カナエととら   作:ぶんた

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飛騨にて・重 其ノ肆

 夜。

 湖の色が紫に濁った。すると湖畔に幾つもの泥がもりもりと盛り上がり、蛙となる。それは体が形作られると、けたたましく鳴き始めた。

 

「やはり水辺からは離れんか」 

 

 はぐれは泥を媒介に様々な術を使うようだ。ならば当然、水辺を離れる事は無いだろう。

 すこしでも誘き出せればと、打合せ通りカナエが前にでる。

 

「おおお!逢いたかったぜぇ!」

 

 もりもりと人の姿になった血泥の顔が、歓喜に歪む。

 

「こんばんわ」

 

 熱烈な歓迎に表情を動かすことなく、カナエは挨拶だけはした。

 

「おいおい。つれなくすんなよ。前みたいにきてくれよ」

「あら。迎えに来てくれるくらいの度量が、殿方には必要だと思いますよ?」

 

 喚きたてる血泥をじらすように、カナエは首を傾げ髪を揺らす。

 

「おいおい。その分土地が腐るんだぜ?まぁそれでいいなら、そうしてやらぁ」

 

 その声とともに、蛙の群れが移動を開始する。するとその進行先上空に幾つもの炎が燃え上がった。

 頭髪が燃え上がる老婆の首は、姥ヶ火。青い炎に目玉が浮かぶのは天火。ふわふわ浮かぶ燃えるくらげはそのまま、くらげ火となる。それ以外にもカボチャ頭の妖など、多くの火妖が漂う。

 それぞれが一斉に炎を吐き、泥を炭化させる!

 

「ちっ。なんだなんだ?よってたかってよ」

 

 湖近くに再び出現した血泥は不機嫌そうにつぶやく。

 

「貴方は彼らの領域を穢し、怒らせたんです。残念ですが滅んでもらわねばなりません」

 

 カナエは血泥に静かに告げる。

 

「はっ。これだけの地の利があって負けるわけねえだろうが。お前こそ、大人しく食われればこいつらは勘弁してやるぜ?」

 

 血泥はあくまで強気。水辺に陣することで、無限に分体を造れる状態だからだ。カエルだけではない。巨大な顔や獣妖など、食われた妖の群れがもりもりと姿を無し、移動を開始する。それらは紫色の瘴気を吐き周りを汚染するのだ。

 

「汚らわしい。まったくもってまともとは思えん」

 

 宿儺は忌々しそうに顔を歪ませる。

 

「なんとかなりませんか?」

「なにもかにも、本体を押さえるしかなかろう?獣の槍でなんとかならんのか?」

「えっ。やってみます」

 

 カナエは獣の槍を石突を地につけ縦に構え、目を閉じ集中する。

 

「んーだめですね。妖だらけですし」

「役立たずめ」

「はぅ……」

 

 宿儺の一刀両断にカナエは肩を落とす。

 そうしている間にも、戦線は妖側に傾きつつあった。炎妖達の吐く炎によって泥の軍勢は湖へと押し込まれる。だが。

 

 びょゅ!

 

 水辺の蛙妖が泥を吐きだしたのだ。

 水と炎がぶつかることにより、場にもうもうと湯気が立つ。

 

「まずいな」

 

 宿儺が眉をよせる。視線の先、紫色の湯気だ。毒の泥水が焼かれることで、毒気が蔓延しだしたのだ。

 

「ええい、ちまちまめんどくせェ!儂が全部喰らってやるよゥ」

「あっ!」

 

 皆の驚く前で、四分守本体である坊主に絡みつく幾つもの巨大な蛇が、泥の蛙妖どもを喰らい薙ぎ払う!

 

「おお!流石、大喰らいで名高い蛇妖!西の大妖、四分守よッ!」

 

 周りの妖達が感嘆の視線の先、暴れまわっていた四分守がびくりと動きを止めた。

 

「うげーェ!」

「ああ……」

 

 一面蹴散らした後、すかさず嘔吐しだす四分守に、周りは視線を逸らす。

 毒の泥とか食べちゃ駄目だよ……。カナエも手を口に当てて心の中で呟いた。

 

「だが好機!」

 

 火妖達が一斉に炎を浴びせるものの。

 

「馬鹿なのか?これだけの水があるんだ。焼石に水だっての」

「まったくさね。だから西のは馬鹿なのさ」

「なにっ?!」

 

 火妖達の逆側に、幾つもの妖が浮かんでいた。

 白い髪と白い和服を着た女達。東の長が派遣した雪女達だった。

 

「朝霧姉」

「ああ。葵、指揮はたのむよ」

 

 老女の頷きに、長い髪を後ろでまとめた美女、葵は頷く。 

 

「では。東の長の命により加勢します。凍よ」

 

 びきびきっ!

 

 雪女達の妖力により、湖は音を立てて凍る。凍らせてしまえば泥として活用できまいという、東の妖の長、山ン本の采配だった。

 

「くそっ」

 

 前面の炎と後門の氷によって、逃げ道が狭まり血泥は焦りの表情を浮かべる。

 

「わー!」

「つまらん。とんだ雑魚に、おおげさなこった」

 

 協力する妖達に興奮するカナエの横で、退屈からか、つまらなそうにバケモノはあくびをしていた。

 

「このまま削って終わりだろ?そろそろやったか?」

「おい!お前、その旗立てをやめよ?」

「あん?」

 

 だらけるバケモノに、宿儺が苛立つ。

 

「おや?あれはなんでしょう?」 

 

 カナエの視線の先。遠い空、こちらに向かう影が現れた。

 

「むっ!あれはこの地の水神、夜叉姫。水龍だ」

「ええっ!」

 

 近寄るにつれ、その威容があらわとなる。碧い鱗を纏った堂々とした龍であった。

 

「おい!夜叉!落ち着け!」

「お知り合いなんですか?」

「ああ」

 

 龍に呼び掛ける宿儺に、カナエは目を丸くする。

 

「温厚なやつだから、問題はないはずだがな」

「それがウワサの旗立てか?」

 

 鼻くそをほじりながらつぶやくバケモノを宿儺が睨む。

 

「あ、ははっ!やっぱついてるわ!」

 

 追いつめられていた血泥が叫ぶ。

 上空に飛来した龍が、紫の湯気を存分に吸ってしまったのだ。




すっかり妖怪大戦争

※岐阜と福井県境にある「夜叉ヶ池」に、龍神伝説があるそうなんです。大体400あたりなそうなので、宿儺さんと絡ませてみました。「犬夜叉」「半妖の夜叉姫」は全然関係なし。スマヌ。
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