「あ!おはよう!」
アオイが行う朝食の準備を手伝おうと厨房に入ったしのぶに、大きな声が掛かる。
しのぶの視線の先には小柄な僧、蒼月湖鏡が前掛けをして立っていた。
「あなた……」
眉をよせるしのぶに、湖鏡はにっこり微笑みかける。
「や、なんか押しかけちゃってるからな。手伝わせてもらってるんだ」
アオイの困り顔に事態を察し、しのぶは大きくため息。
「客人にそうした事をされるのは困りますが……。ありがとうございます」
「はは!気にすんな!俺は気にしない!」
楽しそうに笑う湖鏡に、しのぶは眉をよせた。
「それにしてもずいぶん元気ね」
「あ?法力僧なめんなよ?どれだけの荒行してると思ってんだよ」
湖鏡はにんまりと笑った。
あの後。
カナエと湖鏡の試合は深夜に及んだ。
しのぶを除き妹達は寝床へと赴く。僧達は一喜一憂しつつその攻防を眺めた。
試合終了後。カナエは泊っていくよう提案したが、近くに寺があるからと僧達はその場を去ったのだった。
*****
一人残った湖鏡はしのぶとの情報交換を行っていた。獣の槍の事。獣の槍を守っていた湖鏡の団体の事。鬼殺隊の事。鬼の事。等々。
しのぶの一番驚いた事といえば……。
「あんたが女とはね……」
「失礼なやつだな!まあ、よくいわれる」
しのぶのつぶやきに、にっこりと湖鏡は受ける。
「ううう。それと、ありがとうね。あの槍のおかげで、姉さんは生き残れたみたい」
「ん?俺にいわれてもな。お役目様のいうように、やっぱり槍の選択なんだろうし」
アオイの指示でしのぶと湖鏡は手を動かしつつ言葉を交わしていた。
「お前の姉さん、カナエはすさまじいな」
「ん?ええ」
自慢の姉への称賛に、しのぶの顔はほころぶ。
「あんだけのが獣の槍を手にしたってんなら、しかたないわ」
「?」
ひたすら明るかった湖鏡の沈んだ言葉に、しのぶは首を傾げた。
「や、なんでもない!カナエは長物の鍛錬がしたいとかいってたしな。今日もがっつりいくぜ!」
やる気を漲らせる湖鏡に、しのぶは視線を下げる。
「ああーと。姉さんが起きるのは夕方か、明日になると思うわよ?」
「は?」
しのぶの言葉に湖鏡は眉をよせた。
「や、戻る前にちょっとでも稽古をつけたいんだがさ。ひ弱すぎだろ」
「姉さんは遠くから帰ってきて、あんたらの相手をしたのよ?疲れてるに決まってるでしょ?」
「あんだけの武人が、そうなのか?」
「んーじゃあ、起こしにいってみれば?」
「よし!いってくる!」
やる気に満ちた湖鏡をしのぶは、冷ややかに見送った。
*****
「あれ?湖鏡さんは?」
「いつものことよ」
しのぶの答えにアオイはため息をつく。
目の開いていないカナエがどんよりとした湖鏡を連れて寝床を離れるのは、しのぶの予想通り翌朝のことだった。