その翌日。
夢幻魔実也は浅草署の応接室に居た。向かいに座るのは髭を生やし中年太りの体躯の男。警視庁猟奇課、江戸川警部その人だった。
「すまないね夢幻くん。やはり事件の依頼は取り下げとなったよ」
「そうですか」
「我々の捜査も上からの圧力で、一時中断さ」
江戸川の言葉に魔実也は驚く様子もない。
「それにしても。君の遭遇した娘は鬼殺隊と名乗ったんだろう?」
「ええ」
驚きの表情の江戸川に、タバコをくわえた魔実也は素っ気ない返事をした。
「その鬼殺隊だがね。人ならざる者の猟奇犯罪を解決してまわっているという謎の集団だよ。なんでも昔から人を食う鬼とやらを退治していて、かなりの影響力があるのだ」
「……」
「常に秘密裏に痕跡も消していくような集団が名乗るのだから、よっぽど君を追っ払いたかったんじゃないのか?」
「……」
江戸川の力説を流しつつ魔実也は静かに煙を吐き出す。
「ところで実は犯人の目星がついていたりしたのかね?」
「……ええ」
「!」
冗談半分の問いに頷く魔実也に江戸川は仰天した。
「犯人は……」
「カッパでしょう」
「おい!」
凄まじい緊張をもって問い掛けた江戸川は、魔実也の答えに思わず立ち上がる!
「冗談もいい加減にしたまえ!」
怒り心頭の江戸川に魔実也は視線を向けた。
「鬼がいるんです。カッパだっているかもしれませんよ?」
煙を吐いた魔実也は、つまらなそうに呟いた。
*****
その夜。
魔実也は仕事がキャンセルとなったため、飲み屋をぶらぶらと眺めていた。その歩みが止まる。
魔実也の視線の先に、着物を着た男児がいたのだ。どこにでもいるような丸刈りの子供だが、この時間に子供が一人でいるはずはなく。周りの人間には見えていない存在だった。
見覚えはある。連続殺人の被害者である一人だ。
魔実也は人ならざる者を視ることができるのだ。
だが、犯行現場に佇んでいた彼は違っていた。抉られた両眼は窪み、涙の様に血を流していた。それだけではない。嬲るような暴力を受けたのだろう。顔面は赤黒く腫れあがっていた。
恐怖。悲しみ。怒り。憎しみ。絶望……。
負の感情のまま死んだ人間の魂は負の闇に呑まれ人間性を喪失する。そうした霊は成仏することができず、死んだ場所に死んだときの姿で佇み続けることになるのだ。
全ての犯行現場にそうした男児が佇んでいた。あるものは下顎を無くし、あるものはあり得ない角度に首を曲げ、あるものは頭が無かった。どの男児も慰み物に嬲られ殺されたその姿で。
その闇に落ちていた男児が自分を取り戻している。その事実に魔実也は驚いたのだ。
そうした魂でも遺族の熱心な祈りや、徳の高い聖職者の祈祷など、人間の陽の感情によって我を取り戻すことは僅かな可能性ながらあるのだが……。
ふと浮かんだのは。犯行現場、両目を抉られた少年が佇む横で、熱心に冥福を祈っていた少女のことだ。儚げに揺れる花のように魔実也には思えた。それが原因なのだろうか?いや、さすがにそれはあり得まい。魔実也は軽く眉をよせた。
その男児が手を上げ、ある方向を指さした。
ともかく。その導きに従って夢幻紳士は夜の街を進む。
*****
幾人もの男児の誘導によって辿り着いたその場所。
緑色の怪人物が、まさに少年を襲っているところだったのだ!
パーン!
魔実也は懐に携えていたコルトをすかさず発砲した。
怪人は一時怯むも、ダメージを受けた様子もなく魔実也に顔を向ける。
「……」
じりじりと近寄る、頭に円盤を乗せた緑の怪人に魔実也は眉をよせ後ずさった。
その時。
たなびく黒い髪に、揺れる蝶の紋様が描かれた白い羽織の人物が飛来した!
しゅこん!
どこかしらから跳躍してきたそれは、手に持つ槍で円を描くように一閃!怪人の四肢を深く斬りつけた後、即座に男児を抱きかかえそのまま勢いを殺すべく地面をざざざと擦りつつ、着地した。
「だいじょうぶ?」
異様な黒髪をたなびかせ、異形の瞳で尋ねる娘に男児は言葉も出ない。娘は男児を逃がし槍を構え、緑の怪人と対峙した。
「……くえぇ」
深く斬られたであろう部位は回復し、うつろな目で怪人はゆらゆらとすわらない首に合わせ視線を漂わせていた。嘴の様な口は半開きで、涎を垂らしした舌すら出している。とても正気の様ではなかった。
「これは……」
「そいつは駄目だ。殺すしかない!」
怯む少女に魔実也が叫んだ。その言葉通り、緑怪人が娘に襲いかかる!
「花の呼吸。陸ノ型・改 渦桃」
ここん!
すかさず緑の怪人は寸断され崩れ落ちる。だが。
「!」
魔実也は目を細める。緑怪人がさわさわと復元しだしたのだ。屍鬼の類なのかもしれない。
ざん!
娘がすかさず逆手に抜いた桜色の刀でその頸を跳ね飛ばした!
そうして、緑怪人はぼろぼろと消え失せたのだった。
*****
娘は槍と刀を両手に持ち、俯き立つ尽くしていた。なびいていた髪は消えている。
悲しみに押しつぶされそうな背中だった。
「お、おい」
「……関わっちゃだめって、いいましたよね」
魔実也の問い掛けに娘は振り返りもなく答える。
「いや。これは偶然さ。それに君も銃声に気付いて来たのだろう?」
「あ。……はい。ありがとうございます」
「なら結果オーライといこう。彼らも喜んでいる」
「?」
娘を囲むように被害者の男児達は笑顔を浮かべていた。娘の手助けができたことが、よほどうれしかったのだろうか。そしてその姿が薄くなる。成仏したのだろう。
「君は一体……」
非常識かつ、規格外すぎる娘に魔実也は言葉を掛けた。
「えっ。ごめんなさい。急ぎますので」
娘は高く跳躍し、即座に居なくなったのだった。
「やれやれ。忙しい娘さんだ」
魔実也は取り出したタバコを咥えつつ苦笑した。
LiSA様の鬼滅メドレー流れる、まさに年の瀬!
皆さま、よいお年を!