ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE 作:ルシエド
シャフリヤールと離れ、エヴィデンス01は歩き出す。
ペリシアはいい街だ。
朝、昼、夕、夜、全てに違う顔がある。
そこかしこが賑わっていて、皆がガンプラの技術に長けていた。
ペリシアは宝の山だ。
金銀財宝の山があるのではない。
ビルダーのように技術を求める者、異星人のように人間の価値を認めながらも人間を知らない者にとって、ここは宝の山なのだ。
人が懸命に生み出したものの結晶が、そこかしこにある。
時間が許す限り全てを観測していたいと、エヴィデンス01は思う。
とはいえ、そんなに時間が有り余っているわけではない。
明日には百鬼の長・オーガとの戦いが待っているのだから。
「あ、見つけた!」
「モモ」
「しょうがない、しょうがない、相手がシャフリさんだもん! ドンマイ!」
「で、あるな。素晴らしい人物だった。
あの人間を技術レベルだけで語ることは愚かしいな。精神も円熟している」
「あ、でもでも、エビちゃんのガンプラも凄かったよね?
いや凄かった! 綺麗に虹みたいな光が滲んでる銀色で、すっごい素敵だった!」
「で、あるか。感謝する。私も力を入れたガンプラを褒められるのは嬉しく思う」
「見りゃ分かるよ。エビちゃん頑張ったんだよね。うんうん、よく頑張った」
第一声が励ましの言葉なのは、本当にモモらしい。
第二声が褒め言葉なのもモモらしい。
「エビちゃんが頑張って何か作ったのってこれが初めてだったりする?」
「で、あるな」
「あ、だよね。
負けた時無表情だったけど悔しそうだったもん。
あんなエビちゃん初めて見たからそうなんじゃないかなーって」
「……悔しそう、だったか?」
「んあー、私からそう見えただけなんだけど、なんかそうかなって思って」
「そう……で、あったか」
所詮、彼の体はGBNが作り出した写し身。
心を入れる暫定の器でしか無い。
彼の本体は宇宙の彼方に有り、地球では量子のもつれと表現される量子意識紐によって、ここにある心と繋がっているのみ。
しからば、表情が動くはずはない。
動く表情を持っている彼の体は、ここにはないのだから。
けれど、ここはGBN。
人は『無限の可能性が集う場所』と呼ぶ。
「大丈夫? 落ち込んでない? 元気?」
「で、あるな。問題なし。明日の準備をしようとしていたところだ」
「そっかそっかー。よかった、無駄にならなくて!」
「?」
「リクがミッション早く終わったんだって!
で、来てくれるんだって!
……あ、説明しなきゃ分からないか。
リクとオーガはね、GBNでも有名なライバルなの。
二人共強いしバトル好きだからね。
もうしょっちゅう何度も何度もバトルしてて、応援する方も疲れちゃうくらい」
「で、あれば、オーガの動きの癖も知っている……というわけか」
「そ、そ! そういうことでございますよー。あ、リクはすぐ来れるって」
「細やかな心遣い感謝する、モモ」
「あはは、私は何もしてないよ。この仰々しい感謝にも慣れちゃったね」
エヴィデンス01はターンエルスを出し、乗り込み、モモに手を差し伸べる。
先程までペリシアを沸かせていた話題のMSの出現に、街の一角がざわめくが、すぐにここを離れてしまう彼らにはもう関係ない。
「今度は私が君を運びたい。ここまでの恩の返礼だ」
「もー、律儀なんだから」
「モモのカプルは可愛らしくドタドタ走るが、揺れるからな。ターンエルスは揺れない」
「一言! 多い!」
「ああ、そうだ。
人間の女性に一度聞いておきたかったのだが。
胸が揺れるとはどういう気持ちで……すまない、モモには揺れるものがないか」
「二言! 多い!」
「申し訳ない。モモには礼節を徹底しようとする意識レベルが揺れ下がってしまうな」
「三言っ! 多いッ!!」
