ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE   作:ルシエド

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https://twitter.com/kan_san102/status/1295294268941062151
 ビルド杯終了時刻まで24時間を切りました。
 読者サイドでの参加者様はうっかり評価などを忘れないよう気を付けておいた方がいいかもしれません。


『何億年と生きる生き物が、何億年経っても忘れない約束』とは何か

 『トランザム』。

 それは、ガンダム00に登場する、ガンダム達の切り札だ。

 ガンダムが稼働するために使っているGN粒子を一気に解放し、短時間だが性能を三倍以上に引き上げることで、絶望的な戦力差をひっくり返すことができる。

 GBNの最上級者達は、それぞれが専用の特殊型トランザムを持つという。

 

 対戦形式の場合、敵機を撃墜すればそこで勝負は終わりだ。

 トランザムは使用後に弱体化するというデメリットこそあるが、敵を倒してそこが終わりなら、デメリットは完全に踏み倒してしまえる。

 一対一の戦いにおいて、トランザムは極めて強力なジョーカーと言える。

 ゆえに、リクはオーガのトランザム対策をエヴィデンス01に徹底して仕込んでいった。

 

 両手足を分解、全ファンネルを順番に連射して手数を補完。

 トランザムで加速したオーガの手数に対抗する。

 これがエヴィデンス01の考えた、トランザム時間切れまで粘るための対抗策だった。

 

 対しオーガは両手に持った剣だけを振るう。

 他にも武器はあるのに、トランザムで加速して、手に持った剣だけを振るう。

 切り砕かれていくビームが、宙を舞っていく。

 切って、切って、切って。

 進んで、進んで、進んで。

 決して退がらず、一歩たりとも後退しない。

 撃ち続けるターンエルスとの距離を詰め続ける。

 人機一体。かつ、人鬼一体。

 オーガと羅刹天という鬼が、ビームの集中砲火を文字通りに切り抜けた。

 

 それはまるで、平安時代を舞台にした巻物の一幕のようだった。

 

 矢の雨の中を、刀を振り回して全て切り落とし、突っ切っていく赤き鬼の如し。

 

 力強さと怒れる勇気の二つのみで、32門のビームの乱射を突き抜けていく蛮の勇者。

 

 大量に装備した武装に頼らず。

 ガンプラのギミックも使うことなく。

 ただただ、トランザムの性能と、操縦技術だけで全てを圧倒した。

 ターンエルスの眼前で、羅刹天が双剣を捨て、吊っていた棍棒を振り上げる。

 

『……ここまで真っ直ぐに、愚直なまでに熱い男に、私ではなれない……か』

 

 戦闘終了のアナウンスと、敗北の告知を聞きながら、エヴィデンス01は敗北を受け入れる。

 

 悔しい、という気持ちが芽生えそうになったその瞬間、「あああああっ!!」というモモのとんでもなく大きな声が聞こえて、悔しい気持ちは吹っ飛んでしまっていた。

 

 モモの空気を明るくする才能に巻き込まれて、自分の心まで明るくなっていく気がして、エヴィデンス01は少しだけ元気になった。

 

 

 

 

 

 初めてのバトルの後で、休憩しているエヴィデンス01。

 隣に座って彼に反省点を指摘しているメイ。

 優しく改善点を指摘しつつ褒めるリク。

 リクの横に座って愛らしく相槌を打っているサラ。

 「初心者に何全力本気出してんのよー!」とオーガに背後から組み付いてヘッドロックを仕掛けているモモ。

 

 モモを近場の川に投げ捨て、オーガはエヴィデンス01の前に立った。

 

「俺のトランザムにあそこまで耐えた初心者は、このリクの野郎と、お前だけだ」

 

 そう言って、エヴィデンス01に背を向け、オーガは去っていく。

 

「次に会う時までもっと食いごたえのある奴になっておけ」

 

 オーガがエリアから歩き去って行った頃、ミッション達成のアナウンスが鳴った。

 何事か、と思いそれぞれがコンソールを確認すると、エヴィデンス01のコンソールにミッション達成の知らせあり。

 リクが確認してみると、それはエヴィデンス01が受領したことになっていたミッションであり、依頼者はオーガだった。

 

「ああ、なるほど。

 これオーガの依頼って形式になってたんだ。

 だからミッション達成で報酬金が……うわっ、何だこの額……」

 

 リクが報酬金にちょっと引く。

 

