ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE   作:ルシエド

27 / 28
色々と仕事が忙しい時期が終わったので連載のペースを徐々にでも戻したいですね
全く関係ない話ですけどボックス沢山開けたので骨が揃いました


『ターンエルスの元』のロジック

 待ち合わせの場所に、二人の男が現れる。

 

 片方は白髪で眼鏡のエルフ。

 気怠げで人間味のある目つきからリアルの体をベースにしていることは分かるが、大分外見をいじっているため、現実で本人を見ても気付けないだろうということも分かる。

 リク達より幾分か高く、かつ古いネットリテラシーが感じられる。

 『エルフの賢者』といった印象の服装と容姿のバランスは、RPGの主人公のようなリクのアバターとは趣向が違い、『主人公になりたい』より、『主人公を支えるサブキャラクターがいい』という少し大人びた願望が感じられた。

 

 もうひとりは、青紫のハロ。

 ゲストアカウントのレンタルアバターのようなハロでありながら、目つきやカラーリングが相当いじってあり、『GBNには馴染まない』という抵抗感と、何もいじっていないアバターなど使いたくないというこだわりの両方が感じられる。

 エヴィデンス01の目には、あまりにも複雑な情報の混沌の気配――混ざりに混ざった感情――がうっすらと見えていた。

 

 この二人はELダイバー保護施設、ELバースセンターの職員。

 世界で唯一電子生命体が生まれる場所、GBNと国の橋渡しとも言える機関の人間であり、突然誕生した自分という存在に戸惑うELダイバーが唯一頼れる公的機関でもある。

 始まりのELダイバーと呼ばれたサラ以降、全てのELダイバーは彼らの世話になっていた。

 

「始めまして。ナナセ・コウイチです。ダイバーネームはKO-1(コーイチ)

 こいつはシバ・ツカサ。ダイバーネームは按手。

 今回あなたの街散策用の体を制作するELバースセンターの担当職員です」

 

 白髪で眼鏡のエルフはコウイチ。

 好感が持てる微笑みでエヴィデンス01に話しかけてきており、人の良さそうな笑顔、優しい印象の語調、どれもが"ああ、いい人だ"と思わせるものだった。

 こういう人当たりの良さを持っているのは、詐欺師か底抜けのお人好ししかいない。

 

 ハロのシバは、逆に印象が大分悪かった。

 愛想が悪い。そもそもエヴィデンス01に話しかけてこない。

 エヴィデンス01に対する好意が感じられず、それどころか敵意すら感じられる。

 何故敵意を向けられているのか、エヴィデンス01はさっぱり分からなかった。

 

「お初にお目にかかる。エヴィデンス01と名乗っている者だ。エビちゃんなどと呼ばれている」

 

 シバはフン、と鼻を慣らし、名乗ったエヴィデンス01を無視する。

 コウイチは塩対応のシバに冷や汗を流し、シバとエヴィデンス01の間に入るように――シバをエヴィデンス01から隠すように――愛想の良い笑顔でエヴィデンス01に話しかけた。

 

「本日はお日柄もよく……」

 

「これはご丁寧に。

 しかし必要はない。

 地球人の礼節は地球人を不快にさせないためのもの。

 で、あれば、私には不要だ。その誠意には感謝しよう」

 

「ありがとうございます」

 

「呼び捨てで構わない、敬語もいらない。

 と言いたいところ、で、あるが。

 君にはその方が話しにくいだろう。存分に敬語を使ってくれ」

 

「あはは……すみません、気を使ってもらったみたいで。

 流石に不快な思いをさせられない異星からのお客人が相手だと、ため口は無理ですね」

 

「うーむ中々。で、あるなら、私も大分地球人を分かってきた気がするな」

 

 エヴィデンス01が分かりにくい形で得意げに言うと、シバは反応すらせず、コウイチは人当たりの良い笑みを浮かべた。

 

「はい、少し驚きました。

 僕らは地球を知ろうとしている異星人としか聞いていませんでしたからね。

 でも、来てから大分経っているとも聞いていました。

 僕のフォースのリク君達からも話は聞いていたので、予想はしていましたが……

 正直予想以上です。僕ら地球人と何も変わらない、そんな人に見えるくらいですね」

 

「で、あるな。

 見ろ。この私がSNSで貼った画像リプを。

 バズったツイートに

 『くそっ……じれってーな

  俺ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!』

 の画像を貼ってリプすることで地球人の中に完璧に潜伏することに成功している」

 

「大分変な馴染み方してますね」

 

 涼やかにコウイチはツッコんだ。

 彼はELバースセンターの職員であると同時に、リク、サラ、モモと同じ、ビルドダイバーズのメンバーであった。

 

「俗な馴染み方をしている方がいいのだ。

 で、あるからこそ、その星に本当の意味で溶け込めたと言える。

 君達の星でも、外国人が書いた日本語の文章は細かい部分がおかしいことがあるだろう?」

 

「ああ、ありますね」

 

「これを私達は"異文化の細の穴"と呼ぶ。

 異邦人の文書や言葉に残る違和感の穴のことだ。

 どうしても、書いた文章や話す言葉におかしなカドが残るのだ。

 で、あるため、地球人との対話を繰り返し、馴染めて初めて第一歩とするのだ」

 

「なるほど……」

 

「調べたところ、日本人はインカのマンコ・カパック殿の名前で大笑いするらしい。

 オマーン国際空港で笑う理由も理解した。

 で、あるからして、私も日本人がそういう受け取り方をする単語は避けている。たとえば」

 

「この話やめませんか」

 

 コウイチは真面目くさった顔で話を打ち切り、シバは話に加わらず、モモが自己紹介の一区切りを感じて沈黙を破った。

 

「五分前行動! コーイチさんは真面目だよね~」

 

「モモちゃんはもうちょっと遅刻減らそうね」

 

「はう……ご、ごめんなさい」

 

「いいよ、たまになら愛嬌で済むものだから」

 

 たしなめるコウイチ。素直に聞くモモ。まるで子犬とその飼い主のようだ。

 エヴィデンス01はこの二人が会話しているところを初めて見たが、モモがコウイチを振り回している光景も、コウイチがモモを優しく叱っている光景も、容易に想像できてしまう。

 ビルドダイバーズというフォースの絆は、かなり深いように見えた。

 

「モモちゃんもエヴィデンス01さんを連れて来てくれてありがとうね」

 

「いえいえー、私とエビちゃんはマブダチですので!」

 

「マブダチ……で、あるか」

 

