ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE   作:ルシエド

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『地球人が異星人に合わせて作るガンプラ』とは何か

 それは、ボールと呼ばれる初代ガンダムの量産用ポッドであるように見えた。

 あるように見えるのは、その機体が透き通っていたからだ。

 透過度を高めたアクリル樹脂などをベースに作ったのだろうか?

 そのボールは、透き通っていた。

 

 そして、その中に、様々な景色が入っていた。

 

 昔から太陽にかざして回すことで様々な模様を見ることができるビー玉というものはあり、それは大人にも子供にも人気だった。

 現代アートはそれを更に発展させた技術を用いており、ガラスや液体の中に芸術を作り、見る角度によって全く違う風景が見えるアートを次々生み出しているという。

 

 シャフリヤールはそれを用いた。

 人間の目は、直線的に目に入って来る光しか知覚しない。

 だから、地点Aと地点Bで目に入る光を計算し、制御した。

 正面からは透けて見えるがそれ以外の角度では透けないフィルムで背景の切り替えを行った。

 二面二色シートを1mm単位で精密に切り分け、仕込む。

 そうして、ボールの中に『エヴィデンス01が美しいと思った風景』を作った。

 

 三本並列する星の川。

 球状惑星の外ではなく内側に広がる森と街。

 冷たい太陽と燃える氷の世界。

 二つの星の間で月よりも太い雷が何千年も無限に行き来している銀河。

 ブラックホールを内側に取り込みエネルギー源とする宇宙ステーション。

 純金に近い星と純銀に近い星が太陽の周りを回る双子星。

 他にも多くの、SF映画でも見られないような宇宙の神秘がボールの中に見える。

 

 シャフリヤールは―――銀河を、ガンプラに閉じ込めた。

 

「すっ……げ」

 

 誰かの声が漏れ、他の者達は絶句している。

 

 『ジオラマ』というガンプラのジャンルがある。

 風景とガンプラをセットで作り、世界観レベルでの表現、物語の立体化、動きのある造形を行う手法である。

 ガンプラを作り、その周りの風景を作るのだ。

 だが。これはその逆だ。

 

 ガンプラを作って、その中に風景を作っている。

 あるいは、風景を作って、その外側にガンプラを作っている。

 被写体が風景の中に居るのではなく、風景が被写体の中に居た。

 しかも機体の中にある風景が、光の加減でどんどん移り変わっていき、時には宇宙空間にある二つの風景が重なって見えるのだ。

 

 皆いつしか、ボールの周りに集まり、その周りを歩き回っていた。

 

「うお、すっげ」

「宇宙写真かなにかを使ったのかしら」

「いやこれ結構創作あるって。こんな宇宙の写真見たことないってのあるし」

 

「う、うわっ、この部分こっちの角度だと月でこっちの角度からだ太陽なんだ、うわっ」

「このフィルム、正面から見ると一部の宇宙から透けて見え、他だと余計な光を区切るのか」

「いや驚いた。真っ黒な宇宙空間かと思ったら片面黒で片面鏡の板なのか」

 

「もしかしてここの部分は太陽がある時に自然光を取り入れて光る星?」

「えええ……なにこれ色合成? 別々の風景のフィルム三枚が重なって別の色に?」

「うーわ! これミノフスキー粒子効果か! GBNの中だけ見える光景なのか!」

 

「これ現実でどう作ったんだろう……ああでも大きめだなこのボール」

「大きめのボールをアクリル系でフルスクラッチ? やべえな」

「これなんかシャフリヤールさんっぽいな……影まで計算してるのがなんか……」

 

「これなんでサテライトキャノン付いてんだろ」

「作りが頑丈だし戦ったら厄介そう」

「ボール+サテライトキャノンの遠距離特化で大火砲型なのは見れば分かるしな……」

 

「……サテライトキャノン? ボール?

 あー!? あああああ!!!

 サテライトボウルだ!