「へーどれどれ、見せて見せて……多っ!」

 

「これで強くなっておけってことじゃないかな」

 

「ツンデレ……」

 

 モモもちょっと引いていて、サラはその真意を正確に把握していた。

 

 エヴィデンス01が頷き、メイもそのコンソールを覗き込む。

 

「で、あるか。そういえば何か操作した覚えがあった。あれがミッションの受注か」

 

「よかったな、エビ。お前もこれで初ミッションクリア、というわけだ」

 

「で、あるだろうな。なるほどだ」

 

「おめでとう」

 

「ありがとう」

 

「だが勝った方が格好つけられたんじゃないか」

 

「……で、あれば、次は勝とう」

 

「次は私も同行してやろう。初心者の内は複数人で戦った方がいいかもしれない」

 

「で、あるか。それも面白そうだ」

 

「か、川……川の底が深かった……! あ、エビちゃん! ナイスファイト!」

 

 川から這い上がってきたモモが何より先に彼の健闘を称える。

 リクとサラが笑って、びしょ濡れのモモを拭いてやる。

 顔は笑っていないけれども、エヴィデンス01もメイも、身に纏う空気が笑っていた。

 皆が、笑っていた。

 

 エヴィデンス01は、開いた手の平をぎゅっと握る。

 感覚的に掴めたものを、手放さないように。

 

「戦いを通して、オーガ……彼を理解できた感覚があった。

 戦いは言語ではない。

 言語の代替品として多用してもいいことはない。

 だが、戦闘を通して相手を理解するという道も、ここにはあるようだ」

 

「それもまた一つの選択肢だな、エビ。

 戦場以外で語る言葉を持たないオーガのような人間もいる。

 それぞれの人間に適した対話の手段があるということだ。

 人間を理解していこうとしていたお前は、戦闘以外にも他にも……」

 

 その時。

 

 空が、溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠い、遠い、昔のこと。

 エヴィデンス01の一族は、惑星エルドラに侵略を開始した。

 迎え撃ったのは守護者アルス、聖獣クアドルン、そしてエルドラ人。

 エヴィデンス01の一族はエルドラに敗北し、それからずっとエルドラを恐れている。

 機があればエルドラ人を絶滅させたいと思っているほどに。

 エヴィデンス01の言う通り、他者を理解しないかの一族は、時に恐れる敵の強ささえ正確には理解できないのだ。

 万能の上位存在となってすら、それは変わらなかった。

 もしかしたら、全能になってすら変わらないのかもしれない。

 

 エルドラ人達の多くは荒廃した母星を捨て、他の星系に旅立った。

 母星を見捨てることができなかったエルドラ人達は、星の再生に希望を託し、いつかの未来を希い、自らを時空の彼方へと電送した。

 いつの日か、ここに戻って来れるようにと。

 

 それから、宇宙基準でしばしの時間が流れる。

 

 エヴィデンス01の一族への天罰は、急に訪れた。

 それは、地球の概念でたとえるならば、虫かごの中で小さな虫を突っついていじめていた大きな虫を、虫かごの主である子供が叩き潰したような事案。

 より強大なる存在が、井の中の蛙だった強者を叩き潰した案件。

 "弱い者いじめ"を繰り返していたエヴィデンス01の一族に、上位存在が罰を下したのだ。

 

 宇宙は広い。

 無限に広がっていて、無限に存在が詰め込まれている。

 心優しき弱者がいた。

 弱者を蹂躙する侵略者がいた。

 侵略者に罰を与えるさらなる上位存在がいた。

 なればこそ、エヴィデンス01の一族は大きく数を減らし、宇宙に散り散りになってしまった。

 

「……ここは……」

 

 そうして散り散りになった内の一人に、『彼』はいた。

 『彼』はまだ呼ばれる名前もない。

 誰も『彼』に名前は付けていない。

 誰も彼の友達にもなっていない。彼の仲間にもなっていない。彼に何も与えていない。

 生まれた時からずっと"この一族はおかしい"という違和感に苛まれていた彼は、自分の思考を押し殺すだけの日々を数億年と過ごしていた。

 ただただ、上司の指し示す種族の正しさに、従い続けた。

 

 機械に近い精神活動レベルまで落ち込んでいた彼は、何もできない。

 散り散りになった後、永久機関である情報結晶でエネルギーを得ながら、あてもなく宇宙を漂っていた。

 一年、十年、百年。もっともっと長い間、眠ることもなく一人で漂っていた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 そんな彼を、拾った男がいた。