「あれ? エビちゃんはそうは思ってくれてなかったやつ? そんなぁ」

 

「……で、あるわけがない。私も同様だ」

 

「っ! もーエビちゃんったら、変に不安にさせて焦らすんだからもー!」

 

「焦らしていない」

 

「焦らしてたーっ」

 

 モモがエヴィデンス01の背中をばしばし叩き、エヴィデンス01が無言・無表情のままそれを受け入れているのを見て、コウイチも少し緊張が消えてきたようだ。

 異星人と聞いて、普通の人は身構える。

 E.T.のような宇宙人を連想する者もいれば、インディペンデンス・デイを連想する者もいる。

 全然気にしていないモモが変で、モモとエヴィデンス01の掛け合いを見て少し安心と親近感を覚えたコウイチが普通なのである。

 

 そういう意味では、一貫して話に加わらず、敵意だけを時折向けるシバもまた、モモ同様に変な反応をしていると言えるだろう。

 

「では、エヴィデンス01さんに説明を始めます。

 メモが必要な時は適宜僕に言って下さい。説明を止めます。

 書類はデータと紙の両方で用意してあるので、まずデータの方からお渡ししますね」

 

「感謝する、コウイチ殿」

 

「今回することは、エヴィデンス01さんが地球で動かす体のテストです。

 基本的にはELダイバーと同じことをします。

 現実で動かすための体、モビルドール。

 電子生命を入れるためのビルドデカール。

 この二つを用いて、エヴィデンス01さんが現実でも自由に動けるようにします」

 

「で、あるか。詳細は任せる。かたじけない」

 

「いえいえ、エヴィデンス01さんがGBNの外でも活躍できるように……

 というのは、色んなところが望んでるみたいですから。

 超特急で異星人用のモビルドールをなんとかしました。な、ツカサ」

 

「……」

 

「お前今日は本当にどうしたんだよツカサ……すみません」

 

「構わない。で、あれば、おいおい時間をかけて話していけばよかろうことだ」

 

 コウイチが話を振っても、シバは話に参加しようともしない。

 無愛想を通り越して、敵対的一歩手前だ。

 異星からの客人を不快にさせないように気を使いまくっているコウイチが、シバの一挙一動に胃を痛めているのが見るだけで分かる。

 それでもシバを退席させないのは、何か理由があるのかもしれない。

 たとえば、彼がどうしてもこの場に居る必要な理由があるからだとか。

 エヴィデンス01の疑問や要望に対して的確な解答と対応を行える人間がシバ・ツカサしかいない……などの可能性が考えられる。

 

 エヴィデンス01がデータ上の書類に凄まじい速さで目を通しているのを横目に見て、モモはコウイチにひそひそと耳打ちを始めた。

 

「シバさんどうしたの?

 まーた鉄血系列が強いけどデータ実装数少なすぎだ不遇だって運営にキレてるやつ?」

 

「いや……なんだろう。

 エヴィデンス01さんと会うってなったらこうなんだ。

 モモちゃんは何か心当たりない? 僕は全然ないんだよね」

 

「えー。私と怒る案件正反対の人だから分かんない……

 私シバさんみたいに『GNドライヴ優遇はカス』とか怒ったりしないもん」

 

「ま、そっか。

 何に怒ってるんだろうね。

 それとも、怯えてるのかな……?」

 

「何かエイリアン映画でも見た記憶が残ってるのかなあ」

 

「ツカサがエヴィデンス01さんを侵略者だと警戒してる可能性か……ありそうだ」

 

「でしょでしょ!? そうだと思ったんですよねー!」

 

「ツカサは、新しく外から来るものは警戒するんだ。

 新しく来たものが嫌いなわけじゃない。

 それが元からあったものを破壊してしまうのが怖いんだ。昔ほら……色々あったからね」

 

「あー」

 

「モモちゃんの推測が当たってるのかもね……ツカサ! もしそうなら杞憂だよ!」

 

「……チッ」

 

「だからその失礼な態度をやめよう。

 大丈夫だって、侵略目的の人には見えないじゃないか」

 

「エビちゃんは怖い宇宙人じゃないよー、ほらほら、金銀二色のイケメンさんだよ」

 

 不貞腐れたような様子で、シバのハロはそっぽを向いた。

 モモが引きつった笑いを浮かべて、コウイチががっくりと肩を落とす。

 この頑なささは、筋金入りだ。

 

「で、あるか。あ、説明の書類は読み終わったぞ」

 

「早っ!? え、結構な量があったと思うんですけど……五分くらいで読み終わりました?」

 

「地球に来てすぐの頃、媒体の違いに少し苦心した覚えがある。

 文字データに、このアバターの目を透した光学的読み込みだよ。

 で、あれば、本体の私と比べると随分遅いくらいだ。

 いや……もう少し別の情報読込と処理の形式を考えてみてもいいかもしれないな」

 

「本体……ああ、あの、太陽系より大きいという」

 

「そう、それだ。

 で、あれば、ここからの説明は必要ない。

 全て理解した。

 そう、地球で言うところの……期末試験前日の一夜漬けのように」

 

「ああああああああああ私が全然理解できてないやつうううううううう!!!」

 

「モモちゃん落ち着いて!」

 

「……で、あったか。

 私がこのGBNで使っている端末情報子をビルドデカールに移行する。

 ビルドデカールをモビルドールに装填する。

 私がその情報子を目印に、量子意識紐を繋げる。

 私の意識の波動は人形に接続され、手に乗るサイズの人形として活動を始める……と」

 

「そういう手順になるわけですか。どうですか? できそうですか?」

 

「できる。問題はない。このビルドデカールとモビルドールの出来からしても容易だ」

 

「……ほっ、よかった」

 

「これはELバースセンターの謹製か?

 よく出来ている。

 特にこのビルドデカールだ。

 地球人の現時点での技術レベルを遥かに超えている。

 ナノサイズの集積回路か?

 自立稼働するナノマシンと言うべきものか。

 地球文明ではあと200年は確実に生まれないものと見た。

 で、あるからこそ、疑問だな。

 この技術をどこで得た?

