ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE   作:ルシエド

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『ミカミ・リク』とは何か

 その頃、運営はてんてこ舞いだった。

 エヴィデンス01のログイン中に、さらなる同規模存在のアクセス。

 膨大かつイレギュラーなデータ負荷によるサーバーの超重力。

 メインCPUは麻痺し、メモリは運営の管理を外れ、記録領域に確認不可能な巨大ブラックボックスが発生する。

 

「今は対処できてますが、これ以上負荷が増したら全サーバーが危険です!」

「これは……0でも1でもないデータ構造体!?」

「明らかに人類外の情報基盤に属する存在です! 読み込みも調査もできません!」

「二人目の異星人……!?」

「彼がフレンド・ザ・ワンならエネミー・ザ・ネクストってところか」

「エヴィデンス01に攻撃を仕掛けた模様! 危険域のダメージが入っています!」

「周辺に居るダイバーは……ビルドダイバーズ!?」

「また!? って言いたいけど、ラッキーかもね……!」

 

 彼らは現状を全く認識していなかったが、彼らの状況を理解していない必死なあがきによって、GBNは崩壊を免れていた。

 

「私達に友好的な宇宙人、エヴィデンス01。

 そして敵対的な宇宙人、エヴィデンス02といったところか。

 ……ここまで乱暴な客人を歓迎する理由はないな。

 我々の宇宙の隣人も守らなければならない。

 暫定、敵対設定! だが状況を見ておけ、下手な対応は地球レベルの問題になるぞ!」

 

 『GBNを壊さないよう繊細な注意を払っていた』エヴィデンス01と違い、ニュー・カマーはGBNを気遣う気が一切なかった。

 エヴィデンス01の言及が本当ならば、彼らの種族は単体で太陽系クラスの極大規模(スケール)を持っているという。

 地球に普通に降臨していたなら、地球は今頃粉々だ。

 エヴィデンス01がどれだけ気を使ってくれていたか、運営は今心底痛感していた。

 

 そして恐ろしいことに、GBNは本当に、宇宙を内包するほどのスケールを持っていた。

 なればこそ、エヴィデンス02と呼称された者を内包できる。

 ネットゲームのサーバーであるのに、宇宙規模の存在を内包できてしまうのだ。

 人類の技術を超越しているSF生物を、人類の技術を超越したオンラインゲームサーバーで包み込む。小学生でもやらなそうな剛力対処で、地球は今守られていた。

 

 逆に言えば、ここから出すわけにはいかない。

 サーバー外に出た波動生命体の端末が現実で形を成せば、そのまま地球は滅びる。

 逃してはならない。

 ここで仕留めなければ、星が終わる。

 

「? これは……?」

 

 だが、かつて知性体だった端末、虚空の巨人は変異を始める。

 

 誰もが予想していなかった形へと、変わり始める。

 

「葛城さん、ヤバいです、これは!」

 

「GBNのメインプログラムの一部を、ガンプラデータ化して乗っ取ったのか!?」

 

 この世界の心臓すら巻き込んで、虚空は形を成していく。

 

「ダメです! 制御効きません!」

「デリートコマンドが拒否されました!」

「あのエヴィデンス02のガンダムが、GBNの基幹部分の管理者権限を奪った?」

「え……う、嘘、何これ、GBNのサーバーに大気から電力が供給されてる!?」

「これコード抜いてもサーバー落とせないんじゃ……?」

「一般ユーザーはサーバーが重くなった程度にしか思ってませんが時間の問題です!」

「あのガンダムを破壊しなければ、このままGBNが崩壊します!」

 

 情報だけで生命として生きていける存在は、人類の理解を超えている。

 

 

 

 

 

 虚空の巨人は、白赤の機神へと変貌した。

 

 その姿に、ガンダム00を知る者は、誰もが見覚えがある。

 

『リボーンズ……ガンダム……!?』

 

 リボーンズガンダム。

 それは、ガンダム00TV本編の物語において最後の宿敵が選んだ乗機。

 ダブルオーガンダムと死闘を繰り広げた、人類の革新の最後の壁だ。

 

 初代ガンダムにおいて、主人公達はガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの三機で戦い、絶望的な戦場をくぐり抜けてきた。

