ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE 作:ルシエド
オーガとの戦いの前、エヴィデンス01はメイと少し話をしていた。
「エビ。なんで私はフレンド登録されていないんだ」
「で、あるか。そういえばしていなかったな。したいのか、メイ」
「いや、別にそういうわけではないが」
「私はしたい。遠き星の友との友誼を目に見える形にすることに意味を感じる」
「まったく、しょうがないな、お前は。お前がそこまで言うなら登録してやろう」
エヴィデンス01がどうしてもと頼むから、エヴィデンス01のフレンド申請を受けてやり、メイとエヴィデンス01はフレンドになった……という、ことになった。
『フレンド:2』が、『フレンド:3』に変わる。
エヴィデンス01は石膏像のように無表情な顔のまま、フレンドの増えた数字を見つめていた。
「フレンド機能を使うので、あれば、思えばメイを一番最初に登録すべきだった。
こういった……そうだな。友情を形にする? ことか。
これは他の知的生命体から学んでいたことだが、私はうっかり忘れがち……で、あるな」
「友情を形にすることは、宇宙的には珍しいのか?」
「で、あるとも、そうでないとも、どちらとも言える。
宇宙全体の知的生命体で見れば多いとも少ないとも言い難い微妙な割合だ。
そも、友情は心にある。
本来形にする必要はない。
だが一部の生物は忘却の機能を持つ。
友情を忘れてしまうわけだ。
忘れてしまう想いを、形にして残そうとして、想いを形にする文化は生まれる」
「なるほどな」
「想いの込められた造形物は、情報生命体や思念生命体によく影響する。
精神活動の結晶のようなものだからな。
で、あれば、いずれ地球人類も進化の過程で、想いと物体の相関性を知るだろう」
「……そうか」
メイがその時、服の上から二の腕をさすったことの意味を、エヴィデンス01は理解できない。
「メイ。改めて感謝させてほしい」
「どうした、いきなり」
「ビルドダイバーズの少年達を見た。
彼らはよく笑い、よく褒め、よく感謝する。
それもまた、地球における人と人の接し方であると学んだ。
で、あれば、感謝の言葉を述べておくべくだと思った。他の誰でもなく君に」
「……何に対してだろうか」
「
ガンダムSEEDでファーストコーディネイター:ジョージ・グレンが願ったものは、新人類と旧人類、異星人と地球人の間を取り持つ、
「知っているだろう。私は当初、運営の人間と話を成立させるだけで苦難の中にあった」
「ああ、そう聞いている」
「君と話し、君を学び、君に教わった。
で、あるがゆえに、私は人に合わせられた。
君が私のために時間を作ってくれた。
暇を見つけて話に来てくれた。
私の、ともすれば禅問答になりそうなものにも付き合ってくれた。
マギー殿を紹介してくれた。カザミ殿と引き合わせ、一緒に花火を見てくれた」
「どれも大したことではない」
「調整は大したことなどなくていい。
ただ思慮深く、繊細で優しくあればいい。
で、あれば、メイは満点だったのだ。私がその証明となる」
「……」
「君は二つの星を繋げたのだ。
君は地球に生まれた生命の中で初めて、銀河にかかる川渡りの橋をかけたのだよ」
メイは瞼を降ろし、己に向けられた言葉を噛み締め、瞼を挙げる。
エヴィデンス01がもう少し人間を深く理解できていたら、初めて出会った頃と比べて、メイの声色がほんの少し柔らかくなっていたことに、気付けただろうか。
「義務でやったわけではない。
使命だと思ったこともない。
礼を言われる筋合いもない。
私は……私も、楽しかった。エビに学ぶことがあった。それだけだ」
「で、あるか」
「で、ある。気にするな」
エヴィデンス01が、少しばかり心を開いて、メイに歩み寄った。
"今が訊く時かも知れない"―――そう、メイは思考する。
「エビ。お前に対し、疑問に思ったことがある」
「いいだろう。訊くといい。
で、あるならば、最初に君に言った通りだ。
私は君が何を言おうと私は不快に思わず、質問に回答を拒絶することもないだろう」
「……お前は本当に、私達と比べて、先進的な種族なのか?」
「―――」
