カナエととら   作:ぶんた

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 浅草編直後のお話しになります


【番外編陸】しのぶとすけろく編

 花柱である姉、胡蝶カナエが異様な力を持つ鬼と交戦中という報をうけ、日の出間近かの街をしのぶは走っていた。

 そして……。カナエが白い蝶の模様の羽織を広げ、力なく倒れているのを見つけたのだった。

 鬼の気配はない。朝日を警戒してか、逃げおおせた後のようだ。

 カナエの全身は無数に斬り裂かれ、血が滲んでいた。そのくせ顔には傷一つないという不自然さ。圧倒的実力差で、長時間嬲られたのかもしれない。

 最愛の姉へのこの仕打ちに、しのぶの全身が怒りに震える!

 

「姉さん!しっかりして!」

 

 しのぶは体温を失っていくカナエの身体を抱きかかえ呼びかけた。その声にカナエはうっすらと目を開く。

 カナエの瞳はゆっくりとさ迷い、目の前のしのぶに焦点を合わせたようだった。

 

「……しのぶ。鬼殺隊を辞めなさい」

 

 そして。カナエは残る力で伝えるべき言葉を零す。

 

「あなたは頑張っているけれど。本当に頑張っているけれど。多分しのぶは……」

 

 カナエは最期の思いを伝えようと、力なくしのぶの頬に手を伸ばす。 

 

「あなたには……。普通の女の子の幸せを手に入れて、お婆さんになるまで生きてほしいのよ。もう十分だから……」

 

 死相に涙を滲ませるカナエの手を、しのぶはぎゅっと握る。失われつつある姉の命を引き留めることができればと。

 

「嫌だ!絶対辞めない!姉さんの仇は必ずとる!言って!どんな鬼なの?どいつにやられたの?」

 

 カナエが意識を失わないようにと、しのぶは大声で呼びかけ続ける。

 

「カナエ姉さん!」

 

 嫌だ。駄目。絶対駄目!逝かないで!姉さん!ねえさん!

 

 

*****

 

 

「ねえさん!」

 

 叫びつつ目を覚ましたしのぶは、がばりと身を起こした。

 その全身はぐっしょりと汗にまみれ、肩を上下するほどの息を繰り返す。

 夢とは思えないほどの生々い夢。カナエの死を目の当たりにするというあまりの衝撃に、しのぶは動揺していた。

 

 もし……。もし、ねえさんが逝ってしまったら……。私は普通になんて生きていられない!

 許さない。許せない!姉さんを殺した奴を!私から姉さんを奪った奴を!どんな手段を用いても仇を討つ!

 そうしなければ。そうした目標をよりどころにしなければ、自分を保てない……。

 

 視界が歪むほどの激しい怒りにしのぶが身を震わせていると。

 

「きゃあああ!」

 

 蝶屋敷で悲鳴が上がったのだった!

 

「何事?!」

 

 アオイのもののようだ。しのぶは得物を手に取り発生元であるカナエの部屋へ急ぐ。

 姉カナエは浅草での任務に倒れ、自室で昏睡状態。

 しのぶは最短でカナエの部屋へ到着。

 そこには、へたりこむアオイ。寝床で就寝しているカナエ。そのカナエの脇に黒い人影が佇んでいたのだった!

 

「お前!何者!」

 

 しのぶは敵意をむき出しに警告を発し、すかさず抜刀する!

 それは首から下は黒い襤褸を纏っていて、それが不吉になびいている。そのうえにのぞくのは白い頭部。そう白いのだ。襤褸のうえに、しゃれこうべをのせたような様。その天井まで届きそうな位置のしゃれこうべが、しのぶのほうに顔をむけた。

 

『私は死神ダよ。この人間の魂を迎えにキた』

「ふざけないで!姉さんはちゃんと生きているわ!」

 

 しのぶは慎重にアオイを庇う位置に歩を進めつつ、自称死神の言葉に全力で反論した!