ターンエルスの手に乗っていたモモがターンエルスの顔面に飛び蹴りをかまして、無知ゆえに無礼なエヴィデンス01に背を向け、モモカプルで一人で駆けていく。
その後ろを、ターンエルスが追いかけていく。
彼女の愛機はモモカプル。
∀ガンダムに登場するモビルスーツ、カプルの改造機。
カプルは物語の中で、ターンタイプのガンダムに寄り添う仲間として在り続けたという。
まるで水上を滑る氷塊のような静かな滑らかさで、ターンエルスは飛行する。
ターンエルスの飛行システムは、『これが一番私の本体が普段使っている移動方式に近いから』という理由で、宇宙世紀の反重力推進機関を採用している。
ミノフスキー・クラフトによって浮遊し、金属生命体ELS素体と同様の推力で加速するターンエルスは、極めて静かに、音もなく飛ぶ。
飛べないモモカプルを抱えて飛んでいたターンエルスが草原に着陸すると、それを三人の人物が出迎えた。
「あ、来たよリク」
一人はサラ。
その手にGBNの花を摘んだカゴを持っている。
このカゴはアイテムで、摘んで入れた花は枯れず、いつまでも花瓶の花のように咲き続けるというもの。
「だね。よーし、俺にできることをしよう!」
一人はリク。
肩をぐるぐる回して気合を入れている。
「さて、どう言葉をかけたものか」
そして、最後にメイ。
姉であるサラの横で、困ったように溜め息を吐いていた。
ターンエルスとモモカプルから降りた二人が、三人と顔を合わせる。
「あっ、三人居る! リクー! サラちゃーん! メイー!」
「メイ? 何故ここに。で、あれば、少し足りんか……」
「足りない? 何がだ?」
「菓子、で、あるな。リク殿。こちら菓子折りだ。団子でよかっただろうか」
「えっ……俺GBNで貰ったの初めてですね、菓子折り……」
「これは地球人のマナーではなかったのか……? で、あれば、無礼をすまない」
「いやいや無礼じゃないですよ! 嬉しいです!
ありがとう、エビさん。
ゲームの中だけど、ビルドダイバーズの皆で美味しくいただきます」
「気遣いを感謝する」
苦笑するリクに、エヴィデンス01はデータの菓子折りを渡し、頭を下げた。
その後、メイに向き合う。
「で、だ。メイは何故ここにいるのだ?」
「ママがエビが負けて落ち込んでいたら励ましてこい、と私に言ってな」
「で、あるか。ならば納得だ。だが私は落ち込んでいない」
「そうか? 行く前は勝つ気満々だったような気もするがな」
「……そんなにか?」
「私にはそう見えた。それで負けているのだから、ママも心配するだろう」
「……すまない」
「頑張った人間が負けたからと笑う趣味は私にはない。お前は頑張った」
「で、あるか。メイの信頼を勝ち取るのは遠いな」
「カザミを誘ってミッションでも行ったらどうだ」
「彼と? 何故?」
「結果に繋がる繋がらないにかかわらず、あいつはいつも我武者羅だ。
いつも頑張っている。だから一番負けた後のことを知っている……と、思う」
「で、あれば、検討しよう。その見解は正しいと私も考える」
普段のメイより、仲間を語る時のメイが、エヴィデンス01は好きだ。
そこには普段無い暖かさがあるような気がするから。
「リク殿は……その花の冠は、先日はなかったな」
「サラが花の冠を作ってくれてたんです。どうですか?」
「で、あるか。
似合っていると思う。
雄々しい方がリク殿には似合うかもしれない。
だが守護獣に花冠を被せ平穏を表すことは、宇宙的に通ずる平和の表現だ」
「へへっ、そうでしょう? サラが一番上手いんですよ、花で冠作るの」
嬉しそうにリクがサラの作った花冠を見せ、サラが少し照れていた。
「なるほど……で、あれば、人間は人を待つ暇な時間の間、こうして暇を潰すのか」
「いや、こんなことしてんのリクとサラちゃんだけだから」
人間を学んだ気になったエヴィデンス01に、メイが冷静にツッコミを入れる。
「ま、あんま話してるのもアレだよね。
さぁさ皆さんお待ちかね!