 出所不明なら気を付けろ。何かの形で異星人が技術提供している可能性がある」

 

「ああ、いや、その心配はないですね。

 モビルドールは僕が作っていて、ビルドデカールは彼……ツカサが作ってますから」

 

「……驚いた。私は運が良いな。

 人類の転換点そのものとなる、歴史の節目の大天才が居る時代に地球に来れたとは」

 

 エヴィデンス01が無表情なまま、言葉の上でだけ驚いた。

 

 このビルドデカールは、本来GBN運営の協力が一切無いまま完成されたものである。

 デカール(シール)の一種でありながら、貼るだけで稼働。外部からの電力補充もないまま効力を発揮する電子機器となる。

 本来ガンプラの読み込みやプレイヤーの操作機器でのみアクセスできるのがGBNで、GBNから外部へのデータ出力は不可能だが、これはGBNのメインシステム側に大規模なデータ出力を可能とするソフトウェアを埋め込むもの。

 大規模サーバーの巨大ソフトに()()()()()()()()()()()()()()というとてつもないものだ。

 

 感情を発達させたELダイバーのデータ総量は過負荷を引き起こすため、宇宙規模とも言われるGBNのデータ容量ですら抱え込めないが、ビルドデカールは余裕で抱え込める。

 つまりシール一枚に、宇宙規模の世界を作れるだけのデータ容量があることになる。

 ELダイバーがいくらデータを拡大しても、そこに問題は発生しない。

 

 そもそも本来、GBNをハッキングすることは不可能に近い。

 外部からのアクセスは勿論困難で、ログイン時のデータの読み込みも、ガンプラのデータを読み込むだけのものだからだ。

 だがこれは『ガンプラを読み込む機能で読み込ませたデータが独立稼働し独自に運営のメインプログラムをハッキングする』という仕組みで作られている。

 ダウンロードされたプログラムではない。

 ガンプラデータとして読み込まれたただの不正コードなのに、それができる。

 読み込まれたデータが、サーバーの中でいつでも起動できる状態の、スタンドアローンハッキングシステムとして動くのだ。

 しかも、それの読み込みに対し全てのセキュリティが無効化されてしまうというおまけ付き。

 

 対象のサーバーのメインプログラムを読み込ませたコードが勝手に書き換え、勝手に新しいメインプログラムを作り、サーバーが勝手にその改竄メインプログラムを動かし始める。

 それによってメインプログラムが改竄前よりも優れた機能を持つ。

 これはもはや、近未来SFのマルウェアである。

 

 現在、地球人は人工知能の開発に熱心である。

 電子の世界に知能を作ろうとしているが、なかなか難しいというのが現実だ。

 ハードの限界、ソフトの限界、両方にぶつかっている。

 だがこれは違う。

 電子の世界に生まれた電子生命体、ELダイバーと組み合わされることで、独立した機械生命体が完成する。

 人類の手に余る規格外のELダイバーに、人類を超越した規格外のビルドデカールを合わせることで、地球技術の中でとびきりに浮いた超技術の機械生命体が誕生したのだ。

 地球人の技術ツリーを見る限り、このビルドデカールは、あまりにも異常なのである。

 

 まさに、異星人レベルの技術。

 現代の人類文明の技術ではハッキング成功率0%のサーバーに、ハッキング成功率100%でハックが可能とも言えるもの。

 やっていることだけ見れば、「このレベルの技術力があれば核ミサイルの国家管理システムも乗っ取れるんじゃない?」と思わされる領域にある。

 

 星の外側からの視点を持つエヴィデンス01だからこそ、このデカールの化物度合いがよく理解できていた。

 これはエヴィデンス01が地球人の文明レベルに合わせて提供しようとしていた適度な高等技術の多くを凌駕するほどのものである。

 

 電子生命体・情報生命体の存在に対応可能なハードウェアという点で、これは宇宙に進出した後の人類が開発すべきものだった。

 

「エヴィデンス01さんに合わせた調整をして、専用ビルドデカールを作ったのもツカサですよ」

 

「で、あるか。

 話には聞いていた。

 各知的生命体には、文明の転換点となった大天才がいると。

 それは多様性に長けた知性体群ほど多く生まれると。

 実際に生きている者を見たのは初めてだ。

 その天才によって宇宙に進出した種族もいる。

 その天才によって滅亡、あるいは衰退した種族もいる。

 この星は前者……で、あったか。それはいいことだ。希望が持てる」

 

「ELダイバーは基本的に僕とツカサが現実の体を作ってあげてます。

 エヴィデンス01さんの知り合いだと、サラちゃんや、メイちゃんがそれにあたりますね」

 

「で、あるわけか。

 いやこれは面白い。

 根本的なシステムがシステムクラックのそれだ。

 そして同時に、新システム創出のそれでもある。

 状況次第では唯一私の命を奪えるものを作れるかもしれない」

 

「え……そうなんですか?」

 

「将来的には、で、あるがな。

 情報体への干渉という意味ではこれが飛び抜けている。

 地球人側に私への有効打は必要だと思っていた。これは使えるかもしれん」

 

「? ええと、何故自分への有効打を?」

 

「交渉、対話は、互いが対等であって初めて健全性を含めた効率が最高となる。

 で、あれば、私が相対的に強すぎることが起こす不具合というものもあると考えていた。

 地球上の概念で言えば、そうだな……

 腕力の差で言うことを聞かせるジャイアンとのび太の関係ではいけないということだよ」

 

「本当に地球に馴染んでますね」

 

 コウイチが苦笑する。

 "たとえ話"は、異なる常識の間では本来成立しないもの。

 かつ、個人間での会話において的確で迅速な理解を求めるために、最も有効な物の一つだ。

 外国人が日本語を習得した後も、たとえ話を使いこなすには大分時間がかかるという。

 

 コウイチは、エヴィデンス01が苦労して地球の常識を理解したことをひしひしと感じる。

 同時に、地球人同士が争うのに使う兵器ではなく、エヴィデンス01にだけ通じる攻撃手段が地球人に備わることを喜ぶ姿に、ズレたものも感じていた。

 善良な超越者の在り方。

 人類に従属ではなく進化と成長を望むスタンス。

 対等の関係を望む意向。

 まるで息子が自分を超えていくのを望んでいる父親のような、慈悲と先導の想いの香りを、コウイチはなんともなしに感じていた。

 

「自分より強い命が横に居るというのは心穏やかではないものだよ、コウイチ殿。

 知性がある程度発達した生命体にとって、それはストレスなのだ。

 生態系の頂点であるという安心感こそが、その知的生命体に余裕を生む。

 かつ、私に媚びてへりくだるという歪みも軽減される。

 私に怯え、私に遠慮してしまう相対的弱者にはならない方がいい。地球人のためにも」

 

「なるほど。分かりました。こっちでも話し合ってみます」

 

「感謝する」

 

「その……随分を気を使っていただいているようですが」

 

「ううむ。地球人はやたらそこを気にするな」

 

「あはは……異星人の方からこういう接し方されたらこうもなりますよ」

 

「そこまで過度に気を使っているつもりはないが……そうだな。理由は三つある」

 

「三つ」

 

「一つ目は宇宙道徳に基づいた考え。

 宇宙的な通念上の考えに私は従っている。

 二つ目は私個人の考え。

 こうした方が地球人にとっていいだろう、という私の見解。

 三つ目は……あまり大声で言えることではないが、不理解ゆえのものだ」

 

「不理解?」

 

「理解してない相手と話す時、地雷を踏むのが怖いだろう?

