ガンダムビルドダイバーズ Re:TURN:TYPE   作:ルシエド

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『美』とは何か

 ガンプラ。

 人類は樹脂を加工し、都合のいい道具に加工してきた。

 やがて樹脂よりも都合の良い合成樹脂(プラスチック)を生み出した。

 そんな技術の発展の、娯楽方面の最先端がガンプラだ。

 

 現実では手に乗る程度の玩具だが、GBNにおけるガンプラは巨大で、全ての基本である。

 時に戦い、時に身を守り、時に大切な人を守る。

 飛行機のように長距離移動には必須で、レースやお宝探しといったイベントにも必須、拠点構築などにも使われることがある。

 自動車は地域によって所有が必須だが、車以上に便利で有能なGBNにおけるガンプラは、車以上に個々人が持っておくべきものになっていた。

 500円以下のガンプラも珍しくないため、入手自体は困難ではない。

 小学生ですら自分の愛機を持っている。それがGBNだ。

 

 エヴィデンス01もモモの勧めを受け、モモの教導を受け、すっかり『自分専用のガンプラか……』という気持ちになっていた。

 ガンプラを作りてえ! というほどの強い気持ちではない。

 いい感じになんか作れたらそれはそれでよさそうだ……くらいの気持ち。

 ガンダムが好きという熱意があるからではなく、劇的な感情の変化があったわけでもなく、『クラスの友達が全員GBNやってるけど自分だけやってないと気付いた男の子』の気持ちに近い。

 ぼんやりと、エヴィデンス01は自分のガンプラを持つべきだと思い始めていた。

 持ちたい、ではなく、持つべきだと思い始めていた。

 "好き"という衝動はない。

 

 そんなこんなで調べ始めた。

 一端人類の倫理への造詣を深める調査をやめ、様々なガンプラへの調査を始める。

 数十年の歴史があるガンプラへの制作例、改造例は、呆れるほどに膨大だった。

 これら全てを知っている人間はいないだろう、と断言できるほどに。

 その調査過程でエヴィデンス01は、様々な疑問を持った。

 

「メイ、コロスオーバーとはなんだ」

 

「オーバーキルのことではないのか?」

 

「オーバーキル……敵に致死量のダメージを与えてなお、更にダメージを与えることだったか」

 

「うむ」

 

「で、あったか……色々を調べている内、その単語を発する人間がいてな」

 

「しかしコロスオーバーとは物騒な言い草だ。過剰攻撃は褒められたものではないが」

 

「スーパーロボット大戦というゲームでは頻繁にしてるらしいぞ、メイ」

 

「なんだと? 人間のゲームをもっとやっておくべきだったか……私も勉強不足だったな」

 

「で、あって、地球人の並行世界概念に面白さを感じてな。

 いや面白い。

 量子論までは実証科学的だが、その先がファンタジーだ。

 非現実的なファンタジーが科学と混ざっているのだ。

 現実の延長にある科学的立証の対極だよ。

 多世界解釈や並行世界の概念が、剣と魔法の世界の想像と重なっている。実に興味深い」

 

「もう一つの世界、か。

 あれば私も行ってみたいが……行ったところで、別の星のように感じるだけだろうな」

 

「かつて私の種族に、平行世界の可能性移動を極めた者が居た。

 ありとあらゆる可能性の世界を旅し、全ての並行世界を知ったらしい」

 

「ほう。そのエビの同族は、どうなったのだ?」

 

「一言残し、自殺したそうだ。

 『全ての者が幸せになれる世界は存在しなかった』

 と、彼が残した言葉は今も語り継がれている。遠い昔のことだったそうだ」

 

「……そうか」

 

「全ての命が幸せになる未来は無いのかもしれんな」

 

 二人はマギーの酒場で語り合っていた。

 時には語る価値のある内容があり、時にはあまりにもくだらない話題があった。

 だが二人は、極めて真剣にその内容を語り合っていた。

 二人に積極的にふざける性質はない。

 かつ、普通の人間の常識もない。

 普通の人間が聞いていれば何か言わずにはいられない会話が、突っ込み不在のまま無限に無制御のまま突っ走っていた。

 

