メアは冷たくなり赤くなった自分の耳に手を当てる。
先程突如として雪の下から出てきたゾロは寒中水泳をしていたそうだ。メアは寒中水泳とは何かよく分からないが、どうやらこのとんでもない寒さの中で泳いでいたようだ。
とりあえずメアは思った。アホか。
ウソップもバカだろと言っているし、自分は間違っていないと思う。
ビビもナミは精神的疲労で倒れたのではないかと口にこそ出さなかったが一人考えていた。
「見てあれ。人がいるわ。」
『ほんとだ!』
「おい、あの建物は…見覚えがあるぞ!」
「え?…本当だわ!ここはビッグホーンよ!私たち戻って来ちゃったんだわ!」
『でもなんかあんまりよくないかんじ。』
「どういうことだ?」
「とりあえず行ってみましょう。」
住民とそれから見覚えの無い服を着た人たちがいる。その手には銃が握られており、何やら雰囲気は険悪だ。
聞けばドルトンが雪崩の下敷きになってしまったと言う。銃をもっているヤツらが邪魔をして雪を掘り出せないのだそうだ。
『そんな…』
今もこの冷たく寒い雪の中にいるというのか。その事実にメアは胸が締め付けられるようだった。
「ウソップ、あの服見覚えあるぜ。アイツら海で俺たちを襲ってきた連中だろう?違うか?」
「あ、あぁそうだ。」
「じゃあ敵だな。」
「あ?」
「敵だろ?何だ味方か?」
「敵だけど…何をそんなに…?」
『ぞろ?』
ウソップたちがゾロの問いを疑問に思うや否や、ゾロはその銃を持った男に殴りかかった。
「!?Mr.ブシドー!?」
「うははは!!あったけ〜借りるぜ!」
「ってお前その為に!?」
『まぁ、そんなことだろうとおもった…』
男の身ぐるみを剥いで上着を奪う。世にいう追い剥ぎだ。まぁ私たち海賊だからとメアはこれ以上何も考えないようにした。
「お前見ろ!!ソイツら怒らせるぞ!!」
「貴様!!ワポル様を吹っ飛ばした奴が乗っていた船の!!」
「ほう?懲りないね諸君。」
そして襲いかかる兵士から剣を奪い、あっという間に片付けてしまった。
「何だ終わりか。張り合いの無ェヤツらだ。」
『ないすぞろ!!』
「凄い…」
「よーしよくやったゾロ!!俺の指示通りだー!!」
ゾロが兵士を倒したお陰でドルトンを探しだせると住民たちは総出で雪の中を掘る。
「で、何なんだこの騒ぎは一体?」
『どるとんさん!!なだれ!!ゆき!!』
「あー話は後だ!俺たちも手伝うんだよ!」
住民たちに交じりメアもその小さな紅葉のような手で辺りの雪を掻き分ける。
『どるとんさん…』
手袋をしていても指先からどんどん雪の冷たさが伝わってきて凍ってしまいそうだ。
「うう…つめたい……」
時折手に息を吹き掛けてもその場しのぎにしかならない。しかしこうしている今にもドルトンは雪の下で死が近づいている。そう思うとどんなに冷たくても手を動かさずにはいられなかった。
「いたぞォ!!」
発見した住民の声に皆が駆け寄る。ゾロだけはこの事態がサッパリ分かっていないようだが。
「何!?いたか!?」
「良かった!!」
『どるとんさん!!』
しかし彼はかなり深刻な状態であった。
心臓が、止まっている。
メアは一体何を言っているのか分からなかった。
ただドルトンが危険な状態であると皆の表情から読み取った。
「ドルトンさん!!ドルトンさん!!目を開けてお願い!!ドルトン!!」
「ビビ…」
何も出来ない。自分には何も出来ない。力が無い。そうだ、ナミの時だって同じだった。自分はただ見ていることしか出来なかった。
メアは自分の無力さにただ打ちひしがれていた。
「ドルトンは生きている。」
「「「!?」」」
「イッシートゥエンティ!?」
「体が冷凍状態にあるだけだ。」
「我々に任せてくれないか?」
サングラスとマスク、そしてピンクの手術服と手袋を着けた者たちが現れた。あれがドルトンの話にいたイッシートゥエンティらしい。
助かるのか?だが確か彼らは王の元の医者であったはずだ。ドルトンを助けるには彼らの手を借りる他に方法は無い。しかし信用しても良いものだろうか。そう思っているのは住民たちも同じだった。
「おい、医者がいるじゃねェか。この国は医者がいねェはずじゃなかったのか?」
「コイツらイッシートゥエンティってな、ワポル専属の医者なんだ。つまり悪医者だ!」
「そうだ!信用ならねェぞ!!ワポルに、王の権力に屈したお前らに、ドルトンさんを任せろだと!?」
「ドルトンさんをどうする気だ!?」
「彼を救いたくば言う通りにしろ!!」
医者の一人が声を荒らげる。
「ワシたちだって医者なんだ。ワポルたちの強さにねじ伏せられようとも、医療の研究は常に進めてきた。この国の患者たちの為に…」