対オーガ特訓だー!
あのGBNの喧嘩番長をエビちゃんが打ち倒すのだー!」
「GBNの喧嘩番長て」
元より勝算は低い。
GBNにおけるダイバーランクは九段階に分かれている。
SSS(スリーエス)。
SS(ダブルスペシャル)。
S(スペシャル)。
A(エース)。
B(ブレイブ)。
C(カーレッジ)。
D(ダイナミック)。
E(イージー)。
F(ファースト)。
雑に分けるダイバーは、F~Dで初心者、C~Aで中級者、S~SSSで上級者と見る。
オーガは現時点でSSS、リクもSSSである。
初心者や中級者が相手なら百回戦って百回勝つ、そういう男達であった。
そも野球の世界競技人口ですら3000万人なのに、年中2000万人以上がアクセスしているGBNの規模がおかしいのだ。
その中で上澄みになるのは、世界有数のアスリートに等しい天才達である。
それを知った上でしれっと勝負を挑むこともまた、異星人のズレた精神性の証明であると言えるだろう。
「で、あれば、どういう方法で進めていくのだろうか」
「うーん、俺も言葉で説明するの上手くないですからね。
俺がオーガの戦闘スタイルを真似して、まずそれと戦ってみるってのはどうでしょうか」
「で、あるか。方法は任せる。
これに関しては君の方が正しく判断できるだろう。
私は桃太郎から鬼退治の足り方を聞くだけの者ゆえに」
「ははは、オーガが鬼だから桃太郎って……
あっ! 菓子折りが団子だったのってそういうことだったんですか!? きびだんご!?」
GBNというフィールドで、オーガやリクといったトップランカーに勝つということを、エヴィデンス01は軽く見ていたところはあった。
甘く見ていたのではない。
軽く見ていたのである。
彼はオーガやリクの数値上の強さを正しく見ていたがために、オーガやリクを甘く見てはいなかった。だが数字だけ見ていた時点で、軽く見てはいたのだ。
「リク、ダブルオースカイ! 行きます!」
「エヴィデンス01。ターンエルス。戦闘を開始する」
軽く見るの反対は、重く見るということ。
重く見るということは、深刻に見ること。
彼の予想には正確さはあっても、人間の底力を計算に入れる重みがなかった。
ガンダムダブルオースカイ。
リクが好きなダブルオーガンダムに、リクが好きなデスティニーガンダム、そしてその他好きなガンダムを組み入れたガンダムである。
マルチに高い攻撃能力も売りだが、何より厄介なのは非常に高いスピードと機動性であり、乗り手のリクの反射神経もあって至近距離の散弾ですら回避する。
「分かっていたこと……で、あったが、速い……!」
『どんどん行くよ!
