「家にずっといるっていうのじゃダメなんですか?」
「同じ場所に留まっているというのも危険だからね」
「一応、犬たちの猛攻はある程度抑えられたと思うんですけど」
ショッキングな光景だった。
命のやり取り。
凄惨な現場の中で、どちらが襲撃し、どちらが防衛したのかという当初の立ち位置を考慮に入れた上でも、わたしが命を奪ってしまったのは覆しようない事実。
しかし今、わたしが
「それはまだ対魔術師・使い魔を考慮に入れたときのみの闘いだけだね」
けれど、セイバーはそれは甘い考えだと否定する。
「……。どういうことですか?」
「対サーヴァントを考えるのなら、そもそも家ごと吹き飛ばされる可能性もあるってことさ。サーヴァントは剣の一振りで街の一つや二つを壊滅させられる。人型の兵器だと考えればちょうどいいかもね」
「そんな人たちを相手にしてたら、多少結界が張ってあったところで無意味ってことですか?」
「無意味……とは言わない。ただ、少なくとも積極的に外に出て状況を把握するっていう方が」
ーーかえって戦う回数を減らすことができるかもしれないよ。
「えっ」
「ん、どうかしたのかい」
「いや、なんでもない。です」
戦う機会が少ないのなら重畳。そのはずなんだけれど、見透かされている?という薄ら寒さが背中に張り付いていた。
いや、それに何か問題があるものか。
(なんで戦う意志がないっていうだけで罪悪感。感じないといけないっていうのよ)
そもそも、サーヴァントなら相手を蹴落とすために積極的に戦いたいはずなのに、敢えて消極策を取ろうとするのだろうか?という疑問を胸にしまい込んで、セイバーがそういう態度で聖杯戦争に臨もうと表明してくれたことをひとまずは歓迎する。
「さて、家に侵入した者がいたかどうか識別できるよう結界を張ったし、外に出ようか」
眼鏡の橋をくいっと人差し指で押し上げながら、玄関先で靴紐を結んだ。心臓がバクバク動いた。胸に手を当てる。ぎゅっと服を握りしめると、きっと気のせいだけれど令呪の部分が熱くなった。
はい。だとか、うん。だとか、そう言って了承の言葉を返すことはできなかった。ただ、小さく頷いた。
セイバーが玄関の扉を押し出した。わたしが続くように玄関を通ると、夜の11時の外気が、首元とか、手とか、露出した肌を突き刺す。
ほぅと、口から出た呼気が白く湯気のように立ち上っていくのを見て、昨日の夜は寒さなんて感じなかったことを思い出した。
しんと静まり返った夜。普段と何ら変わり映えなく、人々の営みが小さくなっていく弱い時間。
わたしたちは二人、細い路地を辿っていた。
「霊脈を拠点にしようというマスター・サーヴァントは多い。そこを奪るだけで、聖杯戦争という長いスパンで見たときに継戦能力が段違いになる」
例えば、わたしの家もある程度の霊脈として機能し得る土地の上に居を構えているのではあるが、霊脈としての格自体は大したことがない、らしい。
「戦争を有利に進めたいのならば、先んじて霊脈付近に拠点を用意していくことは策の一つとして有効だ。拠点としておくには管理しきれない場所でも、霊脈の上に魔術的な罠を設置しておけば勝手に魔力を供給され続けるようにもできる」
「……えっと。もし自分たちが拠点にするには不向きでも、次に霊脈を狙いにくるマスターたちに嫌がらせができるってことですか?」
「そういうこと。逆も然りだ。その罠の魔術構成を分析して、もしもルーンが使われていれば、北欧にルーツがある魔術師・サーヴァントの可能性が高いってことがわかって、多少、対策は立てやすくなってくる」
ルーツを知るっていうのは、とりわけサーヴァントと戦うときには有効になってくる。
「セイバーは、その。どんなサーヴァントかっていうのは、わたしに教えてたりってできる?」
「……。あぁ。できる。できるけれど、今はまだ、できない」
「そう、ですか」
やっぱり、未熟だからということだろうか?隠しきれず、わかりやすく落ち込んでみせるわたしにセイバーはかぶりを振った。
「昨晩、綾香が生き残ることができたのは、色々な偶然、仕掛け、そういうものが絡み合って成し得た奇跡だったんだ。僕も何が起きたのかわからなかったんだけれど、元々綾香の身体に何者かの魔術的な干渉、もしかすると罠が仕掛けられていて、それが偶々良い方向に転がった。としか言いようがないことが起きたんだ」
「え。わたしの身体に?」
「すまない。本当は早く言うつもりだったんだが、どう説明したものかわからなくてね」
それはきっと戦争が始まる前から仕組まれていたという意味。いったい、なぜ?いつから?
例えば、お墓参りに行ったとき。あの神父からかけられた?
ぞわっと総毛立つ。
無防備だった。ずっと関係ないって蹲っていれば、誰からも隠れ切れるだなんて信じていた。信じていたかった。
「怖がらせようと思って伝えたわけじゃない。僕にも整理しきれないものがあってね。僕なりに納得するために調査を進めたいっていうのもあったんだ」
耳鳴りがキーンとする。頭の中が漂白されて、視界がチカチカとしてくる。身体のバランスを崩しそうになりつつも、なんとか右足を踏ん張る。耐えきれずに少し俯いた。
「綾香!」
『……。ああ。……ええ。心配要らないわ。だいじょうぶよ、セイバー?そんなに詰め寄られると……ふふ。恥ずかしくなってしまうわ』
「……綾香?」
「あ、えと。はい。もう落ち着きましたから。だいじょうぶです。近くて、その。恥ずかしいので、離れてください」
俯いた顔を少し上げれば、目の前にセイバーの顔が広がっていてギョッとする。カッコいい顔。顔が知らず火照っていた。
「ああ。うん、ごめん。……何か今変わったことはなかったかい?」
「変わったこと?なんてなかったですけど」
今のセイバーにドキドキしてしまったのは言わなくていいことだろうか?うん、そのはず。
「そう、か。いや、ごめん。僕も気を張り詰めすぎてたのかもしれないね。綾香は心配しないでくれ。クラスはセイバーだけど、ある程度対魔法的な処置は実戦的に試してきてる。今日は早めに拠点に戻って
『ええ、わかったわ』
「結果は綾香が起きたら共有するよ。帰るときは、来た道とは別の道にしようか」
「はい、わかりました。で、その霊脈の確認と言うのは」
「ああ、もうここだよ」
いつしか小高い高級住宅街に入っていた。
「……いや。ここって確か」
「どうした?」
記憶を辿るように道を駆け足で進んでいく。セイバーも付かず離れずくらいの距離感でわたしについてくる。
そう、わたしはここに来たことがある。あれはなんでだったか。思い出せないけれど、8年前、すべてが無くなったあの日に、わたしはここで目覚めた。
【玲瓏館】
敵のマスターかもしれないあの人の屋敷で。
クオリティー無視・さっさと文章をつくる方針でしばらく書いてみます。
後で気に入らなくて改稿・削除するかもしれないですがそのときはそのときで、ご迷惑をおかけいたします……。