 無自覚な失礼が怖いだろう?

 だから気を使う。

 怒らせたら後が怖い偉い人との会話時など最たるものだ。

 親しくない偉い人との会話ほど気を使うものはない。

 逆に、相互に理解し合った友人同士の語り合いは気を使わないだろう?

 気心知れた上司との会話も気を使わないはずだ。理解は気遣いを駆逐するのだよ」

 

「ああ、なるほど」

 

「気を使うというのは、不理解の証でもあるのだ。

 私は不理解ゆえに君達の地雷を全て把握していない。

 で、あればこそ、私は気を使っている。

 地雷を踏まないためにね。

 そういう面もある……で、あるからして、君達が思っているような者でもない。

 優しさの類とは別物だよ。

 そう、強いて言うならば、喧嘩を回避するためのテクニックといったものだろうな」

 

 真面目な顔で頷いていたコウイチがその時、ふと笑った。

 なんだかとても楽しそうに笑った。

 

「メイちゃんが言ってた通りですね」

 

「メイ……で、あるか。彼女がどうかしたのか」

 

「ELバースセンターを利用してないELダイバーはいませんから。

 ビルドデカールも、体になるモビルドールも、メンテできるのは僕とツカサだけです。

 なので定期的に話す機会があるんですよ。メイちゃんからはよく貴方の話を聞いてます」

 

「で、あったか。私はどんな風に語られていた?」

 

「あはは。それはメイちゃんに聞いて下さい。

 あんまり僕らが話すことでもないですからね。

 でも悪くは言ってませんでしたよ。

 少なくとも僕は、メイちゃんの言っていた通りの人で安心していますから」

 

「で、あるか」

 

 コウイチが人の良さそうな笑みを浮かべ、エヴィデンス01が腕を組んで『メイが自分をどう言っていたか』を想像し始める。

 シバはチッと舌打ちしていた。

 

「ああ、でも、メイちゃんが言ってたものの中で一つ気になるものが……ターンエルス、とか」

 

 ギラリ、とコウイチの眼鏡が光った。

 言葉にこもった真剣味のレベルが、一段上がったようにエヴィデンス01は感じる。

 特に理由もないので、エヴィデンス01はターンエルスを出現させた。

 

「こいつか」

 

「おお……

 本当に肩と股関節の先に関節がない。

 肘も膝もない。

 顔も凄い。

 獣でも、植物でも、人間でも、機械でもない……

 装甲も、歩く度に微細に揺れる、叩くと固い、なのにゆっくり触れると凹む……液体金属?」

 

「で、あるな。

 地球で言うナノクリスタルが近い。

 いや、礼として出すならビルドデカールのナノICチップも近いか?

 強固な特殊人造金属原子が相互に引き合い作られる装甲……と言うのが正しいか」

 

「こんな僕初めて見ましたよ。

 銀色の金属……

 いや、銀色の海ですね。

 立って動かなければ固い鏡のようにも見える。

 けれど動くと発生する装甲表面の僅かなさざなみが、とても綺麗だ……」

 

「コーイチさんはねー、ビルドダイバーズで一番……

 いや! 今ではGBNで一番ガンプラビルドが上手いんだよ!

 知識も凄いし、手先も器用なの!

 エビちゃんにガンプラ教える人、最初はコーイチさんに頼もうとしてたくらい!」

 

「で、あるか」

 

「モモちゃん、言い過ぎだよ。そこまでじゃないから……」

 

「コーイチさん昔大会で日本三位、世界八位だったんだよ! 凄くない!?」

 

「ほう、それは凄い」

 

「昔の話、昔の話ですから」

 

 照れたように、コウイチが頬を掻く。

 

「で、あったか。

 なるほど、優秀な人物のようだ。

 今日は新しい発見がそこそこ多いな。

 私と私が初対面の相手が話している時に、モモが発言数を抑えている。

 こういうタイプの気遣いをモモがするとは、そういうタイプのレディだとは、知らなかった」

 

「なんですとー!?」

 

「感謝している。

 私が地球上で使う大切な体のことだから、話の邪魔にならないようにしてくれたのだろう」

 

「あー! やだー! 滑ったギャグを解説されるような気持ち!

 でもなんか気遣いに気付かれて褒められるとそれはそれで嬉しぃー!」

 

 コウイチがププッと笑い、シバはそっぽを向いたまま、掛け合いをするエヴィデンス01とモモの方を向きもしない。

 

「エヴィデンス01さんのターンエルスは、全体的に見たことの無い武装が多いですね。

 ガンダムの武装に寄せてることは分かるんですが……発想元の兵器の形が分からない」

 

「で、あるか。大した慧眼だ。これは全て、私が異星で見た武器の改造になる」

 

「おお……異星の兵器……」

 

「エビちゃーん、解説してあげてー。

 コウイチさんは他人のオリジナルガンダムの設定を楽しむタイプのガンダムオタクさんだから」

 

「まあ……ね。でもモモちゃん、言い方……」

 

「で、あるか。

 まずこの機体の装甲は、ダイラタント流体金属装甲。

 普段は流れる金属の河。

 衝撃が走った時のみ金属の山。

 液体と固体、どちらの振る舞いも見せる金属装甲だ」

 

「おお……!

 異星人のエヴィデンス01さんならではのコンセプト!

