ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE   作:ルシエド

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『時間』のロジック

「モモ」

 

「はいはーい、何何?」

 

「ドレンというキャラが居るらしいな」

 

「あーいるね。

 私も前に教えてもらったおじさんだ。

 シャアの副官……だったよね、確か。

 ガンダムがズバッと切って倒しちゃった敵の人」

 

「まず、ファレンはどの作品に出るのだろうか。

 順番に見ていきたい。

 ソ連は学んだ。国家だな。で、あれば、間を埋めていこうと思う」

 

「ん?」

 

「ドレミファソ……」

 

「ドレンとソ連に関連性はないよ!? レレンもミレンもファレンもいないよ!?」

 

「ああ、そうなのか」

 

「これはダメだ……頭の良い異星人は深読みに入るとか知らなかった……」

 

 ド連がもたらす冷戦の危機は近い。そんなことはない。そんなものはない。

 

「エビちゃんなんでこんなに頭良いのにこんな頭悪いの……

 って思ってたんだよね。

 でも気付いたんだ。

 エビちゃんは頭良いけど知らないだけなんだよね、って。

 でもそれも違う気がしてきた。

 エビちゃん頭がいいかもしれないけどド天然だよ、多分……天然宇宙人だ」

 

「で、あるかもな。

 私も知識を溜め込んだだけだ。

 聡い者というわけでもない。

 天然……収集したデータにある。なるほど、サラ殿のようなものか」

 

「えー、うん、まあ、そんな感じかな。

 あとね、ナチュラルに優しい人より考えて気遣ってる人って感じ」

 

「で、あるか?」

 

「エビちゃんって

 『なんでこんなことも分からないんだ?』

 って絶対に言わないんだよね。そういうエビちゃん結構好きだよ、べいびー!」

 

 にしし、とモモが笑う。

 エヴィデンス01は目を細め、微笑む。

 彼女に対し、エヴィデンス01は、"素晴らしい人間だ"と、迷わず言える。

 

「君は本当に本質的なことへの気付きに優れているな。敬意に値する」

 

「え、そう? えへへ」

 

「さて。約束の時間まであと1メィンシィ……20分ほどだな」

 

「エビちゃんって時々変な単位使うよね」

 

「ああ、慣れた単位で、合理性があるからな。

 合理性が高い……で、あるということは、宇宙の様々な場所で使いやすいということだ」

 

「なーるほど」

 

「君達もそうだろう。で、あるなら、どれも同じだ」

 

「……んん?」

 

「1メートルは地球の赤道と北極点の間の子午線弧を千万分の一にしたもの。

 それを光の速さを299792458という当て数字で計算し調整したものだろう。

 どうにもややこしいが、君達の距離単位はこれを基本としているようだ」

 

「へー」

 

「グラム、リットル、温度も水が基準。

 で、あるならば。

 この星は星の上にあるものを利用して単位を決める文明であるということだ。

 これは自分の中に完全な体内時計を持たず、完全な測量感覚を持たない生物の文化だな」

 

「自分の中に時計があったら便利だろうなー」

 

「だろうな。で、あるが。

 君達人間は、もう既に二つ時間を手にしている。

 あと一つ手に入れれば、宇宙に旅立つには問題がない」

 

「二つ? 一つ? 時間って一つじゃないの?」

 

「地球人の文明レベルなら三つ抑えておけば十分だ。

 まず一つ目。主観時間。

 人間が主観的に感じている時間だ。

 モモで言えば……そうだな、楽しい時間はすぐ過ぎるということはないか?」

 

「あるある! 遊びすぎてお母さんに怒られるのもしょっちゅうでした……」

 

 恥ずかしそうに、頬を薄赤に染めたモモが頬を掻いていた。

 

「個々人の中には、固有の時間が流れている。

 それはミクロな精神内の宇宙に流れる時間、とも解釈される。

 正確な体内時計を持つということは、己の内外の時間の流れが揃っているということ。

 持たないということは、己の内外の時間の流れが違うということだ。

 これが第一の時間。地球人も理解している、主観時間……で、あるわけだな」

 

「なーるほど」

 

