ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE   作:ルシエド

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『異星人が地球人に合わせて作るガンプラ』とは何か

 母星でのエヴィデンス01の長く重要な報告が終わり、しばしの時間が経過した。

 

 エヴィデンス01は、通常ユーザーと同じ経路からログインしてこない。

 いや、正確には、ログインと呼んでいるものの、ログインすらしていない。

 彼は観測されることが重要な量子と関わりが深い波動生命体であり、彼のGBNへの無秩序な進入経路は本来正準量子化を用いることで求められるが、彼はあえて能動的に特定の一点に現れる。

 その方が運営の仕事が少なくなるからだ。

 そのために彼はちまちまとした作業を、GBN進入の度に行っている。

 

 『在る』と『無い』の境界線が情報で出来たGBNの世界に現れて、『無い』が『在る』に変わっていき、そこにエヴィデンス01が現れる。

 それを、メイが出迎えた。

 

「お前はどちらの言葉で迎えてほしい?」

 

「メイ?」

 

「『いらっしゃい』か、『おかえり』か」

 

「……後者で頼む」

 

「ああ、おかえり、エヴィデンス01。お前の帰りを待っていた」

 

「で、あるか」

 

 ELダイバーと異星人にだけ通じる、言葉の裏の想いのようなものがあった。

 

「しばらく来なかったな」

 

「で、あるな。すまない」

 

「いや……お前がGBNの再開を知ることができないのは分かっていた。

 こちらから連絡を取る手段もなかったからな。

 肝心のお前は地球の彼方。

 お前に知ってもらうにしても心だけこちらに飛ばす?

 どういう感じに? 気軽にできるのか?

 そう思うとどうにもならなかった。あまり気軽にできることではなかったようだな」

 

「で、あるな。

 とはいえ毎日心を引き剥がすと弊害が出るというだけだ。

 GBNに心を置きっぱなしにすれば問題もない。

 毎日心と体を離すとそうだな……

 ううむ……

 地球人でたとえると……毎日寝ずにソシャゲの周回をずっとしてるような……?」

 

「お前は余計な知識ばかりつけていくな……」

 

「で、あってだな、私は知識としては知ってるだけでソシャゲというものをやったことがなく」

 

「やらんでいい」

 

「そうか……」

 

 運営の監視と観測が再度貼り付けられていき、エヴィデンス01とメイが歩き出す。

 

 一度途切れたが、来たるべき対話の再開だ。

 

 来たるべき対話は、地球人と異星人の対話であり、希望ある未来を作るためにある。

 

「君の言う通りだった、メイ」

 

「何がだ?」

 

「『花火とは、何を見るか、どこで見るかではなく、誰と見るかが大事』……だ」

 

 エヴィデンス01は手を差し出す。

 メイはあまり深く考えずその手を取る。

 交わされた握手に、エヴィデンス01は少し強くその手を握った。

 

「で、あるからして。今気付いた。

 私もまた『何を』ではなく、『どこで』でもなく、『誰と』が一番大事だったようだ」

 

「……そうか」

 

「君には大事なことを教えてもらったらしい」

 

「……別に、思ったことを言っただけだ」

 

 メイの目を真っ直ぐに見てそう言うエヴィデンス01に、メイは少し気恥ずかしさを感じた。

 表情は変わらなかったが。

 あいも変わらずこの二人は、何があっても鉄面皮である。

 

「メイのミッションはどうだった? 勝ったか?」

 

「負けた。完膚なきまでにな」

 

「……で、あったか」

 

「取り返しのつかない敗北だ。

 やり直しも効かず、失われたものも多い。

 今、どう責任を取ればいいかを考えている。戦うことくらいしか思いつかないが」

 

 メイが落ち込んでいるように見えて、エヴィデンス01は少し驚く。

 いや、驚いたのは、そんな内心をメイが大して隠してもいなかったからか。

 

 エヴィデンス01は、マギーと一緒に居る時のメイに新鮮さを感じたことがある。

 マギーの前だとメイは少しだけ、感情が出やすくなっていたから。

 カザミと一緒に居る時のメイに真新しさを感じたこともある。

 信頼できる仲間と一緒に居る時のメイは、事あるごとに新しい自分を見つけていたから。

 

