カナエととら   作:ぶんた

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蝶屋敷にて 其の参

 浅草から蝶屋敷にカナエが運び込まれた数日後の朝。

 

「あっ!」

 

 寝床から起きだして廊下をよろよろと進むカナエを見つけたしのぶは、すかさずカナエに詰め寄る!

 

「起きたのね?姉さん!ねえ、なにがあったのよ!ねえ!ねえ!」

 

 ふらふらとするカナエの肩を掴み、しのぶは問いかけた。

 

「ぅ?ぁぅぁぅ……」

「ん?なに?わからないわよ!」

 

 しのぶはぶつぶつと小さく呟くカナエをぐいぐい振り回す!

 

「いいいいいっ!ちょっ!いたっ!やめぇ!」

「ちょ、姉さん?!」

 

 激しく揺さぶられたカナエは絶叫し意識を失う。しのぶは、くたりと倒れ掛かるカナエに動揺するのだった。

 

 

*****

 

 

 翌日。朝。

 

「ぁぅぅ……」

 

 カナエは自室で目を覚ました。全身がバラバラになりそうなくらいの激痛を呼吸で抑える。

 そうしていると――。

 

「んっ……」

 

 いつの間にか勢ぞろいし、心配そうに涙ぐむ妹達にカナエは目を瞬かせた。

 

「ちょ、みんな。そんな、大げさなことじゃないのよ……?」

 

 蚊の鳴くようなカナエの小さな言葉に、妹達は固まった。

 

「姉さん!」

 

 涙目のしのぶがカナエに迫る。

 

「毎回意識不明で運び込まれて!大事に決まってるじゃない!心配するこっちの身にもなってよ!」

 

 しのぶの涙ながらの叫びが心に響き、カナエはしゅんとなる。

 

「ごめんね、みんな……」

 

 カナエは握ってくれているしのぶの手を力なく握り返した。

 

「ううっ。それはともかく、一度起きたけれど、また気を失ったような……」

「それはっ!き、気のせいじゃないかなっ!?」

 

 しのぶはそっと視線を逸らしつつ答えた。

 

  

*****

 

 

「バケモノ様にお礼をいわないとね……」

 

 屋敷に運び込まれた経緯を聞いたカナエは、ほんのり微笑む。

 

「そんなことより!えええ?上弦参とやりあった?」

 

 カナエの説明に、しのぶは目を見開いた。

 

「ん?うーん。やりあったというか……。稽古した?」

「え……?けいこ?」

「うん。稽古」

「……なんで?」

 

 しのぶは驚きのあまり目を丸くする。まったくわけがわからない。

 

「うーん」

 

 カナエは頬に手を当てて、視線を彷徨わせた後、口を開く。

 

「なんとなく?」

「はぁ?」

 

 暫し考えた末。カナエの答えにならない答えに、しのぶは脱力する。

 平常運転の姉だった……。

 自慢の姉ではあるのだが、よくわからないノリで周りを巻き込んでは想定外のことを引き起こす。

 小さい頃、買い物のお使いに行っては、なんだかあれこれもらってきたりということからはじまり。カナエがにこにこと微笑むだけでいろいろな揉め事が収まっていたり。なので、殴りこんできた法力僧たちとすぐさま仲良くなるなんて序の口。鬼殺隊入隊にあれだけ反対した悲鳴嶼さんを譲歩させてみたり……。そして極めつけはあの金色の妖。

 あれは本来人間のいうことなぞ聞くような存在ではないはずだ。それを連れまわしてるというわけのわからなさに比べれば、上弦との稽古?は、まだありうるのかもしれない。今頃その上弦参こそが、どうしてそうなったのかと首を(ひね)っているに違いない……。しのぶは少しだけ同情しつつ、盛大に首を(ひね)った挙句、そのまま首が()じ切れればいいのに。などと思っていた。

 それよりも。しのぶは俯くカナエの横顔を見つめつつ問いかける。

 

「ま、まさか、なかよくなれたの……?」

 

 カナエは常々こぼしていた。鬼と人間。殺し合うだけでなく、わかり合い、仲良くすることはできないものかと。

 無惨の血によって鬼となった者は、肉体が変貌するのと同じように精神にも大きな影響を受けることになる。人間的善性は肥大した負の感情に塗りつぶされ、『人が変わる』。そして悪意の塊となり、人を見下し、喰らい、踏みにじる。そう成り果てる。相互理解など、無理夢想なのだ。

 

 できるなら、鬼と仲良くなりたい……。

 

 だから。そんなカナエの思いはしのぶにとって、否。カナエ以外にとってまったく訳の分からない事だった。

 なのに。そんな想いを胸に秘めつつ鬼を殺すたび。そうしなければ人を、鬼を救うことができなかったのか。もっと早く動けていれば被害者を一人でも助けることができたのではないかと、自責の念に押しつぶされる。

 甘すぎる姉は戦いには向いていない。戦わせちゃ駄目なひとなのに。

 しのぶは唇を噛む。

 

「……それなら嬉しかったのだけれど。たぶん、違うかも」

「えっ?」

「でも、なんでかな?あの時は……」

 

 カナエはぽつりと呟く。彼がどう思っていたかはともかく。少なくともカナエは殺気を感じなかった。そして、カナエの仕掛けた技を競い合うやり取りに嬉々として乗っかってくれた……。

 

「……」

 

 視線を下げ物思いにふけるカナエの横顔を見つつ、しのぶは大きな溜息をつく。

 

「それで姉さん。あれを使ったのでしょ?」

「ぇ。う、うん……」  

 

 しのぶからの険しい視線を受け、カナエは目を逸らす。

 華の呼吸。感覚、運動能力、全てを大幅に上昇させる代わりに短時間で行動不能になるという、カナエが開発中の欠陥技だ。

 

「あれは全然実用段階じゃないじゃない!!」

「ぅぅ。そ、そうなんだけどね……」

 

 しのぶの理攻めが、カナエには痛い。

 あの時。どこまでも自分に厳しく鍛え上げている武人である上弦参に対し、試してみたくなったのだ。

 普通はそうならない。でも、なんとなく。彼とはそうしたやりとりができる気がしたのだ。

 なんとなく……。

 そして。それはとても鍛錬になった!