「熊の冬眠は長らく『冬の眠り』と呼ばれてきた。

 人間の睡眠に近いものだと考えられれてきたわけだ。

 よって、冬眠中の熊に近寄ってはいけないと言われてきた。

 熊の眠りはすぐに覚める、とな。

 それは熊の体温の低下度合いからも間違いないと言われてきた。

 動物は体温を10度下げると代謝機能が半減する。

 熊の冬眠はせいぜい5度しか体温が下がらず、半覚醒と考えるのが自然。

 だが、そうではなかった。

 冬眠中の熊の心拍数は1/6まで低下。

 20秒に1度程度しか心臓は脈打たなくなる。

 代謝は1/4程度まで下がり、極めて深い眠りにまで落ちていることが分かった。

 熊の冬眠は目覚めないのだ。

 それは熊の神秘と見られ、国内外で注目されたという。

 これは熊の神秘を解明しただけに終わらない。

 体温と代謝の独立した関係を証明することにもなった。

 熊の神秘の解明は、動物の冬眠時の体温と身体活動レベルの関係性の解明でもあった。

 だが、その当事者はどうなのだろうか。

 熊の主観はどうなのだろう。

 人間同様の眠りであれば、夢も見たはずだ。

 長い夢を。

 だが意識の覚醒レベルがここまで低いのであれば、冬眠から目覚めまでは一瞬。

 主観時間では一瞬の眠りでしかないはずだ。

 悠久の時を冬眠で過ごしたとしても、一瞬に終わる刹那の主観時間……そういうことだな」

 

「ん?」

「ん?」

 

 二人の横で突然語り出した白いハロに、エヴィデンス01とモモは同時に振り向く。

 

「では、さらばだ」

 

「あ、はい」

 

 白いハロは去っていった。

 

「誰……?」

「誰だ……?」

 

 エヴィデンス01とモモは首を傾げるが、考えてもよく分からなかったので、話を続けた。

 

「二つ目は天体時間。

 君達の時計などの基準になっているものだ。

 一年、一ヶ月、一日、一時間、一分、一秒。

 公転と自転で決まるそれは、空の星を指標としたもの。

 で、あれば、君達が宇宙に進出した未来で、一番先になくなるかもしれないね」

 

「へ? あ、そっか。

 遠い宇宙とかに行ったら太陽とかないもんね。

 遠い星だと一日が50時間とかだったりするかも?」

 

「そう、その通り。

 君達はある程度時間を絶対視しているようだ。

 その時間を認識するため、太陽系天体基盤の時間刻を使っている。

 だが、それは太陽系の外に出ると途端に不便になるだろう。

 外宇宙に合わせた時間単位を新たに作るか?

 それとも今の時間単位を使い続けるか?

 どちらかは、地球人が決めるといい。

 便利な新しいものを使うのも、慣れた古いものを使うのも、その人の自由だからね」

 

「じゃあ、エビちゃんも使ってないの? 天体時間」

 

「いや、使っているものもある。便利ではないが」

 

「ほっほー、なになに? どんなの?」

 

「宇宙の彼方に、男女の星がある。

 それはここから60万光年ほどの距離にある星の知的生命体が男女とした星だ。

 二つの星は鈍く光りながら円形の軌道を飛翔し、たまに重なって見える。

 千年に一度、その知的生命体の星からは、重なって見えるのだ。

 その星の知的生命体は、それを男女の逢瀬に見立てた。

 千年に一度だけ触れ合うことができる、途方も無い純愛の星だと。

 その星ではその千年の周期を一つの単位とした。私もたまにそれを使っている」

 

「なんて単位?」

 

 エヴィデンス01は誤解なく伝えるため、言葉を選び、丁寧な翻訳を心がける。

 だけどその時、彼の翻訳は普段より長く、たっぷり数秒はかかっていた。

 それはおそらく、彼の好きな単位が、彼の好きな言葉であり、彼の好きな表現であり、それを間違いなく地球人に伝えるために、彼がいつもより熱を入れて言葉を選んでいたからだろう。

 

「―――『君の居る宇宙(そら)のみ星は輝く』、という意味の単語になる。そんな単位だ」

 