それは、核心を突く言葉だった。
「お前の言葉を疑っているわけではない。
お前が私達より上位の生命体であることは間違いない。
技術。
提供映像。
度々漏らす知性。
地球人類が知らない宇宙への知見。
上位の生命体というより……違う常識で育った、友になれる外国人のようにも感じる」
「で、あるか」
「貶めているわけではない。
低く見ているつもりでもない。ただ……
上位の知性体は下位の知性体に対し、それこそ神のように君臨するのではないか」
「で、あるな。そういう面もある」
「だがお前は、私達を一切見下さない。
私達も、お前を神のように見上げる気にもなれない。
最初はお前が意識的にそう振る舞っているのだと思っていた。
確かに、そういう面もあるだろう。
だがそれだけなのだろうか。
本当にそうなのだろうか。
お前から見れば地球人類など猿以下に見えるはずだ。
お前の在り方には何か……私達の知性と認識の外側にある、何かの隠し事があるのでは?」
ELダイバーは、地球で生まれ、地球人と異なる生命体。
地球人よりも異星人を理解しやすく、地球人と異星人の橋渡しとなれる。
人間を学べば人間を理解し、異星人を学べば異星人を理解する。メイはまさにそうだった。
メイの言葉を最後に、数秒の沈黙が広がる。
真実を明かすか迷う沈黙。
言葉を選ぶ沈黙。
逡巡の沈黙。
その果てに、エヴィデンス01は口を開いた。
「私達の種族は、進化において三つの段階に分けられる。
私が語る自種族の話はここから引用される。
最初に、『愚昧の時代』。
中間に、『理解の時代』。
最後に、『完成の時代』。
そう呼ばれている。私達は今、完成の時代と呼ばれるものの中にいる」
「進化の段階分けは明確な定義で行われるという。
エビ、お前たちの種族は何をもってそれらを分けている?」
「愚昧の時代に、私達は地球人に近い精神性を持っていた。
勿論、常識や文化はまるで違う。
地球人とはまるで話の合わない種族だった。
対話困難な異星人であることに代わりはない。
進化を重ね、私達はこの時代の私達の精神性を恥じた。
無知蒙昧で愚か、愚昧としか言えない時代であったと。
だがたまに、この時代の精神性を持って生まれてくる者がいる。
それは"落ちこぼれ"と呼ばれ、そうであると判明したらすぐ、殺処分される規定だ」
「……お前は、まさか」
「で、あるな。話を続けよう」
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「で、あるか。リク殿は天才というやつであったか……
私は……同族を見る限り、どちらかというと落ちこぼれの部類に入る」
「だいじょーぶだいじょーぶ。
GBNは落ちこぼれとかないから!
楽しむ才能があればあるほど最強なゲームだからねっ!」
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シャフリヤールが居た時のエヴィデンス01との会話で、モモは迷いなくそう言っていた。
「次に、理解の時代が来た。
私達の種族は他星に侵略を繰り返し、けれど、それでも飽きたらなかった。
自分達の星の中でも戦争を繰り返していた。
それに心を痛めた者が、ある者を発明した。それが理解の時代をもたらした」
「何を発明したんだ?」
「完全なる相互理解を成し遂げる、量子波融和技術だ」
「……!」
「発明者は考えた。
これで他星への侵略はなくなると。
相互理解が戦争を無くすと。
全ての者にその技術が行き渡り、我々は進化を成し遂げた。
そうして、理解の時代が来た。
私の種族は同族内で完璧な相互理解を行い、一丸となって他星へ侵略を始めた」
「……」
メイは、彼が今まで発していた言葉の欠片を思い出す。
―――私達の種族も宇宙全体で見れば下位の種族だ
―――結局のところ……共存共栄ではなく、攻撃を選ぶ種族は、宇宙的道徳において下等となる
エヴィデンス01は、自分が生まれた種族そのものが、嫌いで仕方なかったのだ。
「そして、理解の時代の終わりが来る。我が種族は皆が皆、殺し合いを始めた」
「? どういうことだ? エビの種族は相互理解を成し遂げたのではないのか?」
「相互理解を成し遂げたからだ。
