「んんん……」
目を閉じゆらゆらと揺れていたカナエは朝食の膳を前に覚醒した。
「あら、アオイ特製、具沢山豚汁ね。いただきます」
カナエは手を合わせて頭を下げ、カカッと食しだす。
「おい。カナエはいつもこうなのか?」
「……」
半眼の湖鏡からの問いに、しのぶの視線は下がる。
「ご馳走様でした。あら、ええと。湖鏡さんいらしたのですか?」
すかさず完食したカナエは湖鏡を確認し、首を傾げた。
「……一晩抱き枕にしといてそれかよ」
「…………」
呆然とした湖鏡のつぶやきに、しのぶは顔を逸らした……。
*****
「まあいいや。長物の鍛錬がしたいと言ってたろ?相手してやんぜ」
「それはありがたいです」
湖鏡の提案にカナエは微笑む。
「私は伝承者候補で槍の心得もあるからね」
「ふむふむ。ん?その伝承者候補というのは……」
「うちの光覇明宗は代々獣の槍を守り、その使い手の候補育成をしているのさ。俺はその一人ってわけ」
「すると、そうして準備している方達を差し置いてしまったのですか?すいません……」
湖鏡の言葉に目を見開いたカナエは、眉をよせ視線を下げた。
「いや、あんたの実力は試させてもらったからそれはいいさ。その代わり、存分に働いてもらうさ」
「!」
にんまりと笑う湖鏡にカナエは目を瞬かせた。
「とりあえず、鍛錬といくか!」
「ふふ。そうですね」
湖鏡の言葉にカナエが微笑んだその時。
「チュイ!胡蝶カナエ!産屋敷に至急馳せ参じロ!」
カナエの鎹鴉である桃色のインコが声高に騒ぐ。
「あっ!残念ですが鍛錬はまたの機会におねがいします」
カナエはすまなそうに目を伏せた。
*****
「ち。カナエに逃げられたか」
「しかたないでしょ?姉さんは柱なのだし」
「まあ、鍛錬はあんたで我慢してやんよ」
「は?あなた姉さんにこてんぱんだったじゃない。私の相手にもならないわよ?」
「ふうん?そうは見えないけどな」
湖鏡の視線にしのぶは眉をよせた。
実際、遠征から戻った姉の動きの違いをしのぶも感じていた。格段に強くなっている。前は三本に一本は勝つことができていた。なら今なら?しのぶは唇を噛んだ。
「胡蝶カナエは居るか?!」
その時。蝶屋敷に怒号が響いた。
「あなた……」
「んだよ。岩坊か」
眉をよせ迷惑そうな二人の前に巨漢が現れた。
「胡蝶が長物の鍛錬がしたいという話だろ?俺が相手をしてやろうと思ってな!」
「……」
どや顔で胸を反らす岩坊に、しのぶが固まる。
「長物?それが?」
「あ?最強の長物といったらこれだろうが!」
岩坊は自分に並んで立つ丸太に手をかけて、にかりと微笑んだ。
「…………」
「おい!なんで長物の鍛錬で丸太なんだよ、このくそ岩!」
「あ?湖鏡。お前だって俺の丸太には一目置いていたじゃねえか!俺は丸太なら無敵だぜ?」
「そういう問題じゃねえだろうが!ばか岩が!」
ぎゃあぎゃあと罵りあう二人をしのぶは半眼で眺めた。
ともかく。岩を悪くいわないでほしい……。恩人を思いつつ、しのぶは視線を下げた。
南無阿弥陀仏;