 

「おーおー、大変な状態だな。しばらくついて来るかい、君」

 

 春風のような男だった。

 『彼』は男に連れられ、宇宙を旅する。

 同族達は散り散りになってどこに居るかも分からない。

 やることもなく、自由も持て余している。

 『彼』は男についていき、宇宙の各地の知的生命体と出会い、交流し、別れていった。

 

「おいおい、君もーちっと自分で考えて動いたらどうだ?」

 

「で、ありますか。命令であるならば、従います」

 

「命令じゃない。お願いだ」

 

「で、ありますか。自分で考えるにはデータが足りません」

 

「そっか。じゃあもうちょっと一緒に旅すっか。君が、ちゃんと心を持てるまで」

 

 春風のような男だった。

 毎日、男は『彼』に真っ当な心を教え続けた。

 宇宙中を回って、春風のように来訪し、知的生命体達を助ける男だった。

 無限とも言える知識を持ち、それを全て他者を助けるために使える男だった。

 『彼』も次第に、その男を慕っていった。

 

「俺はエルドラってとこのしがないおじさんだよ。

 電送したデータを、時空の果てで無理矢理肉体作ってそこに宿してるんだ」

 

「で、ありますか。データにあります。

 過去に我々が侵略し、その結果荒廃した星であります」

 

「ああ、覚えてるよ。君達分かりやすい姿してるんだもんよ」

 

「で、ありますか。ですが理解できません。

 我々はあなたの怨敵のはず。なのに何故私を助け、面倒を見ているのですか」

 

「そりゃね、君が宇宙でずっと一人ぼっちで泣いてたからだよ。ほっとけねって」

 

「……で、ありますか。理解できません」

 

「ほらほら、今日もおじさんが体を小さくしてあげるから屈んで屈んで。

 君ら、エネルギーが有り余ってる内は星よりもおっきい厄介な人達なんだから」

 

 春風のような男だった。

 その在り方に正義の押しつけはなく。

 人の幸せを奪うものとのみ戦う。

 男が戦うのは、健やかなる平和を乱す悪夢とだけだった。

 春風のようにやってきて、幸せを置いて、春風のように去っていく。

 いつからか『彼』は、自分の種族の倫理観より、その男が教える倫理観を信じていた。

 

「ん? この写真気になる?」

 

「で、ありますな。貴方の親族でございましょうか」

 

「まーな。

 実の親子みたいに、娘みたいに可愛がってた二人よ。

 黒い髪のめっちゃ可愛い方がイルハーヴ。

 金髪のすげー可愛い方がシャングラだ。

 あだ名で呼び合っててな、イヴー、サラー、って」

 

「で、ありますか。どちらがイヴ殿でしょうか」

 

「名前で分からない!?

 イルハーヴがイヴ、シャングラがサラだ。

 ……俺が宇宙を旅してるのは、どこかに電送されたこの二人を見つけるためだ」

 

「で、ありましたか。見つけてどうなさるのですか?」

 

「幸せにやってるならいいさ。

 嘴突っ込む気はねえよ。

 幸せじゃなさそうなら連れて行く。

 そいつが俺の責任ってやつだ。

 だけど……まだ手がかりすらねえ。

 二人どころか、故郷のエルドラさえ見失ったままだからな、俺は……」

 

「で、ありますか。私もお手伝いします。共に見つけましょう」

 

「おっ、サンキュー! 君もノリがよくなってきたねえ。おじさん嬉しいよ」

 

「で、ありますか」

 

 二人は宇宙を駆けた。

 イルハーヴとシャングラ、二人の女性を見つけるために。

 その過程で、困っている人を救うために。

 燃える氷の宇宙、二つの星の間で無限に雷が行き来する宇宙、太陽の周りを金と銀の双子星が回る宇宙……数え切れないほどの宇宙を巡っていった。

 けれどどこにも、イルハーヴとシャングラはいなかった。

 

「けほっ、ごほっ、けほっ」

 

「大丈夫でありますか? 体調が悪い……ので、ありますか」

 

「ん? ああ、多分そろそろな、俺死ぬわ」

 

「―――え」

 

「元から無茶な話だったんだ。

 あの二人を放っておけなくて焦りすぎたかもな。

 正式な方法で肉体を作ってなかったから、肉体の崩壊……死が近い」

 

「す、救う方法は」

 

