ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE 作:ルシエド
『ファースト・コンタクト』とは何か
『宇宙の基本法は愛であり、愛が人間の最高位のもので、神の名を"愛"と言うんだ』
GBN。ガンプラバトル・ネクサスオンライン。若者ならば、その名を知らない者はいなかった。
「ねえねえ知ってる? GBN!」
「ああ、今一番熱いオンラインゲームだろ?」
「凄すぎて電子生命体とか生まれちゃったってニュースでやってたね」
「二千万人以上がアクセスって、アクティブユーザー二千万人以上?」
「へー、世界一なんじゃない?」
「ガンプラを作って読み込んで、ゲームの中で自分が操作できちゃうらしいよ!」
「戦ったり冒険したり、色んな人とお喋りするだけでもいいんだってね」
「戦うのもまったりするのもユーザーの自由なのはいいね」
「世界中から人が集まってガンダムで戦ってるのか……いいな!」
「ガンダム知らないけどやってて楽しかったよー」
「ガンダム知らなくてもいいってのがいいよね」
「GBNか」
「オレ中学校の時GBNやってないと話題に入れなくて仲間外れになってたなあ」
「休日に家族でやると割引プランとかもあるから家族チームとか多いよねー」
「私は作ったガンプラを褒めてもらうだけかな。芸術家も結構いるのパねえよ」
今や、世界で一番勢いのあるオンラインゲーム。それがGBNだ。
ガンダムというややニッチながらもアニメ業界最大手の一つだったジャンルは、世界中の誰もが参加し交流できるオンラインゲームという土壌を得て、世界に羽ばたいた。
障害者でも問題なくプレイできる補助つきVRシステム、外国人同士が交流できる高度な翻訳の交流システム、ガンダムという無限の可能性を秘めた原作。全てが上手く噛み合ったのだ。
何もかもが上手く行っているゲーム。
今一番に悩み事がない運営。
多くの人がそう思っていた。
けれど―――そうではなかった。
GBNの片隅、オンラインゲームのバーの中で、二人の"女性"がそのことについて話していた。
「異星人? 正気か、ママ」
「正気よぉ。来ちゃったのよ、このGBNに、異星人がね」
「……にわかには信じられん。が、信じるに足る理由がいくつかあるな……」
「でしょう? メイならそう考えられると思ったわ」
ママ、と呼ばれた男/女の名はマギー。
190を超える長身に筋骨隆々とした鍛え上げられた肉体は男らしさの塊で、服装によってはプロの格闘家にすら見えるだろうが、その服装は一見して誰にも分かるほどにゲイのそれだった。
話し方も女性らしく、トランスジェンダーであることがひと目で分かる。
これは"看板"だ。「私はこういうものです」という看板だ。
マギーは、服装と振る舞いで看板を掲げている。
トランスジェンダーに偏見がない者は彼/彼女に普通に話しかけ、忌避するものは近寄らず、またそれゆえにマギーも過剰に気を使わず自然体で生きることができる。
トランスジェンダーの装いとしては、彼女は最適解の一つを採択していると言えた。
ママ、と呼んだ女性の名はメイ。
マギーが装いでは隠しきれないほどの男性性を持つ男であるとするならば、メイは逆にどんな男装をしても女性であることを隠せない女だった。
目の覚めるような美形に、翡翠の瞳、もう少しで膝まで届きそうなほどに長い黒髮は美しく、まるで黒曜石のような光沢を放っている。
スラッとした高身長ながら異性の情欲を集めそうなプロポーションに、感情のない表情が、どこか高嶺の花という印象を与えてくる。
服装は地球のどの服の系統にも属さない、SF映画の近未来ロボットのようなもので、厚みのある全身タイツに上着を一枚被せただけの、やや扇情的なものにも見えた。
『遠い未来の日本人の末裔の美人』を絵に書き起こしたら、こうなるのかもしれない。
