トースターの独特の音が部屋に響き、薬缶の中の水の音が聞こえ、居間からテレビの音が聞こえる。
チン♪ という音が聞こえる。入れていたパンが、焼きあがった合図だ。
「私が持って行くね」
「ああ、頼む」
あかりの問いに、俺は承諾して、インスタントコーヒーの準備を進める。
朝のご対面から、とりあえず朝飯の提案をして、朝ごはんの準備中。
今日は、直ぐに出来る様に、パンとコーヒー。おかずは、昨日の余り物となっている。
「あかり」
「ん? 読んだ?」
「いや、何でもない」
思わず名前を口にして、反応するあかり。
それに対して、慌てて返す。テンパっているのが、実感している。
何せ、同じ部屋に、好きな子だった相手がいるのだから。
「思春期か……いや、ある意味間違ってないな」
そうボソリと呟くと、薬缶が鳴り始めたので、火を止めてマグカップに注いでいく。
マグカップのデザインは、紲星あかりのグッズモノ。
……何で、家にはこれしか無いんだよと思いつつ、コレクションを開封して使用している。
何気にプレミア付いているけど、予備で保有していた奴を取り出したのである。
若干恥ずかしい気持ちを抑えつつ、コーヒーを持って、居間に向かう。
居間では、あかりがニュースを見つつも俺を待っていたらしく、朝ごはんには手を付けていなかった。
「持ってきたぞって、先に食べてて良かったのに」
と、マグカップを渡しながら言う。
「一緒に食べたかったから」
差し出されたマグカップを、両手で受け取りつつ、問いが返ってくる。
俺は、持っていたマグカップを、テーブルに置いてから座り、ニュースを見る。
案の定と言うべきか、昨日に引き続き、紲星あかりの行方不明のニュースが流れている。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
お互い手を合わせて、食事の挨拶をする。
小学校以来だなと思いつつ、トーストに齧りつくあかりを見る。
「で、確認したいんだけど」
「ぅん」
「あかり草、で良いんだよな?」
「――うぐん……うん、そうだよ」
「キス、したんだよな、俺たち」
「……うん」
言ってなんだけと、多分顔が赤くなっている俺。あかりも、顔が赤くなっているので、間違いないかも。
顔に血がジワジワと登っていく感覚があるので。
ただ、話が進まないので、コーヒーを一口。うん、苦い。けど、若干甘いな。
砂糖入ってないのに。
「と、とりあえず、何で草になってんだよ。ファンタジー世界じゃないのに」
「あ~……うん、確かに」
俺の問いに目を泳がせるも、ぽつぽつ事情を話し始める。
で、纏めると。
「ニュースでやってる通り、居酒屋で1人酒飲んでいたら、座敷越しで先輩たちが飲みに来ていた。ので、顔出す前に聞き耳立てていたら、先輩が自分の事を疎んで罵倒していたのがショックで、人気の無い暗い道をフラフラ。そこで、露店を発見して、店主から変な液体を貰って、自暴自棄に飲む。気が付いたら、草になって俺の部屋にいた――で、OK?」
「OK牧場です!!」
「アホか!?」
あかりの気持ちいい返答に、思わずテーブル越しから頭を叩く。
いや、流石に叩かんと駄目だろ。何だよ、憧れの先輩から、酒の勢いとかの類とは言え、罵声はキツイのは理解できる。
けど、その後の人気の無い夜道フラフラは、叩くレベルギリギリなのに、そこで露店で薬を躊躇なく飲むとか。
「お前、下手しなくてもハイエースされて、二度と日の光浴びる事出来なかったぞ?」
「ごめんなさい」
両手で叩かれた頭を押さえながら、涙目で答えるあかり。
僅かに何かが疼くが、それは今ではないと抑えて、続けて言葉を述べる。
「これからどうするんだ?」
「これから?」
「そう、これから? 先輩を超えているんだろ? お前の目標は、先輩の様になる事だろ?」
「……覚えていたんだ」
「フラれた時の言葉だからな」
お互い無言になり、ニュースの音だけが聞こえる。
俺は、冷めたトーストを一口食べ、昨日の残り物も口に放り込む。
食べる。
食べる。
飲む。
エンドレス。
それをして、俺のご飯が半分くらいになった辺りで、あかりが言う。
「ねぇ、リュウくん」
「何だ?」
夕飯の残りを口に入れようとしたけど、一旦皿に戻して、箸も置く。
「昨日の言葉、覚えているよね?」
「当たり前だろ、酒なんて飲んでないし、勢いで言った部分があるけど」
「なら、今更撤回しないよね?」
「……別つ時まで?」
「うん」
「お前があかり草なんだろ? なら、変わりないさ」
と言って、照れ隠しでコーヒーを一口。