私達は互いを知った。
互いを知ったことで、互いの内心を余すことなく知った。
そして、隣に居る人間が生きていることを許せなくなった。
『お前がそんなやつだとは思わなかった』と、口々に言って殺しにかかったのだ」
「……」
「相互理解の進化を促した発明者は、自殺した」
進化した上位生命体は、全てにおいて完璧な生命体なのだろうか。
いいや、そんなはずはない。
全ての命はただただ懸命に生きて、時に正解し、時に間違えていく。
「私の種族はほとんどが優しくなかった。
完全な相互理解を成せる技術があっても、優しくなかった。
本当は、優しくならなければならなかったのに。
分かり合う前に、優しくなっておかなければならなかったのに」
「お前は……優しい生き物になりたかったのか?」
「なれるはずがない。
そういう生き物に生まれついた。
だから学ぼうとした。
生物の本質は変えられないが、知識はその生命の本質を凌駕するからだ」
「優しさを身に着けたなら、それは優しい者であると言えるだろう」
「で、あったらよかったのだがな。
それは一代限りの精神的変異に過ぎない。
子世代が作られれば、その種の醜悪性は戻ってくる。
精神の特性は継承されず、種の特性は子に継承される。
悪の遺伝子が継承され、改心した心が継承されないようなものだ。
私の本質は変わらない。何も変わらない。その事実からは逃げようとは思わん」
肉体を超越した精神。エヴィデンス01がマギーを褒める際に用いていた概念はおそらく、この超越者が心の底から求めていたものだった。
「私達の言葉は、量子波による情報共有だ。
だが、これはどの段階でそうなったのだろうか。
どの段階の進化でそうなったのだろうか。
情報共有、意識共有、記憶共有が同義。
いつからそうなったのか。
最初からか。途中からか。
私は、私達は最初からそうだったと教えられている。
だがそうではないかも知れない。
一つだけ言えることがある。
私は、地球に来て、地球の言葉を知った。
『言葉を尽くす』という道徳的推奨行動を知った。
そして初めて気付いたのだ。私の種族は、もう誰も言葉を尽くしていない」
「お前は、それが嫌に思えたのか」
「で、あるな。
私達は、地球人から見れば言葉を失った種族。
言葉を失った私達は……
分かってもらうために、言葉を尽くすということをしなくなった」
先進的種族にして、地球人のはるか先を進む上位種族であるエヴィデンス01が、地球を見て新しいことを知って、それで何かを思い出すように語る。
それはまるで、前向きで真っ直ぐな少年を見て、枯れ果てた大人が昔の自分を思い出すような、それで何かを悔いるような、そんな低温の寂寥感があった。
「やがて、完成の時代が来る。
この時代をもって、私達は生物として完成したとされた。
完全な相互理解による同士討ちを避けるため、私達は要らないものを捨てて進化した」
「捨てることで進化、だと?」
「私達が捨てたものは、地球の言語では表現できない。
地球に存在するどの概念にも当てはまらない。
捨てたのは精神的なものだが、地球人にその精神的要素はない。
個性。
共感。
悲嘆。
優愛。
友好。
慈悲。
そういったものを、少しずつ……
少しずつ、少しずつ、削って、一部は完全になくして……
そうして私達は、個体ごとの相互理解による闘争の勃発を卒業した」
「こう言ってはいけないのかもしれないが……地獄のような話だ」
「その感想もまた、正しい。
で、あるからこそ、私達は相互理解を失った。
私達は理解をしなくなった。
全てを情報として見るようになった。
知ることはしても、理解はしなくなった。
地球人でたとえるなら、人間と対話で向き合わず、説明文だけを読むようになったのだ」
「……皮肉なものだ。
ガンダムのテーマの一つに、相互不理解と相互理解がある。
エビが見てきた作品の多くに、それはあったはずだ。
相互理解を成し遂げた知的生命体の末路が、現実で提示されるとはな」
「優しさのない知的生命体に、相互理解はあってはならない。
で、あれば逆に、優しさを持ち合わせていれば、相互理解は進化の途中段階にすぎない」
エヴィデンス01は、宇宙の多くを知る者だ。