「GBNが"どこか"に繋がっているという話は、以前からあった。
ママからそういう噂話を聞いたこともあった。
他のプレイヤーがそう推察していたのも聞いた覚えがある」
「そうね。他のサーバーに不正に繋がっているとかそういうレベルの話ではないわ」
「とはいえ、今日まで与太話として聞き流していたことも確かだ。私も、ママも」
「現実的じゃないものねえ。
ネットゲームが遠い宇宙に繋がってました、なんて。
私もメイも本当のことだなんて思ってなかったわ。
遠い宇宙の知的生命体なんて、今の地球人にとってはSF小説の妄想でしかないもの」
「その通りだ。
だが、SF小説の妄想など既にいくつも現実になっている。
テレビやラジオを内包する携帯端末。
遺伝子を組み替えた生物。
人間と会話するコンピューター。
動く歩道、稼働する階段。
……電子生命体。全てかつては夢物語だったが、今は全て現実に在る」
「そうねえ」
マギーはこのネットゲームでアバターを使っているだけの、ただの人間だ。
だがメイは違う。
彼女は電子生命体―――『ELダイバー』と呼ばれる、GBNで生まれた生命である。
世界で一番勢いがあるネットゲームのサーバーで生まれた電子生命体ということで、ニュースでは随分騒がれていたが、一般層全てにはまだイマイチ認知されていない存在であった。
ELダイバーの発生プロセスは未だによく分かっていない。
『GBNプレイヤーの想いが蓄積されてELダイバーになる』という考えが今は定説だが、それだけで説明できないことも多々存在する。
常人離れした絶世の美女であるメイは、そもそも人間離れした生命体なのである。
ある者はELダイバーを新人類と言った。
ある者は地球で最も新しい野生動物と言った。
ある者は人類を超えた存在と言った。
意見は十人十色、千差万別。
人類は『解答』を見つけていない。
ELダイバーという新生命に対しても、宇宙人という異生命に対しても。
"来たるべき対話"の到来は、人類の準備完了を待ってくれやしないのだ。
「メイは今受けているミッションも、"そう"考えていた……確かそうだったわね」
「ああ。推論の最後のひと押しになった。だが今はそれが問題ではない」
「異星人よねえ」
「異星人だな」
「分かる? メイ。これって、『人類の存亡を賭けた対話の始まり』ってやつなのよ」
「……」
「下手を打ったら大変なことになると思うのよねえ」
「だろうな。私もママの意見に同意する」
「『ファーストコンタクト』っていうのはね、多くの場合悲劇を伴うものだから」
ファースト・コンタクト。
それは元々、文化人類学が定義し、生み出した言葉だった。
文明的に優位である側が、文明的に劣位である側に接触することで、時に
そういったことが、人類の歴史にはたびたびあった。
優れた他国に憧れ、自国の文化を捨ててしまう。
先進国への劣等感から、戦争を仕掛けてしまう。
発達した先進国の武器によって、劣位の国が一方的に征服されてしまう。
そういった最悪の事態が起こり得る、非常にハイリスクな『出会いの瞬間』―――これを、学者達は、ファースト・コンタクトと呼んだ。
やがてこれは、SF用語として定着し、多用されることとなる。
人類と異星人の『出会いの瞬間』には何が起こるのか?
地球人はまだ遠い星にまで行けない。
地球に来れる、つまり地球を超える技術を持つ異星人との出会いはどうなる?
かつて、地球では劣った国は先進国に蹂躙されることもあった。
地球人が蹂躙されたらどうする?
友好的な異星人が来たとする。
どうすればその友好を維持できる?
今まで『自分の方が先進的で優れている』という形でしかファースト・コンタクトをしたことがない幾つかの地球国家は、自分達が劣位のファースト・コンタクトに耐えられるのか?
