その翌朝。ちゅんちゅんと鳥が鳴き、陽光に照らされた青葉が輝く。気持のよい朝だった。
「人間。朝食の準備ができた。疾く起きろ」
カナエの潜り込んでいる布団の脇に、和服を着た長い黒髪の美女が正座していた。
女の顔は晴れない。兄の連れてきた客に対し礼をつくさねばと思いつつ相手は人間だ。ついつい扱いが雑になってしまう。優しくて強い自慢の兄達だが、優しすぎる次兄はちょっと困りものだ。
「おい人間。兄様達を待たすな。起きろ」
女の強い口調に布団の膨らみはぴくりと反応し、もそもそと寝床から這い出したその不機嫌の塊が半眼で周りをねめまわす。
「……しのぶ。寝てる私を起こさないでっていったよね?」
「人間。なにを言っている?私はしのぶという名ではない……」
「ねえ、いったよね?しのぶ……」
不穏な圧を発しながら這い寄ってくるそれに、女はびくりと下がる。
「……ねえ。私はとてもとても疲れていて、睡眠が必要なのですよ。わかりませんか?」
「そ、そうか。なんとなくわかった……」
「では寝かせてくれますか?」
「ああ、もう暫し寝るといい。ひぃ!」
とりあえずその場を収めようとした女の右の手首が、がしりと掴まれた!
「……しのぶ。こういうとき、いわなきゃいけない七文字の言葉を教えましたよね?」
「ななもじのことば?」
「ご・め・ん・な・さ・い・!」
カナエのついとあがったもう片方の掌の指が、くいくいくいと折られる。
「さ、仰いなさいな」
「ごめんなさい……」
「よくできました。さすがしのぶです……!」
女は蚊の鳴くような声でそれを絞り出した。カナエは観念して項垂れる女を見つめ満足げに笑みを浮かべる。そしてそのままがばりと抱きついた!
「ちょ、おい人間!」
「ささ、もうひと眠りですよ。ふぁああ……」
カナエは抱きかかえた女ごと、ずりずりと布団へと移動を始める。
「な、え、人間?!ちょっと!」
「うふふー」
「駄目!だめだったら!やだ、いや!あにさまー!」
捕縛された獲物のできる抵抗は、力ない抗議の言葉と、いやいやと力なく首を振ることしかなく。
かくして、獲物は捕食者の寝床に引きずり込まれた……。
*****
妹が戻ってこないことを不審に思った十郎だったが、人間といえども異性の寝室に入るのは戸惑われた。部屋の前でうろうろとする。
「心配すんな。いつものことよ。ああ、あの人間が起きるのは、昼過ぎになるとおもうぞ?」
金色のバケモノのあくびがてらの言葉に、十郎は首を傾げるのだった。
やっぱり全然だめじゃない!しのぶ激おこ案件