 だから、自分と二人きりの時に、メイがここまで自分の内側を見せてきたのは初めてだった。

 それほどまでにメイが落ち込んでいるのか。

 それとも、心の内を少しは見せてくれるくらいには、メイが彼を信用し始めたのか。

 日々語り合ったことで生まれた親しみが、メイに心の隙を生んだのか。

 人の心をまだ勉強中の彼には、分かるはずもない。

 

「ELダイバーの君、で、あれば知らないかもしれないが。

 友情の示し方には、責任を分け合うというものがあるらしい」

 

「責任を分け合う?」

 

「私にできることはないだろうか。君を助けたい。君を放っておけない」

 

「―――」

 

「私が友を頼ってガンプラを習ったように、君は友である私を頼る権利がある」

 

 『仲間ではない友』が差し伸べた手は、メイの心に染み込んだ。

 けれど、メイはまだ甘えない。

 

「そうだな。どうしようもなさそうなら、お前に頼ることも考えよう」

 

「で、あるか」

 

「まだお前との付き合いが短い私に、お前を信頼させてくれ」

 

「で、あるな。

 信頼できない者を味方にはできない。

 何が起こるか分からないというものだ」

 

「今の私は……自分を信じることも難しいのかもしれない」

 

「メイ?」

 

「悔しいのかもしれない。

 悲しいのかもしれない。

 辛いという気持ちも、怒りの気持ちもあるかもしれない。

 だが私はそれらの気持ちを表す方法を知らない。

 エビ。お前のように地球式の感情表現を知らないのではない。何も知らないのだ」

 

 他人を頼ることは他人を信じること。

 他人の助けを借りるのは、その人を信頼することだ。

 自分すら信じられなくなっている者は、どんな者も頼れない。

 今のメイが信じることができているものは、命を預けたフォースの仲間達のみ。

 顔に出さないだけで、口に出さないだけで、自分で自分の心も分かっていないだけで、エヴィデンス01が知らない『敗戦』は、メイの心を大きく揺らがしていた。

 

「応援している。

 今日のシャフリヤールとのガンプラバトル、勝ってこい。

 私はそれを自分のことのように喜びたい。そしてお前を信じたい」

 

「ああ」

 

「それと、安心しろ。お前が負けても別に失望はしない」

 

「で、あるか……」

 

 誰もが口にできない事情を抱えている。

 誰もが語らない、語れない過去を持っている。

 探しものが見つからない者も山のようにいる。

 そして、抱え込んだ事情の全てを話すことが正しいなどということはない。

 

 互いの隠し事を聞かずとも支え合えるのが、仲間であり、友なのである。

 

 

 

 

 

 聖地・ペリシア。

 GBNでガンプラビルダーの聖地であるとされるペリシアエリアの通称である。

 神秘の砂漠の地・ペルシアとデザイン用色鉛筆のペリシアのダブルミーニングと思われるこのオリジナル地帯は、初心者ダイバーだと辿り着くのも中々難しい。

 よって、総じて民度が高く、世界各地の腕自慢のガンプラビルダーが集まる地だ。

 

 ガンプラビルダーの技術交流なども盛んに行われており、細かなウェザリング技術から、ガンプラに電飾を仕込む技術まで多種多様。

 ここで得られる技術は、世界の最先端……否、地球の最先端だ。

 ペリシアで高評価を受けたものを毎年記録しておけば、百年後には『人類がその時代に美しいと思っていたもの』という題名で、最重要文化資料になることだろう。

 

「ここがペリシア……で、あるか」

 

 シャフリヤールがここを勝負の場所に選んだのは理由がある。

 一つは、エヴィデンス01が異星の概念で作ったガンプラを自分の目だけで正しく理解できるか、そこに自信がなかったこと。

 異星の概念のガンプラを正しく批評するには、自分以外の凄腕ガンプラビルダー達の目が必要であると、彼は考えた。

 シャフリヤールは自信家でナルシストの気があるが、冷静で思い上がらない。そういうタイプの人間だった。

 

 もう一つは、勝っても負けても、エヴィデンス01と周囲のガンプラビルダーの交流が始まる……つまり、エヴィデンス01の地球への理解が進むだろう、ということだった。

 勝っても負けても何も終わらない。

 そこから続いていくものが変わるだけ。

 それがシャフリヤールの考えるガンプラ美学である。

 エヴィデンス01が勝っても負けても、その先にエヴィデンス01が人間を理解していく道があるならば、それでいいのだと、シャフリヤールは考えていた。

 