オーガがよくする攻撃をかわせないとすぐ負けちゃいますからね!』
ダブルオースカイはとにかく速い。
素早く飛んで大威力を叩き込むデスティニーガンダムと、素早く飛んで切り刻むダブルオーガンダムが高度に融合していて、速い上に方向転換も早い。
だが真に恐ろしいのは、その乗り手であるリクだった。
見てから動くのが早い。
見る前に勘で動くのが早い。
ターンエルスが回避に移ると、それを見てから攻撃を合わせてくる。
ターンエルスが攻撃に回ると、それを見てから回避を合わせてくる。
直感力、反応速度、攻撃の当て勘、どれも優れているために、リクの攻撃は回避しにくく、リクに攻撃は当てにくい。
対応力、判断力、粘り強さ、どれも優れているために、ターンエルスが運良く多少優勢になってもすぐにひっくり返してくる。
優勢で押し切るガンダムとそのパイロットではない。
劣勢になっても負けず、ひっくり返して勝つガンダムとそのパイロット。
恐るべきダイバーであった。
"これと互角のオーガはどれだけの化物なのだ"と、誰もが思うほどに強い。
機体損傷なしライフルールでの模擬戦を百回こなしたところで、二人は休憩に入った。
「強いな、リク殿。地球人でここまでの反応速度はそういないのではないか?」
「リクでいいですよ。エビさんも凄いですよ! こんなガンプラは初めて見た!」
リクはにこにこと笑う。
いつも笑っていそうなリクは、花を育む太陽のようだった。
この光が翳る未来は、想像ができない。
「で、あれば、私にも敬語はいらない。
上手く出来ているか分からん。
私は機械兵器に乗る戦いは情報でのみ知っているからな。
ガンプラを使わない戦闘経験はあるゆえどうにかなると思ったが……」
「昔喧嘩でもしたの?」
「で、あるな。似たようなものでもないが、そういうことはしていた」
「そっか。でも、怪我しないようにね。モモやサラ、俺も心配するから」
「大丈夫だ。もうしていない」
"喧嘩"という言葉の響きが、何故か"侵略"に似ているように聞こえて、リクは首を傾げた。
モモが連戦連敗のエヴィデンス01を見て不安になったのか、リクの肩を叩く。
「リク、エビちゃんどのくらい強いの?
ELダイバーって普通の人と同じダイバーランクの見方してもあんまり意味ないんだよね。
こう……エビちゃんの中の秘めたる才能が、長き眠りから目覚めるみたいな……!!」
「うーん……多分ダイバーランクAくらいの強さだと思う」
「ダメじゃん! いや初心者なら十分だけど!」
"ムンクの叫び"のような顔になったモモが高い声を上げる。
一日しか時間がないのに、それでは本格的に絶望的だ。
「いや、普通のSランクダイバーよりは勝機があると思うよ。エビさんの勝ち目はあると思う」
「へ? なんで? Aランクくらいの初心者なのに?」
リクはモモの言葉に頷き、エヴィデンス01に向き合う。
「エビさん、俺が思ったこと言っていい?」
「で、あれば、むしろ私は聞きたいと思う」
「ありがとう。
エビさんはなんというか、変だよね。良い意味で。
同じ世界に生きてるって思えないくらい奇抜。
何をしてくるか全然分かんないんだよ。
だからバトルしててすっごく楽しい!
ELダイバーって聞いてたけど、俺が知る限り一番変な戦い方してると思う!」
「で、あるか」
「思考速度も凄く速いんだよね。
反射速度じゃなくて、思考速度。
考えて動くのがかなり速いと思う。
でも、なんだろう……
武器? 道具? の扱いが悪いかな。
うーん、言葉にしにくい……道具を使ったことがない人、みたいな?」
「で、あったか。武装の扱いに難ありか」
「ビームライフル、実体ブレード、頭の横のバルカン、シールド。
オーソドックスな武器だけど、これらの扱いはBランクくらい?
あ、でも、ファンネルの扱いは凄かったよ!
これはSランクのダイバーでも真似できないくらいだった!
まるで生き物みたいで、エビさんはこれが得意なんだなって分かったんだ」
「で、あるならば、攻めはそこを起点にするのがいいのだろうか」
「うん。それがいいと思う。
エビさんはなんというか、人間ともELダイバーとも違うんだ。
だから予想外のことばっかりしてくる。
そうなるとどうなるかっていうと、運が絡みやすくなる。
運次第で勝ったり負けたりしやすくなると思う。
だからエビさんは格下に負けるし、格上にも勝てる……と、思うんだ」
「貴重な意見、感謝する。で、あれば、私も運によって勝つことを願っておこう」
「ダメだよ、運で勝つこと願ってちゃ!
