伸を漏らしつつ、微笑み返した。




 ねるねるねるね-!
 てれってれー!
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