「うん、分かった。スマホ貸してくれる? 電池無いんだよね」
「良いけど、番号判るのか?」
「……あ」
俺は、充電器を持ってきて、あかりに渡す。幸い、端子は同一のモノだったので、問題無く充電していく。
で、ご飯を食べ終えて、俺が食器を片づけている最中に、あかりは電話。
色々声が聞こえたけど、これから事務所に向かう為に、車を回してくれるとの事。ついでに、一緒に来て欲しいとも言われた。
まぁ、やらかし内容から、せめて付き添うは欲しいのは、心情的に理解できる部分もある。
よは、子どもが怒られる時、1人が辛いのを回避する的な感じかな。
で、住所を教えて、車が来てから部屋を出る形となったので、お互い支度する。
「あ、来たみたい」
「よし、行くか――って、靴は?」
「大丈夫、何故か玄関に置いてあったから」
「本当に、何で草になったんだろうな? 戻る時もだけど」
「うん、起きた時は履いてなかったから、少し気になっていたけど」
「説明は、しっかししろよ。少なくとも、誤魔化ししたら横やり入れるから」
「……はい」
というやり取りを玄関で行い、素早く出て、外に止めてある車に乗り込む。
事前に話が通っているので、俺もすんなり乗せて貰えた。
そして、朝の渋滞に巻き込まれつつ、あかりの所属事務所――ではなく、別の建物のエントランスで、マネージャーに出会う。
「あかりちゃん、心配したのよ!?」
「ごめんなさい、マネージャーさん」
エントランス全体に響き渡る声。
俺は、思わず辺りを見回すも、こちらにスマホを向ける人も、人が集まる様子も無い。
一応、人がチラホラ見受けられるのに。
「大丈夫ですよ」
背後から声が掛かり、俺はそちらへ振り向く。
全体が紫色の印象を受ける色の服装に、うさ耳のパーカーを羽織った、巨乳の女性。
あかりの憧れにして目標だった人、結月ゆかりである。
なお、着やせするタイプで、見た目はCカップだけど、実はD以上あるとの事。近々、露出も解禁してグラビア写真集も出すという話がある。
「アナタが、あかりが言っていた赤野龍騎さん、ですね? 初めまして、結月ゆかりと申します」
「ああ、どうも」
「早速ですが、あかりちゃんとは、どういうご関係で?」
その言葉に、目を細めるゆかりさん。
まぁ、かわいい後輩が数日間行方不明で、見つかったと思ったら男と一緒に現れたのだから、当然の反応である。
親なら、胸倉掴みながら迫ってくるレベルだろうなと思いつつ、俺は答える。
「生涯添い遂げる予定の仲です」
「生涯添い遂げる――へぇ?」
案の定、目を丸くして、固まるゆかりさん。
行き成り言われれば、そりゃそうなるわなと、ゆかりさんの顔を眺める。
で、いろんな顔に変化しつつ、目を瞑って落ち着く。
「少々お待ちください」
目を開けて、それだけ口にすると、物凄い勢いで振り返りながら走り出すゆかりさん。
「あかりちゃん!? 生涯添い遂げって、どういうことなの!?」
その言葉に、今度はチラホラいた人たちの顔が、こちらに集中する。
話していたマネージャーも、その言葉を聞いて、あかりを問い詰める。
ただ、流石にアウェー過ぎるので、あかりの元へ駆け出す。
その後、今日の午後に緊急の記者会見を開く事で、騒動の鎮静を行う事になり、急ぎ準備を行う。
あかりの進言により、記者から見えない位置でいる事を許可される。ただ、念の為にスタッフの1人としてなので、作業を手伝う事に。
で、なんやかんやで、緊急記者会見の時間となり、報道陣が詰めかけてくる。
「皆様、この度は大変ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
と言って、深々とお辞儀して、シャッター音とフラュシュの雨が降り注ぐ。
俺は、記者から見えない位置から、あかりの姿を見ているが、気持ちが良いものでないなと思う。
「今回の件なのですが――」
簡単に説明すると、打ち合わせの謝罪の部分のみで、それ以外は俺に説明した流れを。
ただし、自分が草になった事は伏せて、数日感記憶が無く、気が付いたら俺の家にいた事。
あと、俺との関係は、高校生時代に好きだったけど、ゆかりさんの様に成りたくてフった関係だった事もぶちまけ。
「――以上となります」
絶句しながらもシャッターを切るカメラマンと記者に、絶句して固まるマネージャーとゆかりさん。
ついでに俺も絶句している。だって、打ち合わせの内容と違うんだもん。
一応、見える位置にいるとはいえ、止めに入る訳には行かないというか、マネージャーにあかりが襲われない限り出るなと言われているので。
「あ、あかりちゃん!? あれ、あの時、居酒屋にいたの!?」