頑張ったけど負けるか、頑張ったから勝ったか、そのどっちかしかないんだからさ」
「……で、あるな」
人懐っこい笑みを浮かべて、リクはうんうんと頷く。
彼と話しているだけで、人間が理解できていないELダイバーですら、ごく自然に人の心を獲得していくのだと、不思議と確信が持てる。
メイやモモとの交流で得た心の欠片が組み上がって、心の輪郭線が出来ていく感覚が、エヴィデンス01の胸の内に満ちていく。
「リクは他人と分かり合うことが得意そう、で、あるな」
「そう?」
「機体コンセプトにもそれが現れているように見える。
ダブルオーガンダムとデスティニーガンダムでダブルオースカイ、だったか」
「好きなもの詰め込んだだけなんだけどね。
でもだからこそ、ダブルオースカイは俺の愛機。俺の、俺だけのガンプラなんだ」
「……眩しいな」
「へ?」
「私には無い感覚だ。
そんなにも誇らしげな顔で、"俺のガンプラ"というものを見上げられるのは」
デスティニーガンダムはガンダムSEED DESTINYの主人公機の一つである。
ガンダムSEEDの宇宙、コズミック・イラは『分かり合えない宇宙』である。
その中で分かり合おうとする人間はいて、けれど分かりあえず、その上でもがき続ける者達が、『最悪』に抗うために駆るものがガンダムである。
デスティニーガンダムは戦争を憎み、
ダブルオーガンダムはガンダム00の主人公機である。
ガンダム00の宇宙は、『分かり合えない宇宙が新たな時代に向かう最中の宇宙』である。
分かり合えないがゆえの悲劇が溢れながらも、紛争を根絶しようとする者、分かり合おうとする者、異星人との接触に備える者、様々な者の思惑が入り乱れていく。
そんな者達が望む世界を創るための力、それがガンダムである。
ダブルオーガンダムは、紛争を根絶し世界の歪みを破壊するための戦う力と、戦いを終わらせ分かり合う力の
リクはとてもわかりやすい少年だ。
リクの心と、リクの好きなものが、ある程度相似の関係にある。
デスティニーガンダムが好きなリクは、受け入れられないことを決して受け入れず、『好き』を否定されれば全力で戦い、運命にだって抗って大切な人を守る。
ダブルオーガンダムが好きなリクは、対話を重んじていて、誰とでも分かり合おうとし、憎み合う関係すらも共存へと導いていく。
優しいサラが大好きなリクは、彼自身もとても優しい少年だ。
『好き』と『自分の心』にズレがないリクは、異星人の目にも眩しく映る。
地球人の中でも際立って見える。
この光に集った者達が、ビルドダイバーズという伝説のフォースなのだろう。
「俺の感覚がエビさんに無いのは当たり前だよ。
エビさんの感覚が俺に無いのと同じ。
皆違って、皆凄くて、皆別々のものが好きなんだ。
だから楽しいんだよ。
自分と違う人がいっぱい居るから、一緒に生きてるから、楽しいんじゃないかな」
「―――」
「俺もエビさんと出会えて嬉しいよ。
新しく誰かと出会う度に、もっともっと楽しくなる。
皆と一緒に居ると、幸せな毎日を過ごせる。
エビさんももう、俺の毎日に"好き"をくれる一人なんだ」
「……で、あるか」
「ELダイバーだから時々困ることもあると思う。
その時は俺も助けに来るよ。
今はオーガ対策のための修行に協力、ってことで」
リクが笑って、手元でコンソールを開き、フレンド申請を送る。
エヴィデンス01がそれを受ける。
『フレンド:1』の表示が、『フレンド:2』に変わった。
エヴィデンス01が増えた数字をじっと見つめる。