 人工衛星モデルのインテリアの!

 ミラノのデザイナー・カルロ・コンティンの!

 足回りに細い棒があって綺麗なバランスだと思ってたらそういうことか!」

 

「あー!」

「なるほどなるほど、職人芸だな」

「私達を試すとは……フフフ、面白い。一流のアーティストの匂いがしますね」

 

 ペリシアの名のあるビルダーたちが、次々にシャフリヤールの作品を褒めていく。

 もはや、聞くまでもなく作品の上下は決まりきっていた。

 いや、事ここに至るまでもなく、誰よりも先に、エヴィデンス01は己の敗北を確信していた。

 何故なら、ひと目見た時から、エヴィデンス01は彼の作品に感動しきりだったのだから。

 

「わぁ……本当に綺麗……ハッ!

 わ、私はエビちゃんの味方だからね!

 エビちゃん応援してたからね!

 エビちゃんのだって銀色が綺麗で……っていない!?」

 

 モモがボールに見惚れていたが、ハッとしてエヴィデンス01のフォローに入ろうとして、そこで気付く。

 

 エヴィデンス01もシャフリヤールも、どこにも居なかった。

 

 

 

 

 

 二人は建物の屋上に居た。

 二人が見下ろす広場で、ターンエルスとサテライトボールをビルダー達が囲んでいる。

 主にサテライトボールが称賛の雨を受けているが、ターンエルスも少なくない人間に囲まれ、写真を撮られ、褒めちぎられている。

 屋上の縁に体を預け、シャフリヤールは皆を見下ろし、微笑んでいる。

 自分の作品が褒められていることも嬉しそうだが、それ以上に自分の作品が誰かを楽しませていることに喜びを感じているように見える。

 

 日が傾き、遠くの山に太陽が近付いている。

 あと一時間もしない内に、ペリシアエリアは夕方のモードに入るのだろう。

 夕方の直前の太陽を背に、シャフリヤールはエヴィデンス01に微笑みかける。

 シャフリヤールの影が、銀髪金眼のエヴィデンス01にかかっていた。

 

「惜しかったね」

 

「違う」

 

 エヴィデンス01は、首を横に振った。

 

「違うのだ。

 私は、私が見た地球人の美しさを形にしてしまった。

 だからシャフリ殿の作品ほど皆の心に響かなかった。

 それではダメだった。

 地球で皆に愛された美とは、地球人が見た美しさでなければならなかった。

 シャフリ殿は『地球人にとっての美しさ』と言った。

 それは地球人が当たり前に持っているものではいけなかった。

 地球人が当たり前に持っていないものでなくてはならなかったのだ」

 

「そう、そういうことだ。

 難しい概念だけどよく理解したね。

 美とは、日常と、非現実の両方にある。

 しかし心に響くのは後者だ。

 どちらもおろそかにしてはならないが、まずそこを理解しなくてはならない」

 

「当たり前過ぎるものは心に響かない……ということ、で、あるな」

 

「そういうこと。

 君の作品は間違いなく素晴らしいものだった。

 でも、君の作品を見ていて分かったよ。

 君は人間の中の当たり前の優しさを作品にするタイプなんだ」

 

「……」

 

「私が審査員だったなら、私の作品じゃなくて君の作品の勝ちにしていた。

 君の敗因は、君がまだ地球を理解していなかった。それだけだと私は思う」

 

「シャフリヤール殿……」

 

「分かるよ。

 想像だけど分かる。

 地球人にとっての当たり前は、君にとっての当たり前じゃない。

 皆が君の持って来た『宇宙という世界』に夢中になった理由がある。

 君が人間を好きになった理由がある。

 その二つはきっと近いんだ。

 皆は君にとっての当たり前を愛した。

 君は人間にとっての当たり前を愛した。

 "自分の中にない当たり前"を好きになる……それは、いいことじゃないかな」

 

「で、あるか。私は人間をもっと知りたい。だが、理解するだけでいいのかとも思う」

 