彼は相互理解を持て余さなかった生命体も多く知っている。
相互理解が地球人類に新たな進化をもたらすこともあるだろう、と彼は考える。
ここまでの話で、エヴィデンス01の一族の真実をメイは理解した。
だからこそ、必然的に辿り着く疑問がある。
「ならばお前の一族は、この地球も侵略するのか?」
「メイの質問には、嘘をつかない約束……で、あったな」
「……お前が母星で生き辛そうにしているのが、ありありと想像できるな」
一度した約束を破らない、破れない、そんな不器用な男に、メイは呆れる。
笑えるくらいに好感に満ちた、そんな呆れだった。
「私が母星に報告すれば、今の形の地球人類は滅びる。ゆえに私は報告していない」
「やはり、か」
「今の私の種族は、下位の知性体を狙って取り込んでいる。
そして空っぽになった星の資源を利用している。
資源は進化に使い、取り込んだ知性体は端末に使うのだ。
上位存在に目を付けられ、私達は一度滅びかけた。
その上位存在を潰すため、より速く、より強く、進化しようとする者が主流になっている」
「まったく。異星の好戦的な侵略者か。
∀で地球人が想像し恐れた外宇宙の知的生命群そのものだな……」
「エルドラも、あの衛星砲がなければ、今頃は私の同族の再侵略に脅かされていただろう。
私の同族がかつて侵略した星の数は数知れない……エルドラのように強い星ばかりでもない」
「―――エルドラ?」
「? ああ、地球にあるエルドラドの概念とは関係がない。遠い星の名前だ」
「……ああ、そうか」
メイは納得した様子で頷く。
メイは何かに気付いたが、今それを口にしても良いことはなく、意味もないことも理解する。
訊くべきことは、別にある。
「お前は何故、そこまで自分の種族を嫌いなら、その使命に従っているのだ?」
「……私は」
「言い難ければ、言わなくてもいい。私はエビ、お前の味方だ」
「……私は、怖いのだ。
自分の種族を離れることが。
母星に歯向かうことが。
この宇宙で一人ぼっちの私になってしまうことが怖い。
だからこそ今も、この種族の尖兵として、この
「……そうか」
「メイ。君の見解は正しい。
私は君達にとっての上位種族にあたる。
だが、この胸に抱えた恐怖は、君達が抱えるものと、同じなのだ……」
「……」
「地球が醜い星だったなら。
地球人が醜い知性体だったなら。
私は母星に差し出していたかもしれない。
母星の皆に仲間としてきちんと認められるために。
私が一人にならないために。
それだけのために。
差し出していたかもしれない。
偉そうなことを言っていたが、それが私だ。私は……そういう者だ」
「……エヴィデンス01。私達は、お前をそんなことで責めはしない」
「私は地球で言うところの善人でもない。
聖人でもない。
ただ……この星が好きになっただけだ。
この星が好きになったから、気の迷いを起こしただけだ。
地球人を見定めるためにここにいた。
善であれば見逃し、悪であれば差し出してしまおうと。
まるで裁定者のように、神のように思い上がっていた。
で、あれば……本当は、この星の人間にとって、敵でしかなく……」
「お前を責める言葉など誰も持たない。
だがお前に感謝する言葉はある。
お前が見逃してくれたことで、この星は滅びなかった。感謝する」
顔が動かないエヴィデンス01が握る拳が、震えている。
それこそが、表情の動かない彼の心から漏れ出たもの。
顔よりも如実に現れる、彼の心の反映だった。
「私はこの宇宙領域で何も見なかった。
私はいくらかの置き土産をこの星に置き、いずれこの星を去るだろう。
母星は地球のことを知らないまま終わる。
いつの日か、君達が地球を旅立つ時、覚えておいてくれ。
私の同族が……いつか君達の平穏と幸福を、奪いにやって来ることを」
「その警告のために、私に真実を明かしたのか」
「誰に明かすかをずっと考えていた。で、あるが、やはり適任はメイしかいなかった」
「そうか」
「で、あるからして。私は君に任せて消える。頼めるだろうか」
「分かった。他ならぬお前の頼みだ。私にできる限りのことはしよう」
「……感謝する。本当に、感謝する」
出会いがあった。
物語があった。
別れもいずれある。
