山を管理する一族の屋敷は、そわそわしていた。
ふらふらと来訪したお柱様が朝になっても起きてこないのだ。外傷はなかったし、問題ないとはいっていた。とはいえ、寝すぎではなかろうか?そうしてじりじりと昼になった時だった。
「カナエ!カナエは居る?」
屋敷に若い娘が飛び込んできたのだ。近隣で見た覚えのない、髪の長い美しい娘だった。
「お柱様を守れ!」
「カナエは居るの?会わせて!」
娘は侵入を阻止する相手の尽くを投げ飛ばしながら、ずんずんと奥へ進む。
「カナエ!お願い!返事をしてよ!」
娘――かがりが懸命に叫ぶ。疲れて寝てるのなら、すぐ起きてくれないかもしれない。でも、叫ばずにはいられなかった。
「カナエ!カナエーッ!」
かがりの進む先。すっと襖が開き、寝巻姿のカナエが飛び出してきた。
「かがりさん。如何なさいました?」
「カナエ!お願い!一緒に来て!」
「わかりました」
飛びついてきたかがりを抱き留め、カナエは安心するようにと頷いた。
*****
「なるほど」
カナエはかがりの話を聞きながら、身支度を整える。
「奴は鬼ですから日中は動きません。落ち着いて、ね?」
「もうお昼過ぎじゃない!」
「日が落ちる前には、十郎さんと落ち合えると思いますから」
それにどうやら鬼の目的はカナエのようだった。大人しくしているのは、脅威を感じて逃げられないようにではなかろうか。それはそれで、こちらとしてもありがたい。
問題は、液状の鬼の対処。物理耐性のある泥状態でも、日輪刀で首を斬り跳ねることはできる。だが本体でなければ今回のようないたちごっこになりかねない。ん?かまいたちだけに?くっ……!
「……?」
そんなカナエを見つつ、かがりは眉をよせる。
「こ、こほん。ともかく、とても厄介な状況だと思います。それだけの液状化だと、さすがのバケモノ様でも燃やしきるのは難しいでしょう」
「それは雷信兄さんが、あちこちに連絡をとってくれているみたい……」
「こちらの増援は、見込めないでしょうねぇ」
報告はお願いしているものの、鬼殺隊活動の拠点は関東になる。それ以外はまばらに、はぐれを狩る状況だ。下位隊員が来ても増援どころか、邪魔になりかねない。
それよりも。カナエは力なく座り込むかがりに視線をむけた。人間である自分に、鎌鼬らは本当によくしてくれた。立場が大きく違っていても仲良くしていけるという、カナエの理想を体現してくれた彼らの力になりたい。
「大丈夫だから、元気を出して。ね?」
「ん……」
カナエはやさしく声を掛けながら、かがりの頭を撫でた。
そうされていると、かがりは心が落ち着いてくるのを感じる。
だが平常心を取り戻すと、かがりは気恥ずかしくなってきた。これではまるで、カナエの妹みたいではないか。むぅ。かがりは頬を膨らませる。わたしのほうが年は上だし戦闘だって上なのに!
「よかった。少しは元気がでた?」
「むぅ」
上目遣いで頬を膨らませ、悔しさいっぱいのかがりが、カナエは可愛くてしかたない。妹が増えたみたいだ。
その視線が癪に障るのか、かがりはますます悔しがる。
「ちょっと、いひゃいよ?なんれ?」
「カナエのくせに生意気だから」
かがりはカナエの頬をつねりだしたのだ。そんな態度もますます可愛い。嬉しそうにつねられるカナエに、かがりの悔しさは増すばかりだった。
――暫し後。
「さて。では向かいましょうか」
鬼殺隊正装に白い羽織。背中に槍を背負ったカナエが、かがりに告げた。その頬は真っ赤になっていた。
*****
夕刻前。鎌鼬屋敷にカナエは到着した。
「カナエ。すまんな」
「いえ」
眉をよせる十郎に、カナエは小さく頷いた。
くぅー……。
その時カナエの腹が鳴る。一昼夜寝た後にこの場に馳せ参じたわけで。腹が減っては戦はできぬと、体からの要求だったのかもしれない。真っ赤になってお腹を押さえるカナエに、十郎は和んだのか笑顔をむけた。
「すまん。食事の準備をさせる」
「ぅ……。よろしくおねがいします。それと状況は、かがりに聞いています」
「そうか。あれだけのものを燃やすとなると、かなりの火妖でなければなるまい。この地は東にあたるが、西にも近い。雷信兄さんはどちらの頭にも文を送ったようだ」
妖怪にも東西の分けがあるんだ。なんて、カナエは興味深く思った。
「お前は奴に対する切り札だ。それは自覚しておいてくれ」
十郎の言葉に、カナエは頷いた。
「カナエ!お腹空いたの?しかたないわね!準備してあげるから」
「はい。ありがとう」
そっか。似てるのかな、しのぶに。なんやかやといって世話を焼いてくれるかがりに、最愛の妹の姿を重ねていた。
うしとらのかがりイメージと違和感あるかもですが、
カナエ生存によるしのぶにこにこ前のように、
かがりも逃亡生活前なので無邪気な末妹ムーブという設定
もちろん。十郎も闇落ち前モードです
だので。生粋の末妹vs生粋の姉という相性的に、こうなっちゃうかな?と思いましたん