 バケモノに運び込まれたカナエは凄まじい疲労で意識を失ってはいたが、命に別状はない。

 医療知識に自負を持つ、自分の診断だ。自分の万全を持っての診断なのだ。

 そうしてアオイを逃がしつつ、しのぶはそれと対峙した。

 

『この娘は閻魔帖の記録デは、すでに死んでいるノだ』

「はあ?馬鹿いわないで!姉さんはちゃんと生きてるわよ!」

『そうはいわれてモな。ともカく。なんの手違いかはしらんンが、魂は回収しなくてはならナい』

「なっ!」

 

 波打つ黒い襤褸から大きな弧円が浮かぶ。それはそう、魂を刈り入れるために用いる大鎌に違いない。

 

「やらせない!蟲の呼吸!蜂牙ノ舞 真靡き!」

 

 しのぶが放つ最速の繰り出す攻撃により、白いしゃれこうべに刀先が突き刺さる!

 しかし。

 

『無駄ダよ。我は死神。死は人がどうこうできることではナい』

「くう!」

 

 しのぶが手に持つ刀で死神を名乗るその影をめった刺しにしても、これっぽっちも手ごたえはなかった。

 このままでは、姉さんはこいつに殺される!

 あの夢のように、みすみす姉さんを目の前で失うことになるの?

 しのぶの全身がその恐ろしい事実に震えた。

 

「やめて!やめてよ!姉さんはまだ生きているわ!」

『……我はただ収穫するノみ。人は必ずそうなるノだ。諦メよ』

 

 死神からの言葉に思いやりを感じた。これはとてもやさしい存在なのかもしれない。だからといって。 

 

「諦められるわけないじゃない!」

 

 しのぶは叫ぶ!

 

「人はどうせ死ぬんでしょ?生きてるんだから今でなくていいじゃない!いい?おとといきやがれっていってるの!」

『……』

 

 死神は涙を零し震えるしのぶを見つめる。

 

『娘。死は全ての人に平等なノだ。これは覆ることはナい』

「わかってるわよ!だから!その順番をちょっと待てっていってるのよ!」

『……娘。諦メよ』

 

 死神は漆黒の大鎌を手に持ち、しのぶに囁いた。

 

「だから!やだっていってるの!ね?だれかおねがい!姉さんを!私を助けて!」

 

 しのぶが心からの願いを叫ぶ!

 

「ああ?なにを騒いでる?」

 

 ――そして。

 

 ふと言葉が投げかけられた。死神としのぶはそれに視線を向けると。

 そこには金色の鬣を靡かせた妖が浮かんでいた。

 

「ば、ばけもの……!これ、しにがみ……」

『長飛丸か』

「…………」

 

 同時に投げかけられた言葉に、バケモノはそれぞれに視線を投げたようだった。

 

「ああ?死神かよ。その娘はまだ死んではいないぞ?」

 

 暫しのあと。妖は死神に声を掛けた。

 

『長飛丸よ。その娘は閻魔帖の記録では死んでイる。ならばすみやかに収穫する必要があるノだ』

「ほう?」

 

 死神の言葉に妖の目が細くなる。

 

「収穫だと?その娘はわしのものよ?わしを差し置いてなにいってるんだ?」

『長飛丸よ。閻魔帖の持ち主は当然、かの御方ぞ?御方に逆らうつもリか?』

 

 死神が妖に最大限の警告を発した。

 その言葉に妖の口角が、ぎゅうと吊り上がる!

 

「ああああ?当然よ!わしに楯突くやつは、だれであろうとて容赦せんわ!」

 

 妖はさも楽し気に死神に言い放った! 