 

 恋する乙女のように頬を染め俯くカナエを、しのぶは半眼で見つめる。

 あんな顔をして戦闘を反芻しつつ、脳内で模擬戦闘をしているに違いない。まったっくもってこの姉は、やはりあいかわらずの鍛錬バカだった。あきれたしのぶは盛大に溜息を吐く。

 

「姉さん。御舘様からお呼びがかかってるよ?」

「!!!」

 

 しのぶの言葉にカナエは驚きのあまり、目を白黒させた!

 

「御舘様になんて説明するの?」

「ぇぇぇ……」

 

 お花畑な姉の頭でも流石にまずい事態なのは理解できたようだ。なによりである。痛い目を見て少しは、こりるといいよ?しのぶは肩を竦める。

 

「体調優先にって。御舘様は優しいねー」

 

 助けを求めておろおろと見つめてくるカナエに、しのぶはにっこり微笑んだ。

 

「ぅぅぅ……」

 

 カナエにはわかる。しのぶの笑顔がふんわりとやさしければやさしいほど、怒っていることを。

 

 ――そんなに怒らないで?姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなぁ。

 

 カナエ自身は不出来な姉だと自覚していたため、しっかり者で出来の良い妹のいうことは聞くようにしているのだが、その際に幾度もおどけていった言葉だ。それからだろうか?しのぶは激しく怒っている時ほど、微笑むようになってしまった。

 妹へ変な影響を与えたことを自覚する。

 そしてそれだけ。とても真面目で、どこまでもやさしい、最愛で可愛い自慢の妹に心配をかけてしまっていたということだ。

 まったくもって、姉として不甲斐ない……。

 申し訳なさにあわせる顔もなく。よもやよもやとカナエは布団にもぐり、痛む体に唸るのだった。




 次回予告

 ♪たー!たららったら、たららららら、らららららーたららー

 ついに開催される柱合会議!産屋敷耀哉の前に鬼殺隊最高戦力である柱の面々が集う!
 上弦二人と遭遇し連敗を重ねるカナエへ、柱達は不満を募らせる。
 言葉なく俯くカナエ。
 ……そして現れる三人の人影は、不敵に挑戦状を叩きつけるのだった!

 次回『産屋敷邸にて 柱合会議編』
 この次も、サービスしちゃうんだからっ!

 ♪たーつたーつたーつたーつ、ふんふん!



「ん?甘露寺、なにを騒いでいるのだ?」
「ふにゃあっ?!」

 煉獄邸。
 ご機嫌に適当な鼻歌を歌いつつ掃除をしていた甘露寺蜜璃は、突如掛けられた声に飛び上がる!
 がばりと振り返った蜜璃の視線の先には、偶然通りかかったであろう煉獄杏寿郎が目を丸くしていたのだ。

「な、なんでもないですっ!!」
「む、そうか?もしや呼吸の鍛錬か?だがその型は不明な点が多い。慎重にな!」
「はい……」

 きゃーー!!やだーーっ!!すっごい恥ずかしいいっっ!!
 
 『誰もいないと思って、ご機嫌に歌っていた鼻歌を聞かれる』という人類三大恥辱がひとつ(所説あり)に、蜜璃は顔を真っ赤にさせ身悶える!

「それでなにを騒いでいたのだ?」
「!!!!」

 笑みを浮かべつつ無頓着に追及してくる杏寿郎に、蜜璃はのけ反った!

「っっ!!ええっと、この『てれやけはんばっか』をどうぞ!」
「蝶屋敷の者と作ったという料理か!いただこう!うむ!うまい!うまい!」

 蜜璃は咄嗟に懐から『てれやけはんばっか』を取り出し杏寿郎に差し出す。『はんばっか』は気軽に手早く食べる事ができるため、小腹がすいたときにと持ち歩いていたものだ。ガツガツと齧り出す杏寿郎に、ごまかすことができたかな?と、蜜璃は胸をなでおろした。

「ほっ」
「これはなかなかにうまいな!それでさっきはなにを騒いで……」
「!!」

 ほっとしたのも束の間。食べ終わった杏寿郎からの再びの問いかけに蜜璃は再び飛び上がる!

「はい!おかわりです!」
「おっ!うまい!うまい!」

 すかさず蜜璃は懐から『はんばっか』を取り出し杏寿郎の気を引き、事態の隠蔽を図る!

「ほっ」
「ああ。それでだな……」
「っっ!はい!どうぞ!」
「うまい!うまい!」

 ――そうしたやりとりが暫く続き……。

「む……。すっかり満腹になってしまったな!腹ごなしに甘露寺、稽古をするか!」
「は、はいっっ!!」

 ご、ごまかせたぁぁっっ!

 蜜璃は喜びに身を震わせ。

「たらったったった~!」

 そして。浮かんだフレーズを口にして微笑む蜜璃なのであった。
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