 見方を変えれば、エヴィデンス01がこの勝負に乗った時点で、シャフリヤールは大局的には勝利していたのである。

 それはそれとしてシャフリヤールは負けず嫌いなので、本気でエヴィデンス01に勝つための準備をしてきたのだが、それは脇に置いておこう。

 

「エビちゃん!」

 

 ペリシアに足を踏み入れたエヴィデンス01を真っ先に見つけ、声をかけてくる少女。

 モモだ。モモが来た。モモが転んだ。ハンドスプリングで跳ねた。エヴィデンス01の前に着地して、ニカッと笑った。だがすぐはっとして、不安そうな顔になる。

 エヴィデンス01は反応に困った。

 

「だ、大丈夫だった!?

 いや本当に大丈夫だった!?

 GBNずっと落ちてて連絡も取れなくて!

 こ、このタイミングでGBN鯖落ちとか……延期頼もうよ延期! 許してくれるって!」

 

「いや、かえってガンプラ作りに集中できた。

 こういう時はなんと言うんだったか……

 そう、『上手く作れすぎて馬になったわね』だ。そうだな?」

 

「絶対違う」

 

「で、あるか……」

 

 ああ、心配されていたんだな、と思うと、胸に暖かいものが宿った……気がした。

 エヴィデンス01のその感覚が本物か、錯覚か。それは彼にも分からない。

 GBN(ここ)には、本物の感覚と区別がつかない錯覚が、多すぎるから。

 

「ELダイバーって、サーバー落ちてたら大丈夫だった?

 寂しくなかった?

 真っ暗な箱の中に閉じ込められてる感じだった?

 サラちゃんはその時ドールで現実に居たからいいけど……エビちゃんは大丈夫?」

 

「……ああ、私も同族と一緒に居た。一人ではなかった」

 

「そっか!

 よかった!

 はー、GBNで生まれた命だから、その辺本当に心配だったんだよね。

 サーバーのデータが消えたらエビちゃんも消えちゃうんじゃないかって……」

 

「……寂しくは、あったかもしれない」

 

「! っ!! わっ、わっ、エビちゃんがかわいいこと言った!」

 

「で、あるか……可愛いか?」

 

「うん、今初めてサラちゃんの弟のELダイバーだなーって思ったよ」

 

「……で、あるか」

 

「可愛いは最強だよ。何せ私のモモカプルが強い理由も可愛いからだもん」

 

「……???」

 

「今日のエビちゃん可愛いこと言ってるから勝てるんじゃない?」

 

「……………………」

 

 しょっちゅうエヴィデンス01の理解の範囲から自由に飛び出していくモモは、見ていて楽しい少女であったが、見ていて戸惑う少女でもあった。

 

「あ、そうそう、例の人、名前で検索してみたりGBNでちょっと聞いてみたけど……」

 

「見つからなかった、か?」

 

「……ごめんね」

 

「で、あれば、私は感謝しておくべきだろう。

 探してくれただけありがたい。元よりそう簡単に見つかるとは思っていない」

 

「どういう関係の人なの? それも聞いちゃダメ?」

 

「……ああ。言えない。すまない。

 二人の片方は見つけた。ならもう片方も居ると思うのだが……」

 

「うーんどこまで聞いていいのか分からない……見つけてどうしたいの?」

 

「……幸せそうならいい。そうでないなら何かしてやりたい。それだけなんだ」

 

「なんだか不思議。エビちゃん表情全然変わらないけど、今は表情があるみたい」

 

「そう、か?」

 

「ん。なんだか不安そう」

 

 エヴィデンス01は、踏み込まれたくない部分をごまかそうとして、そして気付く。

 自分は地球人に対して友好な隠し事の振る舞いをする時、メイの真似をしていると。

 メイが彼に隠し事をしているように、彼はモモに隠し事をしていた。

 メイが彼を頼ろうとする気持ちがあるように、彼にはモモを頼る気持ちがあった。

 それはとても奇妙な繋がりだと、彼は思った。

 

「で、あれば、初めてのガンプラ勝負で不安になっているのかもしれないな、私も」

 

「あー、わかるわかる。

 私も初戦はドキドキしたなあ。

 あ、私の初めてのガンプラ勝負はね、ビルドダイバーズの皆で―――」

 