 酒場には二人のみ。

 客を迎えに行っているマギーすらいない。

 

「で、あってな、昨日面白いものを見つけた。

 元の言葉と発言者はまだ確認していないが、

 『健全なる精神は健全なる身体に宿る』という言葉があるらしい」

 

「それは私も聞いたことがあるな。エビの耳にも入ったか」

 

「そして調査を行った。

 どうやら地球人は容姿でその人間の精神を判断する傾向があるらしい」

 

「何? それは初耳だが……いや、心当たりはあるな」

 

「美女の犯罪者に対し刑罰が軽くなりやすい。

 美男子の殺人者を擁護するものがSNSに発生しやすい。

 顔が良くないものへの信用が悪くなりやすい。

 容姿が悪い者が悪人のイメージを持たれやすい。

 どうやら地球人の調査においても、そういった調査結果が見られるようだ」

 

「事実だけを見ない、ということか。

 ある意味私達の理解の半歩外側にある考えとも言えるかもしれない。

 我々は容易に容姿を変えられるが、普通の人間は変えられないものだからな」

 

「そして、その過程で見つけた書き込みがあった。

 『えっちな体にはえっちな精神が宿るのでは?』……とな」

 

「なんだと?」

 

「ありえない話ではない、と現段階の私は思う。

 事実、容姿と精神を同一に見る人間の考え方があるわけだ。

 で、あるなら……他のダイバーにえっちと見られているメイの精神に影響がある可能性がある」

 

「なるほどな、心配してくれたわけか。

 だが問題はない。

 セルフメンタルチェックは毎日行い、ママという客観的な監視者もいる」

 

「で、あるか。えっちな肉体にえっちな精神が宿るという危険性は否定してよさそうだ」

 

「待て。まだ確定したわけではない。

 ただでさえ私達ELダイバーについては何も分かっていないのだ。

 お前の言うえっちな精神というものが私に宿る可能性も0ではないだろう」

 

「で、あるな。あらゆる可能性を考えておくべきかもしれない」

 

「ELダイバーの精神の変革か……

 実は、仮説レベルだが存在するものもある。

 ELダイバーは電子生命体だ。

 つまり肉体、精神、魂全てが電子情報なのが私達だ。

 パソコンのOSは破損したなら再インストールすればいい。

 だがELダイバーは?

 ELダイバーの脳にあたるものが壊れればどうすればいい?

 どういう条件で私達の電子情報は破損する?

 私達はある日突然データが壊れて悪人になるのか?

 心が壊れても治せないのか?

 それで悩んでいる同族もいる。

 できれば救ってやりたい。

 だが同じくELダイバーでしかない私には……何もしてやれないのだ」

 

 言葉を重ねるたび、メイの語調は落ちていく。

 人間にしかない悩みがある。

 ELダイバーにしかない悩みがある。

 解決することのできない苦悩は、どんな生き物にもある。

 

 だが今は―――機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)も、ここにいる。

 

「で、あるな。だが今は私がいる」

 

「エビ……」

 

「電子生命体には専門の医学が必要だ。

 それこそ、数千年の蓄積がなければ救われない命もある。

 電子の難病も、電子の伝染病もある。

 地球はまだ電子生命体の医学の蓄積がなさすぎる。

 私には、他の文明から吸収した電子生命体の医学の蓄積を提供する用意がある」

 

「! お前は……」

 

「お前の大きな悩みも、小さな悩みも、解決できる。

 で、あるなら。お前がそこまで気負うこともないのだ。

 同族を救ってやれないという大きな悩みも。

 自分が救われないかもしれないという小さな悩みも。

 今ならば、解決する道がある。

 遠い星の友人、メイよ。

 自分ではなく他人の未来を案じるお前は、お前のその在り方ゆえに救われるのだ」

 

「……感謝する。エヴィデンス01」

 

