カナエととら   作:ぶんた

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(コソコソおまけコーナー

 真っ黒な場面にスポットライト。
 照らし出されたのは黒いスーツの中年男性。
 その男があなたに視線を向け口を開く。

「えー、双六。ご存じですか?いやいやいや。遊んだことありますよね?一回くらい」
「振った賽子の目だけ進んで、止まったマスの指示に従う。そうして、一番早くあがることができれば勝ちという遊戯です」

「そう。このゲームの絶対ルール。それは『止まったマスの指示に従う』こと」
「酷い内容だったとしても、そのマスに止まったならばうけいれるしかありません」
「どんな理不尽なことだったとしてもです」

「ではもし、必然的にそのマスに止まらされたとしたら?それはー」




【番外編漆】とある医師の書き留め編

 それは平安時代の街医者の書留。

 遺族により検分はされたが、意味不明の内容により、そのまま捨て置かれたものだ……。

 

*****

 

 

 貴き方の診療を依頼された。お声が掛かるとは光栄の極み。

 いや。一介の町医者である私が貴族の依頼を断れるわけもなし。

 ともかく全身全霊をもって務めたいと思う。

 

 

*****

 

 

 その方の全身は弱っていた。

 原因不明の病に全身を蝕まれ、そのままでは歳二十までは生きられぬと思われた。

 おいたわしや……。

 費用には糸目つけずとのことだが、原因がわからねばどうのしようもなし。

 この方を治さねば、私も責任を問われ処分されるだろう……。

 この方の命はすでに私の命でもあるのだ。

 ともかくは滋養のよい漢方で延命を図り、治癒する方法を見つけねば。

 

 

*****

 

 

 いくつもの書物を探りはしたが、今までにない病例であった。

 原因不明に若くして発病。全身をじわじわと蝕まれ、死に至る病。

 とにもかくにも私にできることは、患者の延命と原因究明。

 幸いにも、患者である方のお家の特権で、様々な書物の閲覧を許された。

 なにか。なにかしらかがわかればと、日々書物を読み漁る。

 

 

*****

 

 

「お困りのようですね?」

 

 そうして書物を読み漁り、疲れうたた寝をしていた私に声が掛けられた。

 寝ぼけ眼の私はそちらに視線をむけ、目を見開いた。

 そこには天女と見まごうような見目麗しい女人がいたからだった!

 

「あなた様は患者様のためにと日々書物を読み漁っていらっしゃるそうですね?そのようでは、あなた様自身がお身体を壊してしまいますよ?」

 

 こんな私を思ってくれているのだろうか?

 彼女は憂いを帯びた大きく美しい瞳で私を見つめていた。

 

「しかし患者は刻一刻と死に向かっている。弱っている。全くの猶予はないのだ」

 

 報われぬ努力を評価してくれる娘を嬉しく思いつつ、私は追い詰められた心情を吐き出す。

 

「……では」

 

 娘はそんな私をさぐるように上目遣いに見つつ……。そして口を開く。

 

「私がその症状への対処法を知っているといったら?」

 

 背の低い娘が私を見つめる大きな瞳。切羽詰まった私には光ない闇の深淵のように見えた……。それだけ私は追い詰められていたのだった。

 

「なっ!是非!是非ご教授いただけないだろうか!」

 

 私は反射的にそう答え、娘に頭を下げた!

 

「ですが……。ですがこれは病状を回復するものではなく。病状を変化させ、()()()()()()()()というものですよ?」

「かまいません!」

 

 まずは死の回避。副作用はその後になんとかすればよい。

 私は娘の提案に飛びついた!

 

「左様でございますか。ではこれを……」

 

 娘はにまりと微笑み、青い彼岸花を差し出したのだった。

 

 

*****

 

 

「これを飲まねば、私はどうなる?」

「ご承知のとおり、二十歳を数える前にそのお命尽きましょう。私は貴方様に少しでも生きていただきたく、力をつくしております」

「わかった。もういい」

 

 やたらと食って掛かる患者に、私は内心溜息を吐いた。

 娘に教えられた通りに処方し投薬した結果は劇的で、日々衰弱する一方だった病状を抑えることができたのだ!

 ただ言われていた副作用も顕著だった。

 それまで力なく日々過ごしていた患者が、なにかにつれ憤り不満を零すようになったのだ。

 死の淵に佇んでいたような今までよりはよい。私はそう割り切るようにした。

 私を見つめる視線が日々、強い圧になっているのを感じながらも……。

 

 

*****

 

 

 ――いくつもの書留はそこで終る。なぜなら……。

 

 その日。その街医者は患者の手にする鉈で頭をかち割られて死んだのだ。

 意識しない唐突の惨劇。医者はなにを思う余地もなくその生を失った。

 

「死んで当然だ。藪医者め!」

 

 鉈の突き刺さる脳天からどくどくと流れる真っ赤な血を流す骸を眺めつつ、それをおこなった患者であった貴族は肩で息をしつつそう吐き捨てたのだった。

 

 

*****

 

 

「あらあら、まあまあ……」

「いけない子。ちゃんとお医者様のいうことをきけないなんて、ね」

 

 医者と話していた女は、ぽつりと呟いた。

 

「おとなしくしていればよかったものを……。おとなしくしていれば、かの者と同じ存在になったかもしれぬものを。そうして施術が中途半端になってしまっては、中途半端なことになってしまうのよ?困ったわ……」

 

 女は青い彼岸花を手に、物思いに首を傾げる。

 

「ん、んんん。でも、それはそれで良き。お前は決して手に入らぬものを追い続けるがよい。そうして永遠の時の淵を存分に足掻き、人を喰いものにし恐怖を撒き散らすがよい」

 

 女の口はにんまりと弧を描き、その間からは人ならざる並ぶ牙が覗く。

 

「可愛い子。せいぜい、我を楽しませておくれ?」

 

 女の手の中で青い彼岸花が燃え上がり塵となる。

 そして。女はその白い顔をうっとり惚けつつ、呟くのだった。

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