 シャフリヤールが来るまで談笑を続けようと、なんともなしに決めた二人。

 つまらないことを話しながら、ペリシアに遊びに来た人、勉強に来た人、出来たガンプラを見せに来た人、それぞれの人のガンプラを眺める。

 その中で一機、エヴィデンス01の目を引いたガンプラがあった。

 

「あれは……」

 

「あれ? ええと名前の表示が……

 BUILD Γ GUNDAM……ビルドガンマガンダム? って名前なのかな」

 

「あれはガンマという名前の記号か……で、あるなら、よし、私のガンダムの名前は決まった」

 

「!? え、決まってなかったの!?」

 

「いや名前はどうでもいいから後で適当に決めようかと……ノーネイムでもいいかと……」

 

「名前は大事だよ!? エビちゃん名前が無い惑星から来たの!?」

 

「……で、あるからして……」

 

「ちょっとー!」

 

 何も考えてない少女であることは分かっているが、何も考えていないはずのモモの着想や行動がモモにとって最良の結果を引き当てている。

 なんとも恐ろしい。

 言葉の核心を突く確率……いや、もっと根本的な、モモが生来持っている幸運値と言うべきものがかなり高い。

 過程がグダグダでも結果論で褒め称えられるタイプの女だ。

 

「名前はそんなに大事、で、あるかね」

 

「大事大事。エビちゃんだって可愛くて美味しそうでいい名前じゃん」

 

「美味しそうって今言ったか?」

 

 そんな二人の横合いで、笑い声が漏れる。

 いつからか二人の話を聞いていたシャフリヤールが、そこで笑っていた。

 

「シャフリさん!」

「シャフリヤール殿」

 

「やあ。準備は万全かい?」

 

「勿論……で、あるぞ」

 

「延期を申し込んで来ないとは、君も不器用だね。

 君の担当に当てられたという、サラ君の妹の彼女を少し思い出してしまうよ」

 

「私はメイほど不器用ではない。器用ゆえ、このガンプラを完成させた」

 

「おや、ジョークを覚えたのかい? いいことだ。さ、始めようか」

 

 シャフリヤールは有名すぎるゆえに、ダイバールックを隠したり変えたりなどの小細工を繰り返しているため、ペリシアに堂々と来てもバレることはない。

 エヴィデンス01も当然知名度はない。

 何百という人間が流れ行く街の一角で、数人だけが見ている中、とても静かに、地球の美の代表と異星人との、歴史上初の美の対決が始まろうとしていた。

 後方でモモが何故か"私が育てた"という後方師匠面をしている。

 

「で、あれば。先攻をもらおう。これが私の最初のガンプラ」

 

 そして、現れた銀色の巨人を見上げ。

 

「『ゼノガンダムΓs(ターンエルス)』だ」

 

 シャフリヤールは、思わず息を呑んだ。

 

 それはモビルスーツのたとえに使われる銀色の巨人ではなく、既に銀色の巨神だった。

 

「―――いいね」

 

 まず目を引いたのは異形の顔だった。

 地球で誕生したどの動物とも違い、ほとんどのモンスター造形に合致せず、あらゆる美術品と重なる部分もない。

 地球外の美的感覚によって作られた、異形の顔。

 シャフリヤールはそれを見て、地球外生命体ELSを連想していた。

 

 次に目を引いたのは両手足だった。

 肘がない。膝がない。足首も無ければ手首もない。

 だが、"ある"ような気がする。

 そして柔軟に動く両手足が、機体を直立させている。

 徐々にターンエルスの異質さを見て集まったギャラリー達は構造が理解できていないようだったが、シャフリヤールは構造的に唇脚綱などの節足動物が持つ身体構造の一部をガンプラに取り込んだものであると見抜いていた。

 クロスボーンガンダムに登場するMSバロックの剣をシャフリヤールは連想する。

 

 日に照らされると様々な色に輝く銀色のボディ。

 光沢と鏡面性によって美しさを演出しつつ、所々で光に透けるボディは、不可思議な透過性を併せ持っている。

 異形の顔は分かる。

 関節のない両手足も分かる。

 だが、こればかりはシャフリヤールにも分からなかった。

 総じて、既存のガンプラのどれにも近くない、シンプルながらも常識を揺らがすような異形感がにじみ出ている。

 

 なのに、『これはガンダムだ』と見る者に訴えかけるエネルギーがある。

 