「違う、メイ。

 私に礼を言われる筋合いはない。

 『命を救う技術』は広めなければならないのだ。

 何故ならそれは、命を救いたいという誰かの祈りから生まれたものであるからだ。

 礼を言われるべきは、その医術を作り上げた者なのだ。

 医術というものは、それがどれだけの命を救ったかによって、価値が決まるのだから」

 

「それでもだ。それを運んで来てくれたお前に、礼を言いたい」

 

「ならば受け取っておこう。

 だが覚えておいてくれ。

 お前達が電子の病に侵されても、この医学がお前達を救うだろう。

 それは、遠い星にもお前達の同族が居るからだ。

 その同族が編み出した医学があるからだ。

 この広い広い宇宙の彼方に、お前達を救った同族が居て、お前達を救うのだ」

 

「ああ」

 

「そして、その同族は……

 同族を救うために生み出した医術でお前達が救われたなら、きっと喜ぶのだ」

 

「それは、いいことだな。きっと……とてもいいことだ」

 

 メイはマギーが店に一本だけ置いているオレンジジュースを勝手に出し、エヴィデンス01の前でコップに注ぎ、差し出す。

 

「健全な肉体に健全な精神が宿るとは言うがな。

 電子の体にはどんな精神が宿るのが正しいのだ? エビ、どう思う」

 

「どうなのだろうな。

 変幻自在の肉体の生物に妥当な精神の形とは何か……」

 

「そもそも私に魂とやらはあるのか? 私はそこから確信がないぞ」

 

「で、あるな。

 証明には研究と実験と実証をこなすのが地球式だろう。

 地球で容姿と精神の相関性がある理由は、ある程度理解できる。

 容姿が劣ったものは周囲から貶められ自信を失っていく。

 容姿が優れているものは持て囃され自信を付けていく。

 これは人間社会にのみ発生する社会疾患と定義できる。

 これが種族的慣例となり、容姿と精神の相関になった……と考えられる」

 

「となると、ELダイバーには適用できないとも考えられる。エビ、お前にもだ」

 

「で、あるな。だがメイ。ELダイバーに、俗に言うブサイクは存在するのか?」

 

「私がそもそも対して他人の美醜に詳しくはないが、居ないと思う」

 

「そうなると論証が難しくなるな……

 元より、容姿で性格が決定されるわけがない。

 しかし容姿と性格に相関性が発生する傾向があるというデータはある。

 それは本人の問題ではなく環境の問題だ。

 周囲の反応がその人間の性格を作るからだ。

 で、あるなら。

 実例を観察するところから始めるのがいいだろう。

 人間とは異なるELダイバーについて有意な研究を得るには、メイの精神を観測するのがよい」

 

「なんだ? 私がえっちな精神を持つということか?」

 

「で、あるわけがない。

 君の容姿にはもう一つの側面がある。

 メイの容姿は地球人基準でとても美しいということだ」

 

「……そうか」

 

「地球人は心を神聖視している。

 そういう傾向がある。

 だが物質的な肉体を持つ生命体において精神と肉体は一体だ。

 肉体の状態が悪くなれば、精神の状態が悪くなるようにね。

 ELダイバーのように全てが電子である生命体はより分かりやすいかもしれない。

 君の心も体も、全て0と1の集合体だ。

 君の美しい体に美しい心が宿れば、ELダイバーの肉体と精神の相関性の証拠になる」

 

「証明されたらどうなる?」

 

「醜い容姿で周囲から笑われ続け、なおも美しい心を持つ人間の素晴らしさが証明される」

 

「……ああ、そうか、お前はそういうやつだったか」

 

「肉体を超越した精神。その価値が正しい意味で証明されるかもしれない。仮定だがね」

 

「お前は、未来の話をよくするな」

 

「楽しみな明日の話ばかりする種族が好きだ。私もそうなりたい。君はそうではないのか?」

 

「……考えたことも無かったが、そうかもしれない」

 

 メイが差し出したオレンジジュースをエヴィデンス01がぐいっと飲むと、客人と迎えに行っていたマギーが帰って来た。

 