 液体金属は歴代のガンダムでも時々使われてましたが、扱いが難しいものですからね」

 

「これは……

 そう……地球人の言葉で言うと……

 "宇宙遊牧民"と呼ばれる者達が作り上げたものだ。

 彼らは宇宙に発生するブラックホールの雛を捕らえて食べる食性を持っていた」

 

「壮大な話になってきましたね」

「なってきたね。エビちゃんの長トークだ」

 

「地球人は熱と電気を体の構築に利用し進化した知的生命体だ。

 だが宇宙遊牧民は、磁力を用いて進化した。

 地球人で言う神経と血液を全部磁力が担っていた。

 磁力を操り、ブラックホールを食べて回る知的生命体。

 で、あるからして、液体金属を扱う進化をしたことは必然であり―――」

 

 すぐに話しは終わるかと思われたが、エヴィデンス01の話は宇宙遊牧民の成り立ち、彼らが巻き込まれた戦争、同じくブラックホールを食物とする隣の銀河の知的生命『絶滅王の民』との戦争にまで発展し、コウイチとモモが食いついたのもありなかなか話が終わらないので、シバはげんなりした。

 

「―――そして、絶滅王の牡鹿の角を液体金属の装甲が防いだ。必殺の角は届かない」

 

「おおおおお! 凄い、ここで来ますか、流体装甲!」

「ううっ……死んでなお、友達を守ろうとしたんだね……」

 

「そして反撃が絶滅王の牡鹿を倒した……

 この戦いが120万年ほど前の出来事だった。

 私のターンエルスの装甲はそこが元ネタ、で、あるな」

 

「はー……感動しました。そりゃ、宇宙遊牧民の標準装備になりますね」

「ねえねえ、もしかして、他の武器にもそういうのあるの?」

 

「装甲ほどのエピソードはないな。

 あと武装と言えるものはファンネルと……

 ディスインテグレータビームライフル。

 理論限界完全剛体ブレード。

 統一理論式EMACシールド。

 フェルミ超流動誘引60ミリバルカンの四つか」

 

 シバは草原に横になって、話聞いてませんよアピールをし始めた。

 が、面倒臭い男の面倒臭いアピールは、もう他三人に見られてもいない。

 

「ディスインテグレータは地球に習って付けた名だ。

 元の星では違う名前だった。

 名前の元は昔の英語圏のSFのDisintegrator ray……

 破壊光線銃(Disintegrator ray)だ。

 原子破壊光線銃、とも訳されていたもの。

 人類娯楽における『最初のビームライフル』だな。

 スター・ウォーズの光線銃の元ネタでもあるものだ。

 モモが知っていそうな範囲だと……ポケモンの破壊光線の源流の源流だろうか」

 

「あー、分かる分かる!

 そうだよね、光線が物を破壊するのってよく考えたら変だもんね。

 元ネタと言うか、源流があるんだ。

 へー、ターンエルスのってビームライフルじゃなくて破壊光線だったんだぁ」

 

「GBNでは仕様上ただのビームと変わらん。

 他のガンプラと変わらんよ。

 私が参考にしたのは、宇宙怪獣と戦うある星の銃だ。

 その星は宇宙怪獣に襲われ続ける星だった。

 地球とは違う。

 地球では知的生命体が生態系の頂点だった。

 だがその星では、周辺宇宙から来る宇宙怪獣が生態系の頂点だった。

 生態系の真ん中あたりに位置するその星の知的生命体には、武器が必要だった……」

 

「本当に現実にいるんだ、宇宙怪獣……」

 

「で、あるな。

 宇宙怪獣はそれぞれが20m前後。

 更にバリアや金属表皮などの固有能力を持っていた。

 地球で言えばネズミほどのサイズしかないその星の知的生命体達は考えた。

 そして作った。

 20mの機械人形が持てて、どんな宇宙怪獣も、原子を粉砕して即死させる銃を―――」

 

 シバはある理由からエヴィデンス01に敵意を持っていた。

 だから話を聞く気がない。

 

「―――かくして。

 111機の機体による宇宙怪獣掃討作戦は終了した。

 帰還した機体はたったの6機。

 しかしネズミのように小さな体の彼らは、平和を勝ち取ったのだ……」

 

「う……はぁ。凄い話ですね。いや、凄い銃だと思います。原子を破壊する銃とは」

「恋人が死んじゃうところ生き残ってほしかったな……うぅ」

 

「これは歴史の話だ。

 創作の話ではない。

 そんなに都合の良い話ではない。

 で、あるからして、私はその銃を参考にし、ガンダムに寄せたものを持たせている」

 

「あ、じゃあじゃあ、剣も同じような感じ? はー、私心の耐久値がなくなっちゃうよー」

 

「いや、あれは私の祖父が専門で研究していたものだな。

 『完全剛体』を目指したものだ。

 地球では永久機関ほど注目されていないが、同じレベルのものではある」

 

「そうなの!? 普通の実体剣に見えるけど……実は秘められた力があったり?」

 

「GBNでは普通の物理大剣にすぎない。

 攻撃力も普通だ。壊れにくくはあるが。

 で、あれば、聞こう。

 モモ、光の速度を超える物質はない。それは知っているな?」

 

「うん、まあ、そのくらいなら。前にバラエティでやってたから知ってるよ?」

 

「つまり光の速度を超えた情報伝達はない。これを覚えておこう、モモ」

 

「はい、エビちゃん先生!」

「モモちゃんとエヴィデンス01さん、仲良いね……」

 

「完全剛体とは簡単だ。

 完全剛体とは、壊れることも変形することもない物質を指す。

 無敵であり、不壊のものだ。

 で、あれば、先程言ったことを前提に問おう。

 1万光年離れた星と星を完全剛体の棒で繋いだらどうなる?

 棒を引っ張って、地球で言うモールス信号などで会話したらどうなる?

 光の速度で一万年かかる距離でも瞬時に対話可能なら、光速を超えているのだろうか」

 

「それはええと……あれ? 光速超えてる? あれ?」

 

「へえ……なんだか面白いですね。

 エヴィデンス01さんの祖父はそういう研究をなさっていたんですか」

 

「で、あるな。

 絶対であることが保証された構造体。

 いかなる天体の影響も跳ね除ける完全な剛体。

 時空の湾曲による光速以下速度への収束という宇宙の法則性も無視したもの。

 現在の地球の物理学では完全剛体は不可能という結論になるだろう。

 時空の物理学を突き詰めれば、完全剛体は相対性理論とやらと矛盾するからだ。

 ゆえに、この剣の理は事象の地平面の向こう側にある。

 音速以下で振っても、超光速で振っているのと同じになる。

 時間を止めても防げない。

 空間を固定化しても防げない。

 そういう剣だ。

 完全剛体を成立させた剣とはそういうものだ。

 この剣と同製法で棒を作って星と星を繋げば、超光速通信が可能となる」

 

「わー! エビちゃんの説明なのに私全然分かんない! けど部分的には分かる!」

 

「……すまない、モモ。

 流石に完全剛体の理論となると専門性が高い。

 で、あれば、そうだな……この剣は、そう、糸電話だ。

 宇宙で一番凄い糸電話と同じ製法で作られているのだよ、モモ」

 

