ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE 作:ルシエド
ターンエルスは両手両足を分裂させ、32のファンネルとして飛翔させる。
駆け回るモモカプル。
ターンエルスは360°全方向からのビーム包囲攻撃を仕掛けるが、モモカプルは頭上のビームを強固で大きな手で打ち払い、ひょいっとジャンプしてかわしきる。
モモカプルはそのままイノシシのごとく猪突猛進する。
ターンエルスは自分の周りにファンネルを集め、遠くから見れば極太のビームのように見えるほどの一点集中、集中砲火で迎え撃つ。
モモカプルが腹から強力なビームを発射し、両者のビームは衝突、大爆発。
高熱を孕んだ爆風が残りのビームも吹き散らし、仕切り直しとなった。
ここはトレーニング用オープンディメンション。
初心者から中級者までが多く利用する広域フィールドである。
この場での戦いはオープン・バトルであるため、このディメンションに来ている全てのユーザーが見ることができ、様々なユーザーから意見をもらうことができる。
たとえば改造に悩む中級者以上は、あらゆるユーザーからの意見を募り、その意見を反映させるためにここを使うことが常だ。
また、強くなりたい意欲のある初心者は、余計な意見を受け付ける気がないため、Bランク以上のダイバーの意見のみを受け付ける設定にしていることも多い。
逆に他人の意見が自分に与える悪影響を知っていて、自分のスタイルが確立している上級者は、ここを利用しない者がほとんどである。
エヴィデンス01はモモとここで戦闘訓練しつつ、統計的な考察や、人間の意見傾向の分析の参考とするため、全ユーザーからの意見を受け付けていた。
「エビちゃん射撃上手くなったねー」
「そうだろうか」
「うんうん。
宇宙人だよーって言われた時はびっくりしたけど今は納得かも。
どこが? って言われるとあんま上手く言えないんだけど、そういうカンジ」
「ああ……そういうことか。
私はこれまで人間の動きを統計的に分析しパターン化していた。
それを利用して動きを先読みし、射撃もそれを用いていた。
だが地球人を理解し、地球人の心理を先読みに利用するようになった、というわけか」
「よく分かんないけど多分そんなカンジかなー」
「それを言うならモモも大分先読みの精度が上がってきた。
おそらくはこれまで私をELダイバーだと思っていたからだろう。
それすなわち、君が異星人の心理を理解してきたということでもある」
「おっ、私も理解してる? できてる?
うふふ、私もしかして対宇宙人の外交官とか進路に選べたりするかな?」
「いや……モモには大分難しいと思うが……異星人と友人になるならともかく……」
「なんだとー!?」
「これは昔の話だが。
ある星に行った時に、私が怒られたことがある。
『ワープ時に足から現れるとは何事か!』
とな。
ワープする時はまず頭から現れる。
こういうマナーが結構普及してるそうだ。
外交官はこういうものをよく調べ、よく知り、失礼のないようにしなければならないが」
「私には無理だわ」
「で、あるな」
マナーとは歴史が浅くとも関係ない。
少数しか知らないものでも関係ない。
受け手側がマナーだと認識していればマナーで、自分が知らなければ即失礼となる。
厄介なものだが、マナーとはそういう性質のものなのだ。
"そんなマナー『普通』はねえよ"と押し通すことに意味はなく、押し通した方の気分がよくなるだけで、押し通された方の気分は悪くなる。
相手の気分を害さないためにすることがマナーであるので、万の星の億の民族の兆どころでないマナーを暗記することもまた、宇宙の海を行く際には必要になってくることがある。