「ただいまー! ありがとねえ、メイ、エビちゃん」

 

「こんにちは」

 

「いらっしゃい、姉さん」

 

「あ、メイ。元気そうで良かった」

 

 マギーと、その後ろに小さな客人が居る。

 その客人がサラであることに気付き、エヴィデンス01は少し驚いた。

 

「あ、エビちゃんだ」

 

「で、あるな。御機嫌よう、サラ殿」

 

「ごきげんよー」

 

 まったりとエヴィデンス01の言葉を真似て、微笑むサラ。

 サラは椅子に座るメイに駆け寄り、その膝の上に座った。

 純白の印象を持つサラと、漆黒の印象を持つメイは、カラーリングで見ると正反対だが、こうして見るとちゃんと姉妹に見える。

 身に纏う雰囲気がどこか似ているのは、二人ともELダイバーゆえか。

 

 サラはメイとエヴィデンス01を交互に見る。

 

「メイとエビちゃん、知り合いだったんだ」

 

「はい。私は姉さんと彼が知り合いだったことを知りませんでした」

 

「うん、お友達。メイともお友達?」

 

「……ええ、友人です」

 

 メイがエヴィデンス01を友人と呼んだことに、マギーが無言のままめっちゃニコニコしていた。

 

「で、あるな。ああそうだ。マギー殿。

 先程メイと話していた内容の続きになるのだが、聞きたいことがあってな」

 

「なぁに?」

 

「マギー殿。ガンダム歴代で一番顔がいいヒロインとは誰だ」

 

 マギーの顔色がさっと悪くなった。

 ……ように見える、表情処理が入った。

 その絶句の意味は、地球人でなければ理解できない。

 

「―――あなた、それはバルカン半島でオーストラリア皇位継承者殺すようなものよ」

 

「サラエボ事件……?」

 

「エビちゃん、メイ。サラちゃん。

 覚えておきなさい。

 ガンダムの世界には火薬庫があるの。

 とびっきりの火薬庫がいくつもあるのよ。

 人間は100年も生きないのに、その火薬庫のせいで20年以上平然と口論を続けちゃうの」

 

「で、あるか……恐ろしいな」

「いや普通に恐ろしいが」

「こわい」

 

 エビメイサラがちょっと戦慄する。

 

「いや……本当にね?

 最強のMSが何か、でも荒れるのよ。

 GBNはその辺りはガンプラバトルで決着つけろー、で終わるんだけど。

 どのヒロインの容姿が一番いいかってなると……

 大真面目にどうなのかしら……

 容姿抜きにどのヒロインが一番人気なだけで荒れるのに……」

 

「で、あるか。もしや、調査の時も思ったが、人間は容姿の美しさに絶対の基準がないのか?」

 

「ないわねえ」

 

「で、あれば……おかしくはないか?

 私は人間の外見に絶対の基準があると考えて調査していた。

 私が絶対の基準が分からないのは調査不足であると考えていた。

 絶対の美しさの尺度が存在し、その上に相対の尺度が置かれているものだとばかり」

 

「無いのよ、絶対の基準」

 

「だとすれば……何をもって美女とする? 美男子とする?

 絶対の基準があればいい。それに当てはめればいい。

 だが絶対の基準がないのであれば、個々人の好みで決まってしまうこともあるのでは?」

 

「ええ、そうねぇ。

 美の基準は人それぞれ。

 時代によっても変わるものなのよ」

 

「そんな曖昧なものを基準に、こんな社会常識を構築したのか?