この数字が一つ増えることは、数字の大きさ以上の意味があると、彼は自然に思った。
「で、あれば。……勝てるかは分からない。だが……」
「うん?」
「私のために他人と繋ぎを取り続けてくれているモモ。
出会いのきっかけとなり、ここにも来てくれたサラ殿。
特訓に尽力してくれたリク。
マギー殿を引き合いに出していたが本当は本人が心配して来てくれたことが明白なメイ」
「おいエビ」
「全員に恥じない戦いをする。空の星に誓おう」
言葉を挟んできたメイを無視して、強く強く、エヴィデンス01は言い切る。
その言葉は異星人らしいズレたものではなく、とても人間らしかった。
かくして、決闘の日はやってきた。
広がる荒野に、反り立つ岩山。
遠くからエヴィデンス01を応援するモモ、メイ、リク、サラがいて、凪のような無表情を浮かべたままのエヴィデンス01が居て、最後にやって来たオーガが獰猛な笑みを浮かべる。
一対一。
誰の邪魔も入らないバトル・エリアだ。
「逃げずによく来たな。ギャラリーは……ビルドダイバーズの連中か」
「で、あるな。これも人間を理解する一環だ」
「ああ? 勝つ気があんのか?」
「あるとも。私は君に勝つ」
「……ハッ、言うじゃねえか。威勢のいい野郎は嫌いじゃねえ」
「この日のためにプロレスを勉強してきた。少し待て、試合前口上を言う」
「は?」
エヴィデンス01は手元のメモ用紙を再確認し、無表情のまま声を張り上げた。
「オーガ! テメーのライバルのリクの前でブザマに大恥かかせてやるぜっ!」
対しオーガは、怒りの声で応える。
「―――いい度胸だ! 上等ッ! 羅刹天!」
どこか演技のような怒りの声で、むしろエヴィデンス01のノリに楽しさすら感じているような怒声だった。
「行くぞ、ターンエルス!」
二人のガンプラが出現する。
銀色のターンエルスを見てオーガは面食らったような表情をするが、すぐに珍しい獲物を見たことで歯を見せる野獣のような笑みを浮かべた。
オーガの愛機、ガンダムGP-羅刹天が唸る。
真紅の体色。
両肩には太く巨大なクローアーム。
両腕には光の片刃剣の二刀流、背中には吊り下げられた大砲二門。
腰部に吊り下げられた棍棒が、やりすぎなほどに鬼を演出する。
それは鬼だった。
平安時代に人々を脅かし喰らったと想像された、紅き鬼だった。
左右二つに背中に積まれた一つ、合わせて三つのGNドライヴが赤き光を撒き散らしていた。
『お前の強さを―――この俺に喰わせろッ!!』
『で、あるか。しからば全力で応えよう』
バトルスタートの告知が表示される。
と、同時に、オーガは突撃を開始した。
巌の如き重装甲の羅刹天が、GNドライヴと大型バーニアによる強大な推力により、信じられないスピードで距離を詰めていく。
その姿はさながら、戦闘機の速度で飛ぶ要塞だ。
まともに受ければ即死は必至。
が、しかし。
羅刹天の目の前で、ターンエルスが、バラバラになった。
『―――なっ』
両手両足がそれぞれ八つずつにバラけ、全てが羅刹天を包囲する。
合計32の断片が、四方八方からビームを発射した。
『なんだと!?』
羅刹天は放たれた32のビームの内、12本を一瞬で切り裂き、出来た包囲の隙間に滑り込むようにして回避する。
バラバラになった両手足は飛翔を続け、視線を忙しなく周囲に走らせるオーガを惑わすように、羅刹天へとオールレンジ攻撃を継続した。
『そうか……そういうことか!
ハッ! GBNの可能性ってやつは無限大だな!