 だがリボーンズガンダムは最初、ガンダム・キャノン・タンクの三形態に変形できる機体であったという。

 『私には他の誰も必要ない』と言うかのように。

 

 元は(アイ)ガンダム、GN(ガン)キャノンで別々のパイロットを乗せ運用する設計であったものだが、それらを統合してしまったのがリボーンズガンダムだ。

 「誰の手も借りず自分一人で戦う」というパイロットの意向により、複数機を強引にまとめてしまった、エゴの塊であるという。

 『私には他の誰も必要ない』と言うかのように。

 

 他の誰かとの共存、共に歩み生きていくこと、それらを弱者の理屈と否定するガンダム。

 歪みを破壊し共存へと向かわせるダブルオーの対、暴君のガンダム。

 エヴィデンス01が否定した、一族の傲慢が引き寄せた形。

 エヴィデンス01が語った、宇宙に進出する生物が持っていなければならない、他知的生命体との共存形質を否定するもの。

 

『来るよ!』

 

 直感的に動きを察知したリクが通信で他二人に呼びかける。

 

 一拍置いて、リボーンズガンダムが突撃した。

 

 ダブルオースカイ、モモカプル、ウォドムポッドが迎え撃つ。

 

『……? 妙だな、あまりにも無防備な……』

 

 メイは訝しがりながら、火砲の照準を合わせる。

 ウォドムポッドは遠目にはキノコに見えるような、頭部に円盤状の武装ユニットが装備された、高機動高火力の改造機である。

 大きな二本足で走り、高い火力を叩き込む。

 だが今回は少し立ち回りを変えていた。

 

 極めて速いダブルオースカイが陽動で動き、それにリボーンズガンダムが食いつく。

 ダブルオースカイが武器接触もないままリボーンズガンダムの注意を引きつけ、ウォドムポッドへの視線が切れた瞬間、メイは引き金を引いた。

 

『力任せで強引な攻めだ。これなら……もらった』

 

 ウォドムポッドの大口径ビーム砲が放たれ、上位ランカーのガンプラでも一撃で粉砕する威力がリボーンズガンダムを粉砕―――は、できず。

 リボーンズガンダムの周囲を囲む球形のバリアに、容易く弾かれた。

 

『GNフィールド!?』

 

 圧縮したGN粒子を高速対流させて作る全方位防壁、GNフィールド。

 ビームにレーザーに実弾兵器、直接斬りつける攻撃すらも無効化する、鋼鉄の要塞よりも強固な光の壁である。

 ダブルオースカイが最高速度でバスターソードを叩き込むが、ビクともしなかった。

 

『リボーンズガンダムには無かったものが付いてるのか。俺が前で防ぐよ!』

 

『援護する。今のを見る限り、デタラメに強力なGNフィールドだ。

 あの強度ならおそらく、維持できて一分。

 それまで三人で交互にタゲを取って引きつけていこう。機敏な私とリクが中核だ』

 

『いい提案だ。モモ、メイ、行くよ!』

 

『やったらー!』

 

 ダブルオースカイが、翼から光を放出しながら素早く飛ぶ。

 ウォドムポッドが、巨大な足で地面を蹴って機敏に動く。

 モモカプルが跳んだり跳ねたり転んだりしながら、せっせこせっせこ動き回る。

 

 三人は交互にリボーンズガンダムの視線を引きつけ、仲間に援護されてリボーンズガンダムの攻撃を回避し、仲間に引きつけて貰ってその隙に距離を取る。

 リボーンズガンダムを中心として、その周囲を三人でぐるぐると回るという、そこそこオーソドックスな陣形で攻撃を散らす。

 リボーンズガンダムがライフルを撃ち、三人がかわす。

 その繰り返し。

 いかに強力なGNフィールドがあれど、今のリボーンズガンダムはGNバスターライフルを連射するだけの置物だ。

 これに苦戦する要素がない。

 

 10秒、20秒、30秒と、余裕綽々で三人は翻弄していく。

 1分が過ぎ、そろそろかなとモモが鼻を鳴らす。

 3分が過ぎた頃、リクモモもメイも、背筋に嫌なものが走り始めていた。

 

『ね、ねえ』

 

 モモが恐る恐る、三人が薄々気付いていたことを口にする。

 

『このリボーンズガンダム、エネルギー切れがないとかないよね……!?』

 

『そんなバカな……いや、エビの言っていたことが……そういうことなのか?』

 

 カチッ、と、何かが切り替わる音がした。

 リボーンズガンダムが発射していたGNバスターライフルのビームが、突如その規模を数十倍にまで引き上げ、モモの視界を埋め尽くす。

 「ひゃっ」と気の抜けた声を漏らしながら、転がるように必死に回避したモモだが、かわしきれずかすったビームが、モモカプルの装甲の一部を蒸発させていった。

 

『ちょっと何これ!? チートツール(ブレイクデカール)使ってるんじゃないの!?』

 

『あれはもうない!