「ねえよ。だから急いで、イヴとサラ見つけねえと」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「で、ありますか。貴方がそうするというなら何も言えません。従いましょう」

 

「おお、悪いな。手伝ってくれや、我が息子よ」

 

「……息子?」

 

「おう。へへっ、やっぱ仲良くなるとそういう感覚なんだよな。

 息子みたいに扱っちまうわ、君のこと。家族にしか思えねえ」

 

「……で、ありますか。私が末っ子ならば、イヴとサラは姉になるのでしょうか」

 

「おう! 頼むぜ、我が息子。俺が居なくなっても、君の姉を救ってやってくれ」

 

「……」

 

「な」

 

「……」

 

「頼むよ」

 

「で、ありますか。了承しました」

 

「サンキュ。……悪いな、こんな、ズルいことして」

 

 死が迫ると、男は春風のような男ではなくなっていた。

 情を利用し、救いたい二人を救うため、『彼』に楔を打ち込もうとしていた。

 それほどまでに、救いたい二人の娘を残して自分だけ死んでしまうということが、受け入れられなかったのだろう。

 利用される側の『彼』も、嬉しがっていた。

 どんな形であっても、その男の家族になれることは、『彼』には嬉しいことだった。

 

 男は『彼』に、自分の持つ知識やプログラムの伝授を始めた。

 もう間に合わないと、男は自覚していたらしい。

 二人の娘のために。

 そして、一人の息子のために。

 その先行きのために、男は『彼』に残せるものは全て残して行くつもりだった。

 

 春風のようでなくなっても、男は『彼』にとって素晴らしい男だった。

 男は余命が尽きようとしている中、人助けをやめなかった。

 悲願を果たせず、大切な人を救うどころか見つけることすらできず、他の宇宙人に託して死んでいくというのは、どれほど無念だったことだろうか。

 絶望もあっただろう。

 誰も見ていないところで泣きもしただろう。

 けれど男は、諦めずイルハーヴとシャングラを探し続け、その過程で誰一人として見捨てることはなかった。

 困っている人がいれば、必ず足を止めて手を差し伸べた。

 死の前日まで人助けをしていた男の姿を、『彼』は今も覚えている。

 

「げほっ、ごほっ、ごほっ、がほっ、ごっ、ぐっ」

 

「体を起こさないでください。何かしたいことがある……ので、ありますなら、聞きます」

 

「……無理だろ」

 

「で、ありますか。言うだけ言ってみてください」

 

「……エルドラに、帰りてえな……」

 

「……」

 

「君に言ったっけ?

 エルドラ人は二つに分かれたのさ。

 星を捨ててどこかに旅立った方と、星に帰るため電送を選んだ方。

 俺は後者。だから、俺は故郷に帰りたかったんだ。

 娘みたいに可愛がってた二人を連れて、あの星に、帰りたかった」

 

「……まだ、探せば、まだ……」

 

「でもな……

 俺がエルドラに帰ることを諦めて……

 イヴとサラが幸せになれるなら……

 喜んでそうするだろうな、とも思うのさ……」

 

「っ」

 

「悪いな、最近は愚痴まで聞いてもらってて」

 

「で、ありますか。

 貴方は他人のために人生を使いすぎました。

 その考えは……改めるべきだと考えます」

 

「かもな」

 

「宇宙の理は酷く冷たい。

 で、ありますならば、理不尽もある。

 貴方は誰よりも多くの者を救った。

 他人のためにのみ生きてきた。

 ずっと、ずっと、ずっと。その結末が、これでは……」

 

「君に出会えたっていう最高の幸運があった。俺は、結構恵まれてるんじゃないかね」

 

「……で、ありますか。

 結構なお考えであるますが、私はそうは思えません。

 しばし外出します。イルハーヴとシャングラを探します。

 貴方が息絶える前に、必ずや貴方と再会させてみせましょう」

 

「君は……本当に、優しいよな。まともな種族に、生まれて、幸せになってりゃ……」

 

「で、ありますか。ですが生まれは選べません。私も、貴方も」

 

 いつ、自分がこんな心を得たのか。

 いつ、自分がこんな感情に呑まれていたのか。

 いつ、自分が何よりも彼の願いを優先していたのか。

 『彼』にも分からないまま、時は進む。

 

「泣き方を教えて下さい」

 

「……お、どうしたよ。おじさん、そういうの教えたことはないねぇ」

 

「あなたは命を救えなかった時、泣いていました。

 私も泣くべきなのですか?