「へー、糸電話! エビちゃんのガンプラは面白いね」

 

「で、あろう」

 

「……なんて頭が良くて頭が悪い会話なんだ……あ、じゃあその盾もそうなんですか?」

 

「この盾は―――」

 

 シバは話を聞いていない。

 ようで、実はちょっとばかり聞いている。

 正確に言えば、話を追いかけてはいないが、特定のワードが出るのを待っている。

 が、それはそれとして、自分を放置して楽しくわいわい話している三人に、ちょっとイライラを溜めている面倒臭い女みたいなところも、シバにはあった。

 

「―――で、あった。

 そうして黄金の民と白銀の民は戦争に入ってしまったのだ。

 その時に双方が主力防御兵装として採用したのが、この統一理論式EMACシールドだ」

 

「すれ違いが生んだ悲劇……戦争の悲しみ、ですね」

「もやもやする戦争だ……エビちゃん止められなかったの?」

 

「私が知った時にはもう、黄金の民の勝利で終わっていたよ、モモ」

 

「むー」

 

「当然ながら、統一理論式EMACシールドという名前も地球に合わせた仮名だ。

 統一理論とは地球における万物の理論。

 自然界に存在する四つの根源的な力を統一したものだな。

 超ひも理論、と呼ばれていたものもその一環か。それを下敷きにしている」

 

「あ、エヴィデンス01さん、地球の言葉を使っているということは……

 もしかしてEMACってElectric Magnetic Armor Coilですか? 違ったらすみません」

 

「ほう……流石にコウイチ殿は博識だ。

 日本ではほとんど話題にもされていないと思っていたが、認識を改めよう」

 

「いえ、その認識で合ってると思います。

 電磁装甲自体はガンダムAGEで登場したので、僕はその時に徹底的に調べただけです」

 

「コーイチさんコーイチさん、エレクトなんとかって何?」

 

「電磁装甲だよ。

 ほら、この前皆で見たガンダムAGEの敵・ヴェイガンの基本装甲システムさ。

 ターンエルスはヴェイガンのガンダムレギルスの意匠を感じる。

 だからエヴィデンス01さんならそれを組み込んでるのかも……って思ったんだ」

 

「あー、あの、実弾もビームも効かない装甲なんだっけ?

 主人公のフリットの母親が作ってたドッズライフルで撃ち抜いたやつ。

 エビちゃんのターンエルスの盾はヴェイガンと同じ、なるほどなるほど」

 

「そうだね。

 ドッズライフルは空間を消滅させて敵を倒すビームライフル。

 逆に言えば、実弾もビームも効かないヴェイガンはそうでもしないと倒せないんだ」

 

「ひぇぇ」

 

「僕らの現実においては、様々な兵器が生まれてる。

 HEAT弾などの化学エネルギー弾などもそうだ。

 これらは物理的強度を無視する、という特性を持つ。

 つまりどんなに硬い装甲でも貫いてしまうんだ。

 ガンダムにも度々、そういう性質を持った兵器が登場するね」

 

「ず、ズルじゃん! 防げない攻撃はんたーい! モモカプルが一発で負けちゃう!」

 

「GBNでは流石にそういうのあんまりないから大丈夫だよ。

 それで考えられたのが電磁装甲。

 電磁力で銃弾を逸らし、威力を減らし、無効化するというものだ。

 僕らの現実ではまだまだ開発中だから、実用段階じゃないけどね」

 

「おー。なるほどなるほど。ヴェイガンが好き勝手してたのはそういうことね」

 

「そういうこと。

 彼のシールドはElectric Magnetic Armor Coil。

 つまりシールドの中に強力なコイルか何かがあるんだね。

 それで重力や電磁力などを発して、様々な力で銃弾やビームを弾く仕組みなんだと思う」

 

「へー。あ、つまり、それを現実で形にできるエビちゃんが凄いんだ!」

 

「で、あるかな。私は知っている兵器をGBNで再現しただけだが。

 GBNでは対ビームコーティングがされた頑丈なシールドでしかない」

 

「いやいや、僕らからすると驚きですよ。

 現実にヴェイガンのモビルスーツを見てるようなものですから。

 ……あ。

 EMAC(イーマック)システム!

 ガンダムAGEでヴェイガンが使ってたのがイヴァースシステム!

 火星での微粒子・磁気嵐・太陽風から『人の命を守る』システム!

 イヴァースシステムの正式名称を略してもEMAC……そういうことなんですね?」

 

「で、あるな。盾は、人の命を守るものらしいからな」

 

「これはまた……異星人感覚でガンダムの過去作を参考にするとこうなるんですね……」

 

「コーイチさんもよく気付くよね……私もう全然分かんないやつ」

 

 シバもこういう話は好きだ。

 好きだが。

 今は話に加われない。

 彼が意地を張る理由があるにはあったが、普段こういう時にシバに事情を聞くはずのコウイチは宇宙人の話に夢中で、シバにまるで興味を持っていなかった。

 モモは元々大してシバが好きでもなく、エヴィデンス01は好きなので必然そっちしか向かない。

 

 寂しそうにするシバに話しかける者は、いなかった。

 

「ビームは磁力で散る荷電粒子や高エネルギー粒子がほとんどですからね。

 銃弾も磁力の影響を受ける金属です。

 しかもGBNにはヴェイガンの電磁装甲のデータが有る。

 エヴィデンス01さんが総合的な防御力を選んでそれをシールドにしたのは納得です」

 

「地球人は磁気乱流の兵器利用もまだなのだろう?

 で、あるが、おそらくそれも時間の問題だ。

 現時点の地球では化学エネルギー兵器が凄まじく強いが、その時代も終わるということだ」

 

「エビちゃーん、分かりやすく解説!」

 

「このシールドはサイコキネシスが使えてビームや銃弾もある程度弾けるのだ」

 

「すっごーい! エビちゃんやるじゃん!」

 

「……私は、よく分からないまま凄い凄いと他人を褒められる、君の方が凄いと思うよ」

 

「そう?」

 

「ああ」

 

 エヴィデンス01が微笑み、モモが褒められて嬉しそうにはにかみ、コウイチが妹を見守るような暖かな目線でそれを見守っていた。

 

「で、最後は最後は?