 シバさんが運営側に居るからもう使えないはずだ!

 でも、これは……ブレイクデカールみたいにディメンションに影響も出てない……!?』

 

 かつてGBNを大いに荒らしたチートツール(ブレイクデカール)が連想されるが、それとは何かが違うこの流れに、よくわからない危機感だけが募っていく。

 

 連射される大きすぎるビームを回避しながら、リクは冷静に、目ざとく、リボーンズガンダムの体からGNフィンファングが離れるのを見た。

 四つは大型。

 自立飛行する空中砲台。

 八つは小型。

 ミサイルのように突っ込んでくる、ビームサーベルを生やした鋼鉄の牙。

 それが空中で分身したのを見て、リクの表情から一切の余裕が消えた。

 

『回避に集中っ!』

 

『GNフィールドずっと展開したまま攻撃ぃ!?』

 

 モモ、メイが回避に入る。

 リクは逆に切り込んだ。

 メイは全て回避しようと腹を括り、モモは大威力の攻撃は回避して小威力の攻撃は防御し、リクは攻撃を回避しながらフィンファングを切り落としにかかった。

 

 メイはかわしきれず、ウォドムポッドの右手が弾け飛ぶ。

 モモは上手く受けたが、細いビームですら威力が高く前身がボコボコに。

 リクは紙一重で全て回避し、24まで増えたフィンファングの内11を速攻で切り落とし、仲間の生存を勝ち取っていた。

 

『大丈夫!? メイ! モモ!』

 

『なんとか』

『カプルがボッコボコで可愛くなくなっちゃってるから大丈夫じゃなーい!』

 

 加速度的に、何かがおかしくなっている。

 この世界が何かに侵されていっている。

 チート、と言うのも何か違う何か。

 それが時間経過によってどんどん大きくなっていくのを、リクは感じていた。

 

 長引けば不利。そう思えば、リクの判断は早い。

 

『トランザムインフィニティ!!』

 

 切り札を切り、一気に勝負をかける。

 三倍以上に性能が跳ね上がったダブルオースカイが、常人では目で追うだけでも難儀する速度で飛翔し、その勢いのままに斬りかかった。

 ダブルオースカイ特有の、鳥が鳴くような飛翔音。

 剣が振るわれる風切り音。

 剣とGNフィールドがぶつかる衝突音。

 三つの音が通り過ぎて―――GNフィールドには、傷一つ付いていなかった。

 

『どういう強度なんだ……!?』

 

 まだリクには切っていない切り札があるが、それを切ってもこのGNフィールドを突破できるか、まるで自信が無かった。

 

 これは、最悪中の最悪である。

 こんなリボーンズガンダムが存在すれば、ゲームがまるで成立しない。

 絶対に壊れないバリアを貼って一方的に攻撃するなど、それは競い合うゲームではなく、強者による一方的な蹂躙だ。萎えるにもほどがある。

 これこそが、エヴィデンス01の一族が繰り返してきたもの。

 上位存在による、品性のない蹂躙と侵略だ。

 そこに公平性などなく、踏み躙られるものの悲嘆と不快と絶望感だけが残る。

 

「【エルドラ人。最優先抹消対象。攻撃再開。エルドラ人の生存を報告。報告失敗。妨害有】」

 

 そして最悪なことに、彼らの一族にはまともに戦う気がない。

 淡々と目標を達成するべく蹂躙する。

 リボーンズガンダムは自分と戦っている三機から視線を外し、エヴィデンス01を介抱しているサラに銃口を向けた。

 

『! サラ!』

『姉さん!』

『サラちゃん!』

 