 全体的に、これまで作られてきた全てのガンプラと全く違う、異質な存在だった。

 

 "エイリアン的なガンプラ"は地球人の多くが求めてきた。

 想像の翼を羽ばたかせ、エイリアンを想像し、モビルスーツにそれをなぞらせてきた。

 地球外生命体を

 だがそれらはあくまで、『地球人が考えた異星人の機体』でしかない。

 異星人を知らないまま"異星人っぽいもの"を作ったにすぎない。

 ターンエルスは『地球人に理解できるところまでレベルを落とした異星人のガンプラ』だ。

 "異星人が地球人に合わせて作ったガンプラ"とも言える。

 

 だから、GBNでよくある、ガンプラを改造してガンプラから外れすぎたためにGBNが認証してくれないということはない。

 ターンエルスは異星人という異端のセンスの持ち主が、ガンダムへのリスペクトによって生み出したものだからだ。

 精一杯『ガンダム』を作ろうとしたエヴィデンス01の気持ちを、GBNは汲み取ってくれる。

 ここはそういう世界だからだ。

 だからこそ、人間が理解できず、GBNのシステムが理解した、『人間は理解できず機械は理解できる』という異星人らしい異形のガンダムが、ここに在る。

 

 恐るべきことにシャフリヤールは、地球外生命体と接触した経験も無いというのに、この機体の大まかな概要をひと目でほぼ理解していた。

 

「ベースはレギルス、モチーフはターンXとELS系MSかな?」

 

 エヴィデンス01も少なからず驚く。

 シャフリヤールは地球という狭い世界しか知らない人間ながら、既に宇宙的観点における美の概念を理解する入り口に立っていた。

 エヴィデンス01の美の概念を理解するため、エヴィデンス01が美しいと思ったものの動画を送られたことで、感性の幅を広げたのかもしれない。

 

「……凄まじいな。正直に言えば、で、あるが、見抜かれるとは全く思っていなかった」

 

 ガンダムレギルスは、ガンダムAGEに登場する敵・ヴェイガンのガンダム。

 ヴェイガンは『UE』と呼ばれて居た頃は正体不明の宇宙からの侵略者であり、当初は遠い宇宙からの侵略者であるとも想像されていた。

 ヴェイガンのガンダムは異形のデザインであり、異星人らしさに満ち溢れている。

 

 ターンXは∀ガンダムに登場する、主人公機・∀(ターンエー)の宿敵である。

 あまりにも謎が多い機体であり、その中でも最も多く語られているものは、『ターンXは遠い宇宙から地球に流れ着いたものである』という設定だろう。

 当時の地球の全ての兵器と文明を一機で消滅させられるターンXはあまりにも脅威であり、これを元に∀ガンダムが建造され、ターンXと∀は兄弟機とされたという。

 地球人をはるかに凌駕する地球外知的生命体が作った機体が、ターンXなのだ。

 

 ELS(エルス)はガンダム00に登場する地球外知的生命体。

 場所によっては、宇宙怪獣、金属異性体とも呼称されるもの。

 金属の断片となり宇宙を飛翔し、対象に取り付いて同化し、吸収することで学習し、それを再現する。星すら飲み込む金属生命体の群れである。

 ガンダム00においては戦力差10000対1という絶望的戦力差で地球防衛戦線を圧倒し、最上位MSの完全再現によって質でも凌駕、"地球を喰らう"一歩手前まで行っていた。

 人類の理解外の、人類を完全に圧倒する地球外知的生命体である。

 

 ターンエルスはその三つを混ぜていると、シャフリヤールは見抜いていた。

 恐るべき慧眼だ。

 異星人の"ガンダムへのリスペクト"すら見逃していない。

 エヴィデンス01という刺激物を得て、彼は既に地球人の枠を超えた観点を得つつある。

 

「君が言っていたことだろう?

