カナエととら   作:ぶんた

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蝶屋敷にて・弐 其ノ肆

「んんん……」

 

 目を閉じゆらゆらと揺れていたカナエは朝食の膳を前に覚醒した。

 

「あら、アオイ特製、具沢山豚汁ね。いただきます」

 

 カナエは手を合わせて頭を下げ、カカッと食しだす。

 

「おい。カナエはいつもこうなのか?」

「……」

 

 半眼の湖鏡からの問いに、しのぶの視線は下がる。

 

「ご馳走様でした。あら、ええと。湖鏡さんいらしたのですか?」

 

 すかさず完食したカナエは湖鏡を確認し、首を傾げた。

 

「……一晩抱き枕にしといてそれかよ」

「…………」

 

 呆然とした湖鏡のつぶやきに、しのぶは顔を逸らした……。

 

 

*****

 

 

「まあいいや。長物の鍛錬がしたいと言ってたろ?相手してやんぜ」

「それはありがたいです」

 

 湖鏡の提案にカナエは微笑む。

 

「私は伝承者候補で槍の心得もあるからね」

「ふむふむ。ん?その伝承者候補というのは……」

「うちの光覇明宗は代々獣の槍を守り、その使い手の候補育成をしているのさ。俺はその一人ってわけ」

「すると、そうして準備している方達を差し置いてしまったのですか?すいません……」

 

 湖鏡の言葉に目を見開いたカナエは、眉をよせ視線を下げた。

 

「いや、あんたの実力は試させてもらったからそれはいいさ。その代わり、存分に働いてもらうさ」

「!」

 

 にんまりと笑う湖鏡にカナエは目を瞬かせた。

 

「とりあえず、鍛錬といくか!」

「ふふ。そうですね」

 

 湖鏡の言葉にカナエが微笑んだその時。

 

「チュイ!胡蝶カナエ!産屋敷に至急馳せ参じロ!」

 

 カナエの鎹鴉である桃色のインコが声高に騒ぐ。

 

「あっ!残念ですが鍛錬はまたの機会におねがいします」

 

 カナエはすまなそうに目を伏せた。

 

 

 

*****

 

 

 

「ち。カナエに逃げられたか」

「しかたないでしょ?姉さんは柱なのだし」

「まあ、鍛錬はあんたで我慢してやんよ」

「は?あなた姉さんにこてんぱんだったじゃない。私の相手にもならないわよ?」

「ふうん?そうは見えないけどな」

 

 湖鏡の視線にしのぶは眉をよせた。

 実際、遠征から戻った姉の動きの違いをしのぶも感じていた。格段に強くなっている。前は三本に一本は勝つことができていた。なら今なら?しのぶは唇を噛んだ。

 

「胡蝶カナエは居るか?!」

 

 その時。蝶屋敷に怒号が響いた。

 

「あなた……」

「んだよ。岩坊か」

 

 眉をよせ迷惑そうな二人の前に巨漢が現れた。

 

「胡蝶が長物の鍛錬がしたいという話だろ?俺が相手をしてやろうと思ってな!」

「……」

 

 どや顔で胸を反らす岩坊に、しのぶが固まる。

 

「長物?それが?」

「あ?最強の長物といったらこれだろうが!」

 

 岩坊は自分に並んで立つ丸太に手をかけて、にかりと微笑んだ。

 

「…………」

「おい!なんで長物の鍛錬で丸太なんだよ、このくそ岩!」

「あ?湖鏡。お前だって俺の丸太には一目置いていたじゃねえか!俺は丸太なら無敵だぜ?」

「そういう問題じゃねえだろうが!ばか岩が!」

 

 ぎゃあぎゃあと罵りあう二人をしのぶは半眼で眺めた。

 ともかく。岩を悪くいわないでほしい……。恩人を思いつつ、しのぶは視線を下げた。




南無阿弥陀仏;
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