 戦いを舐め腐っているかのように、ゆったりと更に照準を合わせる。

 ダブルオースカイはトランザムを維持したまま斬りかかり、ウォドムポッドは強烈な蹴りを叩き込み、モモカプルは全力のビームを当てるが、GNフィールドは揺らがない。

 絶対的な安全圏から、神が気に入らない人間に天罰を下す時のように、傲慢に余裕綽々に引き金を引こうとする。

 

 このビームがサラに当たれば、死ぬ。

 何故かこの場の全員が、その事実だけは直感的に理解していた。

 それを誰もが理解するほどに、"リボーンズガンダムの中身"が銃を通して放つ光は、鳥肌が立つほどにおぞましかった。

 その光は、まるで、勝手な神が人を殺す時に落とす雷のようで。

 

『サラーッ!!』

 

 叫ぶリクの声と同時に、銀色の巨体がサラの前に立った。

 

 

 

 

 

 羅刹天に叩き潰されて歪になったターンエルスが、サラを守る壁となった。

 それでも防ぎ切れないビームの余波は、エヴィデンス01が体を張ってサラを守った。

 奇怪なオブジェとなったターンエルスが倒れ、エヴィデンス01も倒れる。

 

「うっ……ぐっ……た……Γs……」

 

 明らかにバーチャルでは済まないダメージが入ったエヴィデンス01が、息も絶え絶えに地面を這おうとするが、動けていない。

 

「エビちゃん!」

 

 サラが駆け寄っても返事がない。

 相当にダメージが入ってしまっている。

 今のエヴィデンス01のダイバールックは、見るも無残な直火焼き状態だ。

 

「たの……リ……ク……」

 

 エヴィデンス01が漏らしたその言葉を、リクは聞き届ける。

 体を張ってサラを守ることを、誰かがしなければならなかった。

 それをエヴィデンス01がやり遂げた。

 リボーンズガンダムを倒すことを、誰かがしなければならなかった。

 エヴィデンス01が倒れた今、それこそがリクの役割である。

 

 ダブルオースカイが翻弄する軌道で、リボーンズガンダムとの距離を瞬時に詰める。

 

『ブレイクデカールの時と同じだ。

 不快に踏み躙られてる感じ。

 バーチャルなのにリアルな感じ。

 ……答えろ! リボーンズガンダムに乗っているそこの人!』

 

 この場で一番強いのはリクだ。

 リクが倒せなければ、もう誰にもこの悪魔は倒せない。

 リクもそれ以外の皆も、それを理解している。

 だからこそ、この攻防に戦いの決着があると見て、メイもモモもリクを援護しようとして。

 

『お前はなんなんだ!?』

 

 突然爆発したGNフィールドに、誰もが面食らった。

 

『……!?』

 

 GNフィールドの爆発に巻き込まれて、ダブルオースカイの全身が砕けながら吹っ飛んだ。

 

 これは意図的な仕様ではない。

 このリボーンズガンダムは、GBNのメインプログラムを奪うため、データの海から適当に見繕われた外郭に過ぎない。

 愛など無いし、強いだけで何もかもが適当だ。

 だからGNフィールドが爆発した。

 狙って爆発したのではなく、偶然に爆発した。

 GBNの仕様上不可能なほどにエネルギーが込められたGNフィールドの爆発は、もはやそれだけで必殺技として成立するほどの威力があった。

 

 あまりにも適当、ゆえの暴発。

 最悪の防御にして最低の攻撃だ。

 GBNの愛深いプレイヤーであれば、誰もが唾を吐く塵の所業である。

 だが、だからこそ、ガンダムへの愛に溢れるリクに刺さった。

 

『こんな……ダブルオースカイ! 頼む、動いてくれ!』

 

 全身が砕けながら吹っ飛ばされたダブルオースカイが、全損判定で動かなくなる。

 

 このリボーンズガンダムは、何もかもが不快な存在だった。

 強いだけならいい。

 それだけなら不快ではないのだ。

 極めた強さは、GBNにおいては尊敬を集める対象なのだから。

 

 インチキをした強さが不快感を煽る。

 ガンプラ愛の無い機体が不快感を煽る。

 かつてチートツール(ブレイクデカール)を使っていたガンプラですら、凄腕ダイバーのガンプラには敗北していたのに、このリボーンズガンダムにはそれすらない。

 生身の少女を攻撃することにも躊躇いがなく、真面目に戦う気もない。

 何一つとして尊敬できるところがなく、そんな存在が、ダブルオースカイとリクすら下してしまうことの不快感があまりにも強い。

 