「はい、1人で居酒屋のメニューを堪能していました」
そして、少し顔を伏せて、言葉を続ける。
「私は、ゆかりさんの様に成りたくて、この業界に入ったんです。なのに、酒が入っていたとはいえ、疎まれていた事がショックでした。好きだった男の子の告白を断ってきたのに」
その言葉を皮切りに、あかりから流れる様にゆかりさんに質問が、集中砲火する。
流石に拙いと思った視界が、あくまであかりの謝罪がメインだと宣言するも、無視の一択。
ゆかりさんが逆切れして、あかりと言い争いになり、有耶無耶に緊急記者会見は終わりを迎える。
その後は、後日書面であかりとゆかりさんの処分を発表。
あかりは、現在やっている最中の仕事を終え次第、1年間の謹慎に入る事。また、ゆかりさんも同様で、こっちは半年間。
ただ、その間は無収入になるので、謹慎中は反省の意思として、事務所の清掃員として働いてもらう事に。
ついでに、大学卒業後にあかりの所属する事務所のスタッフとして働く事が決まっている。
あのバカッターやらかした人の代わりとの事。丁度、大卒になるから問題無いよねと、圧力を掛けられた。
……卒業出来なかったら、地獄だなコレ。
そんな感じで、緊急記者会見から1年が経過。
その間、今まで住んでいたアパートは、1人住まい用だったので引っ越し。
あかりと一緒に住むために、2LDKのマンションをマネージャーから紹介された。
まだ大学生の身分だった身としては、無理な物件だったが、あかりは株をやっているので収入的に問題無しとの事。
あと、安全面の為にも必要経費と言われたので、了承した。
男のプライド的な面子もあるにはあるが、収入的に学費で手一杯だし、俺は学生であかりは社会人。
立場が根本的に違うし、あかりの安全が優先なので、俺の面子はゴミに捨てるくらい簡単な事。
ただ、あかりの謹慎前に終えた仕事が、会見後3ヶ月経っているので、未だに清掃員である。
そんな訳で、今日も朝を迎えるも、今日のあかりは少し起きるのが遅かった。
「あかり、そろそろ時間じゃないか?」
「え? ――あ!? もうこんな時間!?」
そう言って、朝食を急いで食べる。
が、案の定、喉に詰まって咳き込む。
俺は、水の入ったコップを持って、あかりの元へ駆け寄り、背中を擦る。
擦りながら、これからの事を思う。
あかりを支える。あかりに支えられる。
あかりと一緒に要れば、いない時もある。
喧嘩する事もあれば、すれ違う事もある。
夢を語れば、思い出を語る。
喜びあい、怒りあい、哀しみあい、楽しく日々を過ごしていくのだろう。
「ほら、水」
咳込みながらも、少し落ち着いたタイミングで、水を一口。感覚を確かめてから、また一口。
調子を整えながら、ティシュで口を拭いて上げる。
「あとは俺がやっておくから、支度してきな」
「――ふぅ、ごめんね」
と言って、席を立ち、急いで着替えに部屋へ向かうあかり。
「あかり!!」
「何!?」
「今日履くのは!?」
「黒の靴!!」
「おう!!」
俺は玄関へ向かい、棚の引き出しを開けて、靴を取り出す。
すると、後ろからドタドタと聞こえてきたので、靴ベラ片手に壁に張り付く。
ドタドタとあかりが横を通り過ぎる際、靴ベラを渡す。
「ありがとう」
玄関のドアノブに手を掛け、俺の方に顔を向けてくる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関のドアを開けると、隙間から風が入ってくる。
玄関の棚の上に置かれた、植木鉢に咲くニリンソウが揺れる。
その動きは、あかり草の喜ぶ動きに似ていた。
あ~、読者の口の中を、砂糖塗れにしたいんじゃ~。
とりあえず、一応この話は終わり感あるけど、もう1話だけあるので、お付き合いお願いします。
ってか、まさか仕事している週間に出来るとか、紲星あかりに飢えている証拠と考えるべきか。
それとも、純粋に創作意欲が爆発したのか、悩みどころだな。
所々端折っている感じがあるけど、フワッとなので細かく書いていたら破綻の可能性があるので。申し訳ないですが、各個人の脳内で保管をお願いします。
なお、2話目書き終えてから、仕事行く前に何でほぼ8割ほど書き上げているんだろう。(汗
筆が乗るって、こういう事を指すのか。
ただ、締めの部分に納得出来なくて、何か無いかと調べたら、『二輪草』が出てきた。歌詞も確認したけど、巡り合えたことに感謝。
最後に、結月ゆかりの胸の大きさは、『結月ゆかりμ』を検索してください。
まぁ、無くても、自分の制作小説は、基本巨乳にしますので、ご注意を。