遠方からの家長の帰還に、蝶屋敷は華やいでいた。
神崎アオイが腕によりをかけて豪勢な料理が準備され、和やかな夕食となる。
「皆、留守をありがとうね。そんな皆にお土産があります!」
夕食後。満面の笑顔のカナエはいそいそと袋を漁りだす。
妹達はその言葉にびくりと肩を震わせ、そっと顔を逸らした。
「まず、可愛いもののすきなしのぶには、これです!」
カナエが取り出したものはこけしだった。ただのこけしではない。派手な青に塗られ、鹿のような角が付いている。その描かれた顔は、どう見ても苦悶に歪んでいた。
「………………」
特級呪物並みの禍々しさに触るのも戸惑うそれだが、愛しの姉が満面の笑みで差し出すならば、受け取るしかなかい……。
そうして。それぞれが禍々しいブツを手に視線を下げることとなった。
「喜んでもらえてよかったわ!」
勘違いの花満開に、カナエは微笑んだ。
*****
ふと、カナエが顔を上げる。笑顔は消えていた。
「しのぶ」
「ええ、姉さん」
同じく気配を感じ、しのぶも眉をよせる。
「しのぶ、おねがいね」
屋敷の守りを妹に託し、カナエは日輪刀を手に、襖を開け庭に出る。
そこには居たのは錫を持ち、笠を被った僧衣の集団だった。
「貴方達を招いた覚えはありません。無法を行うつもりならば、容赦しませんよ?」
カナエは視線を走らせる。
「おいおい。無法を働いたのはそっちだろうがよ」
僧達の後ろから、ひたすら巨漢の僧がゆっくりと現れた。岩のようないかつい顔。身長だけではない。鍛え上げられた肉体はどこも分厚い岩のような僧だ。その僧が圧を掛けてくるが、岩の中の岩、岩柱に比るべくもない。カナエは平然としていた。
「お前の盗んだ獣の槍を引き取りに来てやったんだぞ?」
「あっ!」
巨漢の言葉にカナエは目を見開き口元に手を当てる。
「すると貴方達は光覇明宗の……」
「そうよ」
光覇明宗は獣の槍を守っていた団体とのこと。その団体代表とお館様が話をつけてくれたと聞いてはいたが、やはり穏便にはいっていなかったようだ。
「それで貴方達は……」
「大人しく獣の槍を返せ。それで終わりよ」
「そちらの代表と、お話はついているはずです。おいたをすると、怒られますよ?」
「はっ!ふさわしいかどうかを試してやるんだ。褒められるだろうさ」
「なるほど。では、お断りすれば?」
「本意ではないが力づくだなァ。おまえら鬼殺隊だとかはよ。こういうの、好きなんだろ?」
岩僧のその言葉に、カナエは目を瞬かせた。
「ええ。大好きです」
にっこり微笑むカナエの笑顔に、おもわず岩の僧は目を丸くしてほんのり頬を染める。
「くっ!やっちまえ!」
「遠慮はなしでいいですよ?」
ゆらりと佇むカナエを囲むように位置どっていた僧達が一斉に飛び掛かった!
*****
「おい、お前!」
「あ?」
蝶屋敷近くの河原で呑気に浮かんでいたバケモノに声が掛けられた。
声の主は黒い短髪に、釣り目がちなため親しみやすさは下がるが端正な顔立ち。錫を持ち、僧衣を着た小柄な人物だった。
「なんでこんなところにお前みたいな大妖が居るんだよ」
「あ?そんなのこっちの勝手だろうが」
「あー。まあそうなんだけどな。見かけちまったらほっとくわけにもいかんしなぁ」
「ほっとけ。わしは今そういう気分ではないのよ」
「うーん」
小柄な僧は自分の髪をわしゃりとかき回しつつ暫し悩む。
「いや。やっぱだめだろ。のんびりしたいなら封印してやるからさ」
「やかましいやつだな。わしがおとなしくしてやってるうちに消えろ」
「お。やる気になったか?実は最近手ごたえのある相手とやりあえてなくてさ。お前くらいの大妖なら大歓迎なんだぜ?」
めんどくさそうなバケモノと対称に、小柄な僧は目を輝かせる。
「おい、だからそういう気分じゃないって……」
「それでお前の名は?」
「……ないね」
「そうか。まぁ憶えなくていい方が助かるか。でも、お前は憶えておいた方がいいぜ?お前を封印する者の名だしさ。法力僧、蒼月湖鏡。参る!」
湖鏡は錫杖を構え、臨戦態勢となった!
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