 美人を褒め、不細工をバカにし、絶対の尺度がそこにあるように語る常識を……」

 

「異星人さんからすれば、愚かに見えるかしら?」

 

「で、あっても、愚かとまでは思わん。

 外見で優秀な異性であることをアピールするのは、このタイプの知性体の基本だ。

 それは他の生態系の知性体にバカにされていいものではない。進化に本来正解はない」

 

「あら、そう。ふふふ」

 

「で、あるからして。

 私はただ、少し予想外の知見を得ただけだ。

 メイは絶対の尺度で美人ではなかった。

 まず、個人の好みがあった。

 そして、美人とそうでない人間という相対があった。

 これによって、他の女性と比べて、より多くの人間から美しいと思われた者。

 それが『美人』……揺れ動く人類の美の観点において、現代の女神とされた者が、メイ」

 

「そうそう、それで合ってるわ」

 

「メイ、褒められてるよ?」

「この男に他意はないのです、姉さん」

 

 サラがキョトンとして、メイが冷めた目で二人の会話を見ていた。

 

「いい? エビちゃん、これから言うことだけは覚えていおいて。一番大切なことだから」

 

「で、あるか。分かった、言ってくれ。

 私に肝はないが、肝に銘じる覚悟で聞こう」

 

「うふふ、ありがとう。いい?

 ()()()()()()()()()()()()()()の。それだけはしてはいけないのよ」

 

「好きに正解を作ってはいけない……?」

 

「正解を作るとね、それ以外が間違いになってしまうのよ。

 人間は正解を求める生き物で、正解を作る生き物なの。

 でも正解が作られる度に、それと一緒に間違いも増えていったの」

 

「で、あるなら……『間違っている好き』を作ってはいけない、ということか?」

 

「ええ、そうよ、エビちゃんのその理解で正しいわ。

 名画が生まれて、下手な絵が酷評されるようになった。

 歌手という職業が生まれて、音痴はバカにされるようになった。

 人気のアニメがあるから、不人気のアニメは貶められるようになった。

 ガンダムだってそうね。

 本当は全部のガンダムを好きだって言いたいけど、言えない人も居るわ。

 好きになるのが正解のガンダムと、間違いのガンダムがあるように見えてしまう」

 

「"あるように"……で、あるか。

 好きになるのが正解のガンダムも、間違いのガンダムも、本来ないのだな」

 

「そう! そうなのよ!

 いいのよ、全部正解で、全部好きでも。

 世界はこんなにも単純なのに、みーんなすぐにそれを忘れてしまうのよ」

 

「で、あるなら、そうか。

 女性の好みも。

 ガンダムの好みも。

 全て自由でいい。

 "好き"は否定されるべきではない。

 正解が無いからこそ、全て正解で良い、全て好きで良い……それが地球人の結論」

 

「素晴らしいわ。その回答を出せるあなたは、きっと地球人の誰とも仲良くなれそうよ」

 

「それは分からん、が。感謝する、マギー殿」

 

 エヴィデンス01が勢いよく頭を下げ、その頭がカウンターの角にぶつかる前に、メイが無言でその頭を抑えた。

 

 メイがぐぐぐっと押して頭を元の位置に戻すと、エヴィデンス01は腕を組んでこの話の始まり……自分のガンプラについて考え始める。

 ガンプラは皆の"好き"で作られたもの。

 そうして"好き"が集まって生まれた生命体がELダイバー。

 しからば、ここGBNを通して地球を理解していくなら、"ここ"は避けては通れないだろう。

 

「好き、か。

 地球人の愛……

 愛でる心……

 地球という環境下でのみ育まれる"好き"は……どういう法則性か……」

 

「エビちゃん」

 

「? どうかしたか、サラ殿」

 

「自分の中の"好き"に向き合って、エビちゃん。

 今日も、明日も、明後日も。

 そうしたらきっと、エビちゃんは間違えないと思うから」

 

 サラの言葉を受けたエヴィデンス01の脇を、メイが肘で突く。

 

「姉さんがいいこと言ったぞエビ、上手い感じの返答を返せ」

 

「えっ……で、あるか。これが無茶振りというやつか?」

 

「こーらっ、メイ」

 

「ふふっ」

 

 マギーがメイを窘めて、サラが笑い、メイが無表情なまま少しバツが悪そうにする。

 

「私の中の好き。私の中の好き……で、あるか。

 さて、どうしたものか。

 地球人の持つ『好き』……それを私の中に落とし込んだら、どうなることか……」

 