 私も泣きたいです。

 泣くにはどうすればいいのですか。

 どうすればあなたのために泣けるのですか。

 泣き方を教えて下さい。

 いつも貴方が教えて下さるように。

 私に、大切な人の死に泣ける機能を下さい。

 私は落ちこぼれです。

 そう定義される存在です。

 生まれた時から欠陥品です。

 生まれた意味すらも無い。

 それでも、貴方のために泣きたい。

 意味のない私ですが、意味のある涙を流したい。

 貴方のためなら、意味のある涙を流せる気がする。

 どうか、どうか、教えて下さい。

 貴方の死に涙しない私でいたくない。

 自分で自分が分からない。

 この感情は何なのですか。

 私は今、何を想っているのですか。

 何故こんなにも、思考が支離滅裂なのですか。

 教えて下さい。教えられなければ、私は、何も、何も、何も……」

 

「泣き方は、誰かに教わるものじゃないよ。

 君も見てきただろう?

 知的生命体の数だけ、涙はある。

 固体、液体、気体。情報、波動、化学物質。

 多くの涙があっただろう。

 けれど誰もが、泣き方なんて教わってはいなかった」

 

「……で、あります、か……」

 

「いつか君の心が自然に泣いた時。その瞬間を、本当の涙を、大事にしなさい」

 

「……」

 

「ふっ……でも、ま、最後くらい、かっこつけていくか」

 

「かっこつける……で、ありますか?」

 

「最後の授業だ。

 俺が死んだ時、その時の気持ちを覚えておけ。

 きっと、それを忘れなければ、君は命を尊び、他人に優しくなれる」

 

 何も見つからなかった。

 エルドラも。

 イルハーヴも。

 シャングラも。

 男は人を幸せにし続けたが、誰も男を幸せにしなかった。

 『彼』がどんなに必死になっても、それらは見つからなかった。

 

 なのに男はずっと笑っていて、それが『彼』には理解できなかった。

 男のために必死に頑張る『彼』の姿が男の最後の救いになっていたことを、『彼』だけが理解していなかった。

 

「約束します。永遠の約束、で、あります」

 

「あん? どしたのよ、かしこまって」

 

「何百年かけても。

 何千年かけても。

 何万年かけても。

 私は、貴方の大切な二人を見つけ出します。

 幸せそうならば、それでよし。

 幸せでないならば、尽力します。

 いかなる敵からも、その二人を守ります。

 この命をかけてでも、イヴとサラを守ります。

 ずっと私一人でも……必ずや、この約束を守ります。だから安心してください」

 

「―――」

 

「私の命が終わるまで。

 この宇宙が死を迎えるまで。

 この約束は永遠です。

 あなたが埋め込んだ楔など関係ありません。

 この身、この心、この魂ある限り。あなたの救いたかった人を、私は守ります」

 

「……ああ、そうか。そう言ってくれるか」

 

「で、あります。私の姉にあたるのでしょう? 守りますとも。必ずや」

 

「……ありがとうな。本当に、ありがとう。後悔しながら死んでいくと、そう思ってたんだ」

 

「で、ありましょうな。

 そんなことは許しません。

 私は、最近になって思ったのです。

 母星で教わったことではない。

 貴方に教わったことでもない。

 胸の奥から自然と湧き上がった想いがありました。

 誰からも教わったものではないのに、それが正しいと思うのです。

 『頑張った誰かが最後には報われて欲しい』―――そんな風に、思うのです」

 

 その言葉を聞いて、男が泣いた理由が、『彼』にはよく分からなかった。

 死は終焉と断絶ではない。

 次に繋がっていく、新たな始まりと重なるものだ。

 男は『彼』に多くのものを残し、『彼』は男から受け継いだものを胸に秘めた。

 それはいつか輝き、どこかの誰かを照らす星となるだろう。

 

 長い旅路の終わり。

 奇妙な連れ合いの終焉。

 『彼』にとって唯一無二の師に、逃れようのない死が訪れる。

 

「自分を許せ。

 愛する人を許せ。

 だが、自分と愛する人を害する悪だけは許すな。

 忘れるなよ。

 優しさは人を救うが、正しさは人を救わない。

 正しさは悪を討つだけだ。

 正しいことは他人に任せたっていい。

 だが、愛する人を幸せにすることは他人に任せるな。

 それだけはお前がしなくちゃならないことなんだ。

 だから忘れるな。許すこと。愛すること。優しくすること、この三つを」

 