 

『後悔するナよ?』

「はぁ?しらんなぁ?いつでもこい!叩き潰してくれるわ!」

 

 妖は薄れゆく死神を「げはははは!」と、高笑いで見送った。

 

 

*****

 

 

 死神の気配が消えた暫くの後。

 明かり薄暗いカナエの部屋には就寝中のカナエと、妖としのぶが取り残されていた。

 

「姉さんを助けてくれてありがとう……」

 

 しのぶがぽつりとこぼす。

 

「バケモ……。ううん、すけろく」

 

 そしてしのぶは妖に勢いよく抱き着き、ぎゅううとしがみついた。

 

「ああ?いつも小生意気なくせに、なんだその様はよ?」

 

 妖はしのぶの態度に首を傾げた。

 

「だって。当たり前でしょ?姉さんが……。ううっ!」

「……」

「あ、ありがと。ありがとうね?姉さんを守ってくれて」

 

 柱である姉は常に最前線で闘っている。改めて思う。だからこそ、いつその命を失ってもおかしくはないのだ……。

 あまりのことに考えがまとまらず、そのままぐずぐずと泣き崩れるしのぶに、妖は困惑した。

 

「ああもう!いつもは小生意気なくせに、どうした?あれといいおまえといい鬱陶しい」

 

 妖はしゃくりをあげるしのぶに溜息を吐いた。

 

「あのなあ。あれとは、あれの敵を殺してから食うという盟約をしているのよ。つまりわしのものよ。わしが守るのはあたりまえだろが」

「えっ」

 

 しのぶは涙を拭いつつ、妖をまじまじと見つめる。

 尋常ではないとは思ってはいたものの、これはあの死神すら退ける存在なのだ。ならば鬼舞辻無惨を討つことは勿論、こうして姉さんを護ってくれることもできるにちがいない。

 冷たくなっていく姉を抱きしめることしかできなかった、あの夢。

 まっぴらだ。あんな思いをするのは!

 このバケモノはそういった結末を全て無しにしてくれる気がする……。

 しのぶはあらためて妖の存在感に圧倒されていた。

 

「それとそのすけろくとかいう名でわしを呼ぶな」

「しのぶ」

「ん?」

「私はしのぶよ?すけろく」

「だから、すけろくとか呼ぶんじゃあねえ!」

「わかったわ。で、私はしのぶよ」

 

 しのぶからの凄まじい視線の圧力を妖は感じ、溜息をついた。

 

「ねえ、すけろく。お願いがあるのだけれど」

「だから、わしの名は……」

「姉さんを食べるときは、私も一緒に食べてくれないかな?」

「なっ?!」

 

 しのぶの言葉に妖は息を呑む。

 

「そのかわり姉さんの敵を斃すまで、姉さんを含め私達姉妹を絶対守って!」

「はあ?」

「私だって姉さん並みに美味しいと思うの。で、条件はそんなにかわらないでしょ?あなたにはいい契約だと思うのだけど」

「はあ?わしはこの場でおまえを食ってもいいのだぞ?」

「人を食べるときは姉さんが一番なんでしょ?あなたほどの大妖が人間の小娘との小さな盟約すら守れないなんてこと、ないわよねー?」

「ぐぬっ」 

 

 意地の悪い表情でしのぶは妖をみつめ。

 

「私の全てを差し出すわ!鬼舞辻無惨を滅ぼすその時まで、私達を護って!」

 

 金色の妖を前に、しのぶは宣言した! 

 

「……」

 

 妖は目を細める。

 

「あれとの契約と全然かわらんな?それで、おまえはいいのか?……シノブ」

「ええ。いいわ!」

 

 妖の言葉にしのぶは大きく頷く。

 

「約束したわよ?すけろく!」

「だから!わしはすけろくじゃねえ!」

 

 妖が叫んだ!




 やばい、やばい。
 「しのぶとすけろく」になってまう?
 本編しのぶ感ないのですが、青き炎の解放者様ご指摘のとおり、にこにこ化前のしのぶはとらと相性よさそう?
 というか、にこにこ前なしのぶ感がでてるといいなぁと

→ここすきにいれていただいてありがとうございます
→なのに、ちょこちょこ変更してずれちゃってごめんなさい。ほんとごめんなさいー!
(ガチ土下座)

→そうして、けっこう追記。またまたずれてごめんなさい;
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