 フェルミ超流動だっけ。

 頭の横に付いてる普通のビームバルカンだとしか私には分かりませんー」

 

「僕もピンと来ないな……レギルスっぽい、というくらい。

 ガンダムに慣れてるとこれも特徴的だよ。

 頭部バルカンは実弾、というのがガンダムの基本だからね。

 頭部にビームバルカンとなると真っ先に想像されるのはガンダムレギルス。

 次にガンプラビルダーズのビギニングガンダムかな?

 ともかくメジャーじゃないから、ここでレギルスだと気付く人も多いと思う」

 

「はえー、すんごいね」

 

「で、あるな。仕様上ただのビームバルカンになってるのは、まあGBNだからだ」

 

「まーたGBNの仕様だよぉ……」

 

「で、あるが、これも地球で妥当な言葉を当てはめただけのものだ。

 フェルミとは、フェルミ粒子のこと。

 電子などを指すものだ。

 超流動とは常識を外れた流動を指す。

 液体は極稀に壁を勝手に這い上がったり、原子一つ分の隙間から染み出すこともある。

 量子的現象によって複数の原子がどんどん一つに重なっていく。

 これがフェルミ粒子において起こるのだ。

 フェルミ超流動とは、超電導などの説明のために用いられることが多い概念、で、あるな」

 

「つーまーりー?」

 

「対象が原子で構成されている存在である限り当たれば絶対に死ぬ弾……で、あるな」

 

「えっ、怖い」

 

「ああ、なるほど。

 僕でも部分的には分かりました。

 だからGBNではビームバルカンになっている、と。

 そういえばガンダム00にも同じネーミング元のキャラがいましたね」

 

「ヒクサー・フェルミ。で、あるな。

 ガンダム00のネーミングは特にフェルミ粒子にあたるものが多い。

 擬似太陽炉の正式名称はGNドライヴΤ(タウ)。

 これはタウ粒子、つまりフェルミ粒子だ。

 タウは『電子の三兄弟』であるため、トリニティ兄妹を指している。

 オリジナル太陽炉のGN粒子が変異ニュートリノ。

 ニュートリノもフェルミ粒子だ。

 GN粒子は色は違えど、全てフェルミ粒子である……と私は解釈している。

 ターンエルスの頭部バルカンはレギルスのそれだが、名前は00のそれに近いわけだ」

 

「思ったよりガンダム00まみれだねえ、エビちゃんのガンダム」

 

「で、あろう?」

 

「いやはや、面白かったです。

 はたから見ると武装が少ないモビルスーツに見えますが、中身が濃い。

 エヴィデンス01さんの知ってる話で、他に面白そうなのってありますか」

 

「で、あれば、あれは―――」

 

 その会話を、苛立たしげに割り込んだハロ/シバが遮った。

 コウイチは困ったような表情になり、モモはむっとして、エヴィデンス01は顔に感情の一つも浮かべず、シバの言葉を待った。

 

「エイリアンの語りとかどうでもいいんだよ」

 

「ちょっとー、エビちゃんが話してるんだからシバさん邪魔しないでよー」

 

「うるせえ、黙ってろガキ。……おい、単刀直入に聞く。答えろエイリアン」

 

「ああ、どうぞ。

 君が話を表面上だけ聞いているのは分かっていた。

 で、あれば、君は私の口から聞きたいことがあったはずだ。何かな」

 

「チッ」

 

 モモはむっとしてシバを睨んでいたが、コウイチは真剣な顔で眼鏡を押し上げる。

 

 地球人と異星人。

 そのファーストコンタクトの難しさは、『善良な地球人と異星人が最良の出会いから最高のスタートを切る』という夢のような大前提があってすら難しい。

 寛容と不寛容の矛盾。

 多様性を重んじるのは多様性への不寛容も内包するという矛盾。

 地球が多様性を尊重する星である限り、この星は異星人に対する不寛容さを排除することができないため、常に異星人を拒絶し攻撃する可能性があるのである。

 

 コウイチはシバの敵意に、恐ろしいものを感じた。

 シバが恐ろしいのではない。

 その怒りがエイリアンへの拒絶であるならば、その先に異星人との不和、ひいては地球の致命的な破滅が待っているのではないかと、コウイチは想像したのである。

 地球人同士ですら不和はあり、たった一人の考えなしの蛮行、あるいは怒りに任せた愚行によって、信じられないほどの不幸と戦争が起こったことは、歴史上枚挙に暇がない。

 

 もしもシバが、SF映画にあるような宇宙からの侵略者のイメージから、エヴィデンス01への敵意を持ってしまっているのだとしたら。

 それゆえに、たった一発の銃弾が先端を開いたことが何度かあった人類の歴史のように、一人の拒絶が長く続く不和を生み出してしまうとしたら。

 それは、最悪の最悪だ。

 シバとコウイチは互いに親友関係であるため、なおさらそう考える。

 コウイチはシバが致命的な失言をしそうであればすぐ取り押さえられるよう準備し、固唾を飲み込み、眼鏡を押し上げ位置を直す。

 

 

 

「テメェ……メイとはどういう関係だァ!?」

 

「友人だが」

 

「誤魔化すんじゃねえッ!!」

 

 

 

 コウイチの眼鏡が押し上げられすぎて宙を舞った。

 落ちてきた眼鏡をキャッチし、付け直し、空を仰ぎ、コウイチは空の雲を数え始める。

 モモは「は?」とつぶやいた。

 

「嘘はついていない。そこは誓えることだ、シバ殿」

 

「何言ってやがる。おためごかしはいらねえ。

 ELダイバーはな、皆生まれたての赤ん坊みたいなもんだ。

 人間の想念から生まれてやがるからか、赤ん坊よりかはマシだ。

 だが多少自分で考えて動けるだけで中身は空っぽだ。

 面倒を見てやる人間が傍に居ねえと、すぐに悪党に騙されちまうだろうな」

 

「で、あるか。確かにそういうところは感じるな」

 

「あいつは……

 ひよっこのメイの奴は、メンテの度につまらねえ話をしてやがる。

 コウイチが退屈させないために話しかけてるからな。

 昔は寡黙で大して話もしなかった。

 だが最近は話題が増えた。仲間の話と……テメエの話だ。エイリアン」

 

「で、あるか。私の話……で、あれば、内容も聞きたいところだが」

 

「るせぇ!

 仲間の話はまあいい。

 ……仲間は支えだ。

 あいつに仲間が出来たことはいい。

 だが何だお前?

 お前は仲間でもねえんだろう。

 そのくせちょくちょく話に出てきてよ……メイを誑かしてねえだろうな?」

 

「で、あるわけがない。メイは友人だ」

 

「ケッ、どうだか。

 それであいつがあんなにも褒めるか?