「で、ありますな。決して忘れません」

 

「行け」

 

「今日までありがとうございました」

 

「恐れず行けよ、俺を救ってくれた、自慢の息子よ。迷わず進め」

 

 

 

 

 

 

 

 

「この広い宇宙のどこかで、お前の知らない誰かが、ずっとお前を待っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、男は息絶えた。

 男の死にも、『彼』は泣けなかった。

 

 『彼』は母星に帰り、どうしようもない孤独と戦いながら、孤独を埋めるために同族に馴染もうとしつつ、イルハーヴとシャングラを探し始める。

 エルドラ人は一族の大敵。

 バレれば大目玉だ。

 だから、隠し通すしかない。

 一人で探し続けるしかない。

 同族の誰とも仲良くなれず、苦痛でしかない一族の倫理観の中で動き、善なる知的生命体を見つければ同族から隠し、イルハーヴとシャングラを探し続ける。

 

 人間の一生が終わってしまうくらい長い期間、一人ぼっちで奮闘を続け、それを何度も何度も繰り返していく。

 それでも、約束を破ろうとは思わなかった。

 『彼』の中には、男がくれたものが沢山あったから。

 

「イヴ。サラ。

 ……見つからない。

 けど、どこかに居るはずだ。

 あの人から受け継いだプログラムがある。

 どこかの星には到着している……

 で、あれば、どこかには居る。

 どこの星か、到着した後どうなったかが分からない……」

 

 あの男を真似しても、『彼』はどうにも上手く行かない。

 

 上手く行かない度に、師であった男の規格外さを痛感する。

 

「常識が足りない。

 で、あれば身に着けるべきだが、多種多様すぎる。

 私の母星の常識は使える場面の方が少ない。

 あの人が教えてくれた常識も毎度のようにズレが出る。

 各星の常識を学んで、理解して、それぞれに合わせなければ……」

 

 他者との付き合い方を、手探りで探した。

 探し人を手探りで探して、探し方も手探りで探した。

 星を探すことすらも、彼にとっては初めてのことだった。

 

「え、エルドラ!

 あ、あった……

 よし、あとは、イルハーヴとシャングラ……

 エルドラの状況確認するのは、例のアルスが居る可能性があるなら控えないと……」

 

 『GBNは無限の可能性を秘めている』。

 『GBNでは可能性を失った者、諦めた者から敗れる』。

 そんな基本の教えがある。

 宇宙もまた、『彼』にとってはGBNより広いだけで同様だった。

 諦めないことで、『彼』は男の捜し物を見つけていくことができた。

 

 そして、その果てに。

 

 約束を守る日が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 溶けた空から表れた光が、サラに向けて放たれる。

 

「【エルドラ人。最優先抹消対象。攻撃開始】」

 

 サラを突き飛ばすようにして庇ったエヴィデンス01の腹を、その光が貫いた。

 周囲の者達が仰天し、エヴィデンス01を庇うように駆け寄る。

 庇われたサラは、顔が真っ青になっていた。

 

 守る。

 守るに決まっている。

 それが、『彼』とあの男の約束である限り。

 

「ぐっ……あっ」

 

「エビちゃん!?」

 

「な……なんだあれ!?」

 

 空に浮かぶそれは、GBNの空を溶かしながら現れた。

 それは光でも闇でもない。

 それは虚空だった。

 

 光は粒子であり波動である、相補性の中に存在する力だ。

 闇はその逆で、光なき空間、光を遮る空間を指す。

 だが、それはそのどちらでもなかった。

 それは虚空だった。

 空間に虚空があり、そこを通った光に闇のような色が着く。

 光すら汚染する、波動汚染虚空。

 何もないはずなのに何かがそこに在ることだけは分かる。

 物理学者ボーアによって証明された相補性によって、虚空は実体と相補を行い、光の粒子と波動の相補性を陵辱し、地球人には理解できない存在へと到達する。

 

 この存在は、そこに居るが、そこに居ない。

 情報で出来たGBNの世界に、情報の虚空として存在している。

 その存在は、目で見ても容姿の輪郭すら掴めない。

 それが手を伸ばし、エヴィデンス01に向けた。

 

「【67280421310721、観測。情報共有開始。記憶解析。妨害確認。打消。解除。読取】」

 

「やめっ……ぐうっ」

 