人類はそういったことを、SFという分野で百年以上、ずっと考え続けてきた。
そして、来たるべき時は来たのだ。
「だがママ。何故その話を私にする?」
「そうよねぇ、そこは疑問に思うわよね」
「こんな話、私が知る理由がない。
ママが知っているだけでも少し怪しむところだ。
こんな事実が世間に広まれば確実に混乱が起こることだろう」
「でしょうねえ」
「高度過ぎるゆえに、GBN内のことは政府がGBN運営に全面的に任せている。
だが運営はこの情報を秘匿しようとしていたはずだ。
いかなる事情があろうとも、ママが私にこの話をするのは不可解だ。違うか」
表面的に見る限りでは、マギーは優しげな男性/女性で、よく微笑んでいる。
対しメイは感情があるのかないのかもわからない、無表情の絶世の美女。
だが、表情で感情を隠し腹芸をするということに関しては、マギーの方が上手そうだった。
内心が透けない笑みと、内心が透ける無表情があった。
「向こうがあなたをご指名なのよねえ」
「? 私をか?」
「『彼』……彼と言っていいのか分からないけど、彼はまず運営と対話を始めたわ。
それはそうよね、彼が現れたここGBNは高度とは言えオンラインゲーム。
GBNで政府首脳にあたるのは運営だわ。……でもね、ちょーっと問題が出てきちゃったの」
「問題とはなんだ、ママ」
「会話が成立しなかったのよ」
「……ああ、なるほど」
メイは納得した様子で、鋭利な目つきを細め、頷いた。
「異星人さんは日本語をちゃんと習得して来てくれたわよ?
そこはちゃんと感謝しないといけないんだけど……
でも、言語以外の部分がダメだったみたい。
倫理。概念。常識。文化。全てがすれ違ってしまっていたみたい」
「当然だ。運営は地球人。
私のような
数千年積み上げてきた人間の常識をどうして異星人が理解できる?
異星人も同様に積み上げてきたならば人間がどうしてそれを理解できる?
人生経験のない私にもわかる。それは一朝一夕には越えられない認知の壁だ」
「そうなのよねぇ。困っちゃうわ。
異星人さんが歩み寄ってくれてるのが分かるから、なおさらに」
「SFなら、地球を理解できない異星人は地球を攻撃するだろうからな」
「そうそう。うふふ、粘り強く対話をしてくれる異星人さんで幸運よね」
異星人と地球人の相互不理解。SF作品で幾度となく扱われたテーマであり、地球人が山のように考察してきた心配事が、今ここにある。
星と星の途方も無い距離が、二つの星の常識の"遠さ"をそのまま表している。
かつて地球で隆盛した民族と未開の部族が出会った時のように、先進的な側――異星人――が武力行使を躊躇わなかったならば、地球は焦土と化していたかもしれない。
相互理解の難しさを、地球人類は知っている。
言葉が違えば分かり合えない。
国境を挟んだ二つの国が分かり合えない。
言葉が通じる同じ国の人間同士ですら分かり合えない。
場合によっては、同じ家の血が繋がった家族同士ですら分かり合えない。
それでどうして、異星人と分かり合えるなどと思い上がれるだろうか。
地球人類は未だ、遠き星の違う知的生命体との『来たるべき対話』をこなせるほど、成長した知的生命体ではないのかもしれない。
だが。
今、この星には、人類以外の知的生命体が存在している。
「でもね、その異星人さんが言い出したのよ。『人間以外ならどうか』ってね」
「……ELダイバー」
「そ。どうもね、その異星人さんは意識の波を調べられるみたいなの。
地球人と自分の意識の波が合っていないことに気付いてたらしいのよね。
でも……他の人間とは比べ物にならないくらい、意識の波長が合っている子がいたのよ」
「だから私か」
「そ! 嫌なら断ってくれて構わないわ。
その異星人さんは地球人を勉強してるから、いつかは意識の波長も合うらしいからね」
「構わない。断る理由もないからな。
そうか、人間のことをよく知らない私だが……それゆえに、異星人に近かったか」
メイが長い黒髪をかき上げ、納得した様子で腕を組む。
人は皆、自分が生まれた意味、生きる意味を探している。
そして、大人になるにつれて探していたことを忘れる。
メイもまた、その意味を探している者だった。
この出会いが、異星人とELダイバーという関係性が、それを自分に与えてくれるかもしれない……そんな、淡い期待もあったのかもしれない。
「だが私は礼節に長けているELダイバーではない。失礼を働く可能性もある」
「大丈夫みたいよ? 大分好意的な異星人らしいからね」
「ふむ。そうか」
「機嫌を損ねないためにどうするかは、運営はよく考えてるらしいけど、はてさて……」
素直な姿勢で現状に向き合っているメイに対し、マギーは女性らしい柔らかい表情を浮かべつつ――男性らしい声で喋りつつ――、現状に対してある程度の警戒心を持っていた。
「でもあんまり余計なことは話さないようにね?