「とあるヤブ医者に諦めるなと教えられたからだ。もう失ってはならないんだ、そういう馬鹿な男を…」
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「やっぱり、山に登りましょう!ウソップさん、メア、Mr.ブシドー!」
「あァ?」
「じっとしていられないわ!あの大雪崩でルフィさんやナミさんたちがとうなったか心配よ!!ナミさんは凄い高熱があるのよ!もしものことがあったら…」
「ナミが心配、その上ドルトンさんも心配でアラバスタも心配か…ビビ、落ち着けよ。お前は何もかも背負い過ぎだ!」
それにビビははっとした表情を浮かべる。
「ナミにはルフィやサンジがついてる、何とかやってるさ。アイツらなら大丈夫!俺はアイツらを信じてる!」
『うそっぷ…!』
ウソップの言葉によってビビは冷静さを取り戻したようだ。
「ありがとうウソップさん。私…」
「お前は山登るの怖いだけだろ。」
「だってなオメー!雪男だのクマウサギだのいるらしいんだぞ!!」
「初めっからそう言えよ。」
「『………。』」
折角カッコイイことを言ったのにこれでは台無しである。ビビとメアは呆れてそのやり取りを見ていたが、メアがビビの手に触れる。
『だいじょうぶだよ、びび。』
そう言ってメアはニコリと笑う。
「…そうね、また私焦ってたみたい。」
ビビもメアに微笑み返す。
すると突然近くの民家の扉が開き、先程まで治療を受けていたドルトンが出てきた。
「ドルトンさん!?」
「『ドルトンさん!!』」
ウソップは戸惑ったように、ビビとメアは嬉しそうにその名を呼ぶ。
「だから誰なんだありゃ一体。」
『どるとんさんだよ!!』
「いやだからソイツが何だってんだよ…」
メアがゾロに説明しているが子供であるが故にその説明には脈絡がない為、ゾロには全く伝わっていない。
そしてどうやらドルトンは城に向かう考えのようだ。
たとえ自分の体が傷つこうとも、ワポルが城に、国王に戻ればこの国は永遠に腐ってしまうとドルトンは言う。
「その体で戦える訳が無い!!」
「俺たちだって敵う相手じゃ無ェし…」
「私がケリを付けてみせる…どんな卑劣な手を使おうとも…!!」
ドルトンはそう言って歩きだす。そしてその前にウソップが立ち塞がった。
「乗れ、俺が連れてってやる。城へ!遠慮なんか要らねェ!アンタの決意を無駄にしたくねェだけだ!」
それでもウソップとドルトンでは体格差が違い過ぎる。
ドルトンの足は雪に着く程で、一歩踏み出すのにもかなり辛いようだ。
「ウソップさん…」
『うそっぷ!!メアも手伝う!!』
そういってメアはドルトンの足の方を持った。ちなみにエスパーの能力を使えば少しの間浮かせられるが、時間が限られる上にそもそもメア自身も能力のことをすっかり忘れていた。
『うんしょ!!うんしょ!!』
「おいウソップくん、やはり無理が…」
「無理じゃねェ!!連れて行く!!国の為に闘うんだろ!?アンタのケジメを付けるんだろ!?安心しろ、絶対に連れて行く!!」
『うーーん……!!』
しかしやはりウソップとメアにはドルトンは重すぎるようだ。
「ったくバカ野郎が…」
『うーーん……!!わっ!?』
「山、登りゃあいいんだな?」
「ゾロ……!!」
一人でドルトンを軽々と担いでしまったゾロにウソップとメアは何となく不貞腐れた子供みたいな表情を浮かべる。
『むー…』
「お前までそんな顔してんじゃねェよ。」
ゾロに言われてもメアはほっぺたを膨らませたまさまで、拗ねてますアピール続行の姿勢だ。
そんな三人にビビは駆け寄る。
「待ってくれ!そうまでして行くというのなら、城へ行くロープウェイがある。」
「馬鹿な、城へのロープはもう一本も張られていないんだぞ!?」
「あるんだ、一本。誰かが白いロープを張り直している。ギャスタの外れの大木から城へ!」
ギャスタは確かドクターくれはが最後に向かった街のはずだ。
『じゃあはやくいこう!!ぎゃすた!!』
そこからはてんやわんやでドルトンさんが行くならと、ビッグホーンの住民たちも沢山ロープウェイに乗り込んできてゴンドラは少々手狭である。
「こりゃいい眺めだな。」
『だねー。みんなしろくてきれー。』
「そうだなーって乗りすぎじゃねェのか!?」
「傷を負ったドルトンさんを放っておけるか!」
「俺たちだって戦うぞ!」
「いや分かったけどさ…狭ェぞこれじゃあ…」
ゴンドラに乗ったものの、やはりドルトンの状態はあまり良くないようで息をするのも辛そうだ。
「ドルトンさん…無理しないで…」
見かねてビビが声をかける。ドルトンの表情が険しいのは傷の所為だけでは無さそうだ。