 情報が詰まったエヴィデンス01の内部から、情報の虚空に情報が座れる。

 まるで、真空の宇宙が宇宙船の中の空気を吸い上げるように、情報がコピーされる。

 

「そこまでだ」

 

 メイが両者の間に割り込み、虚空に拳銃で威嚇射撃を行い、それをやめさせる。

 腹に穴が空き、随分と"吸われた"エヴィデンス01を庇うように立ったメイが、拳銃を敵に向けたままエヴィデンス01に問いかける。

 

「ぐっ……」

 

「エビ、動くな、傷が広がる。

 一つだけ答えろ。

 あれは……お前の同族か?」

 

「……違う」

 

「ならばなんだ」

 

「端末だ。

 取り込まれた知性体だ。

 あれは知性が低く見える。

 ならばはるか昔に散布されたという、情報病原体に感染した知的生命体だ」

 

「情報病原体?」

 

「物質生命体。

 電子生命体。

 情報生命体。

 全てに感染する、情報そのものだ。

 情報を伝って感染し、感染すると私の一族の端末になる。

 感染すればもう二度と元の形には戻らない。卵を焼くようなものだ。

 私達のネットワークに組み込まれ、私達に奉仕する働き蟻の同類になる……」

 

「……最悪だな」

 

「この宇宙に放たれ……

 知るだけで感染し……

 教えるだけで増殖し……

 自動で私達の一族の支配領域を広げる……

 知的生命体を蝕み、同族に変える同化性情報病原菌だ……!」

 

 サイエンス・フィクションの世界には、時にとてつもなく悪質な兵器が登場する。

 強力な兵器ではない。

 悪質な兵器だ。

 エヴィデンス01が語った細菌兵器がまさにそう。

 地球人類ですら、国家が取り返しのつかない損害を受け、あまりにも多くの人々が苦しむ可能性があるから、細菌兵器の開発を止めようとしたというのに。

 エヴィデンス01の一族は、自分達以外の全ての知的生命体を滅ぼすかもしれない情報細菌兵器を宇宙に拡散することに、何の躊躇いもなかった。

 

 宇宙の邪悪。

 生命の大敵。

 救いようのない上位生命体。

 全ての生命に再起(リライズ)を許さぬ者達。

 もう一度(リライズ)を絶対に与えない、やり直し(リライズ)の否定者達。

 メイはエヴィデンス01の一族と分かっていながらも、生理的嫌悪感を拭えなかった。

 

「地球に辿り着くなど天文学的確率だったはずなのに……ぐ、うっ……」

 

「大人しくしていろ。お前は特殊なんだ。万が一がある」

 

 メイは優しい声をかけるが、エヴィデンス01はこの責任を投げ捨てられない。

 

「情報病原菌の拡散は既に無力化した。

 で、あるが、これは私の同族の問題だ。

 これ以上、地球に迷惑も責任も負わせられん……!」

 

「……エビ。お前、私に言ったことをもう忘れたのか?」

 

「何をだ、そんな話をしてる場合では……」

 

「友情の示し方には、責任を分け合うというものがあるのだろう?」

 

「……あ」

 

「私にできることがあるはずだ。お前を助けたい。お前を放っておけない」

 

「―――」

 

「お前が友である私を助けようとしたように、私には友であるお前を助ける権利がある」

 

 けれど、きっと。

 

 その責任と使命は、一人で背負わないといけないものではない。

 

「私に任せろ。伊達にフレンド三号をやっているわけではない」

 

 メイが長い黒髪をかき上げ、敵へと向かい歩き始める。

 

「サラ、エビさんを頼むよ」

 

「うん。気をつけて、リク」

 

「フレンド二号も……うん、だいぶ怒ってるから」

 

 リクがエヴィデンス01をサラに任せて、敵へと向かい歩き始める。

 

「状況全くわかんないけどフレンド一号はエビちゃんに酷いことしたのは許さないんだから!」

 

 怒り心頭のモモが、敵へと向かい歩き始める。

 

「ウォドムポッド」

 

「ダブルオースカイ!」

 

「モモカプル!」

 

 虚空が世界に浮かんでいるだけ、そんな巨人がいた。

 

 それに立ち向かう、地球の三つの巨神がいた。

 

 巨神の名はウォドムポッド。ダブルオースカイ。モモカプル。

 

 正義でもなんでもなく、ただ友のために、宇宙の邪悪を打ち払う者達だった。

 

 

 

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