「地球人はマナーには寛容になっておくといい。
で、あれば、好まれやすくなる。
地球基準のマナーをとやかく言わないことで、異星人の心象は大分よくなる」
「マナーって? たとえば?」
「地球から見て蠍座の向こうには雲状生物の知的生命体群が存在している。
彼らは不味い飯を食わされたらそれを蹴り飛ばす文化がある。
不味い飯には不味いとしっかり行動に移すのが礼儀であるからだ。
逆に我慢して食べるのは何の解決にもならず、相手に将来の恥をかかせるため無礼。
で、あるならば、地球人の文化とは齟齬が出る可能性もあるだろう……と、思う」
「うわぁ、やばやばだぁ」
「ただ、この雲状生物を見習うべきこともある。
嫌なことは嫌だと伝える、これも必要だ。
出会った時に親愛の気持ちを込めて相手と子供を作る知性体もいる。
流石に地球の常識からして、出会い頭に妊娠させられるのは嫌だろう?」
「流石に初めての彼氏もまだいないのに子供作るのは嫌だなぁ……」
「受け入れることは共存の基本だが、それが共存の全てではない。
時には優しい拒絶も必要だ。
で、あればこそ、礼儀と失礼の境界線を慎重に歩く必要がある。
礼儀を守ることではなく、相手にとって大切な礼儀を尊重するのが肝要なのだ」
「よし! 外交官諦める!」
「で、あるか」
異星人と友達になる才能と、対異星外交官になる才能は違う。
モモには後者がないだけだと、エヴィデンス01は考えていた。
「今日はここまで。お疲れ様っ」
「お疲れ様。で、あるな」
やがて練習戦が終わり、二人は休憩に入る。
強くなりたくてガツガツしている人間でもなければ、仲間でもない他人の戦闘訓練に付き合う意味はあまりない。
付き合ってくれるのは面倒見のいい善人くらいで、モモはまさにそれだった。
前のエヴィデンス02と認定された個体の襲来のように、天文学的低確率で新たな鯨の民の端末が訪れても、備えは万全ということだろう。
「はー、そろそろリクとかオーガとかじゃないとエビちゃん強くできなくなりそう」
「そうか?」
「うん。上達めっちゃ早いもん」
「ここに来てまず、1恒河沙ほど人体の稼働パターンを学習した。
ガンプラバトル挑戦にあたり、同様に情報大河から1恒河沙ほどパターンを学習した。
今はGBNの前身のGPDだったか? あそこからも吸収している。
目安として今私の中には、各ガンプラバトルを分解した、1那由多ほどのパターンがある」
「いちごうがしゃー、いちなゆたー、なるほど」
「恒河沙は10の52乗。那由多は10の60乗、で、あるな」
「ほへー、すごいね」
「あんまり分かってなさそうだな」
「んー、まあ、数字は分かんないけど。
エビちゃんが頑張ってるのは分かるかな。えらいえらい」
「……そうか」
「私が期末試験前に頑張ってたら同じように褒めて応援してほしいなー、なんて思うね。ふふふ」
「分かった。君が頑張っている時、その頑張りを認め、そして褒めよう。約束する」
「うんうん。よしよし」
にこっと笑うモモにつられて、エヴィデンス01も笑った。
「エビちゃん笑うと可愛いよねえ」
「そうか?」
「うんうん。なんかこう……2分くらいのバズってる猫ちゃん動画みたいな」
「よくわからんな」
"私をかわいいかわいいと言うのはこの子だけだな"と、なんともなしにエヴィデンス01は思う。
「モモ。人探しに付き合ってくれてありがとう。探していた者が見つかった」
「えっ、あのイルハーヴって人? そうなんだ……私何もしてない……」
「ああ。君のおかげで見つかった。感謝する」
「おっ、いい顔するじゃん!
眉ちょっと動いただけだけど!