ファンネルを八個ずつ繋げて手足にして、その表面を液体金属で覆ってたってとこか!』
『で、あるな。流石に見抜くまでが早い』
全身をバラバラにして個別に飛ばすターンXのように、ターンエルスの頭部と胴体は独立して浮遊し、飛翔していた。
飛翔するターンエルスの周りに32のファンネルが集まり、一斉掃射。
並々ならぬ火力に、オーガは舌打ちし、羅刹天はビームを防御しつつ後退する。
『で、あれば。ここからはそうして作られたターンエルスの晴れ舞台というやつだ』
『かませになんてなってやる気はねえぞ!』
オーガが叫び、羅刹天が飛ぶ。
一気に距離を詰めようとする羅刹天を見据え、ターンエルスは32のファンネルをガチガチガチ、と合体させていく。
32のファンネルを合体させ、流体金属で覆った"それ"は、長く巨大な右腕となり、強烈なパンチで羅刹天を打ち据えた。
落下する羅刹天が、地面に強烈に激突する。
『重い……機体重量を派手にカサ増ししてやがるのか!?』
右腕が再度分裂し、32のファンネルが四つずつ合体、八個の空中砲台となって極太のビームを羅刹天に放つ。
合体、分裂、変化を繰り返し、流体金属で形を整える在り方はまさにELSで、オーガは思わず口角が上がっていた。
次に何が来るか分からない。
だから、楽しい。
32のファンネルが、頭と胴体だけになったターンエルスの背部に一直線に連結され、長い尾のようになり、その先端に自立飛行するターンエルスのライフルが接続される。
「レギルスキャノンか」とオーガが思ったのと同時に、それは発射された。
"コロニーレーザーに迫る"と表現されたガンダム歴代のモビルスーツ携行兵器、それらのどれとも違うというのに、それらに並ぶ威力のビームが地面に着弾し、周囲を吹き飛ばす。
鳴り響く爆音。
世界を満たす閃光。
目を剥くような火力である。
凄まじい機動力でそれを余裕綽々にかわすオーガも、さるものだった。
『ククク……やはりそうだ。
俺の見立ては正しかった!
お前も最初の頃のリクと同じだ!
そのすました顔の奥に、戦士の魂を隠してやがる!』
『で、あるか』
『こんなもんじゃねえ。
こんなもんじゃねえだろう、お前の強さは!
もっと、もっとだ! リクの野郎のように、もっと俺にお前の強さを喰わせろォ!』
オーガが擬似太陽炉を内蔵したGNリボルバーバズーカ二門を構える。
ターンエルスが、シールドに32のファンネル全てを接続してビームシールドを作る。
生半可なフィールドであれば崩壊しかねない最上位の火砲を、全力の光の盾が受け止め、爆発と爆焔が世界を包み込んだ。
【ゼノガンダムΓs(ターンエルス)】(追記)
ターンエルスは地球人の兵器概念、及びその延長にあるガンダムの兵器概念とは根本的に違う、エヴィデンス01が自分達以外の先進的種族を参考にした、基本的兵器概念が反映されている。
兵器としての最大の特徴は、ファンネルを四肢に八個ずつ、合計32個連結することで作り上げた両手足を流体金属で覆っている、という機体構造である
これはダイラタント流体(普段は流体だが、外部からの衝撃を受けた瞬間のみ硬くなる)による金属装甲であり、可動域と耐久力を両立したものとなっている。
流体金属で脆い指を覆うシャイニングガンダムやターンX、流体金属で全身を覆うフェニックスガンダム、そして金属生命体ELSへのリスペクトを組み込むことで問題なく成立した。
これにより多重関節と化した脚部は、いかなる状況においても転ぶことはなく、いかなる難所でも歩いていくことができる。
まだ地球人がまだ成し遂げていない、宇宙を構成する四つの力を統一理論に落とし込み『万物の理論』を作る理屈にエヴィデンス01の種族は到達している。
よって、『ガンダムとは何か』という言語化しにくい概念を統一・昇華しており、それを落とし込んだ彼のガンプラは異星人の異様さを持ちつつ、間違いなくガンダムである。
ファンネルとは漏斗の英語表記であり、漏斗は液体を扱うための道具として地球人が発明したものであり、ゆえにファンネルに液体金属を合わせた。
それは異星人の思考において、至極当然の発想であった。
『ゲーム内仕様』
全高:20m
重量:1万t
装甲:ダイラタント流体金属装甲
・装備
ディスインテグレータビームライフル
理論限界完全剛体ブレード
統一理論式EMACシールド
フェルミ超流動誘引60ミリバルカン
マルチファクトファンネル×32