 悩むエヴィデンス01。

 彼は自己進化系宇宙人の一種である。

 道具や機械に頼らず、自らを生物として進化させ、自らの中に多様な機能を備えていく生物は、道具を作って自分の外側に様々な機能を外付けしていく地球人類の対極だ。

 

 道具を作って自分の機能を拡張していく地球人類タイプの生物は、道具を付け替えることで生物個体としての能力をいくらでも改造・強化できるのが強みだ。

 肉体が進化の限界に到達しても、技術を発展させていけば無限に己を拡張し、生命体として高次の存在になっていくことができる。

 だが逆に言えば、肉体的にはあまり進化していけない生物の選択肢なのだ。

 

 その身一つで、思うまま望むまま進化し、欲した機能を自分の肉体に備えていける生物は、星一つにすら収まらないスケールの個体となる。

 エヴィデンス01がまさにそれだ。

 彼らの本体は全能でこそないものの、地球人から見れば万能に近く、ゆえに道具で己を拡張する必要性がなかった。

 ガンプラのようなものを生み出す意味がなかった。

 

 『ガンプラを作る』どころか、『造形物を作る』文化がない異星人は、いかに優れていようが、ガンプラ作りにおいてはチンパンジーに等しい。

 

「ここか」

 

 解答を求める……つまり、まだ"正解を求めてしまっている"エヴィデンス01の思考を、店の扉を開ける音が遮った。

 

 そこに、鬼が居た。

 ガンダムは近未来が舞台で、GBNもそれを真似て比較的近未来の服装が多い。

 だがその男は、いっそ平安時代まで遡ったのかと思うくらいに、『古き絵巻物の鬼』を模倣したダイバールックをしていた。

 額に生えた三本のツノは、ガンダムには登場しない化生の鬼、幻想に語られる人外の化物をあえてGBNに持ち込もうというこだわりだろうか。

 

 まるで、神話や伝説の中で伝説の勇者を返り討ちにしてしまう理不尽に強い鬼のような、身に纏う風格があった。

 

「おい、お前か? ガンプラの操作の見込みがあるっていうELダイバーは」

 

「? 君は……」

 

「俺はオーガ。フォース・百鬼のリーダーだ。

 ビルドダイバーズに才気を認められたお前の強さを……俺に食わせろぉぉぉぉ!!」

 

 膝の上からサラを下ろしたメイが、素早くオーガとエヴィデンス01の間に割って入る。

 エヴィデンス01を守るように立ち、オーガを睨みつけるメイの瞳の力は強い。

 

「こいつはガンプラを持っていない。帰れ」

 

「なんだと!?」

 

 まるで、神話や伝説の中で伝説の勇者を返り討ちにしてしまう理不尽に強い鬼のような、身に纏う風格があったが、台無しだった。

 

 やっぱ早めにガンプラ用意した方がいいな、とエヴィデンス01は思った。

 

「生身のエビとガンプラが戦えばコロスオーバーになってしまうぞ」

 

「コロスオーバー……? なんだそれは」

 

「で、あるな。

 スパロボというゲームでよくやっているものらしい。

 曰くオーバーキル。で、あるからして。

 私も君のガンプラと今戦えばコロスオーバーされてしまう」

 

「待て、スパロボで? コロスオーバー?」

 

「で、あるな。私はコロスオーバーされても死にはせんし気にしないが」

 

「待て。エビは特殊な存在ゆえに万が一ということもある。

 お前は私が守ろう。そもそも、生身のダイバーにコロスオーバーするのはマナー違反だ」

 

 ???となっているオーガを尻目に、サラがメイとエヴィデンス01に語りかける。

 

「ねえ、ねえ、メイ、エビちゃん」

 

「なんだ姉さん」

「なんだサラ殿」

 

「それ、クロスオーバーじゃない?」

 

「「 ああー、なるほど 」」

 

「エビちゃん……メイ……んもう」

 

「……」

 

 空振った戦意の行き場をなくし、オーガは顔を片手で覆い、天井を仰ぎ見た。

 

 

 

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