運営の一部はまだちょっと警戒してるみたいだから。
侵略戦争の下準備は、まず好意的なスパイを送り込むものだものねえ」
「勿論留意しておく。人類の内情を事細かに語るつもりはない」
「うんうん、いい心がけよぉ」
古今東西。邪悪に賢い者は、最初は友好的な隣人として接してくる。
そして折を見て、邪悪な顔を見せるのだ。
狙った獲物のことをよく知ってから、悠々と侵略するために。
未知の異邦人を信じるべきなのか?
その善意を信じるべきなのか?
正解などない。
ただ、心のどこかで疑っておくことは、間違いなく必要なことだろう。
心の奥の一抹の不安が、マギーの口をついて出る。
「……断ってくれてもいいのよ?」
「繰り返すが、断る理由はない。
ママも運営も困っているのだろう。
私にできることがあるならば、私はそれを成し遂げるべきだ」
「んまー、本当にいい子よね、メイ! ナデナデしてあげる!」
「いらん」
無表情で淡々とマギーへの好意を口にするメイに対し、マギーは笑顔で、声で、抱きしめて撫でようとする動きで、全身で好意を表していく。
無愛想な女性と優しそうな女性に見えるけれども、二人には相方向の好意と確かな絆があって、それを形にする方法が違うだけだった。
「ママ。その異星人は今どこに?」
「GBNのあるエリアを周期的にうろついていると聞いているわね」
「……? 行動を制限していないのか?」
「無駄に行動を制限して嫌われたくないでしょう?
それに彼は好意でGBN……このゲームから出ないで居てくれるのよ。
その気になったらゲームの中なんて狭い所から出て行っちゃうだけだわ」
「なるほど」
「それに、『彼』はそんな必要もないと思われるくらい好意的みたいねえ。
もちろん運営もモニタリングは常時してるらしいわよ?
『彼』の周りの映像と音声は常に拾えるから、何をしているかも分かるみたい」
「異星人とやらは、毎日何をしているんだ」
「人間を観察して、本を読んで、アニメを見てるみたいよ。人間を理解するために」
「人間を理解するために、か」
メイが何かを考える仕草で、目を細める。
その僅かな表情の動きでメイの内心を察せるからこそ、マギーはメイからの経緯と信頼を受ける女性であった。
「ちょっとメイに似てるかもしれないわね。
メイも人間を理解するために、色んなことを知ろうとしているでしょう?」
「それは……そう、かもしれない」
「うふふっ」
異星人もELダイバーも、"地球における人間"ではない。
彼らが人間を理解するのには時間がかかるだろう。
ゆえに、異星人とELダイバーのメイは、ある程度近しいところがあった。
流行り物の良さが分からない人間が集まってアンチスレというコミュニティを作るように、人間というものが分からない者同士であれば、そこには共感が生まれる。
分かり合う可能性が生まれる。
人間を理解しようとするメイを通して、運営は異星人に人間を理解させようとしているのかもしれない。
「私はその『彼』をなんと呼べばいい?」
「彼らの代表者……彼はGBNを通して情報を得て、こう名乗ったそうよ。『エヴィデンス01』と」
「……ほう」
「GBNにやって来て、GBNで人間を学んだ者らしいと思わない?」
「ああ」
その名前は、ガンダムシリーズを好む者にとって、GBNを遊んでいる者達にとって、誰もが知る存在であると言えるものだった。
その名前に込められた意味を、この世界ではほとんどの者が知っていた。
「しかし、ハイセンスな異星人だな」
「そうよねえ。わたしもストライクフリーダムの改造機使いだから嬉しかったわ、うふふ」
メイもマギーも、異星人がその名前を名乗ったことを知って初めて、『仲良くできる異星人かもしれない』と思うようになっていた。
「すると私の役割は、
「そ。
「ふっ……そうだな。困った時は頼りにしている。ママ」
「ええ、どーんと頼りにしなさい!」
何故ならば、そこには。
相互理解の"種"が埋まっている。そう感じられたから。
―――『