メアも心配してドルトンの側に駆け寄ろうとしたその時、
「ゔうっ、カハッ!!」
ドルトンが血を吐いた。その光景を見たメアは思わずその足を止めてしまった。
「ドルトンさん!?しっかりしてください!!あぁどうしよう…」
この場に医者はいない、つまり誰もドルトンを救うことが出来ないのだ。その事実に体が震える。どうしよう、どうしよう、どうにもならない問いかけがメアの頭の中を駆け巡る。ビビが必死に声をかけるが所詮それも気休め程度にしかならないだろう。
『どるとんさん!!』
ようやくメアの震える足が動いた。その声は足と同じく震えていて、顔はもう涙でぐしょぐしょだ。
「大丈夫だ…」
ドルトンはそう言ったもののやはり苦しそうだ。
「必ずこの国を終わらせてやる…歴史がなんだァ!!」
そう叫ぶドルトンの目は重傷を負っても闘志が宿っていた。その瞳にメアは何も言えなくなってしまう。
「国の統制がなんだァ!!国に心を望んで何が悪い…!!」
その言葉にビビの表情が変わった。一国の王女として思うところがあるのだろうか。
そしてドルトンが懐から何かを取り出す。
「ドルトンさん!?」
「何を!?」
それは
「ダイナマイトォ!?」
「いいか皆、城へ着いて私が城内へ入ったら伏せていろ…!!」
メアも驚いたがそれだけ本気なのだろう。
「見ろ!!城のてっぺんに誰かいるぞォ!?」
その言葉にゴンドラの外を見れば確かに誰かいる。何故だかメアにはあれがルフィだと分かった。
そして何かが吹き飛ばされた。
もしかして…あれ、わぽる?
ゴンドラが頂上に着きゾロ、ウソップが最初に降りる。
それに続いてビビとメアもゴンドラを降りた。
「メア、足元気をつけてね。」
『うん、ありがとびび。』
城へと続く階段を上る途中何か大きな音がした。階段を上りきった頂上、そこには先に降りたはずのウソップとゾロ、そして何故かルフィがいた。
『どういうこと…?』
「さぁ…?」
「ははーはははは!!!!」
「何してくれてんだテメェ!!」
「何だお前たちか!!あははは!!ゾロの服何か見覚えがあったから、まーたアイツらの仲間かと思ってさ!!オメーらも登ってきたんだな。ウソップ、オメー登れねェとか言ってなかったか?」
「ハッハッハー馬鹿言え!!俺はそこに山があれば登る男だぜ…しかしこの絶壁はちょっとした冒険だったなァ…!!」
「ロープウェイで登ってきたの、ルフィさん。」
『すっごいけしきだったよ!!』
メアはルフィの足元に抱きつき初ゴンドラの感想を言う。
「ナミさんとサンジさんは無事なの?」
『なの?』
「あぁ!元気になった!」
「!!…良かった…!!」
『なみ、よくなったんだね!!』
その言葉に安心したビビとメア。ルフィも嬉しそうに笑い足元にいるメアの頭を撫でる。
「で?お前は城のてっぺんで何してたんだ?」
「王様をぶっ飛ばしてた!!」
そこへドルトンがやって来る。
「じゃあやはり空の彼方へと飛んで行ったのは、ワポル…!?君がヤツを…!?」
「あぁ!!そうだけど?」
ちなみに先程からウソップが一人で得意の大ボラを吹いているが特に誰も聞いてはいない。
「それでヤツの幹部二人は…?」
「トナカイがぶっ飛ばした!!」
『となかい?』
メアはトナカイの意味が分からずに頭に?を浮かべる。
「あの二人をトナカイが…!?」
「あそうだウソップ!聞いてくれよ、新しい仲間を見つけたんだ!!」
「ん?何い!?」
「トナカイ…」
ドルトンは一人トナカイという言葉を頭の中に巡らせる。
そこに雪を踏む足音が聞こえ、ドルトンはその方向を向くとそこにはピンク色の帽子を被った小さな角の生えた青っ鼻の生き物がいた。
ドルトンにはその生き物に思い当たる節があった。
「君はあの時の…そうか、あれからずっと戦ってくれていたんだな…。」
ドルトンは膝を付き、その生き物に土下座をする。
「ありがとう…ドラムはきっと…きっと生まれ変わる」
そこにゴンドラに乗っていた人々が降りてきた。
「あ!?」
「な、何だあの生き物は!?」
「ト、トナカイ!?」
「違う、ありゃあ、ば、ば、ば、バケモ…」
「おいよさないか」
「ぎゃーー!!化け物だーー!!」
「わぁ!!かわいい!!」
折角ドルトンが住民たちの言葉を止めたのにウソップが化け物呼ばわりしてしまう。その叫びにショックを受けたのか青っ鼻の生き物は逃げてしまう。
「あー!!化け物っていうな!!見つけた仲間ってアイツなんだぞ!!」
「何!?あれが!?」
「ショック受けて逃げちまったじゃねーか!!待てよー!!化け物ー!!」
「「『おい』」」
だから化け物言うな。