カナエが目を覚ました場所は、自室の布団の上だった。
「ん、はふぅ……」
呼吸を整え回復に努める。全身泥のように疲れている。瞼が重い。さてもうひと眠り……。
「おい、人間。起きたのなら話がある」
そんなカナエに声がかかる。
カナエの視線の先には黄金の鬣の妖が宙に浮かんでいて。不機嫌そうに目を細めていたのだった。
「起きてません。寝ています」
眠そうに瞼の垂れたカナエはそう即答した。
「おい、ふざけるな。わしは気が短いのよ。叩き起こされたくなけりゃ……」
「……なんでそんな意地悪いうんですか?私には睡眠が必要なんですよ」
のそりと身を起こしたカナエが半眼でバケモノをねめつける。
「……寝る子も起こされると獅子になるんですよ?睡眠をさまたげられるとか、とても我慢ならないことなんです」
「お、おう、そうか。じゃあもう少し待ってやるよ」
さしものバケモノも鬼気迫る圧を掛けつつ、にじり寄ってくるカナエの不気味さに思わず怯む。
カナエはそのままじりじりとバケモノに迫り、そのまま思いっきり抱き着いた。
「お、おいっ!」
「はぅぅ。極上のもふもふです……。んふふ。おやすみなさい……」
カナエはバケモノの毛並みに埋もれ、すやすやと寝息を立て始める。
「なんなんなのよ、おまえは!」
蝶屋敷に、バケモノの雄たけびが響きわたった!
*****
「なに?なにごとなの?」
カナエの部屋に急行したしのぶは、最愛の姉が蕩けた寝顔で空中に浮かんでいるのを目撃したのだった。
バケモノが意識している時は、人間は視覚的にバケモノを感知することができない。それゆえ生まれた明らかに不自然な光景。
しのぶに続き、カナヲ、アオイ。遅れて、なほ、きよ、すみが到着し、目を瞬かせて行動を停止する。ここに蝶屋敷の住人が勢ぞろいとなった。
「……なにか居るわね。姿を現しなさい」
気の強そうな短髪の娘、胡蝶しのぶは腰の刀に手をかけ臨戦態勢をとる。
「……まあ、さすがにこれじゃあ怪しいものなぁ」
黄金の四足獣の出現に、六人の娘は息をのむ。
「しかしまぁ、揃いも揃って旨そうな人間ばかりかよ。こりゃたまらんなぁ」
とてもとても嬉しそうに、バケモノがにんまり笑う。
「鬼ではないみたいだけど、人を食うのね。ケモノ、姉さんから離れなさい」
「お、おい。コイツがくっついてきてるのよ。鬱陶しいからはがしてくれ」
「ふざけないで!人食いのバケモノめ!私の姉を食うとか絶対許さない!殺してやる!」
全身に怒りを漲らせ、しのぶが吠える。
「おうおう、威勢がいいじゃねえか。そういうのを待ってたのよ。さあて、軽く遊んでやるかねぇ」
バケモノが嬉しそうに目を細めた。しのぶは、抜刀し正眼に構えるものの。バケモノの強さが見えない。圧倒的戦力差ッ!でも、引くことはできない!自分が犠牲になってでも、家族を守るのだ。でも、どうすれば……。あまりのことに動くこともできない。
「おいおい、威勢がいいのは啖呵だけかよ?よしよし、わしから仕掛けてやるよ」
バケモノがゆっくりと動く。
駄目だ。どうしようもない。あまりの絶望に涙が流れる。でも、それでも!私が守るのだ!
「うおおおおっ!」
しのぶが雄叫びを上げる!
「よしよし。精々がんばれよ」
バケモノは爪を伸ばし迎撃体勢をとる。
「うるさいいいーーー!」
一触即発の二人が、びくりと固まった。もそりと起きた不機嫌の塊といったカナエが、半眼でキロリと周りを睨む。
「……ねえ、しのぶ。寝てる私を起こしちゃ駄目っていったよね?」
「あっ、はい。ごめんなさい……」
「……バケモノ様。寝てる人を起こすとか酷いことしちゃ駄目っていいましたよね?それと。しのぶは真面目な娘なので、からかうのはおやめください」
「お、おう……」
「……私、すっごく気持ちよく寝てたんです。もう少し、寝なきゃ駄目なんです。静かにしてくれますよね?……返事は?」
「はい……」
「おう……」
カナエは、項垂れる二人に満足そうに微笑みかける。
「ふあぁ……。ありがとうございます。バケモノ様のもふもふは、最高です……。ああ、貴女たちもお昼寝になさいな。とても気持ちよいですよ」
カナエは満面の笑みで可愛い妹たちを、おいでおいでと誘う。
しのぶを除いた五人の娘はおずおずとバケモノに近寄り、その毛並みに笑みを浮かべる。そして五人はお互い頷いて、家長に従いそのモフモフにダイブしたのだった。
「……おい、これなんなのよ?こいつらなんなのよ?」
眠る六人娘に抱き着かれ、困り切ったバケモノを見つつ、しのぶもぐったりと疲れ切っていた……。
寝てるの起こされるとか、我慢できなくない?
寝てる人起こすとか、8つめの大罪でいいんじゃないかな?あと、ネタバレも許されない!
しのぶさんはまだ、にこにこ化前ですね。
カナエさんがなんだか魔改造。カナエファンのかた、ごめんなさい。