 だから過不足なく、彼が好きな遠い星の異星人の年月単位――天体時間基準の単位――は、モモに伝わった。

 

「……わっ、ロマンチック! 単位なのにロマンチック!」

 

「ロマンのない単位表記に価値はない、と思う知的生命体も居るのだよ」

 

 単位を簡潔なものにしようとする地球の知的生命体がいるように、単位に美しい文章を求める知的生命体もまた、宇宙の色んなところにいる。

 

「わー、わー、私が生きてる間にその種族に会いたいな……無理かなあ……」

 

「君が大人になったら、一度だけなら、私が会わせてあげよう」

 

「むー。子供扱いされてる……」

 

「大人になるということは、歳を重ねることだけを指すのではないよ、モモ。

 それは、知的生命体の幼年期をひとまず終えるということだ。

 相手に失礼を働かない知性を身に着けるということだ。

 君が地球人の印象を悪くしない大人になるまで、私は待つ。

 君が自分を責めないように。

 未熟さゆえの失敗を君がしないように。少しの時間を、私は待つとも」

 

「……頑張ります」

 

「大丈夫だ。君はそうなれる。で、あれば、私は君が素敵な大人になるまで、少し待つだけだ」

 

「むー。エビちゃんはズルい」

 

「で、あるかね」

 

「あるに決まっておるわー!」

 

 長く綺麗な銀の髪がさらさらと流れるエヴィデンス01の服を、モモが構ってほしい猫のようにぺしぺしと叩く。

 余裕綽々のエヴィデンス01に、少々照れた様子のモモが絡み、銀色の髪が銀河の星の河を思わせる色合いで揺れていた。

 

「主観時間。

 天体時間。

 この二つが地球で主に扱われているものだ。

 今は私もこのアバターが体だから、君達に感覚が近い。

 私も君と共に過ごす時間は楽しく、主観時間で短くも感じる。

 だが天体時間は揺らがないため、時間の流れは一様だ。そういうものなのだよ」

 

「はぁー、これだもん。顔が良いアバターを使ってる異星人は困る……」

 

「何? 何か困らせたか? で、あれば、すまない」

 

「いや別に何も困ってないけど」

 

「なんなんだ君は……」

 

「なんなんだはこっちの台詞なんだけどなぁ。

 ……ハッ、気付いてしまった!

 エビちゃんは綺麗な言葉、相手を喜ばせる言葉を集めて使ってる。

 それでなんかよくわからない方法で相手を計算して分析してる。

 でも計算だけで話してるから照れとか地球人っぽい感情がない。

 絶妙に相手を喜ばせる言葉だけ言うんだ!

 躊躇いも照れとかもなく!

 口の上手いご機嫌取りロボットの超すごい版!

 完成したらパーフェクトコミュニケーションしかしない! これは……モンスターね……」

 

「何言ってるのかね君」

 

「やだ、隣のクラスのマミちゃんの家のインコの上位互換……恐ろしい子だわ」

 

「私はいつインコの上位互換に?」

 

 主人の言葉をそのまま返して主人を喜ばせるインコの上位互換、ご機嫌取りをする対話AIの超すごい版、頭の良い異星人が頭の中で同列になっているのが、実にモモだった。

 

「三つ目は何? 私もうここまで来たら三つ目想像もできないんだけど……」

 

「で、あるか。モモは、夜空を見て何を思う?」

 

「んー? 夜だなー、とか。星だなー、とか」

 

「で、あったか。私が思うに、夜空を地球の言葉で表すなら、映画館というのが近いと思う」

 

「映画館? なんで?」

 

「夜空はいつだって、宇宙の過去の姿を写す映画館だからだ。

 空の星の光は、遠い過去に発せられた光が届いている。

 光はあまりにも遅く、一光年の距離を進むのに一年かかる。

 君達が夜空というシアターに見ているのは、大昔の宇宙の姿なのだ」

 

「へー、ロマンだね」

 

「同時に、君達は時間を遡っている。

 光は過去から現在に向かって飛ぶ、宇宙の姿という名の映画。

 夜空を見上げるだけで、君達は過去の宇宙をリアルタイムで見ている。

 過去と今をリアルタイムで繋げる銀幕。

 夜空は映画館であると同時に、誰もが使うことを許されたタイムマシンなのだ」

 