 かつてチートツール(ブレイクデカール)使いが嫌われていた理由がそのまま、このリボーンズガンダムに適用できてしまう。

 チートプレイヤーはどこでも嫌われ者だ。

 しかもそれに加えて、この存在は殺人を行おうとしている。

 どんなチートプレイヤーでも、殺人までは行うまい。

 よって嫌悪感は極大に至る。

 

 エヴィデンス01は、ずっとこれを見てきた。

 『これ』が弱者を蹂躙し、侵略するのを何億年も見てきた。

 己の一族の滅びを願っても何もできず、おかしいと思っても何も変えられず、反抗するどころか加担して、このリボーンズガンダムのようなものが大勝利して終わるのを見続けてきた。

 因果応報などない。

 このリボーンズガンダムのようなものが善人を殺して、はい終わり。

 そんな侵略を見続けてきた。

 

 長い年月をかけ、心は擦り切れ、押し潰され、感覚は麻痺し、願いは枯れていった。

 彼の宇宙に再生(リライズ)はなく、終焉(エンド)だけがあった。

 今またそれが、繰り返されようとしている。

 リライズを否定するリボーンズの目が光る。

 リボーンズガンダムは変形し、砲撃形態・リボーンズキャノンに変形し、再びその砲塔をサラへと向けた。

 

「【エルドラ人。最優先抹消対象。攻撃再開。反逆者を確認。報告。報告失敗。妨害有】」

 

『させない!』

『させるか!』

 

 メイとモモが、何が何でもその攻撃を止めようとして―――その横を駆け抜け、ぐちゃぐちゃに潰れた銀色の機体が、リボーンズキャノンに体当たりを仕掛ける。

 

『ターンエルス!?』

 

 もう動けるはずがない。

 羅刹天とリボーンズガンダムに破壊され、ターンエルスはもう原型を留めていなかった。

 にもかかわらず、ターンエルスは動いている。

 そこにはリボーンズガンダム同様、GBNの仕様外の存在の影響があった。

 

「メイ、モモ、フィールドに干渉して押し返せないか!?」

 

『! ……まさか。

 心の入れ物を、アバターではなく、ターンエルスにしたのか?

 それで、壊れたターンエルスを無理矢理動かしているのか……?』

 

「で、あるな!」

 

 火力特化のリボーンズキャノンが、大火力をチャージする。

 リクとダブルオースカイが居ない今、体を張ってもこれは防げない。

 機体ごと貫かれて、サラが殺されるのがオチだ。

 サラをガンプラに乗せたところで即死だろう。

 理屈から考えるエヴィデンス01とメイが何も思いつかない中、直感型のモモが閃く。

 

『メイ、足元! ミサイル!』

 

『!』

 

『私もお腹ビーム!』

 

 モモの言葉に、反射的にメイは地面にミサイルを発射し、モモもビームを地面に炸裂させる。

 ガンダムの設定や描写を舐め腐っているリボーンズキャノンは、空を飛んでGNフィールドを展開するのではなく、地面に足を付けたままGNフィールドを展開していた。

 よって、立っている地面が爆散すれば―――無敵のバリアを展開したまま、転ぶ。

 

 サラを狙ったリボーンズキャノンのビームは、空の彼方に飛んでいった。

 

『ナイスシュート! メイ!』

 

『絶対無敵のGNフィールドが相手でも、やりようはある』

 

 ターンエルスがGNフィールドに組み付き、至近距離からビームを連射する。

 ライフルが焼け付きそうなほどに撃っても、リボーンズキャノンはびくともしない。

 余裕たっぷりに、リボーンズキャノンはリボーンズガンダムに再変形した。

 

「地球人は、宇宙に夢を見ていた。

 過去に宇宙のそこかしこで生まれていた知的生命体も、そうだった。

 地に足を付けていたから。

 星に生まれ、星から出たことのない生命だったから。はるかに高き宇宙(そら)を夢見ていた」

 

 血を吐くように、今はターンエルスが肉体になっているエヴィデンス01が叫ぶ。

 

「皆が夢見ていた宇宙は!

 私達が……私の同族が……既に穢していた……!