私何もしてないけど、エビちゃんがそういう顔できたならよかったかな」
「心のしこりが一つなくなった。
私がどういう顔をしているかは知らないが、私一人では成し遂げられなかったことだ」
「出会えないってことは嫌だもんね。
会いたいけど会えないってことは悲しいもの。
エビちゃんが出会えてよかった。
……ハッ、私三流ラブソングみたいなこと言ってる!?」
「三流JPOP風に言うとどうなるのだ?」
「夢を夢で終わらせないために~、夢の翼広げて~、夢を追いかけた~」
「夢夢うるさいな」
エヴィデンス01にとって地球で最初の友人はメイ、ELダイバーである。
エヴィデンス01に対し自分から友達になりに来たのはモモが初めてで、エヴィデンス01は彼女から地球人との友好の輪が広がっていったが、モモの後に地球人を知れば知るほどに、この女がおもしれー女だと相対で分かっていくのが、なんとも愉快だった。
「私の人生には大目標と小目標があった。
で、あるから、大目標が消えてしまったのだ。
小目標はこの地球でいくつか得た。
だからしばらくは地球にいようと思う。
しかし大目標が無くなったがために、当座目指すところがない」
「へー。何かしたいことはないの?」
「二つ考えていることがある」
「おお!」
「趣味を作ろうかと思っている」
「エビちゃんは定年退職してやることがなくなったおじいちゃんか何か?」
実際それに近いというのがなんとも滑稽な話だった。
「ネットで人々の反応を見ていて思ったが、オモコロのようになりたいな」
「エビちゃんそれ外で言わないほうがいいよ絶対」
「なにゆえ」
「エビちゃんが"目指すはヒカキン"とか言い始めたら私笑っちゃう……」
「?」
「異星人YouTuberエビナアイ……なんか三流グラビアアイドルにいそう」
「多様な娯楽方面の微細な機微となるとやはり感覚がまだ合わないな……」
エヴィデンス01は顎に手を当てて悩み始める。
「趣味かー。スポーツとかどう?」
「スポーツ?」
モモがにかっと笑った。
そしてエヴィデンス01はモモに連れられ、GBNサッカー・ディメンション―――通常・『ビギニングJリーグガンダム球場』にやって来た。
巨大なビギニングJガンダムが球場の上部を部分的に覆う屋根となり、楕円状の球場の観客席に多くの人が詰め寄っている。
その球場に、11対11、合計22の機体が並んでいた。
そう、ここはガンダムサッカーの球場。
サッカーは既に戦争なのだ!
「なんだこれは」
「あ、そっか、エビちゃんは知らないか。
始まりは1996年。
鹿島アントラーズとジュビロ磐田はJリーグの年間優勝を競い合ったの。
それから7年、2002年まで鹿島アントラーズとジュビロ磐田は優勝を分け合ったんだよ。
彼らは宿命のライバルなの。あ、私達は鹿島アントラーズの方の選手ね、間違えないように」
「更によくわからなくなった」
「えーとね、Jリーグとガンダムがコラボしたんだよね。
それぞれのチームの専用ガンダムが出たの。
北海道コンサドーレ札幌は専用のダブルオーガンダム、みたいに。
だからGBNにはそれぞれのチームのサポーターがフォース作ってるの。
そのチームの専用ガンダムで11体揃えたりして。
見よ、この壮観!
鹿島アントラーズ専用ストライクガンダム9機!
ジュビロ磐田専用ガンダムバルバトス11機!
でも鹿島アントラーズは今日忙しくて人手が足りてないらしいからね。
助っ人頼まれてたから、ちょうどよかったなーって。さあキックオフだよエビちゃん!」
「私達ターンエルスとモモカプルだが、それはいいのか」
「いーのいーの。この界隈細かいこと気にしないから!」
「で、あるか……」
「楽しければ良し、面白ければ良し!