「んふふ。エビちゃんってロマンチストだよね」

 

「で、あるか?」

 

「うんうん」

 

 にこにこと笑うモモの内心を、エヴィデンス01はあまり正確には分かっていない。

 

「三つ目の時間とは、絶対時間。

 宇宙の時間はよく歪む。

 重力によって歪み、宇宙の膨張によっても歪む。

 ブラックホールの内側の時間は特に無茶苦茶だ。

 夜空に光が伝わることで、過去の情報と情景が時を越えて伝わることも多い。

 様々な時間がこの宇宙にはある。

 だがそれらを統合する理論を打ち立てることで、初めて見えるものがある。

 宇宙の誕生から終焉に向かう一本の時間の河。

 細部に歪みはあれど、それでは歪まない一本筋の時間。

 無限に流れる情報の大河。

 これを、宇宙の唯一絶対の時間……絶対時間と呼ぶ。

 天体の軌道によって定義されるものでもなく、主観でもなく、宇宙に変わらず流れる時だ」

 

「それで時計作るのが一番良いのかな。うん、便利だよね」

 

「ううむ……また妙な真理を突いてくるな」

 

「え、だってそうじゃない?

 というか絶対時間って他に何の役に立つの?」

 

「この宇宙にも寿命があるからな。

 で、あれば、宇宙の終焉までに他の宇宙に出ていける。

 この宇宙に絶対時間が生まれた日があるように、いつか時間もなくなる日が来るのだ」

 

「どのくらいになくなるの?」

 

「早ければ50億年。まあ実際はもっと保つがね。

 先進的な知的生命体はこぞって研究している分野だ」

 

「あー、私が生きてる間は大丈夫なんだ。よかったよかった」

 

「図太い……」

 

「来年宇宙が終わるとか言われたら、一年でやりたいこと全部終わらせないといけないもんね」

 

「……」

 

 地球人の価値観は、いつもエヴィデンス01に少しの驚きと、多くの学びをくれる。

 

「……あっ!

 思いついた!

 学校に遅刻しても『絶対時間ではセーフ』って言える!

 やたっ、これで明日からお寝坊しても先生に怒られない言い訳ができる!」

 

「できるわけがないだろう……」

 

「そんなぁ……」

 

「大熊座はプトレマイオス48星座……

 いわゆるトレミー48星座に属している。

 北斗七星を内包する、日本でも有名な星座だ。

 その星の並びは雄々しく強い熊の姿に見立てられたという。

 古来、大熊座のミザールとアルコルは視力検査にも使われていたとか。

 特に特徴的なのはGN-z11だろうか。

 地球の観測上最も古く、最も遠い、星に見える赤き銀河。

 まるで遠くから人間の様子を窺う熊のような銀河だな。

 だが大熊座の銀河はかなり重い。

 世界最大種のホッキョクグマに次ぐ大きさのヒグマのようにな。

 重い、ということは遅いということ。

 宇宙は重くなればなるほど重くなるらしい。

 そこは熊とは違うところだ。

 熊は非常に重くとも、非常に俊敏だ。

 熊が宇宙より優れているのは、この俊敏性に保証されている。

 重い銀河である大熊座の時間の流れは、当然銀河単位で遅いだろう。

 そして色彩が重さにより変化し、そう、怒れる熊のような色合いに染まっていく……」

 

「ん?」

「ん?」

 

 二人の横で突然語り出した白いハロに、エヴィデンス01とモモは同時に振り向く。

 

「では、さらばだ」

 

「あ、はい」

 

 白いハロは去っていった。

 

「誰……?」

「誰だ……?」

 

「あれ公共施設のログインアバターだよ。

 病院とかにあるHMDの、モビルスーツの操作とかできないやつ。

 ガンプラの読み込みもできないけど、病気の子供とかがGBNを見れるんだよね」

 

「で、あるか。……で、あれは、なんだ……?」

 

「なんだろう……?」

 

 なんだったのだろうか。

 

 待ち合わせの時間まで、あと五分ほどあった。

 

 

 

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