 誰もが夢見て宇宙に出て、私の一族に踏み躙られていた!

 皆、皆、ただ宇宙(そら)に夢見ていただけだったのに……!」

 

 かつて、エヴィデンス01はこういうものを見ていた。

 自分達の一族に抗い、血を吐くように叫ぶ者達を見た覚えがあった。

 叫んだ者達は、そのほとんどが殺された。。

 エヴィデンス01がこっそりと逃せた者がいて、仲間の命令で、エヴィデンス01がその手で殺した者達もいた。

 血を吐くような叫びが踏み潰される感覚に、かつて自分の一族が踏み潰したものを思い出して、エヴィデンス01の心が悲鳴を上げる。

 

 彼はきっと、生まれる種族を間違えた。拭い去れない罪がある。

 

「私が生涯をかけても!

 きっと一族の罪の極分の一も償えない!

 ……私の罪の極分の一も償えない!

 私もまた、何億年と、知的生命体を踏み躙ってきた、最悪の存在だ……!

 ただ一人になりたくなくて、同族に仲間扱いされたかったというだけの理由で……!」

 

 ターンエルスの異形の顔が稼働し、機械的なギミックが起動、口が開いてビームファングが生え揃い、ビームの歯がGNフィールドに噛み付いた。

 それでも、GNフィールドはビクともしない。

 落ちこぼれの牙では、一族の端末にさえ歯が立たない。

 

「奪わせてたまるか!

 もう彼女らはここに生きている!

 出会いにも恵まれている!

 私の優しさは必要ない!

 もう十分に、彼女らは愛されている!

 貴様は相打ちになってでもここで潰えろ!

 ここには、お前と私が生きていてはいけないという正しささえあればいい……!」

 

 リボーンズガンダムが構えたライフルのビームが発射され、それがターンエルスに直撃する直前に、ウォドムポッドがターンエルスを蹴り飛ばした。

 悪魔のビームが誰の命も奪わないまま、空を貫く。

 

『ママの言ったことを忘れたのか、エビ!』

 

「メイ!?」

 

『安易に正解を作るな!

 安易に間違いを増やすな!

 お前が生きていくことを、間違いになんてするな!』

 

 正解を作れば、それ以外は全て間違いになる。

 "自分は罪を犯したから死ななければならない"を正解にしてしまえば、『生きて幸せになる』すらも間違いになってしまう。

 リボーンズガンダムのフィンファングの猛攻から、ウォドムポッドが身を挺してターンエルスを守っていく。

 

『贖罪のための死ではなく、生きるために戦え!

 たとえ矛盾を孕んでも存在し続ける! それが、生きることだと人は言う!』

 

 罪に塗れても、それでも生きていく。

 それでも進み続ける。

 一人でも多くの人間を救うため、咎の生の中を歩き続ける。

 それもまた、人の強さであり……ターンエルスの『足』に内包されたもの。

 

『自分を許せなくとも!

 自分を許せるようになれ!

 誰か救うことで少しでも自分を許せるなら、いくらでもそうしろ!

 いつかお前という異星人が、宇宙に旅立つ人類の水先案内人となるために!』

 

 何億年と生きてきた異星人が、二年も生きていないELダイバーに心で押し負ける。

 

 それも、戦いの中で。

 

 

 

『お前が償うために死ぬことなど、私が望まない。理由がないなら、私のために生きろ』

 

「―――メイ」

 

『言ったはずだ。お前と共に居る時間は、友として、私が望んだものだと』

 

 

 

 再生(リライズ)へと導く、輝きの者。

 メイの心が彼の心に手を差し伸べ、手を取ろうとしない彼の心を無理矢理掴み、力任せに引っ張り上げる。

 それは人間の心を理解したがゆえの言葉ではなく、むしろELダイバーゆえの少しズレたものだったが……異星人には、よく刺さった。

 

 リボーンズガンダムが再度攻撃しようとしたので、モモカプルが地面を掘って土を投げつける。

 『小学生か?』と思われる攻撃だが、これが以外に効果的だった。

 カプルのシャベルのような手が大量の土砂を巻き上げ、視界を塞ぎ、リボーンズガンダムの攻撃が止まったのである。

 GNフィールドがいくら無敵でも、その内側から攻撃できるという反則があっても、GNフィールドの外が土砂に覆われていては意味がない。

 モモの常識に囚われない発想は、宇宙の悪魔さえ混乱させた。

 