その時が来る日を、彼とメイはもう見据えている。
「泣きそうだな、エビ」
「私の表情は変わらない」
「それでもお前は、泣きそうなんだ」
「ならば泣かせたのは、きっと遠き宇宙の隣人、地球で出来た友だな。悪い女だ」
「悪の異星人がよく言う。改心したから許すが、自罰的なのが玉に瑕だな」
不器用な軽口の応酬が、二人の肩の力を抜いていく。
地球に救いを残した異星人が居て、異星人の心を救った地球の者達がいた。
広い広い宇宙にたまに、こんな奇跡があってもいい。
「この地球には戦争があった。
その戦争がガンダムという作品を生んだ。
反戦争のメッセージをガンダムが広げた。
感銘を受けた者達の支持が、GBNを生んだ。
そしてGBNでの戦いは、誰も傷付けることはない。
戦いに別の側面を見る。
残酷で救いのない何かから、いつか幸福を生み出す。
それは……それは、地球人の素晴らしい美点であり、私はそこに学ぶものがあった」
戦争から何かを学ばず、反省することもなく、反戦など考えもせず、侵略戦争の負の側面を作品にすることなど考えない文明からは、ガンダムという作品は生まれない。
地球人類とあまりにも違う彼の星には、ガンダムに似たものすら生まれない。
それは、地獄を量産する侵略文明だった。
エヴィデンス01はその一員であることを恥じる。
されど、メイはその文明とは関係なく、エヴィデンス01という個人を見る。
エヴィデンス01は種族とまとめて自分自身が嫌いだが、メイは彼が嫌いではないから。
「お前ばかり地球人を学び、地球人を見習ってどうする」
「?」
「また後でお前のことを教えろ。
私達も同じように、お前のことを知りたいと思い、お前を見習ってみたいと思うものだ」
そして、オーガがやって来る。
時間切れだ。
今日の話は、ここでおしまい。
「で、あれば、また後でな」
「ああ、また後で」
それは、二人の間で交わされた約束だった。
楽しそうだな、とメイは思った。
低空を飛翔するオーガの羅刹天。
上空を飛翔するエヴィデンス01のゼノガンダムターンエルス。
二つのモビルスーツが光の軌跡を残しながら、世界の中を駆け巡る。
「思い切り遊べ、エビ」
オーガは楽しそうだった。
エヴィデンス01は顔にも声にも出さないが、楽しそうだとメイは思う。
エヴィデンス01の内心の証明など誰にもできない。
異星人の内心などどう証明すればいいというのか。
だが、メイは『楽しそうだ』と思って疑わない。
羅刹天とターンエルスの激突を見守るメイの声は、どこか機嫌が良さそうだった。
「誰もお前を嫌わない。自分を責めるな。心から笑え」
両手足を分解したターンエルスの全ファンネルが背中に突き刺さり、実大剣がターンエルスの背中に刺さって、胸から飛び出る。
ターンエルスの腹にシールドが固定され、顔面にライフルが刺さるように固定される。
背中に固定された32のファンネルが一気に推力を作り、凄まじい速さで飛翔した。
『それをモビルアーマー形態とでも言うつもりかぁ!?』
『で、あるな。私なりの解釈の可変機だ』
『気ぃ持ち悪ぃんだよ! ハッ、面白えやつだ!』
モビルアーマー・ターンエルスと羅刹天がスピード勝負にもつれ込む。
リクがオーガの驚異的なテクニックと、ターンエルスのギミックに驚き褒めている。
モモが何も考えずエヴィデンス01を応援している。
サラが二人をまとめて応援している。
ただただ、暖かな空気が広がっている。
「よかったな、エビ。
ここは誰も傷付けなくていい世界。
誰もが笑っていていい世界だ。
人間も、ELダイバーも、異星人もだ。……だからお前も、救われていい」
GBNは無限の可能性があると、誰かが言った。
夢の世界だと、誰かが言った。
最高の仮想現実だと、誰かが言った。
"GBNは優しい世界だ"と、メイは思う。
「お前は誰の敵にもならなくていいんだ、エビ。そんな苦しみは捨てていい」
楽しくて、暖かで、優しくて、希望があって、手を差し伸べてくれる誰かがいる。
『最高に楽しめたぜ、だが、ここまでだ』
『で、あるか。来い』
『―――鬼トランザムッ!!』
そこにエヴィデンス01が辿り着けたという、幸運の女神の悪戯に、メイは心の中で感謝した。