カナエを包囲する僧達は錫杖や独鈷といった得物を構え、じりじり包囲の輪を狭める。そして一斉に飛び掛かった!
カナエはするりと一人の僧に近寄り、自分に振り下ろされるその腕にそっと手添える。その手をくるりと返すことにより、攻撃の勢いを利用してそのまま投げ飛ばした!
――当て身投げ!
攻撃相手の力を受け流し、そのまま利用し投げ飛ばす!日本古武術、合気の技となる。
後の先。カウンターを真髄とする花の呼吸の柱であるカナエになじんだ技であった。
「くそっ!」
僧達は四方から同時に飛びかかる!だが、後方視覚外から襲い掛かる僧達をも、そうしてことごとく投げ飛ばす!
「さすが姉さん!」
足捌きと最小限の動きでもって僧達をいなす。ゆらゆらと風に揺れる花のようなカナエの姿に妹達は憧憬の視線を注ぐ。
その次元の違う動きに、ある僧は息を呑み、ある僧は目を見開き、ある僧は見惚れていた。
*****
「最近手ごたえのある相手がいなくってよ!さあ、存分にやろうぜ!降りてこいや!」
「…………」
輝く瞳で期待満面の笑顔を向けられて、バケモノは眉をよせた。このぐいぐいくる感じは、あの女に少し似ている。
まったくあの女はにこにこと微笑みを浮かべ虫も殺さぬ風情のくせに、圧がぐいぐい強いのだ。おかげですっかり調子が狂う。戦闘集団最強の一人とやらで人間にしてはかなりの剣客のくせに、殺しにひどく抵抗があるらしい。それが人を食う相手だとしてもだ。
あまりのわけのわからなさに、少し離れていたらこれだ。まったく面倒くさい。
「あーおまえ。いいことを教えてやる。おまえ向きのとっておきがその先の屋敷に居る。胡蝶カナエとやらだ」
「……胡蝶カナエ?」
湖鏡は目を見開き、ぽつりと繰り返す。
「そうか、悪いね。急用ができちまった。じゃあね」
湖鏡は厳しい表情を浮かべ、胡蝶屋敷に向け跳んで去った。
「?」
バケモノは首を傾げる。よくわからんが五月蠅いのを追っ払うことに成功したようだ。とりあえず、のんびり月見を再開することにした。
*****
「その程度では、私を手折る事はかないませんよ?」
僧達が一面に倒れる真ん中で、カナエは首を傾げ髪をおさえた。
「ケッ!雑魚ども相手に、粋がりやがって!」
「少しお待ちくださいな」
のしのしと歩み寄る岩のような大きな僧を見上げ、カナエは待ったをかける。
「すみません皆様。端に移動してください!アオイは皆様にお茶の準備をお願い。カナヲは汗をぬぐう手ぬぐいをさしあげて。それと怪我をしている方がいればしのぶ、よろしくね。なほ、きよ、すみは三人のお手伝いね」
テキパキと場を整えるカナエを、岩坊はぽかりと見つめていた。
「さて。はじめましょうか」
一通りの指示を飛ばし問題ないことを確認したカナエは、岩坊ににっこりと嬉しそうな視線を向ける。
「あ、お、おう」
そんなカナエの言葉に岩坊は攻撃を開始する!カナエの避けた全力大振りが大きく地面を陥没させた!
「大した威力です。ですが、当たらなければどうということはないですよ?」
カナエは髪をなびかせつつ、するりと移動した。
「はっ!いってろ!」
岩坊は両手に持つ独鈷で連続攻撃を行う。巨体を活かした射程の長い攻撃は、並みの僧より素早いもので威力も桁違い。とくに撃ち下ろしの破壊力は凄まじく、土煙が飛び地面にぼこりと穴が開く。とはいえ数での包囲が無くなった分、カナエにとっては相性のよい状態だ。するすると避け、そうした攻防が続く。
「あっ……」
そうした時、後退したカナエが凹凸した地面にかかとを引っ掛かて体勢を崩した。
「はっ!もらったぁ!」
そう。無駄撃ちとおもわれた岩坊の地面への攻撃は、地面の凹凸を増やし足捌き重視のカナエの回避行動を阻害しようとする意図があったのだ。岩坊は待ち構えていた好機に、渾身の一撃をお見舞いする!その独鈷が振り下ろされると、盛大な爆音とともに土煙が舞い上がった!
「よっこらせ」
「なっ!」
当然横に躱していたカナエはその伸びきった腕を肩に担ぎ、勢いを利用しての上手投げでその巨体を投げ飛ばす!
その巨体が地面に叩きつけられると、再び盛大な轟音と土煙が上がった。
「一本、ですよ?」
カナエは岩坊に微笑みかけた。
*****
「な、なんだこりゃ……」
慌てて駆けつけた湖鏡が見たものは、岩坊が倒れている横でふわりと佇む麗人だった。
こいつが噂に聞いた鬼殺隊最高戦力柱が一柱、花柱なのだろう。まったくもって高嶺の花といった風情。間違いない!
「おい!胡蝶カナエ!」
「はい?」
「勝負しろ!俺は蒼月湖鏡!獣の槍伝承者候補だっ!」
湖鏡はカナエを睨みつつ叫んだ!
「あら、蒼月さん?ええ。私は胡蝶カナエです。勝負ですか?よろしくおねがいしますね」
連戦の疲れも見せず、カナエは湖鏡に微笑みかけた
「おい。なんであんたは無手なんだ?」
「はい?とりあえずその必要はなかったようです」
「まずはそこからかよ……。あんたはずいぶん強そうだから手加減無しの全力でいく。怪我しても恨まないでくれよ」
「それはお互い様ですね。遠慮なくどうぞ」
お互いの視線が交わる。
「いくよ」
カナエを睨む湖鏡が錫を構えて突進した。
「!」
カナエの眉がはねる。後ろに跳びつつ抜刀し、左右から同時に飛来した物体を叩き落とす。
高い金属音で叩き落とされたそれらは、掌大のトゲの付いた金属の輪。投擲武器である円月輪だ。湖鏡はそれをいつのまにか遠くに投擲。上空に飛んだそれらは大きな輪を描き、時間差でカナエを挟むように飛来したのだった。あからさまの突進は着弾点への誘導だ。
「なんて器用な」
「まあ大道芸さ。それでも抜刀させる役には立ったな」
「いえいえ。並大抵の技ではありません」
いたずらを成功させたような得意気な笑顔を向けられたカナエも、笑顔で返す。
「さて。胡蝶カナエ。あんたの実力、試させてもらうぜ?」
「よろしくおねがいします」
湖鏡の実力を察し。カナエは日輪刀の峰を相手に向けて握り、正眼に構えた。
→戦闘描写をかえました
→『当て身投げ』!ちょーかっこよくて、大好きなのだけれど、格闘ゲーム『ギース様』発だったらしいです?