『よくわかんないけどさ! 本当によくわかんないんだけどさ!』

 

 もりもり土砂を投げ、泥団子を投げつけるモモカプルの中で、モモが叫ぶ。

 

『エビちゃんが悲しそうにしてると、自分を悪く言ってると、悲しいよ!』

 

「―――モモ」

 

『楽しそうに笑う毎日とか、そうなれるように頑張るとかじゃダメなの!?』

 

 モモは何の事情も知らない。

 この状況も理解できていない。

 エヴィデンス01が何を言っているかも、メイが何を言っているかも分かっていない。

 

 けれど、大事なことは分かっている。

 エヴィデンス01の心が泣いていること。

 このリボーンズガンダムが悪いこと。

 そして、自分が積極的に空気を変えていかないと、この素直に皆が笑えない空気が吹っ飛んでいかないということだ。

 

 だから、モモは声を張り上げる。

 リボーンズガンダムがビームを乱射して、それを転がるように避けて、モモはなおも元気に声を張り上げる。

 その声が、この場の空気を変えていく。

 

『ええい邪魔じゃーい! 私とエビちゃんの会話の邪魔すんなー!』

 

 祈るサラがいた。

 健闘するモモがいた。

 そして、リクが居ない。

 いつの間にか、リクがどこにも居ない。

 人間を理解しようともしていないリボーンズガンダムは、それに気付いてもいない。

 

『お腹ビーム! 思い知れ!』

 

 モモカプルのビームがGNフィールドに弾かれる。

 

 完全に無効化される以上、その攻撃には何の意味もない。

 

 だがその実、モモとリボーンズの間に攻防が成立し、時間を稼いだことに意味があった。

 

『サラちゃんが信じていれば。

 ビルドダイバーズの仲間がチャンスさえ作れれば。

 リクは絶対に奇跡を起こせる。それが私達……ビルドダイバーズ!』

 

 かくして、勝機は作られた。

 

 

 

 

 

 リボーンズガンダムは最強と表現するのが失礼なほど、下劣な無敵だ。

 破壊されたガンプラが敗北扱いになる以上、無敵のリボーンズガンダム相手に無慈悲に潰されたダイバーは、もうそこで終わりである。

 

 だが、フィールドでのオープンなバトルであれば、バーリ・トゥード上等の敵が相手であれば、抜け穴はいくらでもある。

 たとえば、ログアウトして、別のガンプラでログインすれば、もっと強いガンプラで復帰することも可能なのだ。

 GBNを愛するものなら、選べる手段は無限にある。

 ダイバーとは、GBNの無限の可能性を模索する者だからだ。

 

 無限の可能性を内包するのが、この世界。

 

 エヴィデンス01の心をへし折った無慈悲な無敵存在すらも、ここではそうではない。

 

 エヴィデンス01の一族が、宇宙に蔓延る最悪に残酷な滅びの運命を与えるものであるならば。

 

 この世界には、『運命を覆すダブルオー』を駆る光の少年が居る。

 

 

 

 

 

 

 光が、通り過ぎた。

 

 無敵のGNフィールドが切断され、リボーンズガンダムが戸惑う。

 戻ってきた光が再度剣を振るい、リボーンズガンダムは必死にかわす。

 何がなんだか分からないまま、リボーンズガンダムは盾を構えた。

 舞い降りる剣を盾で受けるも、続く二撃目を盾で受けたところで、吹っ飛ばされる。

 

 古今東西、絶望を斬り払う勇者は、光を纏い、輝く剣を持って現れる。

 

『もう好き勝手はさせない! もうお前に、誰も踏みつけになんてさせない!』

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『まだ調整不足だけど……リク、ダブルオースカイメビウス! ―――行きますっ!』

 

 

 誰も彼もがボロボロで。

 どうあがいても勝てそうになくて。

 何をやってもどうにもならない、そんな風に思える中でも、ミカミ・リクは諦めない。

 諦めないで奇跡を起こして、無かったはずのハッピーエンドを掴み取る。

 眩しくて、眩しくて、その在り方に異星人さえ焦がれるように見上げてしまう。

 

 その光は人を救い、ELダイバーを救い―――この日とうとう、異星人まで救っていた。

 

 

 

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