 人工物と自然物には違いがある。

 そしてそこに知性の集合体はそうと分かる、とね。

 君という知性が頑張った軌跡は、しっかり見て分かるよ」

 

「で、あるか。まいった。もうこの時点で負けた気になっている」

 

「なぁに、私もひやひやしてるところさ。

 もしかしたら初心者に負けるかもしれないと思っているからね」

 

 シャフリヤールが苦笑して、勝利を確信しないまま、ターンエルスの周りをぐるりと回ってそのフォルムを舐めるような視線で堪能する。

 

 徐々に、二人の対決を見ようとするギャラリーが集まってきていた。

 

「この色合いはどうやって出してるんだい?」

 

「私にとって最大の難関は、プラスチックの再現だった。

 何せ地球の特産品である樹脂と、その系譜にある合成樹脂だ。

 私の故郷の周辺にあるもので、合成樹脂に近い高分子化合物を探した。

 地球のガンプラはプラスチック、金属、布などを読み込む。

 だがあくまでメインはプラスチックでなければならない。

 そこで地球のバンド理論や、プラスチックの定義などなど勉強した。

 分子レベルの掌握とプラスチックの定義に則れば、金属さえプラスチックだ」

 

「なるほどね。

 『金属をプラスチックで完全に代替する』……

 それは現代の科学者の夢だ。

 部分的には出来てるが、まだ完全にはできてない。

 そしてそれは『金属とプラスチックの相互互換』を意味している」

 

「で、あるな」

 

「導電性プラスチックで金属の代替をする研究を思い出すよ。

 そうか……金属とプラスチックの中間、あるいは両性並立のガンプラ。

 それをもってしてELSらしくもガンプラらしい、生々しい金属感があるのか」

 

 異星人であることは隠しつつ、ギャラリーが理解できない小難しい言葉を使えば、彼の正体が感づかれることもない。

 ちょっと変わったELダイバーで終わりだ。

 モモなど完全に分かったフリで頷くマシーンと化している。

 

「そして、こいつは」

 

 ターンエルスがエヴィデンス01の操作で、歩き始める。

 

「どんな場所でも歩けるようにしてあるのだ、シャフリ殿」

 

「ほう? ……そのための足構造か」

 

「で、あるな。

 低重力、高重力。

 凸凹した山道、沈む沼地。

 深海から空に貼られたロープの上でも歩けるようにしてある」

 

「その真意を聞いてもいいかな?」

 

「私は人間ではない。そんな私が見て感じた"人間にとっての美しさ"は、足にあった」

 

 エヴィデンス01の言葉は、ELダイバーの言葉として、周囲のビルダーの耳に届く。

 

「辛くても前に進む。

 困難の中でも進み続ける。

 倒れても必ず立ち上がる。

 しっかりと地に足をつけて歩く。

 人間は前向きな心の在り方を、足の動きにたとえていた。

 心が足に無いにも関わらず、だ。

 で、あるからして、私はそこに起源的な、人間が人間で在るためのものを見た」

 

「なるほど」

 

「で、あるが、その前に、私は調査で人類の進化説を学んでいた。

 人類が猿から進化した理由の説の一つに、二足歩行があった。

 二足歩行を始めたことで、大きな脳を支える体が出来た。

 二足歩行によって、声帯の構造が変わり、言語が生まれた。

 両手が空いて、道具を使う手が出来た。

 知性が出来て、皆で話し合い、手で何かを作り始めた。

 人類の文明、そしてガンプラは、始原的な猿から人類への進化の延長にあるのだ」

 

「良い着眼点だ。よく調べているね、エビ君」

 

「二足歩行。

 二つの足で歩くこと。

 辛くても前に進む。

 困難の中でも進み続ける。

 倒れても必ず立ち上がる。

 しっかりと地に足をつけて歩く。

 そこにこそ、人間が美しいと思うものがある……それが私の結論だった」

 

「その具現がこのガンプラというわけだね。どんな場所でも歩けるガンプラ」

 

「心だ。

 心だよ。

 そこに美しさはあった。

 人はそれを足の在り方に見たんだ。

 それは人間が猿でない証明。

 獣でない証明だ。

 知性をもって他人に優しくできる生き物になったという証明なんだよ」

 

「『人への進化は足から始まった』……アファール説だね。知性がそこから芽生えていった」

 

「そうだ。人間にとって大事なものは足だ。

 で、あるなら、自分の足で歩いていくこそこそが、人間の美しさを表すのだ」

 

「素晴らしい。これがテストだったら、私は君に百点をあげたいところだ、エビ君」

 

 シャフリヤールはエヴィデンス01の見解、地球への理解度、それを落とし込んだターンエルスのコンセプトに簡単し、手を打った。

 

 その合間にシャフリヤールが少し悲しそうな表情をしていた意味を、エヴィデンス01は理解していない。

 