 最近になるまで他人を褒めることなんてしなかったメイだぞ?

 テメエ、あいつを洗脳でもしてねえだろうな?

 だったら承知しねえぞ。宇宙戦争上等だ、ぶち殺してやる」

 

「ほう。で、あれば、その褒めとやらに興味がある。聞かせてほしい」

 

「黙ってろ。

 信用できねえ。

 メイのやつは聞いてもいねえのに仲間やお前の話をする。

 無表情なままでも分かるくらいに分かりやすく、な。

 だがテメエはメイのことを話題に出しもしねえ。

 どういう了見だ?

 あ?

 メイが片思いとかしてるかわいそうな奴みたいじゃねえか……メイは片思いとかしねえ!」

 

「……ああ、そこであったか。それが君の聞きたいこと、で、あったか」

 

「は? 別にテメエが話すの待ってたわけじゃねえよ。

 ただな、フェアじゃねえだろ。

 メイはテメエの話をしてるがテメエはメイの話をしねえのか?

 メイがテメエにくれてやってる好意とせめて同量の好意くらいは口にしろや」

 

「で、あるか。なるほど、理解した。君はメイを心配していたのか。

 父親は娘にそうするように。兄が妹にそうするように。

 "この幼き子らに安息を"、と。

 確かに、異星人と幼子が仲良くしていれば、見守っている大人は不安になるか」

 

「ああ!? 心配なんかしてねえよ!

 あんなひよっこの心配誰がするか!

 俺がテメエを許すか許さねえか、それが全てだ。全部吐けや」

 

「興味深い……これは新しい人間の心情稼働サンプルだな」

 

「クソエイリアンがぶっ殺すぞッ!!!」

 

「いや、失礼した。煽ったつもりはないのだが、すまない」

 

 モモが恐ろしく熱の無い目で、エヴィデンス01にチンピラのように絡むシバを見ていた。

 

「コウイチさん、コウイチさん」

 

「なにかなモモちゃん」

 

「すっごくバカな話してない?」

 

「……ツカサはね。自分の好きなものを新参が軽く扱うとキレるんだ。昔からずっと」

 

「ああ……」

 

「あいつはあんまり態度に出さないけど……情が深いやつだから。

 あいつにとってELダイバーは皆、弟で妹みたいなものなんだ。メイちゃんもね」

 

 熱の無い目でシバを見るモモの横で、コウイチが乾いた笑いを零していた。

 

「メイが言っていたことが真実か見定めてやる―――ノーネイム!」

 

 シバがコンソールを殴り砕くように操作し、空中に投影された光のコンソールが拡散する。

 

 何もない空間から、それは現れた。

 左右非対称の造形。

 白と赤のボディに、右半身を覆うマント状のユニットに覆われた総合攻撃武装。

 継ぎ接ぎのようでありつつも完成度は高く、ボロボロのマントを纏った歴戦の勇士のような印象すらも与えてくる。

 

 その機体の名は、ガンダムアストレイノーネイム。

 シバ・ツカサの愛する専用機。

 王道を外れた名もなき男(アストレイノーネイム)の名に恥じず、その造形はGBNでも滅多に見ないものとなっていた。

 

「ガンプラバトル、で、あるか」

 

「逃げねえよなァ?」

 

「受けて立とう。

 戦うことで分かり合うこともできる。

 仲間となることもできる。

 それをオーガが教えてくれた。

 立て、蠢け―――ゼノガンダムΓs」

 

 銀色の巨体の顔部液体金属がぐちゃ、と動く。

 それが戦闘準備の合図。

 人間らしくなく、獣らしくなく、植物らしくないターンエルスの顔が蠢き、顔の内部に埋まっていた緑の目が四つほど顔の表面に浮かび上がった。

 口なのか耳なのか分からない裂け目が伸び、ターンエルスが戦闘態勢に入る。

 

 メイの言葉を嘘にしないためには、詳細は分からないが、メイが語ったエヴィデンス01らしい彼の姿を、あるいは強さを、シバに見せなければならない。

 向き合うエヴィデンス01&ターンエルスとシバ&ノーネイム。

 その横で、コウイチがバトル設定を調整していた。

 

「ライトバトル設定でいいかな」

 

「ライトバトル設定?」

 

「軽いダメージ一発でバトル終了になる設定です。

 戦闘後、戦闘終了時の回復で機体がすぐ元の綺麗な状態に戻るのが特徴ですね。

 短時間で決着がつくのもあって、長時間のバトルに時間が割けない忙しい人に人気です」

 

「で、あるか。それで頼む」

 

 エヴィデンス01とシバは戦闘態勢に入っていたが、モモとコウイチはすっかり観戦体勢に入っていた。

 

「ふん……私のエビちゃんはチートツール配布マンみたいなのには負けないからねっ」

 

「ぐっ……年々生意気な女になりやがって」

 

「大人になってるんですぅー。そしてエビちゃんは数億歳、この場で一番大人!」

 

 モモは相も変わらず迷わずエヴィデンス01の応援に入る。

 シバは"生意気にはなってるが大人にはなってねえぞ"という言葉を必死に押し留めた。

 

「さあエビちゃん!

 皆で一緒にごはん食べようって誘っても来ないあの無愛想男を倒すのよー!」

 

「で、あるか。大分私怨が入ってそうだな。期待には応えるが」

 

「うーはっはっは!

 私のエビちゃんの強さを思い知れ!

 時代遅れの地球人よ、宇宙の神秘を思い知るのだー!」

 

「モモ、君も地球人だが」

 

「そうだった!」

 

「モモちゃんが敗北フラグを立てている……」

「この女いつもこんなんだな……」

 

 両者がガンダムに乗り込み、武器を構え、BATTLE STARTの表示が出れば、それが開始の合図。

 

『テメェみたいな運転免許証顔に負けるかよ』

 

『運転免許証顔』

 

「い……言ってはならぬことをー!

 おのれシバ!

 エビちゃんが大卒が初めて作った運転免許証の顔写真みたいな鉄面皮だなんて!」

 

『モモ、彼はそこまでは言ってないのではないか?』

 

 アストレイノーネイムが右半身を前に出すようにして、マントを盾の如く構え、立つ。

 ターンエルスが理論限界完全剛体ブレードと統一理論式EMACシールドを、騎士の如く構える。

 

《 BATTLE START 》

 

 瞬間。踏み込む両者。

 

 両者が第一手に選んだのは、スマートさの欠片もない接近攻撃だった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。