彼がそう名乗ったのは、『ガンダムSEED』に登場する地球外生命体の化石・エヴィデンス01に由来している。
羽の生えたクジラのようなその姿は、地球外の異様な生態系や、遠い宇宙の知的生命体の存在を人々に想像させ、皆、やがて来る地球外生命体と出会う日に想いを馳せていった。
この地球外生命体の
ガンダムSEEDの宇宙において、コーディネイターは遺伝子を調整され、
だが、本来はそうではない。
コーディネイターという名前と枠組みを作ったファーストコーディネイター:ジョージ・グレンは、『調整された優れた者』という意味合いでこの名を付けたのではない。
彼は作中世界にて、こう語った。
『僕はこの母なる星と、未知の闇が広がる広大な宇宙との架け橋。
そして、人の今と未来の間に立つ者。調整者。コーディネイター』
『僕に続いてくれる者が居てくれることを、切に願う』
それがSEED宇宙における本来のコーディネイターである。
現実におけるコーディネイターは、管理者、交渉者、利益分配者……多くの役割を果たし、物事を調整する者を指す。
SEED宇宙のコーディネイターもまた、やがて生まれ来る新人類と旧人類の架け橋、異星人と地球人の架け橋、その調整者となることを期待された者達であった。
いつの日か、新しき民と古き民の橋渡しとなってほしい。そんな祈りがあった。
メイの
人類にかつて例のない、人類にとってもメイにとってもファースト・ミッション。
言うなればファーストコーディネイターに、メイは選ばれたのであった。
初心者用サーバーの森の中に、『彼』はいた。
初心者達がうろつき、たむろし、楽しげに雑談する広場を見下ろせる森の中に、彼はいた。
銀色の髪。
絹の布一枚を縫い合わせたような服。
そして、金色の目。
銀色の髪が風に揺れている。
星の光のような銀髪だ。
空の星の集まりを、人が銀河、
白銀の星。黒色の宇宙に煌めくもの。その髪色はまさに星そのものだ。
メイの長く綺麗な黒髪が風に揺れ、彼の髪色と合わさって、宇宙をこの場に形作る。
星の白が顔を上げて、
「―――」
メイが僅かに目を細める。
頭の中に何かが入って来そうで入ってこない不快感があった。
言葉にならない言葉のようなものが頭に染みてくる、そんな違和感があった。
黒き絶世の美女に、白き眉目秀麗の美男子が語りかける。
両者共に、無表情だった。
「ああ、すまない。
地球のコミュニケーション手段は、大気の振動……音、だったな」
男が口を開くと、声が響く。
現verのGBNでの声はリアルでの肉声をそのまま使うことも、加工することも、既定プリセットを適当に使うこともできる。
男の声は既定プリセットを混ぜたもので、容姿もGBNのデフォルトパーツを組み合わせたものに見える。
だが、声も容姿も細かいところに『GBNではありえない微細な仕様の差異』があり、この男が普通のプレイヤーでないことは分かる人には分かるようになっている。
「いやはやすまない。量子波での対話は癖でな。
うっかりそちらを使いがちだ。
現実では大気の波による声を。
電脳世界では声を電子情報に落とし込んだものを。
そうして会話するのが地球人のコミュニケーション手段……で、あったな」
「お前がエヴィデンス01か」
「で、あるな」
絶世の美男子の銀色の髪の先端だけが透明になっていることに、メイは目を凝らしてようやく気がついた。
「私はメイ。運営から話は通っているはずだ」
「メイ殿、で、あるな」
「メイでいい。私はお前をどう呼べばいい?」
「好きに呼ぶといい。
私達の種族に個体名はない。
体内の情報結晶の量子波で個体を識別しているからだ。
地球人やELダイバーのような個体を識別するための名称を、我々は持っていない」
「ふむ……他の人間は、お前をどう呼んでいるのだ?」
男は名乗る。
「一つだけ。GBNの運営側の人間から呼ばれた愛称がある。
私はエヴィデンス01、一つ目の地球外知的生命体の存在証明、一つ目ゆえに―――」
来たるべき対話は、ここより始まる。
「―――『ヒトツメ』と、そう呼ばれている」