 『自分の足で歩くことこそが人間の美しさの本質』であるとエヴィデンス01が全力で証明した瞬間に、シャフリヤールが浮かべた表情の意味を、異星人は知らない。

 

「で、あれば、シャフリヤール殿の番だ。

 地球人が生み出した私にとって美しいもの、それを魅せてもらおう」

 

「ああ、君から貰った動画は素晴らしかったよ。久しぶりに面白いものを作ってしまった」

 

 そして、シャフリヤールもガンプラを出す。

 

 エヴィデンス01は自信満々にターンエルスをこの場に持って来た。

 真実を言ってしまえば、エヴィデンス01は勝つ気満々だった。

 が、それは超越者の未来の確信ではない。

 初心者にありがちな「これだけ手が込んでるんだから最高の出来だ」という思い込み。

 上級者ならば「いや、まだできることはないか?」と考えるところの手前で停まっている。

 

 にもかかわらず、エヴィデンス01のターンエルスの出来は素晴らしいものだった。

 根本的な技術レベル、文明レベルに差があるからだろう。

 シャフリヤールはGBNを代表するアーティストビルダーであるが、下手に手を抜いたものを作ればそのまま負けてしまいそうなほどに、ターンエルスのレベルは高かった。

 完成度が高いのではない。

 レベルが高いのだ。

 だから、エヴィデンス01は勝つ気満々だった。

 

「これが私の作品だよ」

 

 だから、シャフリヤールが自分のガンプラを披露した瞬間。

 

 それを見ただけで、彼は心底敗北を認めていた。

 

 

 




【ゼノガンダムΓs(ターンエルス)】
 Γ(ガンマ)ではなく『上下逆のL』。
 ゼノ(Xeno)とは『異なる』を意味するギリシャ語で、『ガンダムとは異なる異星のもの』であることを意味しており、またそれを異星人が地球人の言葉を使って表したことに意味がある。
 また『エル』はセム語における神を意味する言葉であるため、それを反転させるということは、『私は神ではない』という意思表示でもある。
 総じて、地球文化をよく勉強した異星人が示すことができる地球人への最大の敬意と言える。

 『ガンプラの基本はリスペクトである』と学び、『リスペクトの基本は過去に倣う』と学習したエヴィデンス01が、母星のある銀河系の物質を元に作ったガンプラ。
 ∀ガンダムのターンXと00ガンダムのエルスをモチーフにし、ガンダムAGEのレギルスをベースにした独特のシルエットを構築している。
 特に顔は、地球のどの生物とも、どの機械とも異なる異形となっている。

 太陽系外で作られたものやそれを取り込んだものという作中設定があっても、現実では地球人のデザイナーにデザインされたものでしかないターンXや∀とは違い、本物の異星人がデザインした()()()()()()()()()である。

 基本素材として、
 "透明な金属"
 "光を無限に吸収する黒い宝石"
 "熱を閉じ込められた太陽型生命の血液"
 "動物でも植物でも菌でもない生命が絞り出した樹脂のようなもの"
 などが使われている。

 ただし、これらの素材はあくまで地球人に理解できる概念で説明した場合こうなる物質であり、正しく理解するにはこの名前では不足がある。
 現在の人類の言語・理解力・保有概念では、これらの素材を万人に理解できる言葉として落とし込むことは不可能だろう。
 金属光沢を持ち、流体の装甲を身に纏い、宝石の煌めきと百花の色合いを兼ね備えるが、素体の物質組成は地球定義でのバイオマスプラスチック……すなわち、ガンプラに近い。

 角度次第で多種多様な色の反射が見えるが、基本的に常時機体の八割が銀色に見えるようにカラーリングを統一されている。
 これはエヴィデンス01が、光沢がなければ灰色と扱われる色が、光沢や鏡面性を持つことで、銀色という独立した色として扱われるという人類文化に感銘を受けたため。
 『銀色』は明治の文豪の造語である。
 彼の一族は可視光の反射率で色の種類を分けるという概念を持たず、色空間や定量的な表色のみで色の種類を分けているため、人類のそういった富んだ色分けに感動したのであった。
 太陽光が色とりどりの光に散乱して見えるため、海で見る花火や、海面で反射した花火の光のようにも見える。

 また、地球人の兵器概念、及びその延長にあるガンダムの兵器概念とは根本的に違う、エヴィデンス01が自分達以外の先進的種族を参考にした、基本的兵器概念が反映されている。
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