カナエととら   作:ぶんた

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幕間・其ノ一

 鬼舞辻無惨は違和感に眉をよせた。

 配下である鬼が斃された。だが、それに与えた自らの血液が変質、変容したのだ。消滅はしたようだが、今までに無かったことだ。

 

 さらに出現した気配に視線を向ける。誰も居ないはずのそこに、それが居た。

 古い中国風の着物の女児が正座していたのだ。ゆらゆらと円を描き漂う羽衣。長い黒髪と端正な白い顔。その大きな瞳には光なく、ぐるぐると濁り鬼舞辻を見上げる。

 

「なんだ貴様」

「……無礼をお許しください。お話があって参りました」

「何者だ。名乗れ」

「……白面と呼ばれています」

「貴様が……だと?」

 

 無惨は目を細める。

 

 白面の者。――八百年前。大陸からやってきて日本中を暴れまわり、妖怪と人間の連合軍に封じられた妖怪だったはずだ。

 当時産まれて間もなく力が小さかった無惨は、その闘いを避けていた。故に知識は乏しい。

 

「その貴様が私に何の用だ?」

「……貴方は自らの血で、人間を異形と化す。その血が多ければ多いほど強力な鬼になると伺いました」

「ああ。それがどうした?」

「……脆弱な人間が耐えられるわけもございません」

「なにが言いたい」

「……妖に試してみては?」

「妖だと?」

「……ええ。それと、配下が特別な人間を取り込んだ方が、貴方の力も増すのでしょう?とっておきの場所がありますよ?」

「何が目的だ」

「……お力になりたいだけです」

 

 女児はにまりと微笑んだ。無惨はそれを不機嫌そうにねめつける。上げた手がもりもりと盛り上がり、その肉塊でそのまま女児を押しつぶした!

 

「利用されるのは気に入らん」

「……無駄ですよ?思念体です」

 

 肉塊の下、潰れた床には先ほどまでと変わらぬ姿勢で、ゆらゆらと女児が座っていた。

 

「……獣の槍がぬかれたのです」

「獣の槍?」

「……全ての妖の天敵。妖器物、獣の槍。貴方をつけ狙っている産屋敷の私兵が手にしました。必ずや貴方に仇名す存在になるでしょう」

「貴様の目的はそれか」

 

 女児は小さく頷く。

 産屋敷なぞ敵ではないが、その執念はまったくもって鬱陶しいかぎりだ。

 無惨は不機嫌に顔を歪める。

 

「とりあえず、話は聞いてやる」

 

 女児は目を細め、頭を下げた。

 

 

*****

 

 

 夜。光覇明宗、総本山。上奥の院――竹臥庵。

 小さな一室で日崎御角は囲炉裏に向かって正座し、炎を眺めていた。

 ふと視線を上げれば、いつの間にか同じように囲炉裏を囲み正座する人物が居るのだった。

 小柄な体格の割りに、大きな禿げた頭部は後頭部が異様に目立つ。御角の視線を受けた老人の小さな目が御角に向けられる。

 

「お久しぶりですね」

 

 御角に微笑みかけられた老人は、軽く頷く。

 

「如何なさいました?貴方のことだから、昔話をしにきたわけでもないのでしょう?」

 

 御角は急須に茶葉を投入。鉄瓶の湯を注ぎ、静かに客人への茶の支度をしつつ問い掛けた。

 

「鬼舞辻無惨をご存じですか?」

 

 老人は御角に視線を向ける。

 

「ええ。かなり古くから存在する鬼の首魁ですね」

「それに白面が接触したようです」

「えっ!」

 

 老人に茶を差し出していた御角は、その言葉に目を見開いた。

 

「獣の槍がぬかれたため、やつも動いたのでしょう」

「どうしてそれを教えてくれるのですか?」

「……これを聞いてどうするかは貴女にお任せします」

 

 答えにならないような答えに、御角は泰然と茶を啜る老人を見つめる。

 

「……貴女が不審に思うのはわかります。私はわらわらと増え、我々妖の住処を奪いつつある人間どもを憎悪しています」

「……」

「ですが白面は自分を含めたこの世の全てを憎んでいます。日本を沈める事も躊躇しないでしょう。そうなれば困るのはお互い様です。それに」

 

 老人はお茶を一口含み、言葉を続ける。

 

「それに、私は貴女のことは認めているのです。吐いた甘さをいまだに引きずっている貴女をね」

「……」

 

 俯く御角に老人は大きく息を吐いた。

 

「白面が狙うは獣の槍。それと貴女でしょう」

 

 老人は茶の湯気で顎を湿らせつつ、静かに語る。

 

「獣の槍をぬいたのは鬼舞辻を狙う集団、産屋敷の者だとか。これを知れば、協力してくれるかもしれませんよ」

「…………」

「なんですか?」

「いえ、なんでもありません」

 

 なんだかんだといいつつ、古い馴染みの自分の事を気にかけてくれているのだろう。そう。本来この方はこうなのだ。人間に気付かれることなく、人間達に入り込み穏やかに見守る存在だった。数を増やし増長する人間に、この方はすっかり変わってしまったが。

 

「話はそれだけです。もう会うこともないでしょう。ご馳走様」

「っ!」

 

 御角が視線を上げたそこにはもう、老人の姿はなく。静かに囲炉裏の炭が小さく爆ぜる音だけがするのだった……。




→白面と老人(謎)の大物感がでてるといいのですけれど!
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