「へえ。理解した先で、何がしたいんだい?」

 

「……分からない」

 

「……君もどうやら、複雑な身の上のようだね」

 

 エヴィデンス01は、メイが自分の内面を周囲に見せたことに驚いた。

 その変化に驚いた。

 だが、それはメイだけの変化だったのだろうか。

 メイ同様に彼が変化していないなどと、誰が言えるのだろうか。

 変化していくのが命であり、人間もELダイバーも異星人も、そこは同じだというのに。

 

 太陽を背に、シャフリヤールが笑む。

 

「正直にいえば、今日の勝負、君のガンプラを見て感銘を受けたよ。

 私が生み出せるものではない、とすら思った。

 だからこそ燃えた。

 燃ゆる太陽に照らされた気持ちになった。

 私に作れない何かを作れる人が、この世界に宇宙に、たくさんいる。

 それを君が思い出させてくれた。

 初心者だった頃と同じくらい、今の私はガンプラが作りたくてたまらない。感謝している」

 

「で、あれば、何故私に感謝を? それは君の心の動きでしかない」

 

「そうだね。良いライバルと出会えたことに、としておこうか」

 

 くっくっく、とシャフリヤールが含み笑いをする。

 

「今回の勝負は、私のホームだから私が勝っただけさ。

 いつか君の母星に行って、君の同族に囲まれてガンプラ勝負をしたいところだね」

 

「それは……やめておいた方がいい」

 

「おや、何故だい?」

 

「……シャフリヤール殿の寿命が尽きる前に、地球人が私の星までは来られない」

 

「あははっ! それはそうかもしれないね!

 でもそれなら、やめておいた方がいいではなく、できないと言うべきじゃないか?」

 

「で、あるな」

 

 嘘つきには寿命がある。

 嘘がバレる。嘘をついていることに耐えられなくなる。嘘の意味がなくなる。理由は様々だが、嘘と嘘つきは永遠ではない。寿命がある。

 嘘と真実がぶつかれば真実が勝つために、嘘は常に消えていく運命にある。

 

 欺瞞は真実の前に、必ず滅びる。

 隠されていた真実は必ず明らかになる。

 "その時"は刻一刻と迫りつつあった。

 

「ゼノガンダムターンエルス、か」

 

 (エル)の逆、Γ(ターンエルス)を眺め、シャフリヤールは指先で唇をなぞる。

 ダブルオーガンダムを喰らったELS、∀の宿敵ターンX、ガンダムAGE-2と激闘を繰り広げたガンダムレギルスがよく混ざりながら、異物的なシルエットで統一感が出来ている。

 

「いいガンプラだ。もし私の想像が正しいのなら……オーガともいい勝負ができるかもね」

 

「で、あるかな」

 

「ターンエルスか。……ふふっ、面白い。

 リク君の機体がELSと戦ったダブルオー。

 サラ君のモビルドールが月光蝶を使える∀タイプ。

 メイ君の機体が∀を目覚めさせてターンXに破壊されたウォドム。

 運営が用意した異星人への抑止力のチャンプの乗機が、レギルスの宿敵であるAGE2」

 

 運命、というものがあるのだろうか。

 それぞれが無作為に選んだものが、運命のように引き合うことはあるのだろうか。

 あるのだとしたら、それはどれほどの距離を越えて結ばれるものなのだろうか。

 この地球と、宇宙の彼方の異星人で、運命が結ばれることはあるのだろうか。

 

 それはもう、神にしか分からない。

 地球人からすれば神に等しい彼にも分からない

 (エル)に非ず、ターンエルを名乗る者が、そんなものを分かるわけがない。

 

「ある意味、必然だったのかもしれないねぇ」

 

 シャフリヤールは静かに、かつて地球人が神と崇めた太陽を――GBNが作った神/太陽の偽物を――穏やかな表情で眺めた。

 

 

 

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