お金もかかってないしね。
あ、でも勝ちに行かないとダメだよ。
これは鹿島アントラーズとジュビロ磐田の誇りを背負った代理戦だからね」
「GBNは広いな……」
もの凄い勢いでガンダム達が入り乱れ、空を舞うガンダム達と地上を走るガンダム達の間で、ガンダム用巨大サッカーボールが目まぐるしく飛び回る。
「おー攻め込んでる攻め込んでる。しばらくこっちに来そうにないや」
「で、あるな。こんなお喋りをしてていいのかとも思うが」
「いーのいーの。私達ディフェンダーだし」
「で、あるか」
「あ、そうだ。エビちゃんと話そうとしてたことがあって。アキレスと亀ってやつ」
「なんだ、それは」
足の速いアキレスがいる。
足の遅い亀がいる。
アキレスはすぐに亀に追いつくだろう。
だがアキレスが亀に追いつくまでに、亀はちょっとだけ前に進んでいる。
亀が進んだ分をアキレスは進むが、亀はその間にまたちょっとだけ前に進んでいる。
またアキレスが追いつく頃には亀は進んでいて……そうして、足の速いアキレスが亀には決して追いつけないという、矛盾の話である。
「なんかこれよくわかんなくて……
おかしいのは分かるんだけどどこがおかしいかわかんない!」
「無限分割の矛盾か」
「むげんぶんか……何?」
「そう、で、あるな。
あのサッカーボールがあるだろう」
「あるね」
エールストライクガンダムが空中でリフティングしながらゴール前まで運んでいるサッカーボールを指差し、エヴィデンス01は語りを始めた。
「最初に100mの高さからボールを落とす。
落ちたボールは25mまで跳ね上がる。
その後25mの高さから落ちていく。
落ちたボールは12.5mまで跳ね上がる。
その後また落ちて6.25mまで跳ね上がって……を繰り返していく」
「ふんふん」
「するとこのボールは、跳ね上がる距離が半分になりながら、無限にバウンドすることになる」
「え!?
ならないよ!?
普通に転がるよ!?
……あ、そうか、これアキレスと亀と同じなんだ」
「その通り。
計算上はもっともらしく見える。
だが、100mの高さから落として50mまで跳ね上がってくるのを1秒としよう。
最初は上がってくるのに1秒かかり、次は0.5秒、次は0.25秒……となっていく」
「半分の高さにバウンドするんだもんね」
「この数字を合計していけば分かる。
無限のバウンドは、限りなく2秒に近付いていくが、2秒は決して超えない。
2秒を超えた時点で無限のバウンドは終わるのだ。アキレスと亀も同様だな」
「おー! なるほど! 確かにこれなら○秒を超えた時点で亀を追い越すってなるわけね!」
「これを宇宙では総称的に、無限分割の矛盾と言う。参考になっただろうか」
「うんうん、賢くなった気がするっ」
「ああ。君は今また一歩知性体として進化し、賢くなったのだ」
「あはは、私バカって言われることが多いから賢いって言われるの新鮮だな」
「サッカーボール然り、世界には無限に賢くなるための素材が……」
そこに、敵陣からボールが飛んで来た。
敵ゴールキーパーがキャッチしたボールを受け止め、カウンターで蹴り込んできたのだ。
「エビちゃん!」
「で、あるか!」
そのボールをモモカプルが胸で受け止め、エヴィデンス01にパス。
エヴィデンス01の両手足がバラバラになって、ボールを空中で弾き始めた。
「何ィ!?」
ガン、ガン、ガン、と弾かれたボールが空中で幾何学的な軌跡を描き、敵陣のゴールへと叩き込まれる。
32のファンネルによる空中ファンネルキックの連打、そしてゴール。
だがそこで、声が響いた。
「今のハンドだろ!」
なんと、腕を分割してボールを弾くのはハンドだと、ジュビロ磐田から声が上がったのだ。
「ハンド!」
「ハンドか!」
「ハンドなのか!?」
緊張が走る。
審判の判定は?
「「「 ノーハンドッ! 」」」
歓声が上がる。
笛が鳴る。
観客も選手も叫ぶ。
「やったねエビちゃん!」
「楽しいな、サッカー」
「でしょぉー!」
人生の目標を失っても、そこから先はある。
世界には楽しいことが無限にある。
そして、それを教えるのがとびっきりに上手い女は大抵、"おもしれー女"と呼ばれたりするのであった。